風呂場で寝ている4人を叩き起こす降谷。
「ふぁあ。あっれー降谷ちゃん…」
「萩原、何寝ているんだ。さっさと出ないとそろそろ風呂に入りに来る連中とバッティングする」
「マジか!ほら、陣平ちゃーん、諸伏ちゃーん、班長ー!起きろー!」
降谷に起こされた萩原は、松田、諸伏、伊達を呼んで起こそうとする。
「あー…寝ちまったか」
「おはよう班長!」
「班長も早く2人を起こしてくれ。僕達は夕食の時間だ」
「オゥ」
松田と諸伏を起こし、5人は食堂に向かう。
食券を買い、ご飯を受け取って席に座ると、林が5人の座るテーブルに近づいてきた。
「ちょっと松田!名前は!?」
「声がデケェよ」
「な!そんなこと言ってる場合!?」
「まあまあ林ちゃん、落ち着いて」
「何であんたらはそんな落ち着てんのよ!!」
林はテーブルを叩くと、今度は降谷を睨みながら「名前は!?」と聞いた。
「大丈夫だよ。念のため病院に行ってるけど、問題なければ明日には戻って来るよ」
「何か問題があったら?」
「足取りもしっかりしていたし、大丈夫だ」
「…なんでそんな風に言えるのよ…名前に何かあったら…」
林の言葉に、松田はバンッと大きな音を立てながら食器を置いた。
「…俺達が何ともないように見えるのかよ?」
「…何?」
「一歩間違えれば名前が爆発に巻き込まれてたって…そう思ったら血の気が引いた」
「…」
「目の前でそんな状況を見てた俺達が、何も感じてないとでも思ってるのかよ」
そんな松田の言葉に、林は下唇を噛む。
「まあまあ、陣平ちゃん。林ちゃんも名前ちゃんのことが心配でそう言ってるだけだし、あんまり責めないであげてよ」
「ハギ!」
「俺だって焦った。名前ちゃんが俺の目の前からいなくなる可能性があるのかもって思っちまった。…けど名前ちゃんは生きてる」
「…」
「だから大丈夫だ」
「…わかってるよ」
2人の会話を聞いていた林は、小さな声で「ごめん…」と言うと、食堂から出て行った。
「…松田と萩原、さっきまではわりと平気そうだったのに…」
「仕方ないだろう…2人の気持ちは良くわかる…」
諸伏と降谷は、松田と萩原に聞こえないように小さな声でそう言った。
林が出て行くのと入れ替わりで、今度は鬼塚が食堂に現れて松田を呼んだ。
「松田」
「…」
「おい!聞こえてないのか!」
「鬼塚教官!ちょっと今は…すみません」
返事をしない松田の代わりに萩原が答える。
「全く…。さっき病院から連絡があった」
鬼塚がそう言うと、松田は顔を上げた。
「それで!?」
「精密検査の結果、何も問題はないとの事だ」
「…マジか…」
「良かった〜!鬼塚教官ありがとうございます!」
2人とも安堵の表情を浮かべる。
「ゼロ!良かったね!」
「ああ」
鬼塚は「念のため、今日1日入院をと勧めたんだが苗字は戻ると言って聞かないそうだ」と続けた。
「…だろうな」
「名前ちゃん病院好きじゃねーからな」
「諸々やってからタクシーで戻ってくる。松田、今回ばかりは特別に!携帯を持って入り口まで苗字を迎えに行くことを許す」
「マジか!恩に着るぜ!」
「敬語を使えバカ者!」
鬼塚はそう言うと「ここに着く前に松田に連絡を入れろと伝えているからな。迎えに行ったらすぐに寮の前まで送って、すぐに携帯を返却するように!」と念を押した。
「当たり前だろ!」
「本当にわかってるのか…」
鬼塚はそう言うと立ち去ろうとするが、それを萩原が止める。
「鬼塚教官!ちょい待って!俺も松田と一緒に迎えに行かせてください!」
「何ィ?おまえは必要ないだろ?」
「苗字ちゃんの元気な姿を見るまで、俺も寝れません!!絶対に今日!顔を見たいんです!」
萩原が必死になってそう言うと、鬼塚は「そういえば、おまえも苗字と同郷だったな。…仕方ない、特別に!許そう」と、萩原の同席も許可する。
「きょ、教官!それなら僕も!」
「待て待て!これ以上は増やさんぞ!降谷、おまえは明日になれば会えるだろう。今回許すのは、松田と萩原の2人だけだ!」
降谷の願いは却下した鬼塚は「すぐに携帯取りに来い」と松田に伝えて、食堂を後にした。
