「ああ。来週だろ?」
名前の部屋で夕飯を食べた後、コーヒーを飲みながら降谷がそう言った。
「そうだね」
「当日は行けなさそうだから、申し訳ないが一人で行ってくれるか?」
「分かった」
名前が返事をすると、降谷は少し申し訳なさそうな顔をする。
「どうしたの?」
「いや…一人で墓参りに行かせて申し訳ないなと思ってな…」
「…大丈夫だよ。でも、零君は忙しそうね」
「ああ…ちょっとな」
「無理しないでね」
「分かってる」
残っていたコーヒーを飲み干すと「それじゃあ、今日はそろそろ帰るから、しっかり戸締りしろよ」と言いながら立ち上がる。
「え?泊まらないの?」
「帰って調べなきゃいけない事があるんだ」
「そっか…」
降谷の言葉を聞いた名前が、寂しそうな顔をすると降谷は苦笑する。
「そんな顔をしないでくれ。帰りにくくなるだろう」
「…仕事の邪魔はできないから我慢します」
「我慢している顔なのか?」
降谷は手を伸ばすして名前の髪の毛を耳にかけると、そのまま頬に口づけをする。
「すぐに会える」
「…本当?」
「ああ。今はポアロでバイトをしているからな」
「ポアロでバイトしてるのは零君だけど、安室透じゃない。私は零君に会いたいのに…」
名前が言った言葉を聞いた降谷は、思わずにやけそうになった口元に手を当てて隠す。
「ん?」
「…いや…僕と安室透を同じ人物と考えていないんだなと思って」
「当たり前でしょ?零君は零君…潜入捜査中のために作られた安室透は別人格だよ。もちろん、バーボンもね」
「…三つの顔を使い分けていると、僕は誰なんだろう…ってふとした瞬間にそう思う時があるんだ…」
名前は、降谷の手を取ると「あなたは降谷零、29歳。東都大学を卒業した後、警視庁警察学校をトップの成績で卒業して警察庁警備局警備企画課に配属されて日本国民を守っている、信念のある熱い男だよ!」と言って笑う。
「…そうだな。色々な事を教えてくれた最高の友と、僕の事が大好きな最愛のパートナーがいる幸せ者だよな」
「零君は零君だからね」
「ああ。ありがとう…」
次の日、登庁した名前に高木が声をかける。
「苗字さん、おはようございます」
「高木君、おはよう。どうかした?」
「…苗字さん、伊達さんが亡くなる前に、伊達さんの婚約者の方とお会いした事はありましたか?」
「班長の?」
名前は伊達の婚約者だったナタリーの姿を思い出す。
「班長、恥ずかしがっちゃって彼女を紹介してくれなかったんだよね。だから、亡くなる前に会った事はなかったよ」
「…そうだったんですね…」
「でも、どうして?」
名前の質問には答えず「…いえ…、少し確認したかっただけなので」と言って高木は資料室に戻って行った。
「どうしたんだろう高木君…」
様子のおかしい高木を気にしながらも、名前は来週に一周忌を迎える伊達の事を考えていた。
ここ数日、資料室にこもって何かを調べている様子だった高木が、目暮に仕事を早く上がりたいと申し出たところを偶然聞いていた名前は「高木君、今日は早上がり?」と高木に聞く。
「はい」
「どこか行くの?」
高木は「…はい。僕が辿り着いた真実を伝えに行かなくてはいけない人がいるので…」と答える。
「真実?」
「はい。帰って来たらちゃんと話すので、佐藤さんにも内緒にしてください」
「それはいいけど…変な事考えてるんじゃないよね?」
「変な事なんか考えてないですよ!ただ、男同士の約束…それをちゃんと果たしに行きたいと思っているだけです」
真剣な顔でそう言う高木に、名前は「分かった」とだけ返す。
「ありがとうございます。それじゃあ、明日には戻るので」
「了解。気をつけてね!」
「行ってきます」
翌日、名前は仕事の合間に伊達の墓参りに来ていた。
「班長…、私一人でごめんね。零君も仕事が忙しいみたいで…。でも、後で来るみたいだし、あなたの後輩の高木君も、美和子ちゃんと一緒に来てくれるから待っててね」
お墓の前にしゃがみ、手を合わせる。
「ナタリーさんと…楽しく過ごしてるかな?」
ポケットから爪楊枝を取り出して墓の前に置き、警察学校の前で撮影した降谷達五人が写った写真を取り出す。
「…零君…」
写真を眺めていると、佐藤から着信が入った。
「美和子ちゃん?」
通話ボタンを押し「もしもし」と言い終える前に佐藤が『名前さん今どこにいますか!?』と、大きな声で叫ぶ。
「み、美和子ちゃん…?どうしたの?」
『高木君が、拉致されて…縄が首に巻かれて工事現場のどこかの板の上に縛られて寝かされてて』
「ちょ、美和子ちゃん?落ち着いて、もう一度説明して!」
電話口の佐藤は焦っていて説明が支離滅裂で、名前には状況が把握できなかった。
