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名前は一度レストランの中に戻ろうと出入り口に向かうが、その瞬間強い風が吹く。

「わっ!」

風になびかれてボサボサになった髪の毛を手櫛で直していると、千葉がやって来た。

「苗字さん、髪の毛大変な事になってますよ」
「さっきすっごい風が吹いてたの!」

そう言って髪の毛を直すと「それで、何か分かったの?」と千葉に聞く。

「実は、検視官の報告によると、遺体の付け爪が1つ足りないようなんです」
「さっき車の傍で見つけた付け爪以外に、もう1つって事?」
「はい。正確に言うと、足りていないのは2つで、1つはすでに見つかったんですけど、もう1つがまだで…」
「分かった。車の周辺をもう一度探してみよう」
「僕はこの事を警部に伝えてきます!」

名前が加門の車の周辺を調べていると「名前刑事!」とコナンに呼ばれた。

「コナン君?」
「もしかして、足りない付け爪探してる?」
「うん。でも、車の周辺にはなさそうなんだよね」
「もしかしたら」

コナンはそう言うと、近くにいた警察官に駆けより「ねえ、さっき初音さんの傘を見つけたのっておじさん?」と聞く。

「そうだよ」
「その傘って、どこで見つけたの?」
「そんなの聞いてどうするんだい?」
「小五郎のおじさんが聞いて来いって!」

警察官は、コナンの後ろにいる名前に目線を向けると、それに気づいた名前が「どこにあったんですか?」と聞く。
名前に聞かれた警察官は、少し移動すると「この端っこの車に、こんな感じで引っ掛かっていたけど…」と答えた。

「って、おいコラ!ボウズ!」

コナンは時計型ライトをつけると、車の周辺を調べ始めた。

「苗字さん、いいんですか?」
「うん、多分、コナン君には考えがあるから大丈夫」
「名前刑事!この車の下に付け爪が落ちてるよ!」
「本当?」

名前の代わりに警察官が車の下を覗き込むと「ほ、本当だ!」と付け爪を発見する。
警察官は付け爪を拾うと名前に見せた。

「先に付いてるのは…皮膚と血痕ですね。すぐに調べてください」
「分かりました!」

コナンは「名前刑事…。さっき、あの金髪で褐色の探偵の人から聞いたんだけど、亡くなった初音さんと伴場さんは、赤ちゃんの頃に同じホテル火災で助け出されて身元不明のまま同じ教会で育てられたんだって…」と、降谷から聞いた情報を伝えた。

「それで2人とも養子なんだね」
「もしかして…」

コナンが続きを言う前に「コナン君!勝手に外に出たらダメじゃない!」と、コナンを心配した蘭が駐車場に現れた。

「名前刑事が一緒だったんですね!」
「うん。寒くなってきたし、一回お店に戻ろうか」
「はい」

3人でレストランの中に戻ると、犯人と疑われている伴場が小五郎と一緒のテーブルに座ってDNA鑑定の結果を待っていた。

「なぁ伴場…。あのヘアブラシ、誰かに使わせた事はないか?」
「使わせた?」
「ホラ、友人がお前ん家に泊まりに来た時とか…」
「さあな…そんな覚えはねーけど」

伴場はそう言うと、降谷の方を見て「半年前から俺と初音は一緒に住んでたからよ…。俺の留守中に初音が連れ込んだ、どっかの探偵が使ったかもしれねぇけどな」と睨む。

「た、たしかに僕は彼女に雇われた探偵ですけど、家に行った事はありませんよ?」
「その探偵っていうのも本当かどうか怪しいぜ…。初音が死んだ今、それを証明する奴はいなくなったし…。俺が雇った方の探偵さんをまいて尾行させなかったぐれーの切れ者なら、家に来た時に俺のヘアブラシから俺の髪を取り除いて、誰か別人の髪を仕込み、俺に罪を着せるつもりだったかもしれねーしよ!」

名前は「(零君、本気で疑われてるなー)」と苦笑した。

「あ、いや、僕にそんなスパイのような真似は…」
「まあ、それはないよ」

通話を切った目暮が「たった今、DNA鑑定の結果が出て、伴場さんのヘアブラシに付いていた毛髪は、伴場さんの髪だと断定されたからな」と告げた。

「マ、マジかよ!?」
「あぁ…」
「…という事はやはり、彼女に探偵として雇われていた僕を、愛人だと勘違いしたあなたが、そこから来る嫉妬心から殺意が芽生え、彼女がこの店に車で戻って来るのを駐車場で待ち伏せ、車に押し込んで焼殺したと考えざるを得ませんね」
「て、てめェ…」

