02

次の日の朝、点呼のためにグラウンドに集合する。

「(あ、陣平ちゃ…え!?顔が傷だらけなんだけど!?)」

集合している途中で名前は松田の姿を見つけるが、その顔が傷だらけになっていることに驚いた。
声をかけようとするが、1人だけ勝手な行動をとることはできない。
そう思い直した名前は、松田のことを心配そうに見つめながら列に並んだ。

「集合!三列縦隊!!日朝点呼、番号!」

教官の言葉を合図に、順番に番号を叫ぶ。

「鬼塚教場、気をつけィ!」

名前たちの教場である鬼塚教場の教官、鬼塚八蔵は一番前で整列している松田と降谷の顔が傷だらけになっていることに気付く。

「ん?どうした?松田と降谷、その顔」
「聞きたいっスか?」
「ああ、ぜひお聞かせ願いたいねぇ」
「実は…」

そこに鬼塚教場の班長である伊達航が話に入った。

「昨夜、自分の部屋にゴキブリが大量に出まして、その2人にも手伝ってもらったんですが、退治するのに夢中になり過ぎて、机に頭をぶつけるわ立て掛けてたベッドが倒れてくるわで、散々な目にあいまして…」

と、誤魔化した。

「とはいえ大切な学校の備品に傷を付けてしまった罰として、我々鬼塚教場は一周多く回ってきます!行くぞ!」
「オウ!」
「(え!?)」

伊達はそう言うと「二列縦隊マラソン始め!」と言って、グラウンドを走り始めた。

「1・2!」
「1・2!」
「お、おい、まだ話は…!」
「(ひえ〜!!連帯責任!)」

名前も同じように走り始めた。

「まさかの連帯責任だね」
「ほ、本当…!」

名前の隣を走っているのは、同じ教場の林凛子。
入校式で隣同士になり、そこから仲良くなった名前の最初の友達だ。

「でもあの2人、なんであんなケガしてるのかしら。やっぱりケンカ?」
「うーん…でも、理由もなくケンカするような人じゃないんだけどなー…」
「名前ちゃん知り合い?」
「黒髪の方は私の幼なじみなんだ」
「へー!幼なじみと一緒に警察学校って、よっぽど仲が良いのね」
「そうかな?」
「うん」

名前は、前を走っている松田を見た。

「でもあそこの5人、本当目立つわね」

名前につられるように林も先頭を走る松田たちに目を向けながらそう言った。
教官たちからは鬼塚教場の厄介者、と呼ばれている降谷零、諸伏景光、伊達航、萩原研二、そして松田陣平の5人は、顔の良さもあり女子学生たちからの人気が高い。

「そうだよね。だから、私が幼なじみだってことあんまり言わないでほしいんだ」
「逆に言っておいた方が、周りから変に勘違いされなくていいんじゃないの?」
「それも考えたんだけど、多分ここではあんまり話す機会ないと思うんだよね」
「そう?」
「うん」
「わかった。じゃあ、今は名前ちゃんの言う通りにしておく」
「ありがとう!」

そう言って笑った名前は、前を向いて走るペースを上げた。





朝食後、それぞれ教場ごとに分かれて講義を受ける。

「…で、あるからして、警察は現場周辺の目撃情報を集めることになる。ここで注意したい事、誰かわかる奴いるか?」
「はい!」

鬼塚の質問に、降谷が手を挙げて答える。

「目撃情報の注意点として、犯罪現場に居合わせたストレスや思い込みや、警察官の誘導的な質問で目撃者の証言がゆがめられる可能性がある。その為、証言を鵜呑みにするのではなく、しっかりとした裏取りが必要である」
「その通り!流石だな、降谷」

降谷の完璧な回答に、鬼塚は笑顔になる。

「(降谷君すごいなー)」

名前がそんな風に思っていると「まあ、ここを卒業した連中が、それをちゃんと実践できてるかどうかはマユツバもんだけどな」と松田が言った。

「(じ、陣平!?)」
「おい松田!?きさま警察官を何だと思ってる!?」
「そりゃーもちろん」

怒鳴っている鬼塚の方を見ながら、松田は「誇りと使命感を持って国家と国民に奉仕し、人権を尊重して公正かつ親切に職務を執行し、規律を厳正に保持して相互の連帯を強め、人格を磨き能力を高めて自己の充実に努め、清廉にして堅実な生活態度を保持する。それが警察官…でしたよね?」と言った。

「わ、わかっていればよろしい!では今日の講義はここまで!各自しっかりと復習しておくように」

講義が終わると昼食の時間になる。
名前は食堂に移動しようと歩いている松田に駆け寄ると、周りを気にしながら小声で話しかける。

「陣平…」
「あ?」
「どうしたのその傷?」
「あー…これか?」
「それしかないよ」

松田は頬の絆創膏を触る。

「降谷君もケガしてるし…もしかして2人で殴り合いのケンカでもしたの?」
「正解」
「入校早々何してるの!」
「売られたケンカは買う主義だからな」
「もう…!」
「いいから、さっさと飯食いに行くぞ!時間なくなる」

