「名前さん!それに高木君!」
「今日は非番だったんじゃないのかな?」
「そうなんですけど…」
「偶然、たまたまね」
高木は今回の事件の詳細を佐藤と白鳥に伝える。
「じゃあなーに?偶然出くわした宝石強盗犯を追っかけてたら、飛び降りて自殺されちゃったってわけ!?」
「は、はい…。このビルの屋上のフェンスを乗り越えて、このトラックのコンテナの上に…」
「何やってんのよもォ〜!!」
「またマスコミに叩かれるなぁ。ヒーロー気取りの警察官の無謀な追跡が死を招いたとか…」
「そ、そんな…」
名前は「大丈夫!叩かれる時は私も一緒だよ!」と、慌てて高木のフォローに入る。
「苗字さん…」
「ヒーロー気取りなんかじゃないもん!」
4人の会話を聞いていた歩美が「お店から一生懸命追っかけたもん!」と口を挟む。
「ビルの屋上に追い詰めるまではよかったんだけどよー…」
「いきなりでしたから、止める暇なんてありませんでした!」
光彦はそう言うと「ですよね!」とコナンと灰原の方を振り返る。
「ああ。何のためらいもなく飛び降りてたよ。2人とも止めるために走ったけど、名前刑事もギリギリ間に合わなかったね」
「まるで最初から死ぬつもりだったかのようにね」
佐藤は歩美に目線を合わせるためにしゃがむと「じゃあ、強盗犯が宝石店に入って来た時、あなた達もいたのね?」と聞く。
「うん!お店に高木刑事が入って行くのがみえたから」
「ホォー…非番の日に宝石店に…」
白鳥は高木の事を睨みながら「一体何の用で?」と詰め寄る。
「あ、いや、それは…その…」
高木がチラッと佐藤に視線を向けると「へー…。高木君って宝石とか、そういう趣味あったんだ!意外〜い!」と佐藤が言う。
「は?」
「美和子ちゃん…」
何も分かっていない様子の佐藤に、名前は苦笑する。
「で?目当ての宝石は買えたのかい?」
「そ、それが…」
「買う前に犯人が拾ってポケットに入れちゃったんだよね」
「ポケット?」
名前は「そうなの。レインコートのポケットに。でもトラックの上に登って遺体のポケットを確認したんだけど、そのブローチは入ってなかったんだよね」と言う。
「まあ多分、逃走中に捨てたか落としたか、落下したはずみにポケットから飛び出たんだとは思うけど、いずれにせよそのブローチはあきらめた方がいい。見つかったとしても証拠物は検察からしばらく戻って来ないし、そんな曰く付きの物、誰も欲しがらないだろうしね」
「で、ですよね…」
白鳥と高木がそう言うと「あら、私だったら平気だけど。たとえ血がついてたって拭けば取れるし…物に罪はないもの」と佐藤が言う。
「で、ですよね!!」
「?」
「さすが美和子ちゃん〜!」
コナンは「あ、それと、変な事なら他にもあるよ!」と話を元に戻す。
「え?」
「犯人はヘルメットをかぶってたんだけど、落ちる途中でヘルメットをぬがなきゃ、あんなに頭から血は流れないんじゃない?」
「うん、たしかにそうだよね」
名前は屋上からトラックの下を覗き込んだ時の事を思い出す。
「それに、宝石店で高木刑事が”警察だ”って言った時、その強盗犯…ニヤッと笑ったんだよ。まるで刑事を待ってましたというかのようにね!」
「わ、笑った?」
「それ本当ですか?」
「うん」
名前の返事を聞き「笑ったとなると、犯人がうまい逃走手段をもっていたか、ビルの屋上から飛び降りても助かる方法を用意していたか…」と白鳥が言う。
「じゃあ、この人が落下中にヘルメットをぬいだのも、その逃走手段のためだったとか?」
「…」
「さぁ…とにかく、この強盗犯の身元が判明しない事には…」
そこに「おい、そりゃ後村さんじゃないか?」と傘をさした男性が大きな声で話に入って来た。
「え?」
「ウチ、レストランをやっていまして…その人お得意さんなんです!猫田さんの会社に勤めているって聞きましたけど…」
「猫田って、さっきの引っ越し主の人だよね?」
「はい」
引っ越し業者と話をしている猫田に「猫田さん、遺体の身元を確認していただいてもよろしいですか?」と名前が声をかける。
「身元確認?」
そう言いながら遺体の顔を見ると「あ、後村さん!?後村さんじゃないか!?ど、どうしてこんな…」と猫田がうろたえる。
「じゃあ、あなたの会社の社員に間違いないのね?」
「ええ、先週までは…。彼とは会社の創立の時から一緒にやって来たんですが、ウチの会社も厳しくなって、泣く泣く辞めてもらったんです…。社員を減らして規模を縮小するために…」
猫田は「でもまさか、その彼がこんな事をするなんて…」と驚いた様子で言う。
「じゃあ、引っ越しも会社を小さくするために?」
「ええ。こっちのビルの方がフロア面積が狭くて、賃貸料も安いですから…」
「ちなみに元の会社はどこにあったんですか?」
名前が聞くと「ここの向かいのビルの最上階ですが…」と答える。
「すぐそばですね」
「だったら、ちょっと元の会社に行ってみましょうか」
