リビングに通されると名前達はソファーに座り、森谷はマッチをすってパイプに火をつけた。
「なるほど…。確かに、偶然にしてはできすぎてますな」
目暮が今までの経緯を説明すると、森谷は納得した表情でうなずいた。
「そのような事をする人物に、心当たりはありませんか?」
「うーん…そうですな」
森谷は「それは私が10歳の時の写真だよ、コナン君」と言って、飾られた写真を見ているコナンに声をかける。
「えっ?」
「一緒に写っているのは父と母だ」
「森谷教授のお父さんって、随分立派な人なんだね」
「世界的に有名な建築家だったんだよ!主にイギリスで活躍されててね。僕は好きだったな、あの人の建築は」
「白鳥君、本当に建築が好きなんだね…」
饒舌に語る白鳥を見て、名前はあっけにとられた顔をする。
「はい!ただ、森谷さんのお父様はもう亡くなられていて…。たしか、亡くなられたのは」
「今から15年前、別荘が火事になって…母も一緒でした。この屋敷はその時に遺産として引き継いだものです」
「その頃からですよね、森谷教授。あなたの設計が、急に脚光を浴びるようになったのは」
「し、白鳥君?」
白鳥の妙な言い草に、森谷は「えっ?ええ、まあ…」と少ししどろもどろになって答える。
「森谷さん、それよりも犯人についての心当たりを」
「あっ、ああ、そうでしたね。うーん…」
森谷は少し考えるが「やはり、そのような人は思い浮かばないですね」と答える。
「そうですが…」
「ええ、お役に立てなくて申し訳ありません」
「それでは、何か気づかれた事があったらご連絡ください」
そう言って目暮が立ち上がる。
「あれ?コナン君は…?」
名前がそう言うと、目暮達も周りを見るが、コナンの姿はない。
そこに、目暮の携帯が鳴る。
「あっ、ちょっと失礼。はい、目暮」
『目暮警部!工藤です』
「おお!工藤君!」
目暮は「うん、分かった!今すぐ、ギャラリーに集まればいいんだな」と言って通話を切る。
「森谷さん、すみませんがギャラリーを見せていただけませんか?」
「ああ、分かりました。その前にちょっと書斎に寄ってもかまいませんか?」
「もちろんですよ」
そう言うと、森谷を先頭に部屋を出て、書斎に寄ってからギャラリーに向かう。
「ギャラリーは2階になっています」
階段を上がり、2階のギャラリーに着く。
「さあ、どうぞ」
扉を開けて、中に入る5人。
「誰もいない?」
「ん?おっと…」
そこに、もう一度目暮の携帯が鳴る。
「はい、目暮。ああ、今ギャラリーだよ」
『目暮警部、皆さんにも聞こえるようにスピーカーにしてください』
「ああ」
返事をすると、目暮は携帯をスピーカーにした。
『実は、今回の事件の犯人と爆弾犯の正体が分かったんです』
「ホントかね?犯人は一体何者なんだ?」
「ちょいと待った!俺にも分かったぜ!」
新一の推理を聞く前に、小五郎が自分の推理を披露する。
それは、森谷帝二の父親の死が森谷帝二による放火殺人だったと疑った白鳥の犯行、というものだったが、それを聞いていた名前は「も、毛利さん…さすがにそれは…」と小五郎を止める。
「おう新一!おまえもそう言いたいんだろ?」
『違います』
「何!?」
「で、ですよねー」
新一は、ハッキリと小五郎の推理を否定した。
『この一連の事件は、森谷教授に恨みを持つ者の犯行じゃありません。犯人は、最近放火された4軒の家、そしてあの橋を設計した森谷教授、あなたです!』
「何!?」
新一の推理を聞いて、名前達は驚きの声を上げる。
「バーロー!どこに自分の作品を破壊する建築家がいる!」
『幼い頃から建築家として、父親の才能を受け継いだ森谷教授は、30代初めという異例の若さで建築界にデビューした』
「もしもーし」
小五郎の質問を無視して話し続ける新一に、小五郎は小さな声で呼びかけるが、新一はやはり気にせず話し続ける。
『そして、環状線の橋の設計で日本建築協会の新人賞を取った。その後も、数々の新しい建築を生み出し続けた森谷教授は、ある時不意に…いや、前からそう思っていたのか、若い頃の作品の一部を抹殺したくなった』
「ええ!?」
『それは、ティーパーティーの時の教授の言葉からもうかがい知ることができます』
森谷は小五郎達を招いたティーパーティーで「今の若い建築家の多くは美意識が欠けています!もっと自分の作品に、責任を持たなければいけないのです!」と力説していた。
