17

「…なんか最近名前に避けられてる気がする」
「苗字さんに?」

談話室に集まっていた5人。
松田がポロッとこぼした一言に、全員の視線が松田に集まる。

「陣平ちゃん、何かしたんじゃねーの?」
「何もしてねェよ!」
「気づかない所で何かしている可能性はあるな」
「苗字に避けられるって、余程の事じゃねぇか」
「やっちゃったねー松田」
「何で全員俺がやらかした前提で話してんだよ!」

4人の反応に、松田は納得がいかない顔で反論する。

「具体的にはどう避けられているんだ?」
「どうって…普通に挨拶したらすぐ目を逸らされるし、話しかけても理由つけてどっか行くし、メシも一緒に食わねェし…」

松田の言葉に4人は「それは完全に避けられてるな!」と言った。

「だからそう言ってんだろ!」
「でも身に覚えがないんだろ?」
「ない!」
「陣平ちゃんが忘れてるだけなんじゃねーの?」
「…」

松田が何も言わずに考え込んでいると「とりあえず、今日は教場飲みなんだからその時に聞いてみたら?」と諸伏が提案する。

「絶対あいつ避けるだろ」
「なら僕が聞いてやるよ」
「オレも」
「じゃあ俺も!」
「そんじゃー俺も」
「おまえも一緒だと名前が本音喋らねぇだろ!」
「そんなことないっしょ!」

萩原の首に腕を回すと、松田は「おまえは俺と一緒に待機だ!」と言った。

「まあ、とにかく僕たちが苗字さんに聞いてやるから、2人は端っこで大人しく酒でも飲んでろよ」
「あんまり飲み過ぎちゃダメだよ?」
「わかってるよ!」





本日、土曜日の夜は、体育祭前の決起会も兼ねた教場飲み。
鬼塚教場の学生たちは、近くの居酒屋に集まっていた。

「よっし、全員揃ったか?」
「揃ったぜー!」
「よ!伊達班長!」
「班長、乾杯の音頭とって〜」

鬼塚教場の班長である伊達が、グラスを持って立ち上がる。

「月曜日から、体育祭の練習が始まる!みんな、気合入れてこうぜ!」
「オゥ!!」
「今日は決起会だ!けど、ハメを外しすぎるんじゃねぇぞ!」
「はーい!」
「それじゃあ乾杯!」
「乾杯ー!!」

松田は、隣に座っている降谷に「で?どのタイミングで聞きに行くんだよ?」と聞いた。

「まあ待て。シラフの時に聞いても、誤魔化されてしまう可能性があるだろ。もう少しお酒が入ってからにするんだ」
「名前ちゃん全然こっち見ねぇなー。陣平ちゃんといるせいで、俺も名前ちゃんに避けられてない?」
「俺のせいにすんな!」
「どう考えても陣平ちゃんのせいでしょうに!」

名前と林は、松田達が座っているテーブルのはす向かいにあるテーブルに座っていた。

「名前ー」
「…何?」
「あんたも気付いてるでしょ?この1週間、松田がジーっと睨んできてるわよ」
「…何かと理由をつけて陣平のこと避けてるから。まあよく1週間ももったよ」
「このままでいいワケ?」
「うーん…まあ、でもあの子がこの飲み会で陣平に直接アタックするみたいだし、それで何かが変わるんじゃないかな」
「だといいけど。そろそろ松田、我慢の限界なんじゃない?」
「何も変わらなかったら、せめて理由をちゃんと話すよ」
「そうしてあげて」

そう言うと、名前は持っていたお酒のグラスをグイッと飲み干した。


「おいゼロ!そろそろ行けよ!」
「わかったよ。班長はー…」

降谷は伊達の方を見るが、伊達は他の学生達と楽しく飲んでいた。

「まあいいか」
「じゃあオレも行ってくるから、2人はここで大人しくしててね」
「はいはーい!諸伏ちゃんもよろしく!」

降谷と諸伏が名前達の席に移動すると、同じタイミングで名前に宣戦布告をした女子学生が松田の隣に座った。

「松田君、ここいいかな?」
「あ?」
「モチのローン!陣平ちゃん、いいよね?」
「ありがと〜」
「俺はいいなんて言ってねェだろ!」

女子学生は松田の言葉をに「まあまあ、同じ教場なんだし、仲良くしようよ?」と返した。

「仲良しこよしするためにここに来たんじゃねーよ」
「それはそうだけど。でも、仲の良い同期を作っておくのは大事じゃない?警察官は人脈も必要よ?」
「確かに一理あるな。陣平ちゃんも、そんな怖い顔しないで、楽しもうぜ?」
「楽しんでられっかよ」
「松田君、機嫌悪いのね?」
「ああ。この頃陣平ちゃん、大好きな人から避けられちまってるからなー」
「ハギ!余計な事言ってんじゃねェよ!」

萩原の言葉に女子学生は「それって苗字さんの事?」と聞いた。

「大正解!」
「あんたには関係ねーだろ」
「こらこら、陣平ちゃん」
「それはそうかもしれないけど。私は松田君の事気に入ってるから、関係ないって言ってほしくないかな」

