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「っていうか、誰だね君は?苗字君の知り合いにしては若くないか?」

目暮が不思議そうな顔でそう聞くと「た、探偵さんだそうです…」と、第一発見者である昼川利子が答える。

「(また面倒くさい奴が…)」
「でも何でこの男はいたんだろう?別館は改装中で泊まれないはずなのに…」

世良の疑問に「亡くなったこの上住貞伍さんは、この杯戸ホテルのオーナーの息子でね。特別に部屋を使わせていたそうだ。マスコミを避ける為にな」と目暮が答えた。

「マスコミって…」
「その人有名人?」
「うん、振り込め詐欺の首謀者として、一度捕まえたんだけどね。証拠不十分で釈放されて…週刊誌でも騒がれてるんだ」

名前は「でもマスコミに見つかって先週まで大騒ぎだったんだって。上住さんがマスコミ相手に大暴れして、6階の廊下の窓を消火器で割ったって聞いたよ」と続けた。

「別館に泊まる客もどんどん減っていって、さすがにホテル側もこれ以上奴を置いておけなくなって、別館の改装を機に海外に移住させるかもしれんという話が出てな」
「ええ…。その噂を我々被害者も聞きつけて、彼に会いに来たんです」
「海外に逃げられてしまう前に」
「一言でも謝ってもらおうと…」

昼川の他に2人、振り込め詐欺の被害に遭った男女も、上住に会いに来た理由を伝えた。

「それでは上住さんにお会いできたんですか?」
「ええ。まずは私が彼の部屋に行って…そうしたら彼、急に泣き出して、罪を認めて謝るから酔いが覚めるまで時間をくれと…」
「…酔いが覚めるまで…」

昼川は「どうせなら彼の懺悔を録音しようという事になり、この2人と一緒に近所の電気屋さんに録音機器を買いに行こうとして、駐車場に停めていた私の車に乗り、車をバックさせた途端に…目の前に彼が落ちて来たんです!」と、目撃した事を証言する。

「バックさせた途端にか…」
「…転落後に、あなたの車や遺体に触った人はいますか?」

名前がそう聞くと「さぁ…」と昼川は煮え切らない返事で返す。

「いないと思うよ!ボク、このおばさんが屋上で怪しい人影を見たって言うから、おばさん達とすぐに屋上に行ったんだもん!」

ハッキリとしない昼川の代わりに、コナンが答えた。

「その間、車と遺体は蘭姉ちゃん達と警備員さんで見張っててって言ったから…だよね?」
「うん」
「怪しい人影は私の見間違いだったようですけど…」

コナン達の証言を聞き「そしたら、車や遺体に仕掛けの痕跡が残ってるかもしれませんね」と名前が言う。

「入念に調べさせろ!」
「はい!」

そこに世良が「でも変だなぁ…」と話に入る。

「ボクがエレベーターを待ってる時、たしかに6階と2階でエレベーターが止まったと思ったけど…本当に別館には転落した人しかいなかったのか?」
「どのタイミングで止まったの?」

名前に聞かれた世良は「男が落ちたって大騒ぎになって、このボウヤがおばさん達連れてエレベーターで屋上に向かった後だよ」と答えた。

「エレベーターは最上階に行くまでノンストップだったのに、なかなか降りて来なくて」
「…動いていたのは1基のエレベーターだから、もしそれが本当ならまだ別館に人がいる可能性も捨てきれないね」
「別館を調べている捜査員からの連絡は?」
「特にまだ、ありません」

そこにコナンが「監視カメラは?エレベーターや廊下に付いてるでしょ?」と聞く。

「それがね、上住さんが暴れた時に別館中にスプレーをまいて、監視カメラも全部塗りつぶしちゃったらしくて真っ暗で映像には何も映ってないそうなの」
「なるほど」
「わくわくしてきたなボウヤ!」
「あ、うん…」

