「綺麗に撮れてんぜ!」
「ありがとう松田」
松田は、撮った写真を確認して諸伏に渡す。
「僕は名前だけを呼んだんだけどな」
「固い事言うなよ!」
降谷は、まったく気にしていない松田の態度を見ながらため息をついた。
「零君、ごめんね」
「名前は悪くないだろう。謝らなくていいよ」
「イチャついてんじゃねー!」
「イ、イチャついてなんかいないよ!」
「イチャつきたいんだから邪魔しに来るなよ」
「降谷君!」
悪ノリをする降谷に、名前は顔を赤くする。
「ホラ、呼び方戻ってる」
「うう〜!!」
「マジで本格的にイチャつくならよそでやれよな!」
「それより、早く手紙出して学校に戻らないと」
「ヒロ」
松田は諸伏の手から手紙をひったくると「もっかい写真確認するから貸せ!」と言う。
「松田!」
降谷が何かを言おうとする前に、萩原が「おーい!陣平ちゃん!って、みんなで何してんだよ。早く戻らねぇと式に遅れるぜ?」と呼びに来る。
「最後の日まで鬼塚教官に怒られたいのか?」
「やっば!早く!」
「待て待て!」
名前達は急いで警察学校に戻るため、全員で走り出した。
「ちょっと美和子!勝手に触ったら怒られるよ?」
警視庁警察学校の前に停まっているRX-7を見て、女性は立ち止まった。
「(似てる…父さんの車に…)」
「そこの女子大生2人!!汚ねぇ手で触ってんじゃねぇぞコラァ!!」
「陣平!何て事言うの!」
名前は松田の腕を引っ張ると「ご、ごめんなさい!」と代わりに謝った。
「だってよ!せっかくボディー直したってーのによォ!」
「それより式!式!」
「あと10分だ!」
「急ごう!」
「怒られちゃうよ!」
慌てた様子で走って警察学校の中に入っていく松田達を、2人の女子大生はあきれた様子で見ていた。
「ゼロは?」
「後ろ!」
「名前より女子大生か?早速浮気してんじゃねーかよ!」
「零君はそんな事しません!」
名前が後ろを振り返ると、降谷が女子大生に声をかけていた。
「ほーら見ろ!」
「ただ話してるだけでしょ?」
「余裕だなァ!」
「コラコラ、陣平ちゃん!あんま名前ちゃんの事いじめんじゃねーよ」
「フンッ!」
「松田は子どもだな」
「本当だよね」
「うるせー!」
式典が行われる会場に、ギリギリで滑り込んだ6人。
「セーフ!」
「卒業式の前にこんなダッシュする事になるなんて…」
「こんなん教練より楽だろうが」
先に席に座っている林を見つけた名前は、駆け寄ると「凛子ちゃん、お待たせ」と言いながら席に座った。
「お疲れ〜」
「ただいま!」
「どこ行ってたの?」
「零君達と一緒にコンビニまで」
「そうなの?」
「うん」
席順の決まりはなく、自由に座る事ができたため、名前達の横に松田達も座る。
名前の隣に降谷、諸伏、松田、伊達、萩原の順番で座ると、卒業式が始まる。
『諸君!卒業おめでとう!君達はこれから、幾多の困難に直面すると思いますが、ここで学んだ精神を胸に秘め…』
本部長が話をしている最中だが、萩原は松田に話しかける。
「ところで陣平ちゃん。さっき制服のままどこに行ってたんだよ?」
「ああ、ヒロの旦那が兄貴への手紙に写真入れてぇつーからよ、ゼロと名前と一緒に撮るの付き合ってやったんだよ!」
「近所のコンビニでインスタントカメラを買って撮ったんだ。制帽を被って!もちろん、この儀礼用の装飾は外したけどね」
「でも松田、その手紙を出す前に写真を確認するって、一度開けてたけど…ちゃんとポストに入れたんだろうな?」
「おうよ!出しといてやったぜ!」
松田はそう言うと、携帯をいじる。
「本当かよ」
「私も見てたから大丈夫だと思うよ?」
「名前がそう言うなら安心だな」
「オイコラ、どういう意味だ。この通り、男前にしてちゃーんと出したっつーの!」
そう言うと松田は、諸伏の写真に黒のマジックでヒゲを描き足した画像を見せる。
「ヒ、ヒゲを描き足してやがる!?」
伊達は写真を見ながら「警察官になりたてでヒゲはありえねぇだろ!?」とツッコんだ。
「えー…イケてると思ったんだけどよ…」
「陣平…勝手な事しないの!」
「だってよー…」
「松田…お前なァ…」
名前と降谷も松田の行動に呆れた顔をするが、諸伏は写真を見ながら「確かに、ヒゲ面も悪くないな」と嬉しそうに言った。
「…」
「え?何?」
「いや、変わったなァって…」
「両親の敵を確保したからな!」
「一皮むけたってヤツなんじゃね?」
「そうか?」
そんな諸伏を、穏やかな表情で見つめる降谷。
「ちょっとあんた達…いい加減黙らないと怒られるわよ?」
