「もうすぐ卒業だが、松田と萩原は爆発物処理班で決まりなんだよな」
「だな」
「だねー」
伊達の質問に、松田と萩原は同時に答える。
「班長はどこになるかな?」
「どうだろうな。まあ、普通は交番勤務からだろうから、どっかの交番だろうな」
「でも成績優秀者から激務の交番に配属されるんだろ?」
「それを言ったら降谷もだろ」
伊達は、少し離れた位置で本を読んでいる降谷に話をふった。
「ゼロー!聞いてんのか?」
「…ああ」
「なんか心ここにあらずって感じだな」
「まあ、ゼロも疲れてるんじゃないかな?」
諸伏がそう答えると「そういえば、諸伏ちゃんにもスカウト来てなかった?」と萩原が聞く。
「うん」
「どこから来たんだよ?」
「それが…公安部だったんだ」
「公安?」
「またスゲェ所からスカウトが来たな」
「うん。まだいくかどうしようか迷ってるんだけどね」
諸伏がそう言うと、3人も頷いた。
「そりゃあ公安だしな。俺たち爆処以上に危険な仕事も多いだろ」
「爆処とはまた違う危険さだよね」
「やりがいはあると思うけど、いくならそれなりの覚悟が必要だと思うからさ」
「まあ、そうだな。あんま考えすぎんなよ」
「ありがとう」
4人の話が盛り上がっているが、降谷は本から視線を外さず、会話にも参加しない。
そんな降谷に松田が話をふる。
「で、どうなんだよゼロ?」
「…何が?」
「とぼけんなよ!おまえ、名前の事好きなんだろ?」
松田の言葉に、萩原は「おいおい、陣平ちゃん。急に話が変わったな」と言って止める。
「本当にデリカシーのない奴だな」
「あ?ケンカなら買うぜ?」
「本当の事だろう」
「おい、おまえら止めろ!」
降谷に近づいていく松田を止める伊達。
「でも、松田からの許しも出たんだし、本当に言わなくていいの?」
諸伏はそう言いながら萩原に一瞬視線を向けた後、降谷の事を見る。
「…僕にだって色々考えがあるんだよ」
「どうせロクな事じゃねーだろ」
「本当に失礼な奴だな」
「あ゛?」
松田は伊達の制止を振り切って降谷に詰め寄ると、本から視線を外さない降谷から本を奪った。
「何をするんだ」
「余計な事考えてねぇで、さっさと名前に気持ち伝えてこいよ!」
「何でおまえにそんな事を言われなきゃいけないんだ」
「何にビビってんだよ!」
「別にビビってるわけじゃない!」
降谷は椅子から立ち上がると「おまえは!幸せにできないかもしれないのに相手に気持ちを伝えられるのか!?」と叫んだ。
「…はあ?」
そんな降谷の言葉を聞いた松田は、眉間にしわを寄せる。
「俺と一緒にいても幸せにしてあげられないかもしれないのに、好きだって気持ちを押し付けるのかって聞いてるんだ!」
「…知らねぇよ」
「…は?」
松田は「そんな事知らねぇよ!幸せにできるかどうかなんて関係ねー!伝えられる時に伝えとかねぇと後悔するだろ!だから俺はどんな状況であれ好きだと思ったらそう言う!」と答えた。
「…ハッ…君らしい答えだな…」
「だから毎回姉ちゃんにフラれるんだよ」
「ハギは黙ってろ!」
松田は降谷の胸倉を掴むと「もう後悔したくないんだろ、ゼロ」と聞く。
「…当たり前だ」
降谷がそう答えると、松田はニヤッと笑うと「ならさっさと伝えろよ」と言って降谷に喝を入れた。
松田に喝を入れられた降谷は、その後すぐに自分の部屋に戻った。
名前を捜しに行こうか迷いながら部屋をウロウロしていると、扉をノックされる。
「降谷ちゃーん」
「…萩原か」
扉を開けると、そこには萩原が立っていた。
「入ってもいい?」
「どうした?」
「ちょっと男同士の話でもしようぜ」
そう言うと萩原は部屋の中に入り、椅子に座る。
「文句でも言いに来たのか?」
「そんなワケないっしょ。俺も、降谷ちゃんの気持ちがよーくわかるから」
萩原の言葉の意味を理解できなかった降谷は「どういう意味だ?」と聞いた。
「…降谷ちゃんが名前ちゃんに想いを告げないのは、今日来てたスカウトの人と関係ある?」
「…知っていたのか」
「まあ、あーんな目立つ人がスカウトに来てたら、そりゃあ気になるっしょ」
「そりゃあそうだな」
「…それとも、俺に気を遣ってる?」
萩原の言葉に降谷は動揺する。