こんな状況を世良は楽しんでいた。

「それじゃあ目暮警部、とりあえず別館に行ってみましょうか?」
「ウム…。なぜか止まった2階と6階に行く必要がありそうだな」

名前と目暮が別館の中に向かおうとするが、昼川達が3人で何か話している事に気づき、目暮が「何ですか?」と質問をする。

「あ、いえね…」
「ただの噂話なんですが…」
「出るらしいんですよ、この別館に…」
「出るって何が?」

目暮がそう聞くと「幽霊ですよ、幽霊!!夜中、誰も乗ってない老人の車椅子が別館の中を徘徊しているのを見た人がいるらしいんです!!」と2人が声を揃えて答えた。

「えええ!?」
「えー…」

2人の話を聞いた蘭と園子が青い顔で絶叫する横で、名前は呆れた顔で苦笑いをした。

「そもそも誰も乗っていないのに、何で老人の幽霊だと分かるんですか?」
「…私の父のせいです…」

昼川は「振り込め詐欺にあったのは私の母だったんですが、そのショックで身体を壊して入院してしまい…癌で余命わずかだった父が、わざわざ別館に部屋を取って、毎日のように貞伍さんの部屋の前で頼んでたんです…。”金を返せとは言わないから、一言謝ってくれ”と…」と、母親の死後、別館の2階で首つり自殺をした父親がこのホテルの貸し電動車椅子に乗っていた事を話した。

昼川の話を聞いた後、名前と目暮、コナンと世良は別館の2階に向かった。

「すごい落書き…」
「改装も止む無しだな」

エレベーターを降りると、壁中に落書きがされていて、酷い有様だった。

「お、千葉君!誰か見つかったかね?」
「いえ、まだ…」

目暮は、千葉の傍にある車椅子を見て「ん?何だねそれは」と聞く。

「車椅子です!発見した時にはまだ動いていて…」
「(動いていて?)」
「前輪と前輪の間に、妙な釣り糸が付いていたのでホテル側に確かめたら、これは転落死した貞伍さんが借りていた電動車椅子だそうです」
「彼は足が悪かったのかね?」

目暮の質問に「いえ、単にこれに乗って別館中を乗り回っていたと…」と千葉が答える。

「とんでもない奴だな…」
「例の幽霊騒ぎ、上住さんが流した噂かもしれませんね」
「可能性はあるな」

世良は車椅子の傍にしゃがむと「それにしても、随分長い釣り糸だね…先に切れた輪ゴムが数個付いてるし」と、釣り糸を持ち上げる。

「足掛けには何かぶつかったような傷も付いてるよ。犯人はこれを使ったんじゃないの?」

コナンがそう言うと、目暮は首を横に振った。

目暮は窓の外を見ながら「ここは貞伍さんが転落死した駐車場の逆側。車椅子を使っても何もできやせんよ」と言う。

「相変わらずコナン君が一緒にいるんですね」
「最初に別館に入ったのがコナン君だったから、一応一緒に来てもらったの」
「知らない少年も混ざっているような…」
「あ、えっとねー…」

世良が少年ではなく少女だと知っている名前が千葉に訂正しようとするが、その前に「おーい、苗字君、6階に向かうぞ」と目暮に呼ばれる。
名前達は6階に向かうため、もう一度エレベーターに乗り込んだ。

「見間違いじゃないのかね?このエレベーターが2階と6階で止まったなんて」
「ウソだと思うなら警備員さんに聞いてみてくれ。エレベーターの見張り頼んだ時、一緒に見てたからさ」

6階に着くと、乗り込んだ時とは反対側の扉が開き、扉に寄りかかっていた目暮は「うわっ!」と態勢を崩した。

「こっち側の扉も開くのか!?」
「うん!このエレベーターは前後二つ扉だよ!」

コナンは「ホテルの人に聞いたら、この別館の1階と2階のこっち側は結婚式場とかに使う大ホールになってて、1階と2階のエレベーターの出入り口を向こう側にした方が便利でスペースも広く使えるからそうしたってさ!」と補足する。

「階によって開く扉が違うんだね」
「うん」

エレベーターを降りると、2階よりもさらに酷い落書きで壁が埋め尽くされていた。

「これかぁ…貞伍さんが消火器で割ったって窓は」
「みたいだね」
「2人とも、あんまり窓に近付いたら危ないよ。シートでカバーしてたのに風であおられて外れちゃってる…」

割れた窓から下を見ながらコナンは「でもここってさー、転落現場の丁度真上だよ?」と言う。

「何かあると思わないか?」
「たしかに、ここが一番怪しいよね」

ぐるっと部屋を見て回った世良が「あの昼川っておばさんだよ!犯人は!!」と言った。

「え?」
「今からボクの言う通りに仕掛けして、昼川さんをここに連れて来てくれる?」

世良はそう言うと「この事件はもう、Case Closed…解決したからさ!」と自信満々に言う。

「ま、真純ちゃん…」
「ん?」

名前は世良の耳元に近寄ると「本当に分かったの?」と小さな声で聞く。

「もちろんさ!こう見えて、ボクは結構優秀なんだぜ」

そう言って世良はウィンクをした。



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