「高木君がどうしたの?」
名前が質問をすると、佐藤は一度深呼吸をしてから『…実は、高木君が何者かに拉致されてしまい、首に縄を巻かれた状態でどこかの工事現場にある板の上に縛られていまして…万が一寝返りを打って落ちたら首が吊られてしまう最悪の状況で…』と説明をする。
「どういう事?どうして高木君が…」
『犯人の目的は不明です…。ただ、コナン君達が被疑者と接触しているので、コナン君達にも事情を聞いて、高木君の居場所を見つけ出そうとしているんです』
「そう…。とりあえず、私もすぐに本庁に戻るね!」
『お願いします!』
名前が本庁に戻ると「名前さん!」と佐藤に名前を呼ばれた。
『美和子ちゃん、それにコナン君も」
廊下を歩いていた佐藤とコナンと合流した名前は「状況は?」と聞く。
「まだ何も…。高木君が乗ったはずの羽田発のどの便の搭乗名簿にも高木君の名前がなくて…」
「飛行機に乗る予定だったの?」
「はい。目暮警部がモノレールの時間を気にしていたと言っていたので、恐らく羽田空港に向かったのだと」
「それにね、高木刑事、先週資料室で事件の捜査資料を見てたらしいんだけど、それが全部一年くらい前に首吊り自殺した女の人のだったんだって」
「首吊り自殺…?」
名前はコナンの言葉を聞いて「…首吊り自殺…」ともう一度つぶやく。
「何か思い当たることがあるんですか!?」
「何かあるの!?名前刑事!?」
「ま、まだ分からないけど…。電話で言ってた、タブレットを渡してきた男性はどんな感じだったの?」
コナンは「光彦の話だと、帽子をかぶっていてメガネをかけてたんだって。タブレットを渡してきた時に、高木刑事のフルネームを言いながら”それは生モノだから早めに開けてくれ、遅くとも明日、明後日にはダメになってしまうから”って言ってたみたいなんだ」と伝える。
「高木君のフルネーム…。明日、明後日…」
コナンの説明を聞いた名前は「…ありがとう。ちょっと調べたい事があるから先に行くね!美和子ちゃんは、もう遅いから子ども達を送り届けてあげてね」と言う。
「名前刑事、何か分かったの?」
「分かったんですか!?」
「もしかしたら班長と関係があるのかもしれない!」
名前は走りながら二人にそう言うと、捜査一課に向かった。
その場に取り残されたコナンが「班長って?」と佐藤に聞く。
「さっき伊達さんの話をしたでしょ?伊達さん、名前さんと同期だったのよ。警察学校で同じ教場で…。班長をやっていたのが伊達さんだから、その名残で名前さんは伊達さんの事をいまだに”班長”って呼んでるの」
「そうなんだ」
名前は捜査一課に戻った名前は、机でタブレットの映像を確認している松本や目暮達を見つけると急いで合流した。
「松本管理官!」
「苗字か!遅いぞ!」
「すみません!…状況は?」
松本が「高木が警察手帳を落としたんだが、まだ拾ったという連絡がないそうだ」と答える。
「高木君が調べていた首吊り自殺をした女性達の件なのですが、そちらの方はどこまで調べているんですか?」
名前が状況を聞くと、松本の代わりに目暮が答える。
「一人目は徳木侑子。東都大学医学部の6年生で実家が高知だが半年前に引っ越したそうだ。まだ遺族との連絡が取れていない。二人目はホステスをやっていた彦上京華。出身地を偽っていたため身元は不明だが、職場の仲間の話によると博多弁が出ていたそうだ。三人目は英語教師のナタリー・来間。北海道生まれで、両親は娘さんの遺体を引き取りに来られる途中で交通事故に巻き込まれて二人とも他界されている」
「高木がこの三人の自殺を調べていたという事は、今回の拉致に何かしらの関係があるのは間違いない」
「遺族がその時の事を恨んでいる可能性もありますからね」
白鳥は「それに、四国に北海道に九州なのでどこも一泊する距離ではありますし、自殺したのは三件とも同じ日です」と補足する。
「(やっぱり、ナタリーさん…)」
高木が調べていた中に、ナタリーの名前がある事を知った名前は「松本管理官」と、その事を告げようとする。
「あ、ああぁ!?」
しかし千葉の叫び声がして、全員がタブレットに視線を移す。
「どうした!?」
「と、突然画面が揺れだして…」
「じ、地震!?」
松本が白鳥に「気象庁に連絡し震源地を確認しろ!!これがライブ映像なら場所が絞り込める!!」と指示を出す。
「は、はい!」
「高木君…落ちないで…」
「おいまだか!?」
電話をしながら白鳥は「そ、それが…昨日から今日…今、現在に至るまで、日本全国47都道府県のどこも地震は発生していないと…」と答える。
「な、何だと!?」
「ま、まさか…外国か!?」