「さ、高木君。警視庁に戻ろう」
「そうですね」
そこに一本も無線が入る。
『来葉峠にて車が炎上。事故か事件かの詳細は不明、至急現場に急行してください』
「来葉峠?」
「本当に、今日は朝から事件と事故が続きますね」
「高木君、急いで来葉峠に向かって!」
「了解です」
来葉峠に到着すると、目の前には炎上して真っ黒になった1台の黒いシボレーと警察官、そして先に到着していた千葉がいた。
「車が…」
「酷いですね…」
名前と高木に気づいた千葉が、2人の元に駆け寄って来る。
「苗字さん、高木さん、お疲れ様です!」
「千葉君、状況は?」
「たまたま通りかかった警察官によると、いきなり車が爆発したそうです」
「車の中に人は?」
「…」
名前の質問に、千葉は「車の中から…焼死体が発見されました」と答えた。
「…そう」
「中に乗っていたのは20代から30代くらいの男性で、拳銃で撃たれた形跡があるそうです」
「という事は、他殺ね。その後に車に火をつけて証拠隠滅を図ろうとした…」
名前は車に近付くと、中を確認する。
「(…大量の血痕…撃たれた弾みで車内に倒れた感じか…完全に他殺ね)」
「何か気になりますか?」
「…ううん。この車の持ち主は?」
「まだ特定できていません」
「分かった。とりあえず、ここは任せるね」
「分かりました」
そう言い残した名前は、警視庁に戻る。
「そういえば、ちょっと前にも破損した車がありましたね」
「ああ、車内に大量の血が飛び散っていたあの破損車両?」
「はい。あの車も、たしか黒のシボレーだったじゃないですか?」
「そうだっけ?」
「最近は車が絡む事件が多いですねー」
警視庁に戻ると、入り口でジョディに声をかけられた。
「名前!」
「ジョディ?どうしたの?」
「さっきニュースを見て…」
「ニュースって、ああ、あの来葉峠の炎上した車から出て来た焼死体の事?」
「ええ」
ジョディは「実は、その焼死体の男に会っているかもしれないの」と言った。
「そうなの?そしたら詳しい話を聞きたいから、中に入ってくれる?」
「ええ」
名前は高木と一緒にジョディを会議室へと案内した。
「今日の午前中、私も偶然来葉峠をドライブしてて、途中にあるドライブインで食事をしたんだけど、その時何かのはずみで落としたこの携帯を男の人が拾ってくれたのよ」
そう言ってジョディは携帯電話を取り出した。
「その男も黒いシボレーに乗っていたから、もしそうなら顔とか服装とか覚えているから、捜査の役に立てるかと思って」
「なるほど」
「そしたら指紋をとらせてもらってもいいですか?」
「もちろん。あ、ちなみにその携帯電話、わけあってコナン君に借りている物だから、私やコナン君の指紋も付いていると思うけど…」
「わかりました!すぐに調べますので、しばらくお待ちください」
高木が会議室から出て行った事を確認した名前は、ジョディに「…本当の理由は?」と聞いた。
「え?」
「これ、さっきコナン君に借りた携帯電話でしょ?午前中にドライブインで落としたっていう話が本当なら、調子の悪い元の携帯電話を出したはず」
「…なかなか鋭いわね」
「伊達に刑事やってませんから」
ジョディは小さくため息をついて「…あの焼死体…もしかしたらシュウかもしれないの…」と小さな声で答えた。
「え?」
「…組織の人間に呼び出されて、一人で会いに行ったのよ」
「な、なんでそんな危険な事を…」
「…わからないわ。何か考えがあるのかもしれないけど…シュウは、大事な事ほど教えてくれない男だから…」
「ジョディ…」
名前はジョディの隣に座ると「あの携帯に、赤井さんの指紋が残っているのね?」と聞いた。
「…ええ。シュウの指紋と焼死体の指紋が一致したら…」
「(…たしかに、焼死体の右手は辛うじて残っていたけど…)」
そこに扉の開く音が聞こえると、携帯と調査結果の用紙を持った高木が会議室に入って来た。
「調査結果出ました!」
「そ、それで?やっぱり私の思い違い…だった?」
「調査の結果、あなたの言う通り、あなたやコナン君の指紋と一緒に出てきましたよ。先ほど、焼死体で発見された男性の指紋が」
「…そう」
「…高木君、本当に指紋は一致してたの?」
