『今日の最下位は―座のあたな!運勢ダダ下がりで、大切なものをなくしてしまうかもしれないよ。ラッキーフードは天ぷら』
テレビの星座占いを聞きながら、名前は歯磨きをしていた。
「へー…さいふあいだ…」
今日の名前は、最下位だった。
占いは悪い事を信じるタイプの名前なので、朝からショックを受けた。
「ほうか、きょふはてんふらか…」
近くの定食屋さんで天ぷら定食を食べよう。
そう思いながら、名前は洗面所に向かって身支度を整える。
着替えをして靴を履き、扉を出ると「行ってきます」と言って寮の部屋を出た。
「おはようございます!」
「苗字さん、おはよう」
いつものように、午前7時に杯戸警察署に出勤した名前。
「今日も早いね」
「まあね」
同期と他愛のない話をしながら、警察署の掃除や、お茶くみをする。
「よお、苗字!」
「あ!丸警部、おはようございます!」
先日の事件で一緒になった、丸が名前の傍にやって来る。
「この前は大活躍だったな」
「だから、あれは私じゃないですよー」
「他の連中も褒めてたぜ。おまえも刑事になるか?」
「私がですか?」
「向いてると思うぜ?正義感も強いし、意外とガッツがあるだろ」
丸にそう言われて、名前は苦笑する。
「そうですかねー」
「興味あるなら、俺がおまえに捜査一課強行犯係にいる同期を紹介してやる」
「捜査一課の強行犯係って、刑事の花形じゃないですか!」
「だろ?刑事になるならコネは必要だしな」
「そうですよね」
「ま、なれるかどうかはおまえの頑張り次第だけどな!」
名前は「ありがとうございます…少し、考えてもいいですか?」と聞く。
「もちろん。やる気があるならいつでも言えよ!」
「はい!」
名前が返事をすると、丸は「丸警部!!」と部下に呼ばれて「じゃあな!」と言って刑事課に戻って行った。
備品整理や片付けが終わり、警察署全体の朝礼が行われた後は各課に分かれた朝礼が行われる。
午後9時になると、名前は赴任先である杯戸駅前交番に移動した。
「おはようございます!」
「苗字、おはよう」
「山中巡査長、おはようございます!」
「今日も朝から元気だな」
「元気が一番ですからね!」
山中は眠そうな顔をする。
「当番お疲れ様でした」
「さすがに疲れるな」
「コーヒーでも淹れますか?」
「お願いしようかな。今日はこのまま帰れそうになくてね」
「え?」
名前は、山中の言葉を不思議に思いつつも、コーヒーを淹れる。
「佐々木さん、何かあったんですか?」
同じ杯戸駅前交番勤務の佐々木巡査に聞くが「さあね〜?俺もさっき来た所だから、何も聞いてないよ」と言われた名前。
「何かあったのかな?」
名前の疑問は、すぐに解決する事になる。
引き継ぎ業務の後、本来であれば当番だった山中は非番になるため、家に帰る事ができるのだが、今日はそのまま残っていた。
「山中巡査長、他に何かありますか?」
「とりあえず、引き継ぎはこれで終わりかな」
「分かりました!」
山中は「それじゃあ、注目」と言って皆を集める。
「本日警視庁宛てに、奥穂町と杯戸町にある高層マンションに爆弾を仕掛けたという連絡があったそうだ」
「本当ですか!?」
9月に警察学校を卒業した名前にとって、赴任してから一番大きな事件だった。
「ああ。どちらも爆発物処理班が解体に向かっている」
「そうなんですね」
「犯人からの要求は、10億円。住人が1人でも避難をしたら、即、爆発させるという事だ」
名前は「そ、それじゃあ、爆弾の解体が終わるまで何もできないって事ですか?」と聞く。
「そうなんだよ。ただ、爆弾の解体が間に合わない場合もあるから、その時は犯人の要求を呑んでから次の対策を考えるそうだ」
「なるほど…」
「杯戸町の高層マンションは、ここからすぐ近くという事もあって、我々も交通規制に駆り出される事になったよ」
「分かりました!」
「そろそろ交通整備や誘導経路などの情報が送られてくるはずだから、それまでしばらく待機」
「了解です」
電話からピーッ!という音が鳴ると、杯戸警察署からのFAXが届く。
「山中巡査長!こちらです!」
