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伊坂がコナンの質問に答え終わったタイミングで、引っ越し業者が「あのー…」と言いながら猫田の部屋にやって来た。

「引っ越しセンターの者だけど、そろそろ引っ越しの作業を再開してもいいかなぁ?あと2、3往復しないと運び切れないようだから…」
「そんなにですか?」
「え、ええ…。手を広げ過ぎまして、元の会社は9階のワンフロア全てがそうなんです。さから、さっきお見せした以外にも、倉庫や会議室や応接室とか色々あって…」

猫田の説明を聞いた佐藤は「ウーン…ちょっと引っ掛かるところはあるけど、自殺には違いないようだし…」と言う。

「ええ。現場写真も撮り、脅しに使ったモデルガンや強盗された宝石も、例のブローチ以外は死体の傍のバッグの中に入っていたようだから、再開してもいいでしょう」
「…」
「もちろん、コンテナの上にシートを被せたままでならね」
「その代わり、それが済んだらそのトラック、警察が預からせてもらうわよ!」
「あ、ああ」

引っ越し業者が部屋から出て行く後を名前は追って声をかける。

「あのー」
「何ですか?」
「最初に9階の会社から荷物をコンテナに運び入れた時にトラックを停めていたのはどこですか?」

名前が質問すると「引っ越し先の向かいのビルとは反対側の、このビルの裏口です。裏道を使って運んでいました」と答える。

「その時、何か音しなかった?」
「コ、コナン君!ビックリした」

いつの間にか後ろにいたコナンに名前は驚きながらも業者の答えを待つ。

「ああ、してなぁ」
「ど、どんな音!?」
「先週からやってる水道工事の”ガガガ”って音だよ。うるさくてうるさくて」
「…」

名前は頭の中で位置関係を整理していた。

「(元の会社のあるビルの裏口、ビル、犯人が飛び降りたビル…。ビルの裏口から荷物を載せたトラックは、裏道を運転して犯人が飛び降りたビルの下に停めてたって事か…)」
「うるさいっていえば、あの猫田って社長、いちいちうるさかったっスねぇ?」
「ああ。荷物を運び出す手順を教えるから、運転手も含めて全員上に上がって来いって言ったり、上がったら上がったで、会社の入り口で結構待たせるし…」
「2回続けてキャンセルっスからねぇ」

2人の会話を聞いていた名前とコナンは、同時に「キャンセルって?」と聞く。

「本当は一昨日引っ越しのはずだったんですけど、当日の朝、急に都合が悪くなったって…昨日もですよ。よく晴れて引っ越し日和だと思ったんですけどね」
「そうなんですか?」
「はい。まあ、キャンセルの可能性もあるから3日空けておいてくれって、その分金もよかったんですけど」
「もう二度と御免っスね、あんな客は」

名前とコナンは顔を見合わせると「そっか!雨だ!」と言って、急いで猫田の部屋に戻る。

「あ、コナン君に名前刑事」

名前達は部屋の中に入ると、そのまま寝室を目指す。

「名前刑事」
「うん、多分寝室はこっち」

寝室の扉を開けて中に入ると、名前はベッドのシーツをめくってマットレスを触る。

「濡れてる…」
「やっぱり…あれは自殺なんかじゃない。そう見せかけて、猫田さんが後村さんの命を絶ったんだ…」
「コナン君、やっぱりさすがだねぇ」
「エへヘ…!名前刑事!みんなにトリックを証明したいからロープ用意してくれる?」
「もちろん」

コナンは歩美達に指示を残してから部屋を出て、名前は佐藤達の元に戻る。

「名前さん?さっきからどこに行ってたんですか?」
「ん、ちょっとね」
「とりあえず、今日は引き上げましょうか?」

高木は「あ、猫田さん。後で署の方に来ていただけますか?」と言う。

「え?ど、どうしてですか?」
「犯人の元上司として、色々お聞きしたいので。犯人の性格とか、金銭面で何かトラブルがなかったとか」
「あ、はい…。分かりました」
「もうちょっと下だよ…下!」
「あと2mくらいです!」
「え?」

歩美と光彦の声がベランダから聞こえて来て、佐藤は「ちょっと何やってるの?」とベランダに出ようとする。

「な、なんでもねーよ!」
「そ、それより質問があるんですけど…」
「質問?」
「ええ。猫田社長に2つだけ」
「私に?」

光彦は取り出した手帳を開き「たしかあなた、犯人が落ちた現場に最初に来た時、名前刑事と高木刑事に言ってましたよね?早く仲間を呼んで、やる事を済ませてくれって」と聞いた。

