外に出た所で、男子学生達に声をかけられた。
「苗字さん、林さん。二次会行く?カラオケの予定なんだけど」
「私はパス」
「私も、結構飲んで疲れちゃったから帰ろうかな」
「えー!2人とも行かないの?」
「さっきも全然話せなかったから、一緒に話したいなって思ってたんだよね」
そう言いながら、男子学生は名前の左腕を掴もうとする。
しかし、名前の腕に手が届く前に、別の手がその男子学生の腕を掴んだ。
「ストップ」
「降谷」
「何だよ邪魔すんなよなー!」
降谷は男子学生と名前の間に入ると「酔っ払いは大人しく帰った方がいい。ハメを外すなって言っただろ」と言った。
「おまえらばっかり苗字さんと話てズルいんだよなー!」
「そうそう!俺達だってお喋りしたいのにさー」
「ねー?苗字さん?」
「あはは、ありがとうー」
名前は、苦笑しながら当たり障りのない返事をした。
「もう帰ると言っている相手を無理やり連れて行くのは関心しないな。それに、そろそろあいつの限界だ」
「あいつ?」
降谷が後ろを指さすと、男子学生達はつられてそちらを見る。
そこには、苛立ちを隠そうともしない松田の姿と、その松田をなだめる萩原、諸伏、伊達の姿があった。
「ヒッ!?」
「あ、じゃあ、俺たちは二次会行くわ!」
「ま、また月曜日!」
そう言って、男子学生達は名前達の元から走り去っていった。
「降谷君、ありがとう」
「いいよ。それよりも、あいつの事を何とかしてくれ」
「うん」
名前は返事をすると、松田の方に駆け寄った。
そんな名前の事を見守る降谷を見ながら、林は「あんたは嫉妬とかしないわけ?」と聞いた。
「嫉妬?僕が?」
「あの2人、ただの幼なじみにしては仲良すぎると思わないの?」
「さっきも言ったけど、僕は別に気にしないかな。仲が良いのは知っているし、2人に恋愛感情が無い事もわかっているからね」
「にしてもさ」
「過去に何があったかは知らないけれど、松田が彼女の事を守ってきてくれたから、僕は彼女と出会うことができたんだし、感謝の気持ちしかないよ」
降谷の言葉に「あんた人生何周目よ?」と林は笑う。
「それに、僕は僕のやり方で彼女を笑顔にしていくだけだからね」
「ハイハイ、ご馳走様」
降谷は微笑むと、名前達に合流しに行った。
名前は、松田達の傍に駆け寄ると、「あ…あの、陣平…?」と、松田に声をかける。
「…何だよ」
「コラ松田!せっかく苗字さんが来てくれたんだから」
「ううん、諸伏君良いの」
名前は松田の前に立つと「ごめんね」と言った。
「何に対して謝ってんだよ」
「陣平に、何も言わずに避けたから」
「おまえの中で、俺はその程度の人間だったって事だろ」
「そ、そんなわけないでしょ!」
松田のセリフに、名前は慌てて否定する。
「名前ちゃんにも何か考えがあったんだろ?」
「う、うん…」
「どーせくだらねぇこと考えてたんだろ!」
「ひ、否定できない…」
松田は大きなため息をつくと「俺と!おまえの関係は、よその女のせいで簡単に切れるようなものなのかよ?」と聞いた。
「切れない」
「逆もそうだろ」
「うん」
「俺達は俺達だろ!」
「うん!」
名前は大きな声で返事をすると、松田にギュッと抱きつく。
「ごめんね!」
「今度ふざけた事したらマジでキレる」
「気をつけます!」
そう言って松田から離れると、名前はフフッと笑った。
「無事に誤解は解けたのか?」
「降谷君!うん。ちゃんと謝れたよ」
「これで仲直りだね!」
「仲直りも何も、こいつらは別にケンカしてたわけじゃねーだろ」
「それもそうか」
「いやー!でも良かったよ!陣平ちゃんと名前ちゃんが元通りになって。とばっちりで俺まで名前ちゃんから避けられてから心折れそうだったよ」
「わー!研ちゃんごめんね」
名前がそう呼ぶと、萩原が固まる。
「研ちゃん?」
「懐かしいな、その呼び方」
「萩原の事、研ちゃんって呼んでたんだ?」
