時計じかけの摩天楼01

「苗字君、ちょっといいかね」
「はい、目暮警部!」
「そろそろ君を警部に、という話も出ているそうなんだが、どうかね?」
「えっ!?どこからそんな話が!」

近くの休憩スペースで缶コーヒーを飲んでいると、目暮に声をかけられた名前。
目暮から出てきた言葉に、思わず飲んでいたコーヒーをこぼしそうになり、慌てて口元を押さえた。

「今までもよく働いてくれとるし、事件解決にも貢献してくれとるしな。ワシは当然だと思うが」
「だからって、私まだ29歳ですよ?さすがに警部になるのは早すぎませんか?」
「そうかァ?今度、白鳥君が警部に昇進するんだがな」
「それは白鳥君がキャリア組だからですよ」

名前が苦笑しながらそう言うと「それもそうか」と目暮が答える。

「だが、その辺りも考えておいてくれよ。君は優秀な部下だからな」
「それでしたら目暮警部が早く昇進してくださいよ」
「ワシは今の立場が楽だからな。出世だなんだは、若い子達に譲るよ」
「もう!目暮警部も丸警部も、本当に欲がないですね」
「そんなもんじゃあないか?」
「そういうものですか?」

名前と目暮が話をしていると「警部!事件です!」と呼ばれる。

「なぁに?すぐに向かう!苗字君、行くぞ!」
「はい!」



名前と目暮は、殺人事件の起こった黒川医院の院長、黒川大造の家に到着する。

「お!目暮警部!」
「また君かね、毛利君」
「こんにちは!毛利さん!」
「名前君」
「名前刑事!」

中に入ると、待っていたのは黒川大造の息子、後妻、そして家政婦の3人と、毛利小五郎、蘭、コナンの3人だった。

「今日も毛利さんの推理ショーが見られるんですね!」

名前がそう言うと「あ、いやー…!」と小五郎が苦笑いする。

「こんにちはコナン君」
「こんにちは!今日も名前刑事が一緒なんだね」
「うん。基本的に、刑事は2人1組で動くし、組む人は大体決まってるからね」
「そっか」

名前と目暮は、黒川の遺体がある書斎に移動する。

「ここです…」
「これは、また」
「派手ですね」

中に入ると、黒川が頭から血を流して倒れていた。

「黒川氏は、お酒を飲みながらワープロに向かった所、後方から何者かに殴られ殺害された」
「凶器は、傍に落ちているブロンズ像に間違いなさそうですね」

目暮は立ち上がりながら「しかし、分からんのはこれだな…」と言って、ワープロの画面を見る。

「ダイイングメッセージのようではあるが、”JUN”ってのは何の事だ?」
「フフフフフッ…それはずばり!犯人を指しているんですよ」
「何だって!」

小五郎の言葉を聞いて、目暮は驚く。

「しかも犯人は、そこの3人の中にいる」
「えっ!」
「奥さんの黒川三奈さん、長男の黒川大介さん、そして家政婦の中沢真那美さん。この3人の中にね」

小五郎は容疑者である3人の名前を呼ぶ。

「いいそ毛利君!…で、誰なんだ?犯人は」
「黒川大造氏を殺害した犯人は…あなただ!」
「ええっ!」

小五郎が黒川三奈を指さすと、コナンは怪訝そうな顔をした。

「えっ?」
「お、奥さんが?」

蘭と目暮も驚く。

「黒川氏が残したJUNの3文字。これは英語の6月、JUNEを略した言葉です」

机の上に置いてあったカレンダーを手に取り、6月を見せながら「この6月は水のない月、水無月とも言います。つまり三奈さんです」と続ける。

「しかもあなたは」
「6月生まれだからどうだっていうの?何が水無月だから三奈よ!あなた、そんなダジャレで私を犯人にする気なの?」

犯人と名指しされた三奈は、小五郎に詰め寄る。

「いや、これは論理的推理というやつで…」
「死ぬ間際の人間が、そんな回りくどい事をするかね?わしだったらストレートに犯人の名前を打つぞ」
「そうですね。私でもそうします」
「そんな警部達まで…!」
「無実の物を犯人に仕立てるのが探偵の仕事なの?そんないい加減な事言うと、名誉棄損で訴えてやるわよ!」

小五郎が三奈をなだめていると「どわっチクッと…いやぁ来ました!」と言いながら急に力が抜けた様に椅子に座り込む。

「おっ来たか!待ってたぞ!」
「毛利さんの推理ショーですね!」

コナンの撃った時計型麻酔銃の針が小五郎に刺さり、小五郎はいつものように眠った。
コナンは素早く机の後ろに隠れると、蝶ネクタイ型変声機のダイヤルを小五郎の声に合わせて話し始める。