降谷の話を聞いた高木が「では、署まで任意同行していただけますね?」と言いながら伴場の腕を掴む。

「ちょ、ちょっと待てって!!」
「ほ、本当に伴場さんなんでしょうか?」

そこに名前が割って入る。

「…と、言いますと?」
「たとえ、あなたの事を愛人だと勘違いしていたとしても…結婚の約束をするほど愛した人に何も聞かずに殺害する事を選ぶのは不自然じゃないですか?」
「…そうでしょうか?」
「私なら、ちゃんと理由が知りたいです…。それで、ちゃんと話し合って、向き合いたいです」

名前がそう言うと、降谷はフッと笑い「あなたは、とても可愛らしい人ですね」と言った。

「なっ!?」

降谷の言葉に顔を赤くしている名前に、降谷のキザなセリフを聞いてつられて赤くなった高木が「と、とりあえず伴場さんを連れて行っていいですか?」と聞く。

「どうぞ!」
「ちょ!待て!毛利!何とかしてくれよ!!」
「そう言われてもなぁ…」
「…」

小五郎と伴場のやり取りを、何も言わずにジッと見つめる降谷。

「さぁ!」
「分かったよ!!」

伴場は観念すると、席を立ち上がって出入り口の方に向かう。

「(本当に伴場さんなの…?でも、伴場さんの犯行が難しい事を証明する術がない…)」

名前は伴場の靴底についたクリームの事を思い出す。

「(…そういえば、あの伴場さんの靴底のクリーム…あれっていつついたんだろう…。もし、犯行前についたのなら、この雨の中、駐車場に出た時に落ちてるはず…)」

高木が扉を開けると、外は滝の様な雨が降っていた。

「うわっ!マジでひでぇ雨だな…」
「いいのか?伴場!本当に」
「え?」

突然聞こえて来た小五郎の声に、伴場は振り返る。

「”この店から出ちまってもいいのか?”って聞いてんだ!!」
「しゃーねぇだろ?こーなったら警察で無実なのを分かってもらうしか…」
「そうか、だったらお前は犯人じゃねぇよ!!」

小五郎の言葉を聞いた全員が、思わず「え?」と口にする。

「お、お父さん?」
「おいおい毛利君…いくら彼が任意同行に従ったといっても、犯人じゃないという事にはならないんじゃないのかね?」

目暮がそう聞くと「では、思い出してください。初音さんの車が炎上した時の状況を」と、小五郎は当時の状況を整理する。

「この店から駐車場に出る扉は、雨が降っていたために鍵がかけられていて、トイレの窓からの出入りも、その窓の下の大きな水たまりの周りに犯人の足跡がなかった事からありえない。となると、店の正面の扉から出るしかないが、この結婚パーティーの主役である彼が店から出て行ったのなら誰かが見て覚えているはずですよね?」

小五郎がそう言うと、傍に聞いていた降谷が「フッ…」と笑った。

「誰も見ていないのではなく、気づかなかったと…僕なら推理しますけどね」
「ど、どういう事かね?」
「トイレで変装したんですよ。あらかじめそれ用の服をトイレの中に隠しておいて。ニット帽や丈の長いウインドブレーカーでも着ていれば誰も彼だと気づきませんよ」

降谷がそう言うと「じゃ、じゃあ初音の車が燃える直前に俺が初音にかけたあの電話はどうなんだよ!?電話口で初音は”サヨナラ”って泣いてたんだぞ!?」と伴場が説明を求める。

「本当に燃える直前にかけたんですか?」
「何!?」
「本当は変装をして店を出て駐車場で彼女を待ち伏せ、彼女が車から降りた時に電話をかけたんじゃないんですか?」

降谷は「電話に気を取られ、背後の注意が疎かになった彼女を、抵抗されながらも気絶させた。その時にできた傷を、店に戻ってウエイターである僕にわざと殴りかかってケガをする事でごまかしたんだ」と続けた。

名前は、降谷の推理をしている姿を見て違和感を覚えた。

「(…なんだか、いつもの零君じゃないみたい…)」
「後は、おもむろに彼女に電話をするふりをして、彼女が遺言めいた言葉を言っているように周囲の客に思わせ…窓の外に目をやって炎上する彼女の車を客達に気づかせれば、目の前で愛する女性に自殺された悲劇の男の出来上がりというわけですよ」

伴場は「デ、デタラメだ!!本当に初音は俺に電話でサヨナラって…!初音の電話を調べてくれよ!車の中にあったはずだから!!」と高木に頼む。

「黒コゲの携帯はありましたけど…たとえデータが復元できたとしても、どんな会話をしていたかまでは…」

高木が申し訳なさそうな顔でそう答えた。



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