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コナンがそう言った後、すぐにベランダからドシッという大きな音が聞こえて来た。

「え?」
「超能力者じゃなくても、この通りね!」
「コ、コナン君!?どうやってここに!?」

反対側の屋上のビルにいたはずのコナンがベランダに現れた。

「名前刑事に引っ越し屋さんに借りてもらった、このロープを使ったんだよ!」

ベランダの外に、ロープが垂れ下がっているのを確認した高木は「ロープ?」と聞く。

「この4階上の、元の会社のベランダからこの自宅のベランダまでの長さを計って、その2倍の長さのロープを用意するの。上のベランダの手すりに通して、ロープの端と端を結んで大きな輪を作ったら、さらにその輪の先に自分の体が入るくらいの大きさの輪を繋いで向こうのビルに投げ入れれば、瞬間移動ができるロープの出来上がり!」
「追い詰められた振りをして向こうのビルの屋上に行き、長いコートで隠しながら小さな輪に体を入れて飛び降りれば、向こうの屋上からこのベランダにビューンとひとっ飛びできるってわけさ!ベランダに着いた後、大きな輪をほどけばロープを部屋に取り込めるしね!」

名前とコナンが瞬間移動のトリックを教えると「な、なるほど…」と高木が納得したようにうなずいた。

「でも、よくケガをしなかったわね。相当な衝撃を受けたはずだけど…」
「犯人と一緒で、頭にヘルメットかぶってたし、壁にぶつかる前に、博士に作ってもらったボール射出ベルトから膨らませた、このサッカーボールをクッションにしたから平気だったよ!」
「猫田さんは、ご自宅のベッドのマットレスをベランダに立てかけてショックを和らげたんですよね?」
「マットレスですか?」

名前は「雨が降っていたせいでマットレスが濡れてたの」と佐藤に教える。

「じゃあ夜中、伊坂さんが見た影や音は、このトリックの予行練習をしていたから…」
「ま、待ってくれよ!犯人が飛び降りた後、下を見下ろしたらトラックの上に死体があったんだろ?あれは一体どう説明を?」
「最初からトラックの上に乗ってたんでしょ?」
「え?」

コナンは「乗せたのは、引っ越し屋さんがこのビルの上にある元の荷物を運び出すためにこのビルの裏口にトラックを横付けした時…。多分、その突起に引っ越しを手伝ってっくれとか言って、呼んでおいた後村さんを会社の窓からトラックの上に突き落としたんじゃない?」と説明する。

「ワンフロア全てが会社なら、どこにトラックが停まっていてもトラックの上に落下させるのはできますよね」
「お、音は!?人が落ちて来たら、その音に誰かが気づくんじゃないのか?」
「いや…たしか、この近辺は夕方近くまで水道工事をやっているはずですから、その騒音で遮られたとも考えられますねぇ」

猫田は「だ、だが落ちた弾みにトラックが揺れれば、引っ越し業者の誰かが…」とさらに追及から逃れようとする。

「ですから、引っ越しの手順を教えると言って、運転手さんを含めた業者の方全員を会社に上がらせたんですよね?」
「ね!引っ越し屋さん言ってたよ!会社の入り口で随分待たされたって。きっと、その時、後村さんを突き落としてロープを仕掛け窓のブラインドを閉めたんだよ!引っ越し屋さんが会社の中に入って来ても、仕掛けに気づかれないようにね!」

コナンと名前の説明を聞いた佐藤が「なるほど、つまりこういう事ね…」と話をまとめる。

「まずは引っ越し業者全員を、このビルの最上階にある元の会社の前に呼びつけ、待たせているあいだに後村さんを引っ越しのトラックの上に落として、向かいのビルのトリックのロープを渡し、引っ越し業者が元の会社の荷物を向かいのビルにある新しい会社へ運んでいる最中に宝石店を襲い、刑事を引き連れてその向かいのビルの屋上に逃げ込む…」
「そして、向かいのビルに横付けされたトラックの真上からロープを使ってこの部屋に飛び込めば、まるで刑事に追い詰められた犯人が投身自殺を図って、トラックの上に転落したかのように見えるというわけですね」
「うん!それに、宝石を詰めたバッグや屋上に置いておいた予備のヘルメットを自分が落ちる時に一緒落とせば、その音で周りの人にトラックの上に何かが落ちて来たと思わせられるしね!」