諸伏にそう聞かれて、名前は「うん!お酒の力を借りたら昔みたいに呼べた!」と言って笑う。
「ちょ、ちょ、名前ちゃん!お酒の力じゃなくて、普段からそう呼んでって!」
「えー。昔と変わらず研ちゃんモテるから、普段から呼ぶのはやっぱり無理かなー」
「そんな事言わずに!」
「考えておくね!」
「もー!それって絶対呼ばないやつ!」
2人が話しているのを聞いていた伊達は「やっぱり、なんだかんだ萩原と苗字も昔から仲が良いんだな」と言う。
「まあな。あいつらがちゃんと話すようになったのは小学生の頃だったけどな」
「松田も昔はちゃん付けで呼ばれてたの?」
「あ?」
「入校して最初の頃は、苗字さんがたまに松田のことちゃん付けで呼んでたからさ」
諸伏にそう聞かれて「まあな。22にもなってちゃん付けはやめろって言ったんだよ」と答えた。
「萩原は呼んでるのに?」
「あいつは言ってもやめねぇだろうしな」
「もしオレたちも幼なじみだったら、苗字さんにちゃん付けで呼ばれてたのかな?」
降谷は「ヒロ?おまえさては結構酔ってるだろ?」と諸伏に聞く。
「そんな事ないけど」
「酔っ払いはみんなそう言うんだよ」
「諸伏が変な事言い出したな」
「ゼロだって、本当は呼んでほしいと思ってるんでしょ?」
「べ、別に、そんな事言ってないだろ!」
「苗字さーん!」
「あ、おいヒロ!」
諸伏は降谷の制止を無視して、名前のことを呼ぶ。
「どうしたの?」
「ねえねえ、オレたちの事も幼なじみになったていで呼んでみてよ!」
「諸伏ちゃんは急にどうしたん?」
諸伏の様子に、萩原は苦笑した。
「幼なじみだったら?多分、諸伏君のことはヒロちゃんって呼んでたかなー?」
「やっぱり?そんな感じする」
「じゃあ私は?」
「凛子ちゃんは、そのまま凛子ちゃんかなー?でも、凛ちゃんって呼んでたかも!」
「今もそう呼んでくれていいんだよ?」
「じゃあこれからは凛ちゃんって呼ぼうかな!」
名前がそう言って笑うと、林は名前の頭をなでる。
「そんじゃあ、俺は航ちゃんってとこか?」
「かなー?でも、伊達君は彼女いるから、申し訳なくて呼べない!」
「班長が、航ちゃんって…!」
「ブフッ!」
「そんな柄じゃねーな」
声を上げて笑っている松田と萩原を無視して、諸伏は「それじゃあゼロは?」と名前に聞いた。
「ゼロの事は何て呼ぶ?」
「降谷君はー…」
名前は考えながら降谷の事を見る。
「…零君…」
「え…」
「降谷君の事は、零君って呼びたいな」
そう言って名前は微笑んだ。
「…あ…」
「…なーんちゃって!みんなが幼なじみだったら、きっともっと楽しかったんだろうな!」
「私も名前と幼なじみになりたかったー!」
「凛ちゃーん!」
名前と林は、2人で手を繋ぎながら寮に向かって歩き出した。
2人の後を、松田と萩原、そして伊達が追う。
「ほら、ゼロも行こう!」
「あ、ああ」
諸伏に声をかけられた降谷は、慌てて5人の後を追う。
「それにしても、ゼロだけ君付けだったね?」
「…そうだな」
「松田と同じ、ゼロ呼びになるのかなーって思ったけど、違ったね」
「まあ、ゼロはおまえがつけたあだ名だからな」
そんな降谷の反応に、諸伏はニヤリとしながら「やっぱり好きな子にはちゃんと名前で呼んでほしいよね!」と言った。
「…ヒロ。おまえ面白がってるだろ?」
「面白がってはいるけど、本当に嬉しいんだよ!ゼロが前に進めたみたいで」
「別に、僕は…」
「ゼロはそうやって否定するけどさ、ずっとあの女医さんの事気にしていただろ?今もあの人を捜したいって気持ちがある事は知ってるけど、それとこれとは別」
諸伏は「ゼロがちゃんと前を向けたみたいで嬉しいよ」と言いながら、降谷の首に腕を回す。
「どうする?オレたちだけでもう1軒行っちゃう?」
「…フッ」
酒に酔った顔で聞いてきた諸伏を見て、降谷は笑うと「却下だ」と言ってそのまま歩き続けた。