名前の隣に座っていた林は、ため息をつきながらそう言った。
「最後の最後まで自由ね」
「でも、楽しかったね!」
「名前…あんたまでそっち側の人間に…」
「え!?」
6人が無駄話をしている間にも式は進み、警視総監からの祝辞の為、壇上に百田陸朗警視総監が上がって来た。
『では、百田陸朗警視総監から祝辞を』
「おっ!」
萩原は嬉しそうな顔をすると「陣平ちゃん、大チャンスじゃねぇか!!」と煽る。
「確か、総監をブン殴る為に警察学校に来たんだったな!」
「…」
「マ、マジで!?」
「ヒロと班長!松田を押さえて!!コイツ、本当にやりかね…」
「さ、さすがの陣平も、今ここではやらないんじゃないかなー…」
名前がそう言うと、松田はニッと笑いながら「バーカ、殴るかよ。ガキじゃあるめーし」と言う。
そんな松田を見て、4人は心の中で「(ガキだな…)」と思った。
『卒業証書授与!卒業生代表、降谷零!!』
「はい!!」
「行って来いゼロ!」
「名前ちゃんにかっこいい所見せないとね!」
「え!?」
降谷は立ち上がりながら「うるさい!」と小声で言って、壇上に向かう。
「いやー、でもゼロってスゲェなァ」
「結局、入校してから最後までゼロが主席だったね」
「悔しいぜ。頭も体も敵わねぇ」
名前は、壇上に向かう降谷の後ろ姿を愛おしそうに見つめる。
「おーおー、幸せそうなツラしやがって」
「べ、別にいいでしょ!」
「降谷なら名前の事を幸せにできると思ってるけど、ここまで完璧男だと名前まで渡すのが嫌になるわね」
「り、凛子ちゃんったら…」
壇上に上がった降谷は卒業証書を受け取ると、そのまま答辞を読む。
そして、あっという間に卒業式が終わった。
「さて、感動的な卒業式が終わったと思ったらすぐに警察署に直行か」
「松田と萩原は機動隊、僕とヒロは公安部だけど、最初はカモフラージュのための交番勤務からだな」
「それ言っちゃっていいの?」
降谷の言葉に、諸伏が苦笑する。
「内緒だぞ」
「わーってるよ!」
「どうせ、こいつらには隠しててもバレるだろうしな」
「結局、諸伏ちゃんも公安に行く事に決めたんだな」
萩原がそう聞くと「うん。オレの目標は、兄さんみたいな立派な警察官になる事だから。その第一歩って所かな!」と答える。
「俺は米花警察署に配属になったし」
「私は奥穂警察署」
「私は杯戸警察署に配属だから、凛子ちゃんと班長とは現場で会うかもね!」
「だな!俺達は所轄からコツコツ頑張ろうぜ」
「うん!」
所轄組3人を見ながら「アラアラ、なんか同盟組んでらァ」と萩原が笑う。
「それじゃあ、行こうか」
「だね」
警視庁警察学校を出て、みんなで駅に向かう。
「それじゃあ警視庁組はあっちの路線だな」
「私達はこっちだね」
改札を入って乗り場に向かう前に、降谷は名前を呼び止める。
「名前」
「ん?」
「…なるべく不安にさせないようにするから」
「うん」
名前は笑顔でうなずく。
「毎日は無理でも連絡はするし、会いにも行くから」
「零君…大丈夫だよ!私も会いに行くからね!」
「ああ」
そんな2人を見ていた諸伏は「警察学校に来て、一番変わったのはゼロかもね」と言った。
「そうなの?」
「うん。あんなゼロ、初めて見たよ」
「それならウチのお姫様もだぜ?」
「お姫様って、苗字さん?」
「オゥ!名前ちゃんもだいぶ変わったよ。良い方にな!」
「それは良かった」
傍に聞いていた松田は「ゼロの野郎、名前の事泣かせたらただじゃおかねぇからな」と笑いながら呟く。
「陣平ちゃんの愛だね〜」
「本当、仲が良いよな」
「おいゼロ!そろそろ行くぞ!」
「今行く!」
松田に呼ばれた降谷は、名前に「また連絡する」と言って、松田達の方に合流する。
「それじゃあ俺達も行くか」
「うん!」
名前と伊達、林はホームに向かい、電車に乗るとそれぞれの警察署の最寄り駅に向かう。
『次はー、杯戸駅ー!杯戸駅ー!』
電車のアナウンスが流れ「あ、私はここで降りるね!」と名前が言う。
「うん!」
「気をつけろよ」
「ありがとう!」
「降谷とばっかり遊んでないで、私とも遊んでよね」
「もちろん!また連絡するね!」
名前は電車を降りると、杯戸警察署に向かう。
杯戸警察署の中に入ると、同じく杯戸警察署に赴任した同期達が待っていた。
赴任した同期が全員到着すると、杯戸署の職員もロビーに集まり、卒配生代表の名前が前に出て敬礼をする。
「苗字巡査以下6名は、本日警察学校を卒業し、杯戸警察署に配属となりました!」