02

乾杯の後、少ししてから名前が席を立つ。

「あ?どこ行くんだ?」
「ちょっとお花を摘みに…」
「何言ってんだよ、便所だろ!便所!」
「もう!陣平、デリカシーなさすぎ!」

そう言って、名前は障子をバンッと閉めた。
同じタイミングで、隣の個室から男性が出てきたのを横目で見ていた名前は、その男性のポケットからライターが落ちた事に気づく。

「あ!」

名前はライターを拾い、男性に声をかける。

「あの、落としましたよ?」
「えっ、ああ、ありがとう!」

その男性は名前からライターを受け取るとジャンパーの胸ポケットにしまい、お礼を言ってそのままトイレに向かった。



「おう!おせーよ、名前!」
「陣平、結構飲んでる?」
「まだまだ全然余裕〜」
「陣平ちゃん上機嫌で面白いよ」

萩原はそう言うと笑う。

「で?ゼロは仕事の方、どうなんだよ?」
「そうだな。最近は公安研修が忙しくてね。でも、ヒロと一緒になる事も多いから、そういう意味では楽しんでるよ」

運ばれてきたお酒や料理をつまみながら、話題はもっぱら仕事の事。

「なるほどね〜」
「やはり大変そうだな。その分やりがいはあるけどね」
「そーんな忙しいんじゃ、名前ちゃんも寂しいな」
「んー。でも、私も今は仕事を覚えるのでいっぱいいっぱいだし、時間のある時は電話したりしてるから、そこまで寂しくないよ!」

名前が答えると、ハギは嬉しそうな顔をして「いいね、愛されてんじゃんかよー!」と言った。

「当たり前だろ」
「ケッ!なーにが悲しくておまえらのイチャコラを見せつけられなきゃいけねえんだよ」

松田は枝豆の豆を皿に出しながら不貞腐れた様子で言った。

「陣平ちゃんは、姉ちゃんにフラれてばっかだったもんな」
「うるせー!」
「松田の初恋の人か」
「陣平って、昔から萩原君のお姉さんが大好きなんだよね」
「ホォー」

そう言うと、名前は携帯を取り出して写真を見せる。

「ホラ、見て!千速さんって言うんだけど、とっても綺麗でしょ!」
「…萩原に似てるな」
「そりゃあそうでしょうよ!俺の姉ちゃんだし」

萩原は名前が見せている写真を見ると「てか、なんで名前ちゃんその写真持ってるの?」と聞いた。

「この前千速さんが送って来てくれたの!”白バイ隊員になったから記念に送ってやる”って」
「萩原のお姉さんも警察官だったんだな」
「オゥよ!姉ちゃんは神奈川県警だけどな!」

降谷は「すごいな。そんな所までヒロと似てる」と言った。

「諸伏君?」
「ああ。ヒロのお兄さん、長野県警の刑事なんだ」
「へー!諸伏君とお兄さんって、似てるの?」
「そうだな。僕が学生の頃、一回ヒロに連れられてお兄さんと会った事があるけど、シュッとしててかっこよかったよ。時々、三国志の言葉を引用していて、何を言ってるか分からない時もあったな」

その時の事を思い出し、降谷はフッと笑う。

「三国志ィ?」
「個性的なお兄さんだな」
「どんな人なのか気になるね!」
「いつか会う日も来るんじゃないか?」
「まあ、同じ警察官だしな」

空になったグラスを見て「零君、何か追加する?」と名前が聞く。

「ああ。お願いしようかな」
「はいメニュー。陣平、店員さん呼んで」
「へいへい」

松田が障子を開けた瞬間、女性の「キャアアアアッ!!」という悲鳴が聞こえてきた。

「何だ!?」
「悲鳴?」

名前達は急いで靴を履くと、人が集まっている隣の個室に移動する。

「なっ!」

中を覗くと、男性が机に突っ伏していた。

「おい、大丈夫か…」
「触るなッ!」

個室の中にいた男性が、机に突っ伏している男性に触ろうとしたが、それを見た松田が咄嗟に叫ぶ。

「あの人、さっきライターを落とした人だ…」

松田と降谷は個室の中に入ると、男性に近づいて様子を見る。

「あ、おい!何なんだよ、おまえら!」
「警察だよ」
「え?」
「学生の間違いだろ?」
「んだと、コラ!」
「こらこら、陣平ちゃん!」

名前は警察手帳を取り出すと「本当に警察官です。すみませんが、中にいるお二人は、一度外に出てもらってもよろしいですか?ただ、ここから動かないでください」と言う。

「あ、ああ…」
「分かりました…」

個室には、倒れている男性の他に、もう一人の男性と女性がいた。

「松田…」
「ああ…」

男性の様子を見終わった降谷は、名前を見ると「名前、杯戸署に連絡だ」と言う。

「う、うん」

名前は急いで携帯を取り出すと、杯戸警察署に電話をかける。

『ハイ、こちら杯戸警察署』
「杯戸警察署地域課所属、苗字です」
『苗字?』
「はい!その声は、丸警部ですか?何で丸警部が電話に?」
『今若いのが出払ってんだよ。どうした?事件か?』
「じ、実は、今杯戸町にある居酒屋にいるんですけど、男性が亡くなっていまして…」
『何ィ!?コロシか!』
「それはまだ分からないんですけど…」
『今すぐ行くから店の名前!』
「はい!」

