「ハサミやナイフとかで切り刻んで、トイレに流したんでしょうね。ニット帽や薄いナイロン製のウインドブレーカーなら、細かく刻めますしね!」
「靴はどうした?」
小五郎の質問に「靴?」と降谷が聞き返す。
「靴はそう簡単に切り刻めねぇぜ?」
「靴なんて履き替える必要ありませんよ!歩き続けて止まらなければ、どんな靴かなんて判別できませんし」
降谷はそう言うと、伴場の履いている靴を見ながら「実際、彼の靴はどこにでも売ってそうなスニーカーですしね」と答える。
「じゃあ伴場!脱いで見せてやれ!お前のスニーカーの裏側を!」
「え?」
小五郎にそう言われ、伴場は戸惑いながらも靴を脱ぎ始める。
「それはお前が、犯人ではないという証拠だよ!!」
「靴の裏の溝に、クリームのような物が…」
「あ、それチョコレートケーキだと思います!伴場さん、床に落ちたケーキ踏んでたから」
蘭の答えを聞いた名前は「それって、いつ踏んだか覚えてる?」と、さらに質問をした。
「初音さんがこの店からネイルサロンに出かける前です」
「なるほどね。それならやっぱり伴場さんに犯行は難しいですね」
目暮は「な、なぜそうなるんだ?」と聞く。
「事件当時、外は大雨だったので、伴場さんが濡れた道を急いで往復していたのならこのクリームはほとんど残っていないはずです」
「つまり、彼は店から出ていないという事か…」
「ええ。実は最初、私がそれを目にした時、これは伴場の仕掛けたフェイクかと思いました」
小五郎は「本当は何らかの方法で靴を履き替え、探偵である私に靴の裏のクリームを見せて、店から出ていない事を証明させる気だとね」と続ける。
「だが、そのケーキはそこの若い探偵が落としたが故に偶然踏んだ物だし、伴場は靴の裏にクリームが付いている事を全く私に言い出さない…。しかも、あろう事か、雨の中店外へ出て、その大切な証拠を台無しにしようとしている」
小五郎の推理を聞きながら、伴場は嬉しくて泣きそうな顔になる。
「だから確信したんですよ。そのクリームはフェイクじゃなく、伴場の無実を証明する証拠だとね」
「も、毛利…!」
降谷は「で、でもDNAは!?彼女の付け爪の先に、彼のDNAとほぼ一致した皮膚が付いていたんですよ?彼がその時、彼女の傍にいたって証拠じゃないですか!!」と小五郎に詰め寄る。
「付け爪に付いていたのが彼女本人の皮膚だったって場合は、考えねぇのかよ?」
「な、何言ってんですか?さっきも言いましたが、血縁者でない限りゲノムのほぼ一致はまずありえません!」
降谷はそう言うと「現在、同じ型のDNAの別人が現れる確率は4兆7000億人に1人とされてますし、だいいち女性には男性だけが持ってるY染色体がないからすぐに分かりますよ!」と続けて説明をする。
「(零君…普通の探偵はそこまで知らないと思うよ…)」
先程から降谷の豊富な知識による推理を聞いている名前は、降谷がただの探偵ではない事がバレるのではないかと少しヒヤヒヤしていた。
「問題のその皮膚が雨や泥で汚染され、性別の部分が不明だからほぼっていってるのかもしれねぇだろ?」
「…だとしても…そんな2人が偶然出会い、たまたま恋に落ちて結婚しようとしたって言うんですか!?」
「出会ったのは偶然かもしれねぇが…惹かれ合ったのは必然だったと思うぜ?」
小五郎は数秒黙り込んだ後、ゆっくりと「双子だったんだからな…」と伝えた。
「ふ、双子…!?」
「伴場…お前ら言ってたよな?2人は誕生日も血液型も同じで、黙っていてもお互いの考えてる事が分かる事があるって…」
小五郎が伝えた事実に動揺しながら、伴場は「あ、ああ…。でもそれだけで双子だとは…」と言った。
「お前は知らなかっただろうけど、お前と初音さんは赤子の頃、同じホテル火災で助け出されて、身元不明のまま教会で育てられた2人だったんだよ」
「…そっか…その火事でお二人のご両親が焼死してしまって、双子だと分からなかったんですね…」
目暮は「しかし、双子だとDNAが同じになるのかね?」と名前に聞く。
