「(零君、大丈夫かな…)」
自分の敵だった人間が、目の前からいなくなる気持ちは、名前には十分すぎるくらい分かっている。
名前の敵だったあの連続爆破犯を逮捕した時の事を思い出し、降谷の事を心配していた。
「…あれ?ジョディー!」
「名前!」
道の向こうから青い顔をして走っているジョディを見つけた名前は「どうしたの?何かあった?」と心配そうに声をかける。
「さ、さっき…シュウが…」
ジョディの言葉を聞いて、名前は「え?」と聞き返す。
「…いいえ、何もないわ…」
「…私じゃあ頼りないかもしれないけど…何かあったら相談してね」
「名前…」
「大切な人を亡くす気持ちは、分かってるつもりだから…」
「あなたも…そんな経験が?」
「…うん。私も、幼なじみを2人亡くしているんだ」
名前の言葉にジョディは「そうだったの…」とつぶやいた。
「だから、何か吐き出したくなったら言ってね。何もできないけど…話を聞く事くらいはできるから」
「…ありがとう」
そう言って笑ったジョディに、少しだけ安心した名前。
「どこに向かってたの?」
「ていと銀行よ。今、ジェイムズとキャメルと一緒に買い物に来ていて、3人とも手持ちがなくて」
「そうなの?よければ私が立て替えようか?」
「大丈夫よ。すぐそこだし」
「じゃあ私もついて行こうかな。今日は非番なの」
名前の言葉に「あら、それなら一緒に軽く一杯やる?あなたなら大歓迎よ」とジョディが提案した。
「いいの?」
「もちろん。日本警察が掴んでる組織の情報も知りたいし」
「私は強行犯係だからなー」
「管轄が違うの?」
「うん。ウチだと組織犯罪対策部が担当してるから、あんまり情報入って来ないんだよね」
そんな話をしながら2人は銀行に入る。
「それじゃあ、私はお金を降ろしてくるからそっちで待ってて」
「オッケー!」
名前はATMから少し離れた所でジョディを待つ事にした。
ふっと横を見ると、目出し帽を被った5人の男が立っている事に気づく。
「…え?」
男達は一斉に拳銃を取り出すと、1人の男が天井に向かって拳銃を発砲させた。
「出入口にロックをかけてシャッターを閉めろ!!全員1か所に集まってもらおうか!!」
男がそう言うと、銀行にいた客達がゆっくりと移動し始める。
「ウ…」
近くにいた男性客の1人が立ち上がった事に気づいた名前は「ま、待って!」と止めようとする。
しかし、男性客は「ウオオオオ」と叫びながら男達に向かって行く。
男は男性客に銃口を向けると、男性客の腕に発砲した。
「うあああ!」
「キャアアアア!!」
「わかったか!?痛い目に遭いたくなかったらさっさとしろ!」
名前は撃たれた男性客に駆け寄ると「大丈夫ですか!?」と言って、つけていたマフラーを外し、出血している腕に巻き付けて圧迫止血を試みる。
「(マフラーだと柔らかすぎて…)」
「だ、だいじょぶ…です…」
痛みに悶えながらもそう答えた男性客に「このまま止血していれば大丈夫です。なるべく、強い力で抑えておいてください」と伝える。
「いいか!知り合いや連れがいたら一緒に固まるんだぞ!!」
「(知り合いや連れと一緒に…?)」
名前は一瞬ジョディの方を見るが、ジョディも名前も対角線上にいた方が良いと判断して知らないフリをした。
「よォし!とりあえず持ってる携帯をこの袋に詰めろ!」
「おい!そこの外国人女!日本語がわからねぇか!?」
「NOー、少しならわかりまーす!」
ジョディがそう答えると「じゃあ携帯出してさっさと座れ!」と男が叫ぶ。
「OKOK!」
ジョディは座った弾みで隣の男性客にぶつかり「Oh,Sorry!」と謝った。
横を見たジョディは、ぶつかった男性客が赤井にそっくりな事に気づき、驚いて声を上げる。
「シュウなの?シュウなんでしょ!?シュウだと言って!!」
「(ジョディ…?何でそんなに叫んでるの…?)」
距離があり、ジョディが何と言っているかまではハッキリ聞き取れない名前は、銀行強盗犯の男に何かされないか心配していた。