「そう、犯人は奥さん…というのはほんの冗談です」
「冗談?」

小五郎は「目暮警部、名前君、遺体をよく見てください」と言う。

「ああ」
「はい」
「黒川氏の手で、血がついている指は右手小指だけです」
「うむ、確かに…」

そう言うと、目暮は黒川の手を見る。

「では、キーボードにはどの部分に血がついていますか?」
「”け・む・ろ”と…」
「左端の”英大文字”についてます」
「”け・む・ろ”についた血は、黒川氏が人差し指で”JUN”のキーを押した時に、小指についていた血が付着したものですが、右手の小指でわざわざ押しづらい左端のキーを押す人はいませんよね」

小五郎の推理を聞いて、「たしかに…」と名前は思う。

「では、左端のキーについた血は何なのか。恐らく、黒川氏は後ろから忍び寄って来た犯人に後頭部を殴られ、右手で後頭部を押さえた。小指の血はこの時ついたのでしょう」

小五郎は「そして振り返った時、再度殴られ、倒れる時にキーボードを小指で引っかけ落とした」と続ける。

「つまり、左端のキー”英大文字変換”のキーは犯行当時、黒川氏の意思で押されたのではなく、倒れる時に偶然押されてしまったものなんです」
「なるほど!そういう事なんですね!」
「そして、黒川氏は犯人が立ち去った後、薄れゆく意識の中で最後の力を振り絞り、目の前のキーを押した。かな文字のつもりでね」
「じゃあ、黒川氏が打った”JUN”のかな文字は…”ま・な・み”」
「そう、家政婦の中沢真那美さん…あなただ!」

小五郎がそう言うと、全員の視線が中沢に集まる。

「じょ、冗談ですよね、探偵さん。証拠なんてないんですから」
「証拠ならありますよ」
「えっ…」
「あなたは犯行の時、スリッパを脱いだんじゃありませんか?」

その言葉に、中沢は顔を青くする。

「フローリングの床では、スリッパの音がして黒川氏に気づかれずに背後から忍び寄る事ができないから」
「あ、あの血痕って…」
「そう。あなたは知らない間に床に飛び散った血痕を踏んでしまった。それは、不自然に途切れている証拠物件Aが証明しています」

名前は思わず血痕の残っているフローリングを見る。

「あなたの白いソックスの裏には、血痕がついているはずだ」
「えっ?」

中沢は恐る恐るスリッパを脱いで靴下の裏を見ると、ハッキリと赤い血が残っていた。

「あっ!」
「おお!」
「あなたは警察の事情聴取に対し、遺体の傍には近寄らなかったと答えていますね」
「足についた血痕を調べさせてもらってよろしいですかな?」

目暮がそう言うと、中沢はうつむき「…黒川は、1年前…私の夫を殺したんです」と話し始めた。

「えっ?」
「じゃ…じゃあまさかあんたは、親父が心臓手術したあの患者の?」

大介がそう言うと、中沢は「そうよ!黒川が酒に酔って手術して死んだ患者の妻よ!」と答える。

「ちょっと髪型と名前を変えただけで、誰も気がつかなかったなんて…あなた達にとってあの事件は、記憶に残る程のものじゃなかったって事ね」

大介と三奈は驚いた顔をする。

「私は黒川を告訴するため病院関係者の証言を得ようとしましたが、誰一人協力してくれませんでした。みんな黒川が怖かったんです!」
「それでご主人の復讐を…」
「今日が主人の命日だったの」
「中沢さん…」
「私は後悔してないわ!あの人の恨みを晴らせたんですもの」

そう言って笑いながら涙を流す中沢を、名前は「…ダメです」と言った。

「え?」
「…どんなに辛くても、悔しくても…復讐という動機で人の命を奪ってはダメです…」
「…奪われた事がない人間に、そんな事言われたくないわ」
「…」

名前はそれ以上何も言わなかった。

「行こうか…」

目暮と名前は、中沢をパトカーに乗せて米花警察署に連行した。



本庁に戻って来た名前と目暮を出迎えたのは白鳥だった。

「警部、苗字さん、お疲れ様でした」
「お疲れ」
「白鳥君、お疲れ様」

白鳥は「殺人事件だったんですよね?毛利さんのおかげで解決できたとか」と聞いた。

「うん!今回も、毛利さんの名推理だったよ〜」
「まさか毛利君が名探偵と呼ばれる日が来るとはな」
「そうなんですか。私も聞いてみたいですね、毛利さんの名推理」
「あれ?白鳥君って、毛利さんに会った事なかったんだっけ?」

白鳥の言葉に名前がそう聞くと「ええ。実はまだ、本人にはお会いした事がなくて」と答える。

「そっか。でも、刑事やってたらいつか会えると思うよ」
「そうですよね。その日を楽しみにしています」
「苗字君」

目暮に呼ばれた名前は、「はい!この前起こった放火事件の聞き込みですか?」と聞く。

「ああ」
「戻って来たばかりで大変ですね」
「白鳥君、君も一緒に来たまえ」
「分かりました」

名前は目暮と白鳥と一緒に刑事部を出て、聞き込みに向かった。



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