女子学生はそう言うと、松田の手に触れる。

「ね?苗字さんとはただの幼なじみなんでしょ?ずっと苗字さんが傍にいたんじゃ、松田君が恋愛できなくて可哀想よ」

松田は女子学生の事を睨むと、手を振り払う。

「なるほどな。あんた…名前に何か言っただろ?」
「え?」

松田がそう言うと、萩原も「やっぱりねー。名前ちゃんが陣平ちゃんの事こんな風に避けるって、おかしいと思ったんだよ」と続ける。

「な、何で?」
「名前が本当に俺に遠慮してんなら、俺にちゃんと言うだろうし、こんな風にあからさまに避けたりしねェからな」
「名前ちゃんはそういう子だからねー」
「あんたが俺と仲良くしすぎんな、とか言ったんだろ?」
「そ…それは…」

女子学生は冷や汗をかきながら、松田から視線を逸らす。

「俺は、俺達の関係を疎ましく思う奴とは付き合うつもりもねーし、元々そんな奴好きにならねぇ」

松田は、持っていたグラスを飲み干すと、机にドンッ置く。

「裏から手を回すとか、汚ねぇやり方してんじゃねーよ」

松田がそう言うと、その女子学生は悔しそうな顔をして席を立った。

「…かっこいいねェ」
「あ゛?」
「でも良かったじゃん。名前ちゃんが陣平ちゃんのことを避けてた理由がわかってさ」
「…あんな奴の言う事を素直に聞くのが気に入らねぇ」
「それはそうだけど、名前ちゃんも無用なトラブルは避けたかったんじゃねーの?」
「…くだらねェ」

松田は箸を持ってから揚げに手を伸ばす。

「まあ、陣平ちゃんのことが好きな子からしてみたら、名前ちゃんの立ち位置はうらやましいだろうからね」
「ただの幼なじみだろうが」
「…やれやれ。陣平ちゃんはまだまだ子どもだねぇ」
「ケンカなら買うぞ?」



松田が女子学生を撃退する少し前。

「苗字さん、隣座ってもいいかい?」
「降谷君、どうぞ」
「ありがとう」
「オレもいるよ」

降谷と諸伏が名前達の隣に座ると、林があきれた顔をしながら「あんたら本当に仲良しね」と言った。

「まあ、僕たちも幼なじみだからね」
「そんなもん?」
「松田と苗字さんと同じだよ」
「なるほど」
「凛子ちゃん、納得しちゃうんだ」
「あんたらほど仲の良い幼なじみは、なかなかいないわよ」
「そう?」

降谷は「そんな仲の良い幼なじみが、最近はあんまり一緒にいないみたいだけど?」と名前に聞く。

「そ、そんな事ないよ?」
「苗字さんって隠し事できないよねー」
「そうなの。そこが名前の可愛い所なんだけどね」
「凛子ちゃん!」

諸伏の言葉に、林が同意する。

「やっぱり名前には無理だったんだって。松田のこと避けるの」
「避けてるわけじゃないけど…」
「松田離れ、ね」
「何で松田から離れようと思ったんだ?」

降谷からの質問に、名前は「えー…っと…」と言いにくそうな顔をした。

「松田離れしないと、名前のラブが進展しないからよ」
「ラブ?」
「凛子ちゃん!!違くって!陣平には陣平の人生があるから、これ以上頼り過ぎるのもダメだなって思ったの!」
「そうなの?」
「うん!」

名前の答えを聞いた諸伏は「なーんだ。てっきり松田が何かしちゃったのか、苗字さんが誰かさんに恋をしたからなのかと思ったのに」と残念そうな顔で言った。

「諸伏君!?」
「こらヒロ。変な事言って苗字さんをからかうなよ」
「そんな事言って、ゼロが一番気になってたじゃん。苗字さんが松田を避ける理由」
「そ、それは…2人の友達としてだな」
「はいはい」

降谷が隣に座る名前をチラッと見ると、名前も降谷を見ていたため目が合う。
名前は慌てて目を逸らすと、持っていた飲み物を飲みながら赤くなった顔を隠そうとする。

「ま、本当は松田の事が好きな女から、松田に近づくなって言われただけなんだけどね」
「なんだ、そんな事か」
「それってあの子?」

諸伏が、松田の隣に座っている女の子の方を見ながらそう言った。

「うん。でも、あの子に言われたからっていうのもあるけど、私が陣平から離れなきゃって思っているのは本心だよ」
「その必要はないんじゃないか?」
「え?」

名前がそう言うと、降谷は名前の言葉を否定した。

「苗字さんと松田が、お互い強い絆で結ばれているのは見ていてわかるし、それを無理に切る必要はないと思うよ。自身の理解者は多い方がいいと思うしね」
「降谷君…」
「それに、あの女性が本当に松田の事が好きなら、苗字さんが傍にいても怒らないと思うし」
「でも、好きな人に異性の幼なじみがいるのって嫌じゃない?」

名前の質問に、降谷は「僕は嫌じゃないよ」と即答する。

「だって、君の事を誰よりも理解しているって事だろう?最高の相談相手じゃないか」
「え?」
「僕が苗字さんの事で困った時は、すぐに相談できる。君を傷付けるリスクが減るって事だろ。いい事しかない」

名前は降谷の言葉を聞いて顔を赤くする。

「…ゼロ…」
「ん?」

諸伏は降谷の耳元に口を寄せると「それ、もうほぼ告白だからね…」と、小さな声で言った。
諸伏にそう言われた降谷は、顔を赤くしながら「…ンンッ」とわざとらしく咳ばらいをする。

「…と、いうのが一般的な考えかな?」
「そ、そうだよね!一般的な、考えだね!」

降谷と名前はそう言うと、2人は持っていた飲み物を一気に飲み干した。
そんな2人を見ながら、諸伏と林は「(じれったいなー)」と思った。



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