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「そういえば、遺体の足元に落ちていた2枚のタオルの片方が濡れていたようですが、なぜだか分かるかね?」
「さぁ…。怖くてずっとうつむいてましたから…」
「それと、タオルの下にあったあなたのブーツの靴紐の先に、結び目があって引っ掛かっていたんだが」
「あれは子どもの頃からの癖です」

樫塚は「布製のスニーカーとかを丸洗いして干す時に、紐がそうなってると吊るしやすいって兄が…。もうその兄もいませんけど…」と答えた。

「警部殿、今夜はこれ位にしていいんじゃないっスか?兄を亡くされて間もないし、見知らぬ男に目の前で自殺されたんですから」
「ウム…。では明日、改めて事情聴取しますので、住所と連絡先を教えて頂けるかな?」
「は、はい…。何かに書きますね」

名前が紙とボールペンを渡すと「ありがとうございます」と言って樫塚は住所を書き始める。

「できれば身分を証明する物があれば」
「大学を出たばかりの就職浪人なので名刺は…。家に帰れば保険証がありますけど」
「じゃあ明日持って来て下さい」
「分かりました」

降谷は「家に帰るなら僕の車で送りましょうか?近くの駐車場に停めてありますし、もしかしたらあの男の仲間があなたの家の傍で待ち伏せてるかもしれませんしね」と提案する。

「あ、はい…」

そんな降谷の提案を傍で聞いていた名前は「(…ふーん…零君は誰でも助手席に乗せちゃうんですねー。まぁ、お仕事ですからねー)」と少し面白くなさそうな顔をする。
名前の表情に気づいた降谷は苦笑いをした。

「毛利さん、何で彼がここにいるんですか?」
「ああ、私の一番弟子になったんだよ!」
「弟子ですか?」
「また君の周りに探偵が1人増えたわけか」
「ですね」

名前達の会話を聞いていた降谷が「また?」と聞く。

「君の他にもいるんだよ。最近、毛利君と一緒に現場にチョロチョロ顔を出す、若い女探偵がな」
「へぇー…若い女性の探偵ですか」

降谷の車に乗るために、樫塚、小五郎、そして蘭とコナンが探偵事務所を後にする。

「さてと、我々も今日は引き上げるか」
「そうですね」



名前達が警視庁に戻ってから数時間後、小五郎から電話がかかってきた。

「え?さっきの事件、犯人が分かったんですか?」

隣で聞いていた目暮は「何ィ?」と驚く。

「はい…。分かりました、王石街道の青いスイフトですね。…事故ってるからすぐ分かる?」

通話を切った名前に「毛利君は何だって?」と質問する。

「先ほど毛利さんの事務所で拳銃自殺をしたとみられる男なのですが、あの銀行強盗犯の一人だったそうです」
「その男と樫塚さんは、どんな関係が…?」
「銀行強盗犯に射殺された銀行員、庄野賢也さんの恋人だったそうです。彼女は、殺害された庄野さんの復讐をするために、銀行強盗犯の三人を捜していたそうです」

小五郎から聞いた話をそのまま伝えると「それじゃあ、事故で亡くなったというのはウソだったのか…」と納得した様子でつぶやく。

「樫塚圭という名前はトイレで亡くなっていた男の名前で、マンションの寝室のベッドの下から二人目の強盗犯の遺体も発見したそうです」
「すぐに捜査員を向かわせよう」
「はい。彼女の使っていた携帯も、トイレで亡くなっていた男の物で、それを使って最後の一人を捜し出そうとしていたそうです」

名前がそう言うと「それで、事故というのは?」と目暮が質問をする。

「銀行強盗犯の最後の一人がコナン君と彼女を人質にして逃走しようとしていたので…安室さんが車体を使って強引に止めたそうです」
「なんてムチャな事を…」

開いた口がふさがらない様子の目暮に、名前は「(研ちゃんのせいだなー…)」と心の中で笑った。

「と、とにかくすぐに現場に向かおう。事件の真相は、そこでゆっくり毛利君に聞くとしよう」

名前達が現場に到着すると、車のボンネットが潰れて炎上している青いスイフトのそばで、強盗犯グループの最後の一人が倒れていた。

「えっと…どういう状況ですか?」

名前がそうつぶやくと「いやー…派手にやったよな」と小五郎が苦笑する。

「名前さん!」
「真純ちゃん?どうしてここに?」
「実はさー!蘭君からボクも事件の話を聞いてて、コナン君が人質に取られたって聞いたから、居ても立っても居られなくて追いかけて来たんだ!」
「そうだったの」

世良はそう言うと「拳銃も持ってたし、コナン君が危なかったからボクがバイクでぶん殴ってやったよ!」と誇らしげに言う。

「そ、それはやりすぎじゃ…」

目暮は「しかし、この車は…」と炎上している黒のスイフトと、助手席側が潰れた白のRRX-7を見る。

「これは僕が、逃走を阻止するために犯人の車の前に入り込んだんです」
「安室君…君もやりすぎじゃないか?一歩間違えたら大惨事だぞ…」
「すみません、これしか思いつかなくて」

