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「おまえらも気づいていると思うが、他の教官からも苦情が来ている」

体育祭の予行練習が始まった。
練習が始まってから数日が経った今日、鬼塚は問題児5人を教官室に呼び出した。

「最近、風呂場と脱衣所が汚れ過ぎていると」
「いや、それは我々のせいだけでは…」
「で、あるからして!!体育祭が終わるまでの一週間、きさまら5人は毎日風呂掃除をしてもらう事にした!」
「はあ!?」

そんな鬼塚の言葉に、5人は驚きの声を上げた。

「お、鬼塚教官…それはいくら何でも…」
「なーに、きさまらがこれまでにやらかした悪行三昧を償うチャンスを与えてやろうと言ってるんだ」
「悪行三昧って?」
「忘れたとは言わせんぞ!」

萩原の質問に鬼塚は顔をしかめる。

「夜中に部屋を抜け出し殴り合いのケンカをした上に、それを隠蔽する為の偽証に口裏合わせ!コンビニに同期の学生達を大勢集めて、強盗グループと大立ち回り!」

鬼塚はそのまま続ける。

「在校中は禁止されてる車両の運転を勝手にしたあげく、常軌を逸したカーチェイスをやらかした末に、私が知人から預かってる大切な車を傷物にし、大麻の密売者を捕まえる為に授業をサボり、さらには拳銃の無断使用も…」
「お、おまえ、あれで助かったんだろーがよ!!」

最後の一言に、松田は怒鳴った。

「とにかく!!きさまら5人には一週間、風呂場と脱衣所の掃除を命じる!一日でも怠ったら本校から出て行ってもらうから、覚悟しろ!!」

松田は納得のできない顔をしたが、警察学校から出て行かされるのは困る。
しぶしぶ鬼塚の言葉に従う。

「以上だ!さっそく今から取りかかれよ!」

5人は回れ右をして教官室から出て行こうとするが、諸伏が1枚のFAX用紙に気づいて足を止める。

「!…」
「ああ、それは昨夜、この管轄で捜索願が出された女児の写真だ!おつかいに出たっきり帰って来ないらしいが」
「…」

諸伏が写真をジッと見ているので、鬼塚は「何だ?諸伏、その子の事知ってるのか?」と聞いた。

「あ、いえ…前に街中で見かけた事がある程度ですが。コレ、もらってっていいですか?何か思い出すかも知れないので」
「ああ、構わんぞ!」

そう言うと、諸伏はFAX用紙をポケットに仕舞う。

「じゃあ、後でチェックしに行くから、入浴時間の17時までには掃除を完了しておけよ!!」

鬼塚に再度念を押された5人は、掃除をするために風呂場に向かう。



「くそ、なんで俺たちがそんなことしなきゃいけねーんだよ!」
「まあまあ、オレたちのやってきたことを振り返ると、仕方ないかもね」
「完全に巻き込まれてるけどな、俺たちは…」

そう言って伊達と諸伏は苦笑し合う。

「あれ?どこに行くの?」

5人がゾロゾロと歩いているのを見つけた名前と林。
名前は機嫌の悪そうに先頭を歩いている松田に声をかける。

「風呂場!」
「お風呂?入浴時間って17時からだよね?」
「…チッ!」
「えー、機嫌悪い」

舌打ちをした松田の代わりに萩原が答える。

「それがさー、今までの俺たちの悪行三昧をチャラにしてやるから風呂場と脱衣所の掃除しろって言われっちゃったんだよ」
「え?そうなの?」
「あんたたちも大変ね」
「俺と諸伏は完全にとばっちりだろ」
「確かにね」
「何でだよ!鬼公が俺たち5人って言ったんだろ!おまえらも共犯だ!」

伊達の文句に松田が噛みつく。

「ハイハイ陣平ちゃん、落ち着けって」
「めんどくせー!」
「苗字さんたちはどこかに行くのか?」
「うん。私は、外守さんのクリーニング屋さんに行こうと思ってるんだ」

降谷の質問に名前が答えると「私はコンビニ」と林が続けて答える。

「名前!」
「ん?」

松田は名前の腕を掴んで5人から少し距離を取ると、他の5人には聞かれないように小声で何かを耳打ちをする。
そんな2人を萩原は微笑ましそうに見ていた。





「ったくよォ…何で風呂場がこんなに汚れてんだ?」
「だから言ったろ?」

松田はブラシを持って、風呂場の床を磨いていた。

「週末にある体育祭の予行練習で、どの教場の奴らも泥だらけ。おまけに昨日は雨ん中でやったからなぁ」
「そういえば、体育祭の教場旗のヒロのデザイン、ホントカッコよかったよ!」
「サンキュ!まぁ警察でサクラのデザインはベタかと思ったんだけどね」
「確か今朝出来上がってとどいたんだよな?」
「オゥよ!この通り、肌身離さず持ってるぜ?」