『つまり、あの言葉を実行したんです』
「そういやそんな事を…ちょっと待て!出席してないおまえがなんで知ってる!」
『さて皆さん』
「おーい…」
「し、新一君…」
名前は、あまりにも堂々と小五郎の言葉を無視する新一に苦笑する。
『パネル写真を見てください』
名前達は、壁に飾られているパネルの写真を見る。
『まず黒川邸、水島邸、安田邸、阿久津邸、そして橋をよく見てください。いずれも、英国古典様式風の建築ですが、何か気づかれた事はありませんか?』
そう言われ、4人は写真をよく見る。
「いやあ…どれも見事な建築だと、わしは思うが…」
「あっ!」
「ん?なんだね苗字君?」
「あっ!完全なシンメトリーになってない!」
名前と白鳥は写真を見て、森谷帝二の建築のコンセプトから外れている事に気づいた。
『そうです。微妙に左右対称とはなっていません。恐らく、建築主の注文か建築基準法などの関係で妥協せざるを得なかったんでしょう。それは完全主義者の森谷教授にとって、我慢のならない事でした』
『時を同じくして、それまで順風満帆だった建築家としての人生に、初めて影が差しました』
「影?」
『はい。長い時間かけて完成した、西多摩市の新しい町づくりの計画が市長の逮捕によって、突然中止になってしまったんです』
「そ、それって、あの新一君が真相を見破った?」
「そうか!これも森谷教授の設計だったんですね」
白鳥は、ギャラリーに置いてある西多摩市のニュータウンの模型ケースに近づいてそう言った。
『教授はオレに挑戦し、高校生探偵の名を汚す事で目的の一つである復讐を果たし、同時にもう一つの目的である、黒川邸を含む4軒の家の放火と環状線の橋の爆破をカムフラージュしようとしたんです』
「なるほど…」
『そしてあの時、キャリーケースの爆弾のタイマーを止めたのは、児童公園にあったガス灯のためです』
「ガス灯?」
『あれは、ニュータウン西多摩市のシンボルになるはずだったもの。教授は壊したくなかったんですよ。こよなく愛するロンドンのそれに似せてデザインした、あのガス灯を』
新一は『違いますか?』と森谷に問いかける。
「フフフフッ…面白い推理だ工藤君。だが、残念ながら君の推理には証拠がない」
『証拠ならありますよ、模型ケースの裏に』
「ん?」
白鳥は、模型ケースの裏に行くと、椅子の上に置いてあるサングラスと付け髭とカツラを見つける。
「これは、爆弾犯の変装道具!」
「バカな!それは書斎の金庫に…!」
森谷が口をすべらせると「そっか!爆弾犯の変装道具、本当は金庫の中に隠してあるんだね」と言いながらコナンがギャラリーに入って来る。
「何!」
「コナン君!」
コナンは白鳥の元に行くと、白鳥からメガネを受け取る。
「これボクのメガネなんだ。水性ペンで黒く塗ったんだよ」
そう言うと、コナンはティッシュでメガネに塗ったペンをふき取る。
「ああっ…!」
「ヒゲとカツラは、書斎にあった兜の飾り毛を切って、テープでくっつけたんだ。これみんな新一兄ちゃんのアイデアだよ!」
「ううっ…」
「森谷教授、署までご同行…」
白鳥が森谷の近づこうとすると、森谷は書斎に寄った時に持ち出したライターを手にして「動くな!」と言った。
「動くとこの屋敷に仕掛けた爆弾を爆発させる!」
「ひいっ!」
「爆発しないよ」
「えっ!」
驚いている名前達に、コナンはサラリと言ってのける。
「だってその起爆装置…電池がないもん!」
コナンはポケットから電池を見せる、
「バ、バカな…!」
森谷はライターの底を開けると、電池が抜かれている事を確認する。
「い、いつのまに…!なぜこれが起爆装置だと分かった!?」
「だっておじさん、ライター使ってないじゃない。パイプに火をつけるのも長いマッチだったし」
「ハッ!」
「歩美ちゃんが言ってた甘い匂いって、パイプの匂いの事だったんだ」
「逮捕だー!」
目暮が叫ぶと、白鳥が森谷に手錠をかける。
「よーし!これで事件は一挙に解決!めでたし、めでたし!」
「めでたしじゃありませんよ、毛利さん!ひどいじゃないですか、人を犯人呼ばわりして!」
白鳥がそう言うと、小五郎は「いやあ申し訳ない!猿も木から落ちるってやつっすな!アハハハッ!」と笑う。
「まるで昔のヘッポコに戻ったようだったな」
「警部!それは言わない約束ですよ!」