降谷は申し訳なさそうな顔をした。

「それでにしてもだな…」
「まあまあ目暮警部。とりあえず、強盗犯グループ全員の行方が分かって、これで事件は解決ですね」
「ああ。その犯人グループの内、2人は殺されてしまったがな」
「そうですね…」

目暮はそう言うと小五郎の方を見て「毛利君、君達にも事情聴取に来てもらうぞ」と伝える。

「もちろんですとも、警部殿!」
「まったく…こう、なんで君の行くところ事件が起こるんだか…」
「いや〜…まったくですな」

目暮は名前に「苗字君、君はコナン君と蘭君、安室君の事情聴取をお願いするよ。ワシは、毛利君と」と指示を出すと、名前が返事をする前に「ちょっと待てー!お前、さっき蘭の事抱きしめてただろ!」と小五郎が降谷の事を指さす。

「え!?」

小五郎の言葉に名前とコナンが同時に反応を見せる。

「どさくさに紛れて…!」
「誤解を招くような言い方はなさらないでくださいよ、毛利先生!僕が車を止めなかったら、コナン君達はそのままさらわれていましたし、蘭さんが助手席に座ったままだったら大変な事になっていましたよ!」

降谷は助手席側が潰れた愛車を指さすと「そうですよね、蘭さん?」と蘭に聞く。

「そうですよ!お父さんも変な事言うのやめてよね!」
「うっ…!で、でもよぉ…」

赤い顔をした蘭は「でもじゃない!それに、安室さんみたいな素敵な人が私に下心なんかあるわけないでしょ!」と反論する。

「たしかに、蘭さんは素敵な方だと思いますが、僕にはもったいないですよ」
「年下が趣味のロリコンじゃないの?」

降谷の事を睨みながらコナンが話に割って入ると「残念ながら、僕に年下の趣味はないよ」と降谷が答える。

「…本当に?」
「本当だよ」
「ふーん…」

あまり納得していない様子のコナンを見て、降谷は思わず苦笑する。
降谷はしゃがんでコナンに視線を合わせると「君の蘭さんをとったりしないから安心してくれ」と言ってウィンクする。

「な!べ、別にそういうわけじゃ!」
「フッ…」

降谷は立ち上がると「それじゃあ、僕は名前さんの運転する車に乗って警視庁に向かいますね。蘭さんとコナン君は、毛利先生と一緒に移動してください」と言うと、名前の背中を押す。

「え?」
「それが無難だな」

降谷の提案を受け入れた目暮は「ほれ、毛利君」と、乗って来た車とは別のパトカーに向かう。

「あ!だったらボクも名前さんと一緒に…!」

世良が車に乗ろうとしている二人の後ろを追いかけようとするが「君は自分のバイクを放置するつもりかね…」と、目暮があきれたように聞く。

「えー!だって、ボクも名前さんと一緒に行きたいのにー!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、大切なバイクをここに放置はできないでしょ?」

名前が苦笑しながらそう言うと、世良は「分かったよ…」としぶしぶといった表情でうなずく。

「本庁で待ってるね」

一瞬視線を降谷に向けたあと、世良は「はーい…」と返事をした。

「それじゃあ安室さん、行きましょうか」
「はい」

名前が運転席に、降谷は助手席に乗り込んだ。
携帯のメモ帳を開き、文章を打ちながら「毛利先生の弟子になってすぐ事件に巻き込まれるとは思わなかったですね」と話しかける降谷。

「そ、そうですね」

信号が赤になったタイミングで打ち込んだ文章を名前に見せる。
メモ帳には”盗聴されている”と書かれていたので、名前も声に出さずにうなずいて返事を返した。

「安室さんは、樫塚さんの部屋で遺体を発見されたんですよね?」
「そうなんですよ。盗聴器が仕掛けられているようだったので部屋の中を調べていたら、強盗犯グループの一人の遺体がスーツケースの中に入っていたんです」
「そうだったんですね」
「寝室にあったパソコンから銀行強盗の計画書を見つけて、メールに乗っていた女性の住所を確認したので、その女性の家に向かっている途中でコナン君から連絡をもらった流れですね」

降谷は一連の流れを簡単に説明した。

「詳しくは毛利先生とコナン君に聞いてみてください」
「そうします。ただ、安室さん…それに真純ちゃんもだけど…犯人逮捕のためだと言っても、さすがにやりすぎです。今後は、このようなムチャはしないでくださいね」
「そうします。変な誤解もされたくありませんしね」

そう言って笑った降谷を横目に見ながら「(本当に分かってるのかなー)」とあきれた。



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