「そして、汗まみれで階段を駆け降りていたあなたは一体何を?」
「み、見ればわかるでしょ?トレーニングですよ!」
キャメルは「このホテルの階段は高さも長さもトレーニングにうってつけなんですよ!仕事柄、体がなまると困るんで前も時間を見つけてよくここへ…」と答えた。
「”前も”って…」
「ええ!見つけたのは2年前に来日した時!ホラ、屋上のレストランにあるでしょ?特製フルーツジュース!トレーニング後に飲むあの味が忘れられなくて今日も」
「んで?あなた、何の仕事をしているんだね?」
目暮の質問に、キャメルは「え?」とうろたえた。
「体を鍛えなきゃならない仕事って…プロレスラーとか?」
「それは高木君の趣味でしょう」
「アハハ、だったらいいなーって…」
「もしくは、スタントマンか何かかね?」
「あ、そ、その…」
キャメルがなかなか答えようとしない姿を見て、光彦は「言えない理由はただ1つ…この人の仕事がズバリ、殺し屋だからですよ!!」と叫んだ。
「えぇ〜っ!?」
「鍛えていたのは標的の人物を素早く追い詰めるため!」
「きっと、顔の傷は相手が嫌がってひっかいた跡だもん!」
「ち、違う、この傷は…!」
「傷っていうか、おまえのその顔が殺し屋だっていってんだよ!」
子ども達がそう言うと「まぁ、観光客じゃない事は確かよね?」と灰原も同意する。
「そうじゃのォ…。旅行先でトレーニングはあまりせんだろうし…」
「あ、だからこの人は…」
コナンがキャメルを庇おうとするのを聞いた灰原は「何?あの人知ってるの?」と聞く。
「ま、まさか国際指名手配犯とか?」
「悪者だよな?」
「良い人なら隠し事しないもん!」
「あ、いや…」
「子ども達の言う通り、やましい事がないんなら教えてくれませんかねぇ?あなたの職業を…」
目暮がキャメルに詰め寄るが、キャメルは「あ、えっと…その…」と答えようとしない。
「…FBI」
名前がそう言うと、コナン達が一斉に名前の方を見た。
「え?」
「FBI?」
名前はキャメルに近付くと「…あなた、FBI捜査官なんじゃないんですか?」と聞く。
「あ、いや…」
「…」
名前はゆっくりコナンの方を振り返ると「ねえ、コナン君?」とコナンに問いかけた。
「(この体格、体の鍛え方…そして、コナン君と知り合いの外国人…ってFBI以外にありえない)」
「え、えっとー…」
コナンは冷や汗をかきながら苦笑いをすると、同じFBI捜査官であるジョディに電話をかけて、ホテルに来てもらう事にした。
「FBI!?」
ジョディからキャメルのIDカードを受け取った目暮は「人相の悪いその男がかね!?」と驚きながら叫ぶ。
「ええ…。ビュロウに顔の審査はありませんので…」
「でも何で?」
「私がFBIの仕事をミスして日本に傷心旅行に来ているのは知ってますよね?」
「え、ええ…。前におっしゃってましたね」
ジョディは「だから、なかなか帰って来ない私を心配して来てくれたんです」と言いながらキャメルの腕に自分の両腕を絡めた。
「だって、アンドレ・キャメルは私の恋人ですからー!ね、ダーリン!」
「あ、は、はい…」
「ハハ…」
名前はコナンに小声で「す、すごい演技力だね…」と言う。
「それで?何でまだ日本にいるのかね?」
「え?」
「それと、何か日本語うまくなってません?前は”そうデース”とか言っていたような…」
「だ、だからー!日本語の上手なアンドレに特訓されたらメキメキ上達して、日本から離れにくくなっちゃって…ね、ダーリン!」
「は、はい、まったくその通りで…」
名前は2人のお芝居を見ながら「(キャメルさんの演技が下手過ぎて面白い…)」と、思わず吹き出しそうになる。
「なにやらぎこちないですね…」
「まあFBIだとしても容疑者には変わりはない!疑いが晴れるまでここにいてもらいますが、よろしいかね?」
「ええ、もちろん!」
そこに、レストラン街を調べていた千葉が大きな紙袋を持って現れた。