名前がもう一度念を押すように聞くと「苗字さん酷いじゃないですか〜!ちゃんと調べましたよ!」と高木が答える。
「そしたらその男の特徴など、教えてもらってもいいですか?」
「…ええ…もちろんよ」
焼死体が赤井だという事を知って動揺しているジョディを見て、名前は机の下でジョディの手を握る。
「!」
驚いて名前の方を向いたジョディに、名前は軽くうなずいた。
「(…ジョディ…)」
高木の質問に、当たり障りのない内容を答え始めたジョディ。
「ありがとうございます、そしたら、こちらの携帯は一応しばらく預からせてもらいますから、コナン君には同じ機種のこの携帯を渡してもらえます?SIMカードがそっちにあるなら、問題なく使えると思いますから」
「ありがとう」
聞き取り調査が終わると、名前と高木でジョディを警視庁の入り口まで見送った。
「わざわざすみませんでした」
「あ、いえ…私の方こそごめんなさいね。その男の特徴を大して思い出せなくて…」
「あ、でもあの遺体、色々不可解な点が多くて…。何か他に思い出されたら連絡をください」
「ええ、もちろん!」
そう言いながらジョディは乗って来た車に乗り込んだ。
「ジョディ、大丈夫…?」
「ええ。ありがとう」
「では、今日は色々ありがとうございました!」
名前が心配そうな顔でジョディの乗り込んだ車を見ていると、高木に「苗字さん?どうかされました?」と聞かれた。
「…ううん、なんでもない。さてと、今日もまだまだやる事があるから頑張ろう」
「そうですね。はあ〜今日も1日濃かったですね」
「だね」
捜査一課に戻りながら、名前は心の中で「(…あの焼死体…本当に赤井さんなのかな?)」と思っていた。
「や、やっと帰って来れた…」
0時が回る前に何とか帰宅する事ができた名前は、帰り道に途中で買った軽食の入ったコンビニ袋を机に置いた。
ジャケットを脱ぎ、部屋着に着替えた名前は、コンビニ袋から中身を取り出してカップサラダの封を開ける。
「…赤井さんの事…零君に言ったほうがいいのかな…」
そう思っていると、名前の携帯電話が鳴る。
「わっ!零君だ!なんてタイミング…」
通話ボタンを押して「もしもし?」と降谷からの電話に出る。
『もしもし?今どこにいるんだ?』
「丁度さっき帰って来たところだよ。サラダ食べてる」
『サラダ?この時間でもちゃんと食べろよ?体が資本なんだからな』
「でもねー、この時間に食べたら太っちゃう…」
名前の言葉を聞いた降谷は、あきれた様にため息をつく。
『これだけ毎日動き回っているんだから、食べないとダメだろ』
「零君ほどじゃないけどねー」
『僕に心配をさせないでくれ』
「はーい」
名前は赤井の事を思い出すが「(…零君にとって敵である赤井さんの事を、わざわざ教える必要はない、かな…?)」と思い直す。
『名前?』
「うん?」
『どうした?何か考え事か?』
「何でもないよ。今日も色々あって疲れたなぁって。零君の方はー、ってあんまり聞いちゃダメだよね」
『まあな』
名前は「(…やっぱり言わない方がいいかな)」と結論付けた。
『悪い、ちょっと待っててくれ』
「え?」
数十秒の沈黙後、『本当はもう少しゆっくり話をしていたかったんだが…急用ができた』と、先ほどとは打って変わって仕事モードの声色になった降谷が電話口に出る。
「大丈夫だよ。事件か何か?」
『…まあ、そんなところだ』
「この時間から大変だね」
『…名前』
「ん?」
降谷は、少し聞きにくそうに『…今日、来葉峠で炎上した車から出て来た焼死体の事を聞いているか?』と質問する。
「来葉峠?ああ、ニュースにもなってた事件だよね。私はその事件を担当してないから詳細は知らないよ」
『そうか』
「何かあるの?」
『…いや、何でもない。また電話する。早く休めよ』
「ありがとう。零君も気をつけてね」
『ああ』
電話を切った後、名前は「…零君、組織の仕事かな?…それとも、赤井さんの死を知ったのかな…」と、電話を切る前の降谷から苛立ちの感情を感じていた。
「…でも、本当に赤井さんは組織の人間に殺されてしまったのかな…」
組織に潜入し、FBI捜査官としても優秀な赤井秀一が、こんな簡単に殺されてしまうのだろうか。
名前は少し疑問に思いながら、机の上に置きっぱなしにしていたサラダを一口食べた。