「ハハハ…ハ?」
「え?」
「(やっぱり)」
目暮の言葉を聞いたトビー以外の3人は、椅子に座っていた。
「な、何であんたら座ってんだ!?」
「あ、でも今警部さんが…」
意味が分からないと言った様子で周りを見たトビーに「Sit down please…」とジョディが言う。
「”シランプリ”は、英語を聞きなれた外国人の耳にはこう聞こえるのよ…”どうぞお掛けください”って。椅子の前に立たされていたならなおさらね」
「つまり、見た目は外国人だけど、生まれも育ちも日本という完全な日本人で、英語に慣れていない人の耳には”知らないフリ”という本来の意味の言葉にしか聞こえないって事です。だからあなたはあのメモを持ち去ったんですよね」
名前がそう言うと「苗字君…?ワシはまだ何が何だか…」と目暮が言い、「自分もです…どういう事ですか?」と高木が続けた。
「この事件、事件発生から警察の到着が早く、現場の状況や社長の予定などを加味した上で、容疑者が4人に絞られました」
名前は順番に、今回の事件の容疑者4人に視線を向けた。
「手掛かりは社長の机にあったちぎられたメモ用紙で、そのメモにはBring my tux、私のタキシードを取って来てくれ、とだけ書いてありました。犯人が持ち去ったメモの内容は、ただイリーナさん宛ての伝言メモだったという事です」
「だ、だからそのただのメモを何で犯人が…?」
「そ、そうか!」
高木は「英語が読めなかったからですよ!犯人は意味が分からなかったから怖くなって持って行ったんです!」と気づいた。
「その通り!メモの内容が読めていれば、自分とは全く関係のない伝言メモしか書かれていない事に気づいたのに、犯人は自分の事が書かれているかもしれないと怖くなったんです。だから持ち去った…」
「という事は、塾で英語教師をやっているハル・バックナーさんや、社長と英語でメモのやり取りをしていたイリーナさん、FBI捜査官であるキャメルさんは除外され…」
高木はトビーの事を見ると「そのメモを持ち去る可能性があるのは、英語が読めなかったと思われるトビー・ケインズさん…ただ1人になるっていうわけですよ!!」と言った。
「しょ、証拠は?まさか、ただ英語が読めねぇだけで犯人にする気じゃないだろうな!?」
「…トビーさん、メモの内容が読めなかったんですよね?」
「…!」
名前は「ねえみんな、もし自分の悪口が書かれているかもしれないメモを見つけて、それが読めない暗号とかで書かれてたらどうする?」と、子ども達に質問をする。
「えー!それなら絶対捨てない!」
「何が書いてあったか気になるからよォ!」
「持って帰って一生懸命調べて…あ…!」
「じゃあ、犯人も恐らく…」
子ども達の言葉を聞いて、名前はフッと笑った。
高木はトビーに近付くと「ちょっと、調べさせてもらいますよ」と言って、トビーの上着を調べ始める。
「!」
トビーの上着の内ポケットから、社長の書いたメモが出て来た。
「やっぱり…」
「ああ…。持って帰ってアメリカ人である俺の彼女の弟に、なんて書いてあるか聞こうと思ったんだ…。俺の彼女の方は、あの社長にこき使われて、過労で身体を悪くし、去年の暮れに死んじまったから…聞くに聞けねぇからよ…」
「こき使われて?」
「そうさ…日本語で書かれたそういう契約書にサインさせられていたんだよ!彼女はカタコトの日本語は喋れたが、字はさっぱりだったから…」
トビーは当時の事を思い出しながら動機を語る。
「おまけに、彼女が働けなくなった場合、彼女の弟が連帯責任を負う契約になってたから、せめて弟だけは助けてやろうと、拳銃で脅して契約書を奪いに来たってわけさ!街でわざとスカウトされてな!」
トビーは「まあ、契約書はここにないから秘書に持って来させるなんてぬかしやがるから、思わず引き金を引いちまったがよ…」と、全てを白状した。
「じゃあ私が社長サンに頼まれたあのファイルは…」
「ああ…彼女の契約書も混じってるはずだ…。秘書があんたみたいな華奢な女だと知ってりゃ、社長を殺す事はなかったと思うがな…」
トビーはそう言うと、名前の方を見て「しかし”シランプリ”には参ったよ…。何で分かった?俺が英語の全く話せない、中身はコテコテの日本人だって事が」と聞いた。