「あ、ああ…」
「何であんな事を言ったんですか?」
「そりゃあ私も予定があるし…」
「違うわよ!」

灰原が「聞いてるのは、とても三十路手前には見えない彼女と、さえないポロシャツを着たどこにでもいそうなあの彼を」と話に入る。

「私?」
「僕?」

名指しされた名前と高木は、少し不服そうな顔をした。

「どうして刑事だと分かったかって質問してるのよ!」
「!!」

灰原にそう聞かれた猫田は「あ、当たり前じゃないか!人が落ちたんだよ?警察ぐらい来てると、普通思うだろ?」と焦ったように答える。

「けどおまえ言ってたじゃんか!”何なんだこの騒ぎは”ってよ!」
「それにおじさん言ってたよね?名前刑事と高木刑事に会った事ないって!」

元太と歩美が続けてそう言うと「なるほど…。事件の状況を知らない上に、初めて会う名前さんと高木君を刑事だと思うには無理があるわね」と佐藤が納得する。

「ねえ高木君、これって私達ディスられてる?」
「た、多分…」

猫田は「げ、現場の雰囲気でそう思ったんですよ!な、何か大変な事が起こって、警察の方が来てるような予感というか…」と理由を話す。

「では、2つ目の質問です!」
「え?」
「ボク達があなたの自宅に来てしばらくたちますが…なぜあなたはボク達の事を怒らないんですか?」
「はあ?」

猫田は意味が分からないという顔をする。

「私達、子どもだよ?」
「大人だったら刑事だと思うかもしれませんが、見知らぬ子ども達が自宅に入って来たら、普通疑問に思いますよね?」
「”何なんだこのガキ連中は?”ってな!」

それを聞いた猫田は「そ、それは…」と弁解しようとするが、その前に灰原が「そう思わないって事は、あなた知ってたわよね?私達が、宝石強盗事件にかかわった、大切な証人だって事を」とハッキリ言った。

子ども達の話を聞いていた白鳥が「そうなんですか?」と猫田に聞く。

「あ、いや…」
「まてよ、苗字さんと僕が刑事だと知っていて、子ども達が事件にかかわった事を知ってるって事は…ま、まさか…」

高木は猫田の事を見ると「あの宝石強盗犯…あなただったんじゃ…?」と言う。

「たしかに、そうすると、光彦君の2つの質問の答えは出るわよねぇ」
「バ、バカな!よく思い出してくださいよ!強盗犯は向かいのビルの屋上から飛び降りて、トラックの上に落ちたんですよね?」

猫田は「その強盗犯が私だというのなら、飛び降りた後、私はどこに消えたんですか?トラックの上に転落死していた後村さんの死体は何だったっていうんですか?」と聞く。

「それに私はもう51歳ですよ?いくらなんでも刑事さんを振り切って、屋上に駆け上がる体力なんて…」
「でも、ずっと趣味でやってるんですよね?」
「え?」
『トライアスロン』

歩美の持っていた探偵バッチからコナンの声が聞こえてくる。

「え…?」
『猫田さんがまだ、あの鉄人レースを続けていたのなら、それぐらいわけないよね?』
「その声、コナン君ね!」
「さっきから姿が見えないと思っていたが…」
「どこにいるんだい?」

3人が質問をすると『犯人が飛び降りた向かいのビルの、屋上に行く階段を登ってるトコだよ!ちょっと試したい事があって、質問で時間を稼いでたんだ』

「試したい事って?」
「高木君、ベランダに出てみて」
「え?はい…」

名前にそう言われた高木がベランダに出ると、屋上から手を振っているコナンの姿が見えた。

『そこからボクが見える?』
「み、見えるけど…い、一体何をする気なんだい?」
『ホラ、言ってたじゃない、その部屋の真上に住んでる伊坂っておばさんが、夜中の2時頃”ドスン”っていう変な音で目を覚まして、音が聞こえた窓の方を見たら月明かりでカーテンに細長い棒の影が映ったって』
「その音の正体を、今からコナン君が見せてくれるんだよ」

名前がそう言うと「い、いい加減にしてくれ!!こっちは元部下の起こした事件だから協力してやっているんだぞ!!」と猫田が怒鳴る。

「どうやらその子らとこの刑事さんは私を犯人にしたいようだが、しょせん子どもの浅知恵に素人の推理!真に受ける方がどうかしてるよ!!」
「(カチーン!)」
「それにさっきから言ってるだろ?私が犯人ならどうやって屋上から消えたんだね?無理だよ!そんな事できるわけない!!私があの屋上から瞬間移動できる超能力者でもないかぎり…」
『できるよ…』



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