「え?な、何でですか?」
「何でって、彼が以前から宝石強盗を計画していたのなら、元の会社に何か残されてるかもしれないでしょ?」
佐藤が答えると「そ、そうですね…」と猫田が同意する。
「ねえ、おじさん!おじさんって、その刑事さん達に会った事あるの?」
コナンが猫田に聞くと「あ、あるわけないだろ?おじさんは悪い事なんかした事ないんだから!」と焦った様子で答えた。
「ふーん…」
隣のビルの最上階の扉には”猫田食品輸入会社”という会社名が貼ってある。
中に入ると「これが後村さんのロッカーで…これが後村さんの使っていた机です」と、猫田が後村のロッカーと机を教える。
「…まだ物が残っているんですね」
「あ、はい…。椅子や机やロッカーは、心機一転するために新品に買い替えようと思いましてそのままに…」
「…なるほど」
4人は手分けして後村のロッカーや机を調べる。
「事件に関係するような物は何もロッカーにはなさそうだな…」
「机にも大した物は…」
「でも、よく考えたら変ねぇ…」
佐藤は机の荷物を見ながら「一週間前にクビになった人の備品が、何でこんなに残っているのかしら?」とつうぶやく。
「そ、それは…彼がクビになった事を他の社員が知ると動揺するかと思って、新しい会社が波に乗るまでの間、出張扱いにして黙っていようと思ったんです。だから彼には、会社移転後にこっそり取りに来るようにと…」
「…そうですか」
名前達と一緒に来ていた子ども達が、会社のベランダに出ると「おい、見ろよ!」と外を見る。
「あれって、犯人が落ちたトラックだろ?」
「ホントだー!」
下を見ると、後村が落ちたトラックが停まっているのを確認する。
「トラックが正面に見えるって事は、ここは犯人が飛び降りた場所の真向かいになりますね」
子ども達に気づいた猫田が「お、おいボウヤ達…」と、中に連れ戻そうとする。
「まさかあの犯人、あそこからここに飛び移ろうとしてたんじゃねーか?」
「ありえないわ…。短く見積もっても15mはあるし、犯人は宝石が入ったバッグを持っていたのよ?走り幅跳びの世界記録は約9m…仮面ヤイバーでもないかぎり、普通飛ぶ前にあきらめるんじゃない?」
灰原達の話を聞いていた名前は「…飛び移る…?」という言葉に引っ掛かった。
「ねぇ、引っ越し屋さんがここに来てる時、おじさんどこにいたの?」
「え?ああ、この下の階にある自宅に」
「自宅?」
猫田は「この下の5階が私の自宅なんです」と答える。
「そちらに案内してもらってもいいですか?」
「え?」
「もしかしたら、後村さんが何かを残されてるかもしれないじゃないですか。彼とは創業以来の古いお付き合いなんですよね?」
名前がそう言うと「わ、分かりました…」と、しぶしぶと言った様子で自宅に案内をする。
猫田の自宅に入ると、何か手掛かりがないかを手分けして捜す。
ベランダに出た高木に「へぇー…さっきのベランダの真下なんですね、自宅」と聞かれると「え、ええ…」と答える猫田。
「元の会社はこの4階上の9階で、この自宅は5階ですか…」
「(…トラックがすぐそこにある…)」
名前もベランダに出て、下を確認する。
「何だこれ?」
「奇妙なヘルメットですねぇ」
部屋の中を物色している子ども達に「あ、コラ!」と猫田が注意をする。
「もしかして自転車競技用の?」
「あ、いや、若い頃トライアスロンにハマっていまして…」
猫田は「もういいでしょ?たしかに彼とは古い付き合いですが、ここには彼の物はありませんよ!」と少し苛立ちながら提案する。
そこにピンポーンと、玄関のチャイムが鳴る。
「あ、私が出ますから…」
扉を開けると「あれ?伊坂さん…」と、このビルの6階に住んでいる住人が訪ねて来た。
「ど、どうかしたんですか?」
「いえね、こちらに刑事さんがいらっしゃると聞いたから…」
「どうかされましたか?」
名前がそう聞くと「あ、刑事さん?さっきそこで宝石強盗があったでしょ?もしかしたらそれに関係があるんじゃないかと思って…」と名前の顔を見ながら話し始める。
「私、6階に住んでる伊坂という者なんですけど、3日前の夜中の2時頃、ドスンっていう変な音で目が覚めて、音が聞こえた窓の方を見たら、月明かりでカーテンに細長い棒のような影が映っていたんですよ!」
「細長い棒のような影ですか?」
「はい。すぐに主人を起こして影が映ったベランダに出てみたんですが、何もなくて…。主人は、私が寝ぼけてたなんて言うんですけど、一応お話ししておいた方がいいかと…」
伊坂の話を聞いていたコナンが「もしかして、おばさん家ここの真上?」と質問する。
「え、ええ。ちょうど真上の605号室よ」
「じゃあ宝石強盗があった時も、そんな変な音した?」
「さぁ…テレビ観てたから。パトカーのサイレン聞くまで、事件の事知らなかったし…」
伊坂はコナンからの質問に、そう答えた。