「悪ィ!俺達先に行くぜ!」
「また後でね!」
「うん、また後で」
「苗字によろしくな」
松田と萩原はお盆を持って、急いで返却口に返すと、そのまま走って出て行った。
そんな2人の後ろ姿を見ながら、諸伏は「…ゼロ、仕方ないよ」と降谷に声をかける。
「…そうだな」
諸伏の言葉に、降谷は握った拳に無意識に力を入れた。
「…こういう時に苗字の傍にいたいなら、ゼロも腹をくくるしかねぇな」
「班長の言う通りだよ。ゼロ、いつまで自分の気持ちに蓋をしておくつもり?」
「一番に名前を呼ばれたいのなら、おまえが苗字の一番になるしかないだろ?」
伊達の言葉に、降谷は苦笑した。
「班長まで」
「ゼロの気持ちに気づいていないのは苗字だけじゃないのか?」
「いや、なんとなーく苗字さんも気づいてるよ」
「ならさっさと告ってこい!」
そう言うと、伊達は降谷の背中を思いっきり叩いた。
「痛!」
「伊達班長からの愛の喝だね!」
「班長からの愛はいらないな」
「俺もおまえにはあげねーよ!」
降谷達が食堂から談話室に移動している頃、松田と萩原は警察学校の銘板の前に座って名前の帰りを待っていた。
「林ちゃんに悪い事しちゃったなー」
「してねぇだろ」
「林ちゃんだって、純粋に名前ちゃんの事が心配だったから焦って俺達の事を責めたんでしょうに」
「…だからってあんな風に言われてムカつかねーのかよ!」
「…ムカついたよ。でも、それは林ちゃんにじゃなくて、名前ちゃんの事を危険な目に合わせた自分自身にだ」
萩原がそう言うと、松田は大きな舌打ちをした。
「今回も、名前ちゃんが自力でなんとかしたから無事だったけど…。松田…俺はやっぱり心配だよ。名前ちゃんが警察官になるの」
「…」
「おまえはいいのか?」
「よくねェよ!」
松田は頭を乱暴に掻きむしった。
「けど、俺達が止めた所で名前はこのまま警察官になるだろ!」
「…そうだけど…」
「止めても無駄なんだよ。あいつの意思は固い!」
「松田…」
2人が話をしていると、松田の携帯に名前から連絡が入る。
「もう着くってよ」
「連絡ギリギリすぎない?」
萩原は、名前が乗っているであろうタクシーの姿を確認しながらそう言った。
「ハギ、おまえ名前に警察官になんの止めろとかって言うなよ」
「…なんで?」
「その話は大学ん時に終わっただろ」
「…そうだけどさ」
「それに、そう思ってんのは俺達だけじゃねェ。名前も同じように今回の事で思っただろ」
「…」
警察学校の入り口の前にタクシーが停まり、名前が中から降りてくる。
「陣平、萩原君、お出迎えありがとう」
「名前ちゃんおかえりー!」
「…大丈夫か?」
松田の問いかけに、名前は笑いながら「うん!もう全然大丈夫!精密検査も異常なしだったよ」と答えた。
「手首は?」
「ロープが擦れたせいで血が出たけど、すぐに治る程度の傷だったよ」
そう言って名前は両手首を見せた。
「結構大げさに包帯巻かれちゃって、逆に恥ずかしい…」
「痛々しいなァ」
「お風呂の後に薬塗らないとだけど、それくらい。心配かけちゃってごめんね」
松田は、名前の事をジッと見つめると「…大丈夫なんだな?」と真剣な顔で聞いた。
そんな松田に、名前は同じように真剣な顔をして「うん。大丈夫だよ」と答えた。
名前の返事を聞いた松田はフッと笑うと「だってよ」と萩原の方を見る。
「ハイハイ、わかったよ。俺からはもう何も言いません」
「ん?何が?」
「名前ちゃんが元気に戻って来てくれて良かったっていう話〜!」
「そんな話してたっけ?」
松田と萩原は、名前の隣にそれぞれ立つと名前と手を繋ぐ。
「久しぶりに3人で手繋ご!」
「こ、これで寮まで行くの!?」
「ガキの頃に戻った気分だな」
「流石に恥ずかしくない?」
「そろそろ消灯時間だし、誰も見てないっしょ!」
「研ちゃんはあれだけど、陣平ちゃんがノリノリなの珍しい〜」
3人は仲良く手を繋いで寮に向かう。
「名前」
「ん?」
「なんともなくてマジで良かった…」
「本当にそう!」
名前は繋いでいる手にギュッと力を入れると「心配かけてごめんね。2人ともありがとう」と言って微笑んだ。