「先程、イリーナさんがホテルのレセプションに行って来ると言った時に、あなたは”人が死んだのにパーティーの方が気になるんだ”と言っていましたよね?」
「ああ」
「ホテルのレセプションは、日本でいうホテルのフロントの事なんです。だからあなたは英語ができないのかなと思ったんです」
名前がそう答えると「ハハ…フロントの事かよ?どうりで妙だと思ったよ…。こんな事ならアメリカ人の父から、もっと英語を勉強しとくべきだったかな…」と、トビーは自分の失態に苦笑した。
「父から教わったのは拳銃の撃ち方ぐらいだったからよ…」
「け、拳銃の撃ち方…」
「(拳銃…)」
「まあ、もう二度と味わいたくねぇけどな…引き金を引く度に自分の魂が抜けて行くような…あの嫌な感覚はな…」
高木がトビーを連れて部屋を出るのを見送った名前は「コナン君、それにみんな、今回もありがとう」と、子ども達にお礼を言った。
「ううん、無事に犯人が見つかって良かったね!」
「またいつでもお助けしますよ!」
「なんてったって少年探偵団だからな!」
「うん!」
誇らしそうにする子ども達に「フフフッ、ありがとう!それじゃあまたね」とお礼言って、名前は部屋を出る。
名前が部屋を出てすぐ、ジョディが名前の後を追うように部屋を出た。
「…」
「…」
「…あ、あの…何か?」
無言でついてくるジョディに、名前は振り返って声をかける。
「…ねえ、あなたに質問があるんだけど」
「何ですか?」
「…シュウと…」
「…」
「シュウと、何かあった?…シュウに対して、特別な感情があるように見えるんだけど」
ジョディの質問に、名前は「いえ、何もありません」とハッキリ否定した。
「ウソ!だって、あなたの態度、シュウにだけ変だもの!それに…」
「それに?」
「そ、それに…」
「?」
ジョディはうつむいて「…あ、あの日…シュウが、あなたの事を連れて行ったから…」と小さな声で言った。
「…も、もしかして…ジョディさんって赤井さんの事が好きなんですか?」
「!!」
名前の問いかけに、ジョディは勢いよく顔を上げた。
「…アハハ!顔、赤いですよ」
「ち、ちが!」
名前は、ジョディの反応が思った以上に可愛くて笑ってしまう。
「ごめんなさい、笑ったら失礼ですよね」
「も、もういいから!それより、どうなのよ!」
「私は赤井さんに対して恋愛感情とか、そういうの一切ありません。そこは安心してください」
「そうなの?」
「はい。ただ…ごめんなさい、私は赤井さんに対してあまりいい印象がありません」
「…そっか…」
名前は「でも、それがなぜなのかを説明するのは…ごめんなさい、できないです。これは、私だけの問題ではないので…」と続けた。
「…わかったわ。でも、一つだけ…。シュウは、誤解されやすいけど、根は良いヤツなの。いつか、あなたにもわかってもらえる日が来ると思うわ」
「…好きな人の事を悪く言われるのは嫌ですもんね」
「だ、だから!!」
ジョディの反応を見て名前はフフッと笑う。
「赤井さんの事は置いておいて、ジョディさんとは普通に仲良くさせていただきたいと思ってますよ」
「本当に?」
「はい。お互い、国を守る仕事をしている同士じゃないですか!」
そう言った名前に、ジョディは「なら敬語をやめて、フランクに話しましょうよ。年齢も近いでしょ?」と言った。
「うん、分かった!私は29歳だよ」
「…え!年上!?私より年下だと思ってた…」
「ジョディは?」
「28。やっぱり日本人は若く見えるわね」
「変わらないじゃないですか」
エレベーターが到着すると「それじゃあ、私は本庁に戻るね」と言って、エレベーターに乗り込む名前。
「ええ」
「…後、私、この前お会いした時、態度が悪くてごめんなさい」
「いいのよ。コナン君の事を心配してだったんでしょ?」
「…うん。組織の事件を追ってるって言ってたけど…気をつけてね」
「ありがとう。お互いにね」
ジョディが答えたタイミングでエレベーターの扉が閉まる。
「…本当に…気をつけてね」
名前は、黒の組織に潜入捜査中に命を落とした諸伏と、今もなお潜入捜査中の降谷の顔を思い浮かべた。