「…やっぱ、気づいてるか」
「…なんとなく」
「諸伏ちゃんの視線も痛いし、やっぱここはちゃんと話しとかないとって思ってよ」
「…やっぱり萩原…。君も名前の事…」
「おっと、それ以上は言わないでくれよ。誰にも言った事がない言葉だ。今までも、これからも言うつもりがない言葉だしね」
そんな萩原に、降谷は「君は、本当にそれでいいのか?」と聞いた。
「それ、降谷ちゃんが言う?」
「…確かに、僕に言われたくないだろうけど…だからって僕に遠慮することはないだろう」
「遠慮?してねぇよ」
「だったら!」
萩原は真剣な顔をすると「…俺は名前ちゃんと小学生の時から一緒にいて、今この関係なんだぜ?名前ちゃんはゼロを選んだ。ただ、それだけの事だ」と言った。
「萩原…」
「それに、俺も降谷ちゃんなら全然オッケー!だから、俺に気を遣ってるならふざけんなって言いてぇな」
「…それだけじゃないさ」
「やっぱスカウトの?」
「…ああ」
「…ふーん」
降谷が視線を落とすと、萩原も降谷から視線を外し前を向く。
「俺は、その気持ちもちゃんと名前ちゃんに伝えた方がいいと思うぜ?」
「…」
「名前ちゃんならちゃんと聞いてくれると思うし、警察官を目指すほどの女だぜ?苗字名前をナメてもらっちゃ困る!」
その言葉に降谷はフッっと吹き出す。
「それは名前のセリフだろ」
「付き合い長いからな!」
「それもそうか」
萩原は椅子から立ち上がると「後悔する前に、ちゃんと伝えろよ。俺に悪いって思うなら、名前ちゃんの事、ちゃんと幸せにしてくれ」と言った。
「…善処する」
「そこは、わかった、でしょうが!」
萩原は苦笑するが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「俺達のお姫様の事、頼んだぜ」
「…ああ」
そう言うと、萩原は部屋を出た。
降谷は「…萩原、ありがとう」と言うと部屋を飛び出し、名前の事を捜しに行った。
「そろそろ夜の点呼の時間になるけど…まだ戻ってこないね」
諸伏は時計を見ながら少し焦った顔をした。
「ま、時間までには戻ってくんだろ」
「ゼロと苗字だし、大丈夫だろ」
「それはそうだけど」
諸伏がもう一度談話室の扉の方を見ると、そのタイミングで扉が開く。
「なんだ、おまえ達まだいたのか?そろそろ部屋に戻らないと点呼に遅れるぞ」
「ゼロ!」
「降谷ちゃんおかえり〜」
諸伏が扉に近づくと、降谷の後ろに名前の姿を見つける。
「苗字さんと一緒だったんだね!」
「ああ」
「みんなも寮に戻る?」
「オゥ」
「僕は名前の事を女子寮に送ってくるから、先に戻っていてくれ」
そんな降谷の言葉を聞いて、松田はニヤニヤしながら2人に近づいた。
「名前〜、ゼロ〜!おまえらひょっとして?」
「へ、変な顔しながら近づいて来ないでよ陣平!」
「変な顔ってなんだコラ!」
松田が名前の頬をつねろうと手を伸ばすが、名前の頬に手が触れる前に降谷が松田の腕を掴む。
「おまえ達が仲良いのはわかってるが、邪魔はするぞ」
「おーおー、男の嫉妬は醜いぜ〜ゼロ!」
「おまえはもう少し気を遣え」
松田と降谷の会話を聞いていた名前は「これからは気をつけよう」と決心するが、萩原が「気にしなくてもいいと思うぜ?」と耳打ちする。
「え?」
「あれ、多分陣平ちゃんも降谷ちゃんも冗談で言ってるだろうからさ」
「そ、そっか!」
萩原にそう言われ、名前は2人に視線を戻す。
松田と降谷の表情を見て、萩原の言っていた通りだと思った名前は少し安心した顔をした。
「良かったね」
「…もしかして、みんな私の気持ちに気づいてた?」
「2人の気持ちに気づいてたぜ?」
「そっかー。なんか恥ずかしいな」
そう言った名前は恥ずかしそうに顔を伏せた。
「俺は嬉しかったけどね」
「嬉しい?」
「名前ちゃんに好きな人ができて、その好きな人も名前ちゃんの事が好きでさ」
「奇跡だよね」
「うん。だからさ、名前ちゃんはその奇跡を大事にしろよ」
「…うん!ありがとう萩原君」
その後、松田と降谷の言い争いがヒートアップしたせいで夜の点呼に間に合わず、卒業間際にも関わらず鬼塚にこっぴどく怒られた6人だった。