名前は杯戸警察署刑事課の刑事である丸に居酒屋の住所を伝えると、個室に戻る。

「萩原君…」
「名前ちゃん、連絡ありがとう」
「どう?」

誰も入らないように個室の前に立って、中の様子を見ている萩原に声をかける名前。

「毒だね」
「毒…」
「自殺の可能性もなくはないけど、こんな所でわざわざ自殺するかなー?微妙な所だね」
「そ、そっか…」

松田は「ハギ!名前!さっきここにいた2人呼んで、個室の障子閉めろ」と指示を出す。

「さてと、それじゃあ話を聞かせてもらいましょうか」
「あんたらの関係は?」

松田と降谷に聞かれた2人は、おずおずと話し始めた。

「私は藤本咲です。こっちは渡君。私達3人は高校の時からの同級生で、同じ職場なの。今日は時間が合ったから誕生日のお祝いも兼ねて飲みに来たのよ」
「誕生日?誰の?」
「そ、その…」
「そこで死んでる山本だよ」

渡はそう言うと、山本を指さす。

「そんじゃあ、その時の状況を聞かせてくれ」
「…そうは言っても、山本君の誕生日ケーキが運ばれてきて、ケーキ用の花火が消えたらケーキを食べたりワインを飲んだりしていたわ」
「で、山本が残りのピザを食ったら、急に苦しみ出してそのまま動かなくなったんだよ」
「なるほど」
「このワインはどのように提供されたんですか?」
「どのようにって…普通にボトルで頼んだわ」
「ボトルで?」

机の上に置いてあるワインのボトルを見て「俺達3人で飲んでたからな。1本なんてすぐなくなるだろ」と渡が言う。

「それじゃあ全員同じワインを飲んでたんだな」
「ええ」

萩原は藤本の着ているジャンパーを見て「あれ?3人ともお揃いのジャンパーなんですね?」と聞いた。

「あ、これか?うちの会社のジャンパーなんだけどよ、愛用してる社員が多いんだよ。軽いし、ポケットもたくさんあって便利なんだよ」
「へー!いいっすね!」
「まぁ、俺達は暑くなってきたからケーキが運ばれてくる前に脱いだけどな」

渡はハンガーにかけている自分のジャンパーと、床に落ちている山本のジャンパーを見せながら説明する。
4人で話を聞いていると、杯戸警察署の丸と戸崎警部補が到着した。

「おう、ここか?」
「丸警部!」

閉まっていた障子を開けて、中を確認する丸。

「苗字、と…誰だおまえら?」
「あ、私の同期とお友達です!」
「何だよ、今日はダチと飲み会か?」
「そうなんですよ。私達が飲んでいたら女性の悲鳴が聞こえてきて、慌てて隣の個室を見たら…って感じです」

丸は中に入ると「おう、苗字と同期はどいつだ?」と聞く。

「俺達です!機動隊の爆発物処理班所属です!」

萩原がそう言うと、丸は「爆処か。まあ、今後こっち側に来る可能性もあるかなら。参考に現場検証のやり方見とけよ」と言いながら現場を見る。

「ん?」

丸は「おい、おまえら…色々触ったろ?」と聞く。

「少しだけな」
「勝手な事してんじゃねー!苗字の同期って事は、まだまだペーペーだろうが!」
「警察官に新人もベテランも関係ねえだろうが!」
「じ、陣平!」

名前はヒートアップしそうになっている松田を止めながら「丸警部!戸崎刑事、本当にすみません!でも、素人ではないので必要な事しかしていないと思います!」と説明する。

「ハァ…たく」
「丸警部、とりあえず被害者と一緒にいた2人に話を聞きましょう」
「え?また話すのかよ!さっきそこの4人に話したって」

渡がぼやくと、丸は「いいから黙ってもう一回説明しろ!」と言った。
丸と戸崎が話を聞いている間、4人は個室の入り口で待機していた。

「どう思う?」
「他殺なら犯人はあの2人のどっちかだろ。問題はどうやって毒を盛ったかだな」
「ああ。怪しいのは被害者が口にしていた物だけど、どれもシェアして食べる物ばかりで、ピンポイントであの男に毒入りを選ばせるのは難しい…」

萩原も「だよなー。犯人が毒物を持ってたら早いんだけどな」と言った。

「ピンポイントで狙うなら…飲み物?」
「でも、あいつらが飲んでたのって、あのワインだろ?」
「ワインボトルじゃないとすると、グラスか?」
「…机の上にあるのは、ケーキとピザとワイン…か」
「後はタバコと…あれ?さっき私が見たライターがない…?」

名前の言葉に3人はもう一度個室の中を見る。
テーブルの上には、名前の言った通り被害者が吸っていたであろうタバコの箱とマッチが置いてあり、ライターは無かった。

「…なるほどな。もう少し詳しく話を聞く必要がありそうだな」
「だな」

そう言って、降谷と松田はニヤッとに笑う。



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