「警部!!屋上のレストラン街のトイレの用具入れからこんな紙袋が!!」
「中身は何だね?」
「レインコートと手袋と拳銃で、恐らく犯人が使用したものと…」
名前は「ということは、3人の洋服を調べても硝煙反応は出なさそうですね」と目暮に言う。
「犯行時の服を捨てたのなら満員のエレベーターにも無理して乗れるかもですね…」
「トイレに行ってレインコートと手袋を脱ぐだけでも5分は経ちそうだから、それはないんじゃないかしら」
「うん。それに、慌ててそんな事やるとトイレにいる他のお客さんに怪しまれちゃうんじゃない?名前刑事達がこんなに早く来るって、犯人も思ってなかっただろうし、トイレに行った時はゆっくりだったんじゃないかな」
「たしかに…」
千葉が「エレベーターの監視カメラの映像をチェックしましたが、その時間、外国人は乗っていませんでした」と補足として伝える。
「アジア系の外国人は調べたの?見た目じゃわかんないでしょ?」
「あ、いや…そこまでは…」
ジョディの言葉を聞いたイリーナが「アジア系の外国人、社長サンは雇わないと思いマス!社長サンいつも言ってまシタ!とても日本人と思えない人が日本語を話すから面白いんだッテ…」と言う。
「だから怪しいのはやっぱりその3人じゃないでスカ?」
「…だとすると、一番疑わしいのは…トイレに隠れていたハルさんって事になりますな!」
「だから隠れてたんじゃないって言ってるでしょ?」
目暮達が話しているのを聞きながら、名前は須内の座っている椅子と机の方に移動する。
「…この指の形…」
名前は机の上を見ると「ペンとメモ帳…」と、血痕のついたペンとメモ帳を見つけた。
「目暮警部、須内さんが何かを書き残したと思われるメモ帳が残っています」
「何?」
名前の言葉に、目暮と高木も机の方に移動すると「本当だ…!まさか社長が死ぬ前に何かを書き、それを犯人がちぎって持って行ったんじゃ…」と言う。
「だったら早く血液鑑定と書かれていた字の割り出しを!」
「あ、はい…」
「もちろん、その字が社長の筆跡かどうかも…って私達なら調べるわよね?ダーリン!」
「え、ええ…」
「ハハ…」
現場を仕切り出したジョディに、名前は「…傷心旅行に来ていただけなんじゃないんですか?」と耳打ちする。
「え?」
「…あんまり日本で好き勝手していると、日本を愛するこわーい人達が怒っちゃいますよ」
「…どういう意味?」
「そのままの意味です」
不思議そうな顔で名前の事を見るジョディに、名前は苦笑した。
血痕、筆跡鑑定と文字の割り出しが終わった高木が事務所に戻って来る。
「やはりペンとメモ用紙に付いていた血は、社長本人のものだったか…」
「ええ。書かれていた文字の跡も社長の筆跡だったと」
「それで?メモ用紙にはなんて書いてあったの?」
高木は手帳を見ながら「そ、それが英語で書かれていたんですが…意味が何というか…とてもダイイングメッセージとは…」と言う。
「Bring my tux…」
高木のメモ帳を後ろから覗き込み、ジョディが文章を読み上げる。
「…私のタキシードを取って来て?」
「この社長が残したメモにはそう書いてあったのかね?」
「え、ええ…」
名前は「Bringは取って来て、tuxはtuxedoの略語なので、そういう意味ですね」と答える。
「という事は、銃で撃たれた社長が死ぬ間際に書き残し、それに気づいた犯人がちぎって持ち去った…ダイイングメッセージとしか思えんのだが…」
「No,No…」
目暮がそう言うと、ジョディとハルが「dying message!」と同時に訂正した。
「え?」
「そっか、2人とも英語の先生でしたよね?」
ハルは「た、たしかに僕は塾で英語を教えていますけど…」と言いながらジョディを見る。
「この人達はビュロウの捜査官じゃありませんでした?」
「あ、色々訳があって少しの間やってたのよ!ね、ダーリン!」
ジョディがそう言うと、キャメルは冷や汗をかきながら「は、はい…!」と答えた。