そう言うと、松田は教場旗を広げた。

「ババーン!!」
「色もいいねぇ♪」
「でしょ?色は苗字さんと一緒に考えたんだ」
「へぇ!苗字のセンスもいいな!」

松田が広げた教場旗を見ながら、4人が口々に褒める。

「ん?猫の足跡…?しかも少し臭うし」
 
伊達は、教場旗に付いた猫の足跡を見て怪訝そうな顔をした。

「そうなんだよ!他の教場の奴らに自慢しようと窓の外に掲げてたら、風で飛ばされた上に、旗の上を野良猫がクソ踏んだ足で歩きやがってよ!その猫をハギと捕まえようとしたらひっかかれてこのザマよ」

そう言うと、松田は包帯が巻かれた右手の人差し指と中指を見せる。

「だからあの猫臭ってたワケね」
「んで、外守のオッサンのクリーニング店に持って行こうとした矢先に、鬼公に呼び出し食らって風呂場掃除だ」
「タイミングが悪かったね」
「名前がオッサンの所に行くって言うから、ついでに持って行ってもらおうと思ったのによー」
「さっき2人でコソコソ話してたのは、それか?」
「そうだよ。あいつ、”ちょっと臭うからヤダ!”って言いやがって!持って行くだけなんだからいいだろうが!」
「名前ちゃんも臭う教場旗は持ち歩きたくないっしょ。さっさと終わらせて、クリーニング店行こうぜ」

萩原が鏡を拭きながらそう言った。

「にしてもよー…ったく、いつまでかかんだよコレ?」

松田は風呂場を見渡す。

「風呂場はまだこんなに汚れてんのに、脱衣所はほぼ手つかず…このままチンタラやってたらマジでやべーんじゃね?」

松田が腕時計を見ながらそう言うと「もっとテンション上がる話をしながらやらねーか?」と提案した。

「テンションねぇ…そういえば諸伏ちゃん、さっき見てた捜索願の女の子、何かあんじゃねーの?」
「え?」

萩原が諸伏にそう聞くと、伊達も「確かに…街で見かけただけであの反応はおかしいだろ?」と同意した。

「あ、ああ。あの子…子どもの頃よく遊んでた女の子にそっくりで。まあその子は病気で亡くなったんだけど…気になる事が…」
「幼なじみって事は僕もその女の子に会った事があるのか?」
「いや、長野にいた頃だから」
「面白そうじゃねぇか!」
「話してみろよ、その話!」
「何でも聞くよォ!」

松田達に話すように言われた諸伏は「じ…実は…」と話そうとするが、「あ、でも…全然面白い話じゃないから…」と言って話すのをやめようとする。

「あーもう!止めだ止め!!」
「え?」

そんな諸伏の反応に、松田は大きな声を出す。

「諸伏が自分から言い出すまで待ってくれってゼロが言うから遠慮してたけど…やってらんねーぜ!!」

松田はそう言うと、諸伏に近づき「おまえ、自分の親父と母ちゃんを殺した犯人を捜してんだろ!?」と聞いた。

「ええっ!?」
「んで、さっきの捜索願の女の子が、その事件と関係がありそうでモヤってる…違うか!?」

諸伏は「そ、そう…そうなんだけど…ダメだ!!」と、松田に負けないくらい大きな声で反論した。

「これはオレが解決しなきゃならない事件…もう誰も巻き込みたくないんだ。また誰かが死んだりしたら…」
「死なねぇよ!!!」

諸伏の言葉に、4人は一斉にそう言った。

「これまで散々」
「ヤベェ橋渡ってきたけどよォ…」
「5人いれば」
「何とかなったっしょ?」

松田は「だから話しちまいなよ、ヒロの旦那…悪いようにはしねぇからよォ」と言った。

「…ぷっ!”悪いようにはしない”って、悪者のセリフだよね?」

そんな松田の言葉に、諸伏は思わず吹き出す。

「確かに」
「よく悪代官とかが言うなぁ」
「陣平ちゃん根がワルだから」
「うるせぇよ!」
「…」

そんな4人を見て、諸伏は「わかった!話すよ…今から15年前、オレの中の時計の針を凍りつかせた…あの鉄の匂いが立ち籠める恐怖の夜を…」と言って、15年前のことを話し始めた。



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