「ありがとう。今から指示を出すから、みんな、頼んだよ」
「ハイ!」
杯戸警察署の交通課、そして名前の勤務する杯戸駅前交番の警察官達が協力して付近を走行している車の誘導を行う。
「すみませーん、そこ通りたいんですけど」
「ごめんなさい、今はここから先は立ち入り禁止になってるんです」
「え?そうなの?」
「はい」
「何何?かなり警察官集まってるけど、何かデカイ事件でもあった?」
「そうなんですよ。危ないので、この付近には近寄らないでくださいね!」
「はいはい!」
マンションのある道に入ろうとする車を止めたり、通行人に説明したりと慌ただしく動き回る名前。
「迂回にご協力くださーい!」
「ここから先は通行止めです!」
名前がマンションの付近で通行人に声をかけていると、爆発物処理班が到着した。
「あ!」
車から降りて来たのは、名前の同期の萩原だった。
「おっ!名前ちゃんじゃねえの」
「萩原君!お疲れ様!」
萩原は名前の事を見つけると、笑顔で話しかける。
名前も萩原の方に駆け寄る。
「解体するの、萩原君なんだね!」
「オゥよ!俺達の班がこっち」
「じゃあもう1つのマンションの方に」
「そそ!もう1箇所は陣平ちゃん達の班が向かってるぜ」
「そうなんだ!」
「まあ、陣平ちゃんの事だから、”3分もありゃ十分!”って、一服してんじゃねーかな?」
「たしかに!想像できるね」
名前はフフッっと笑うが「って、ごめんね。仕事前に話しかけちゃって!」と慌てて謝る。
「いんやー!やっぱり爆弾の解体は緊張するから、上に行く前に名前ちゃんと話せて良かったぜ」
「本当?」
「オゥ!リラックスできた」
「それなら良かった!気をつけてね」
「モチのローン!」
名前は萩原にそう言うと、朝の星座占いの事を思い出した。
「あ、そうだ!研ちゃん!」
「ん?名前ちゃんの研ちゃん呼びって久しぶりじゃん」
「今日、お昼に天ぷら食べてね!」
「天ぷら?」
「うん!今日の私達のラッキーフードだよ」
「占い?」
萩原が聞くと、名前がうなずく。
「相変わらず、名前ちゃんは占いの悪い方を信じてんのね!」
「だって、悪い事が起っても全部占いのせいにできるじゃない?」
「ハイハイ」
「だから、絶対今日は天ぷら食べてね!」
「名前ちゃんのお願いとあらば仕方ない」
萩原の班の機動隊員が「萩原隊員、そろそろ」と声をかける。
「はいよ!そんじゃまー行ってくるかね」
「行ってらっしゃい。終わったらまた陣平も誘ってご飯行こうね!」
「マジ?嫉妬深いダーリンは大丈夫?」
「ふふふ。3人だもん、大丈夫だよ!」
「よっしゃ!俄然やる気出てきた!」
「行ってらっしゃい!」
「任されて〜!」
萩原はウィンクをして手を挙げると、他の機動隊員達と一緒にマンションの中に入って行った。
「無事に終わりますように…!」
「苗字さん!こっちも手伝って!」
「分かりました!」
名前は近くにいた警察官に呼ばれて、自分の持ち場に戻る。
萩原達がマンションの中に入ってから約1時間が経ち、辺りが騒がしくなってきた。
「ど、どうしたんだろ…?」
「山中さん!」
名前と佐々木は、山中を見つけると駆け寄った。
「山中さん、爆弾どうなったんですか?」
「爆発物処理班が中に入ってから、結構時間が経ちましたけど…」
「それが、ここの爆弾の解体に時間がかかったようで、結局犯人の要求を呑む事にしたらしい」
「そうなんですね」
「爆発物処理班からの話によると、起爆装置のタイマーが止まったから、今から住人を避難させてから解体作業を再開するとの事だ」
「そんじゃあ、俺達の仕事は引き続き、住人達の避難誘導って事ですか?」
「ああ。よろしく頼んだよ」
「分かりました!」
住人達がパニックにならないように、不審物を発見したというていで住人達を避難させる警察官達。
名前達も、マンションの入り口付近で避難誘導をする。
「危険ですので押し合わないでください!慌てなくても大丈夫です!押し合わないでください!」
「ゆっくり進んでください!」
「こちらです!このまま真っすぐ進んでください!」