そう言うと、松田は名前の右腕を掴む。

「あ、私は凛子ちゃんと一緒に食べるから」
「はあ?だったらそいつも連れてくればいいだろ」
「え、あ、ちょっと!」

名前はそのまま松田に引きずられるようにして食堂に向かう。

「お!名前ちゃんも来たんだ」
「萩原君」
「席は?」
「あっち」

松田は、萩原が指をさした方を見ると「持ってくからおまえは先に座ってろ」と名前に言って、昼食を買う列に並びに行った。

「なんで!?」
「陣平ちゃん流石〜名前ちゃんの食べたい物わかってる感じだね」
「自分で選びたかったのに!」
「まあまあ名前ちゃん。ここは陣平ちゃんの優しさに甘えて、先に座って待ってようぜ」

萩原がウィンクをしながら名前に言う。

「あんまり幼なじみ感出してほしくないんだけどなー…」
「あれはもう陣平ちゃんのクセみたいなもんでしょ。名前ちゃんがあきらめた方がいいぜ」
「くうぅ!!」

萩原の言葉に、名前は悔しそうな顔をする。

「名前ちゃん」
「凛子ちゃん!」
「講義終わって一緒に食堂行こうと思ってたのに、気付いたらいなくなっててびっくりしたわ」
「ご、ごめん!私も一緒に行こうと思ってたんだけど…」
「松田君に連れてかれた?」
「え?」
「なんか噂になってたよ」
「ウソ…」
「本当」

林の言葉に名前は顔を青くする。

「…やっぱり幼なじみだって周りに言っておいた方が、変なトラブル起きないと思うわよ?」
「うん…本当だね」

名前がそう言うと、林は「お腹すいたー。名前ちゃんは何頼むの?」と話題を変えた。

「今日の気分はうどんかな」
「うどんかー。じゃあ買いに行く?」
「名前ちゃんの分は陣平ちゃんが買ってくるぜー」
「萩原君」
「やあやあ、名前ちゃんの友達?可愛いねー!なんて名前?」
「萩原君って思ってた通りチャラいわね」
「でも良い人なんだよ」
「ちょっとちょっと、悪口止めて!」

3人で話をしていると、2つのお盆を持った松田が戻って来た。

「あ?なんで突っ立ってんだよ。さっさと座れよ」
「陣平ちゃんおかえり〜!どれどれ、何を持ってきたのかなって、やっぱ流石だわ陣平ちゃん」
「本当にすごいわね」

松田の右手にはカレー、そして左手にはうどんが乗っていた。

「ほら、どうせ疲れててあんま食欲ねーからうどんだろ?」
「…はい、その通りです」
「なんで敬語なんだよ」

名前の食べたい物をドンピシャで持ってくる松田に、萩原と林は驚いた。

「ほら、座れ」
「うん」
「じゃあ私は買ってくるわ」
「うん、凛子ちゃんいってらっしゃい!」

名前、松田、萩原の順番で横並びに座った。

「ハギ、おまえ俺の前座れよ」
「確かにそうね」

萩原が席を移動しようとしたタイミングで、3人の女子学生が萩原に話しかけた。

「ねぇ萩原君、昼食一緒に食べてもいい?」
「モチのローン♪」

女の子たちの誘いは断らない主義の萩原は、笑顔で答えた。
そんな萩原を無視して松田はカレーを食べ進める。

「萩原君モテモテだね」
「いいからさっさと食えよ。時間なくなんぞ」
「うん」

名前もうどんを食べ始める。

「あ、陣平」
「あ?」
「ついてるよー」

名前はそう言うと、テッシュを取り出して松田の顔についたカレーを拭う。

「あれまー陣平ちゃん、羨ましいねぇ」

萩原にそう言われて、名前はハッと手を止める。

「む、無意識…」
「名前ちゃんもクセだねぇ」
「ガキ扱いすんな!おまえは俺の母ちゃんか!」
「ご、ごめん!」

やってしまったと思った名前だったが、後の祭り。
今後は気をつけようと心に決めた。

「さっきの授業、どういう心境の変化なんだ?」

第三者の声が聞こえてきたので名前は顔を上げると、松田の前に降谷が座っていた。

「(う、噂の降谷君だ!)」
「おい。なんでそこに座ってんだよ!」
「空いているんだろう?」
「チッ!」
「僕の記憶が正しければ、君は警察官が嫌いだったはず。もしかしてツンデレとか?」
「ちげーよ!!」
「ふふ」

降谷の言葉に、思わず笑いだした名前を松田が睨む。

「ンンッ」

名前は誤魔化すように咳ばらいをした。

「今でも腹ん中じゃ思ってるぜ。警察なんて…クソ食らえってな!!」
「陣平…」
「理由を聞いても?」
「別に関係ねーだろ。楽しい話じゃねーしな」

松田は残ったカレーを流し込むと、「名前」と名前を呼ぶ。

「まだ食べてる」
「おせえ!」
「先に戻ってもいいよ?」
「…」

松田はお盆を横にずらすとテーブルに突っ伏して「食べ終わったら起こせよ」と言って昼寝の体勢に入った。

「まったく…。ごめんね降谷君」
「いいよ別に」

そう言うと、降谷はジッと名前のことを見つめる。

「ん?どうしたの?」
「君はやっぱりあの時の…」
「あの時?」
「…髪、切ったんだな」
「え?」

名前は降谷にどういう意味なのか聞こうとするが、その前に林が来たのでそこで話は終わった。



>> dream top <<