「コラ!何騒いでやがる外国人女!さっさと携帯を袋の中に入れろ!!」
「OKOK!」
男は「おい、この銀行の支店長はいるか!?こっちへ来い!!」と、銀行の従業員達の方を見ながら叫ぶ。
「ええっ!?」
支店長の男性が声を上げると「ビビるなよ!このケースにここにある金を全部詰めてもらうだけだ!簡単だろ」と言って、カウンターに置いたケースを指さす。
「わ、私1人でですか?」
「ああ。お前なら、金の在処に詳しそうだしな」
別の男が「よーし、次は連れや知り合いがいねー奴!その場に立て!」と言った。
名前が立ち上がると、名前の他に数人がその場で立った。
「1人ずつこのガムテを取りに来い!こいつで連れや知り合いがいる奴らの目と口をふさぎ、両手を後ろで縛るんだ!」
名前は男の方に近付き、ガムテープを受け取る。
「赤の他人じゃねえと手加減するかもしれねえからなァ!」
「もちろん、お前らは後で俺らがふさいでやるよ!」
名前は受け取ったガムテープを持って、ジョディの元へ向かう。
「ジョディ、危ない事しないで…」
「わかってるわ。でも、この強盗犯達を一掃しないと」
「何とかするから大人しくしてて。危ないから」
「…大丈夫」
名前は、ジョディの目元にガムテープをつけようとしながら「軽くするから」と小声で伝えた。
「Oh!その前にトイレに行かせてくださーい!」
「ジョディ!?」
「我慢とても無理ね!」
急に大きな声で話し始めたジョディに、名前はぎょっとして止めようとするが「チッ!またこの外国人女か…」と男が近づいて来て何もする事ができなくなってしまった。
「いいだろう!その代わり、目と口と手はふさがせてもらうぞ!」
「OK!」
「な、何考えてるの!」
名前はガムテープをつけながら小声でジョディをとがめる。
「大丈夫、なんとかするから」
「…もう!」
ジョディがトイレに行った後、名前は男たちの様子を伺った。
「(犯人は5人…。今、ここにいるのは4人だけど、1人で拳銃を持った相手に向かって行っても流石に厳しいよね)」
そしてトイレの方を見た。
「(…ジョディ、大丈夫かな…)」
名前は「(…でも、1人で無茶するような事はしないよね…きっと)」と思い直したが、すぐに自分の予感が外れた事を知る。
「とんだキツネだったぜこの外国人女…」
なかなか戻らないジョディと男の様子を見に行った男が、気絶したジョディを担ぎながら戻って来た。
「(だから言ったのに…!)」
「今殺っちまってもいいが…銃声を聞いて外の警察が突入して来たらヤベェしな」
「(危ない事はしないでって、言ったのに…)」
名前は誰にも聞こえないように小さなため息をついた。
「あ、あのー…お金用意しましたから、ケースを開けてくれませんか?」
「おいおい、それっぽっちかよ!?」
支店長が用意した現金の量を見て、男が叫ぶ。
「もっとデケェ金庫にたんまり入ってんじゃねえのか!?何なら爆弾でふっ飛ばしてもいいんだぞ!!」
「ええっ!?」
「(爆弾…?)」
名前は男が支店長に何か紙を見せた事に気づき「(…何だろう…)」と不思議に思った。
「よーし!連れや知り合いがいねぇ奴ら、こっちへ来てガムテで自分の目と口をふさげ!」
「両手は俺らが縛ってやるからよ!」
名前の目はふさがれて、まったく様子がわからなくなってしまったが、話している声は聞こえるため、犯人の1人がトイレに向かった事を把握する。
「(…これで3人…)」
名前は人質の中に素直に座るフリをして、様子を伺っていた。
「(…犯人達はどうやってここから脱出するつもりなんだろう…。外には機動隊もいるはずだし…)」
犯人達は、この建物からどのように脱出しようとしているのか。
名前は男達の脱出方法を考えていた。
「(こうやって私達の目を隠しているって事は、見られたくない何かがあるって事…。顔くらいしか思いつかないけど、目出し帽被って顔を隠してるのに?)」
目出し帽を被って顔を隠している犯人達が人質である名前達の目をふさいだ理由を、名前は考える。