名前は「後村さんの遺体がヘルメットを被っていなかったのは、そういうわけだね」と付け足す。

「じゃあ、宝石店で僕達が刑事だと知って犯人が笑ったのは、このトリックが自分を追跡し、屋上から飛び降りるところを見届ける人が必要だったからなんじゃ…」
「ああ。恐らく、苗字さん達がいなければ、近くの交番から警察が来るのを待つつもりだったんだろうけどね」

白鳥は「しかし随分幸運に頼ったトリックだ。屋上から飛び降りるまでロープや死体に近所に人や、通行人が誰も気付かなかったんだから」と続ける。

「これね、多分ラッキーじゃないのよ」
「え?」
「今日はずっと雨が降ってるじゃない?」

名前がそう言うと「そっか!雨が降ってたら傘をさすし、ベランダにも出ないよね?」と歩美が気づく。

「傘で空が見えなきゃロープなんか見つからねーし」
「ベランダに出て見下ろさなければ、死体も見つかりません!」
「それに、トラックは裏道を通ったみたいだし、あの通りは元々人通りが少ないし」
「この状況で、死体やロープが見つかる方が不運よね」

名前は猫田に「引っ越しの予定を2回キャンセルしただけの事はありますね」と言う。

「後は証拠だけど…」
「それなら、この部屋かこのビルの周辺のどこかにあるはずですよ!飛び降りた後、すぐに猫田さんは現場に顔を見せていましたから」

高木は「犯行に使ったロープやヘルメットやコート…。そして、宝石店で拾い、コートの中に入れてしまった、僕が買おうとしていたブローチがね」と続けた。

「多分、そのコートの裾には私の指紋がついてると思うし」
「苗字さんの指紋がついたコートにブローチが入っていて、ヘルメットからあなたの指紋や頭髪が見つかれば…。観念していただけますよね?猫田さん?」

猫田は何も答えないが、その表情はもう逃げる事はできないと悟っていた。

「でもドジったわね。どうしてブローチをポケットの中に?」
「罪滅ぼし…ですかね」
「罪滅ぼし?」

猫田は「私の会社は本当に火の車で…立て直すには定年間際で仕事の能力が落ちた社員に辞めてもらうしかなかったんです…」と動機を話し始めた。

「彼もその1人だったんですが…今までやっていた食品の不正表示を告発すると言ってきて…。自分の妻の誕生日にブローチを買えるくらいの給料を定年までもらえればそれでいいと…。だが、定年後も脅し続けるつもりの彼の発言を聞いたら…」
「それで彼を…?」
「え、ええ…。そのままだと、もっと泥沼に入り込みそうだったので…」

白鳥は「でも、何でそのブローチを?」と聞く。

「彼の奥さんの誕生日に手渡そうと思ったんです。生前、彼から託された贈り物だと言って…。彼が会社発足当時から頑張って来てくれたのは本当ですから」

そう言うと、猫田は「そんな彼を犯罪者に仕立て上げた上に、殺してしまったという罪悪感から少しでも逃れようと思って、思わず拾ってしまったブローチだったんですが…逃れるどころか、逆に決め手になってしまうとは…」と続けた。

「そ、それで?ブローチが入ったコートはどこに!?」
「し、寝室のクローゼットの中に…」
「…だ、そうです!佐藤さん、確認を!!」
「え、ええ…」

寝室に行き、クローゼットの中に仕舞われている濡れたコートを取り出す佐藤。

「きっと気に入ると思うよ!」
「?」
「高木刑事、随分悩んで決めてましたから!」
「ダイヤはついてねーけどよ!」
「彼が選んだにしては、なかなかセンスいいんじゃない?」
「早く見てみれば?」

子ども達に急かされながら、佐藤はポケットからブローチを取り出した。

「あら…これって…由美が欲しがってたブローチじゃない?」
「え?」

佐藤の言葉に、高木が「ゆ、由美さんが?」と驚く。

「ええ、雑誌見て騒いでたわよ!」
「…そ、そういえば、前に僕が贈ったブレスレットと似たような物を、先日由美さんがつけていたような…」
「ああ、あれ、貸したのよ!丁度ああいうの由美、探してたっていうし、私って光モノにま〜ったく興味ないから!」

そう言い切った佐藤に、高木と白鳥はおおきなため息をついた。

「だと思った〜。この前凛子ちゃんと4人で話してた時に由美ちゃんが見てたブローチだよね」
「名前刑事、知ってたの?」
「うん。一緒に雑誌見てたからね。宝石店で高木君に見せられた時に言おうと思ったんだけど、宝石強盗が起こったから言いそびれたの」

コナンは「あらら〜…」と苦笑した。



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