「一卵性双生児は同じになります。でも、一卵性双生児って、男性同士か女性同士の双子になるはずだった気がするんですけど…」
「稀にあるんですよ…」
降谷は「2つに分かれる前、受精卵の染色体がXYの場合、多胚化する際に一方のY染色体が欠落し、XYとXOに分かれ、異性一卵性双生児として誕生するケースがね…」と説明した。
「お、おいおい冗談だろ?俺と初音が双子だなんて…」
信じられないといった表情で伴場が叫ぶが「彼女、身長いくつだったか分かります?」と降谷が質問をする。
「140の後半だって言ってたよ…。背が低いの気にしてたし…」
「…だとしたらその可能性は高いですね…。異性一卵性双生児の女性の方は、ターナー症候群で低身長になりやすいですから…」
「(赤ちゃんの時に離れ離れになった双子が…それぞれ別の場所で育って、同じ場所に戻て来た…)」
「で、でもよ…何で初音の付け爪に初音本人の皮膚が付いていたんだよ!?」
伴場の問いに名前は「(…多分、きっと…)」と心の中で思う。
「わからねぇのか伴場…。この若い探偵にお前と自分が同じ火事で助け出された事を聞かされ、”後は自分で調べる”と彼女が言ってたんなら…その調べる内容は、自分達が双子かどうか明確になるDNA鑑定以外考えられねぇ…」
「(きっと、ネイルサロンからここに戻って来た時に、彼女は知ってしまったんだ…)」
「鑑定を依頼していた業者からの電話が鳴り、その結果を聞かされちまったんだよ…。お前と初音さんは結婚する事を許されない…血のつながった双子だって事をな…」
「そ、そんな…!そんな…!!」
小五郎が「付け爪に彼女の皮膚が付着していたのは恐らく…その結果に愕然とし、付け爪が外れるほど顔をかきむしり泣きじゃくったため…。その時、彼女が落とした傘の内側に入って風に飛ばされたもう一つの付け爪を今調べてもらっているから…その結果が出ればはっきりと…」と言ったタイミングで、目暮の携帯が鳴る。
「はい目暮…。ウムウム…そうか…分かった」
目暮は返事をすると通話を切る。
「目暮警部、付け爪のDNA鑑定の結果が出たんですか?」
「ああ…。そっちの爪には血液も付着していた上に、ほとんど汚染されてなく…」
目暮は一呼吸入れると、伴場の方を見て「伴場さんのDNAとピッタリ一致したそうだ…。性別を示す部分以外はな…」と答えた。
「彼女の遺体からかろうじて取れたDNAとも一致したそうだから、付け爪に付いていた皮膚は彼女の物と断定されたよ…」
結果を聞いた高木が「じゃあやはり、彼女は自殺を…」と聞く。
「そうだとしか考えられんが…その業者も間の悪い時に電話したもんだな…」
「多分、2人が明日結婚すると聞かされていて、早く知らせたかったんですよ…。取り返しがつかなくなる前に…」
「初音…初音…初音ェ〜!!」
伴場は泣きながら加門の名前を叫び、その場に崩れ落ちた。
「(…伴場さん…)」
「それじゃあ、我々は本庁に戻ろうか」
「…はい」
本庁に戻った名前は、残った業務を終わらせた後帰宅した。
鍵を取り出して鍵穴に入れると「あ、開いてる…」と、鍵が開いている事に気づく。
家の中に入ると「おかえり」と言いながら、降谷がリビングから顔を出した。
「ただいま、ウエイター兼愛人さん」
「名前」
からかわれた降谷はジト目で名前の事を見る。
「ウソウソ、ごめんね」
「勘違いしていないとは思うが一応説明しておくぞ。彼女はただの依頼人で、浮気は一切していないからな」
「分かってるよ。まあ、私と零君は別に付き合ってないから、女性と会ってたって浮気にはならないから安心してね〜」
名前の言葉を聞いた降谷は、靴を脱いでいる名前に無言で近寄ると、名前の顎を持ち上げて上を向かせて名前の唇を乱暴にふさぐ。
「んっ…!」
驚いて逃げようとする名前の腰に腕を回して逃げられないように抱きしめると、舌を絡めるように深い口づけをする。
息が苦しくなってきた名前は、降谷の胸元を軽く叩く。
降谷は名残惜しそうに唇を離すと「それで?何だって?」と言いながらニッコリと笑った。
「ご、ごめんなさい」
名前は、女性関係の話題で降谷の事をからかうのはやめようと心に誓った。