「ああ?」
松田は個室の中にいる丸を呼ぶ。
「鑑識さんの話が聞きてえんだけどよ、毒物は?」
「毒物は青酸カリで、彼の両手の指先と手の甲に掠れたようについてて、衣服の袖の部分からも微量に検出されたよ。料理からは出なかったけど、被害者のワイングラスの側面にも付着していた」
「指先と手の甲?」
「ああ」
「…という事は、指先に毒がついてる事に気づかずピザを食べて、体内に毒物を摂取してしまったという事か」
「グラスは指先についてたのがついただけで、関係なさそうだな」
「だが、手の甲って何でだ?」
渡は「おいおい、どういう事だよ!その言い方、まるで毒を盛られて殺されたみたいじゃねえか!」と聞く。
「状況的に考えて、誕生日の人がわざわざ同僚の前で自殺はしないでしょ?」
「そ、そんな事わかんねーだろ!」
「ん?なんだおまえ、被害者が自殺する可能性があるとでも言いたいのか?」
丸に聞かれた渡は、視線を逸らして「べ、別にそう言うわけじゃないけどよ…」と言った。
「んだよ!ハッキリ言えよ!」
「何かあったんですか?」
名前が藤本に聞くと「彼、最近営業成績が下がってきてるって、部長から結構きつく怒られてて。最近疲れてるって言ってたから…」と説明する。
降谷は「タバコを吸うのは亡くなった山本さんだけですか?」と渡に聞く。
「そうだよ。俺も咲も吸わないけど、山本はお構いなしにどこでも吸ってたな」
「なるほど」
「陣平と萩原君みたいだね」
「俺は一応名前ちゃんの前では気をつけてるつもりよ?」
「そうなの?」
名前は、先ほどトイレに行く前に山本と会った時の事を確認するために鑑識に質問をする。
「鑑識さん、山本さんのジャンパーのポケットにライターってありましたか?」
「ライター?いや、ポケットには財布と家の鍵しか入ってなかったよ」
「あれ?本当ですか?胸ポケットにもなかったですか?」
「ああ。ポケットは全部見たよ」
名前は「おかしいな…」と呟いた。
「さっき言ってたライターの事か?」
「うん。私がお手洗いに言った時に山本さんと遭遇したんだけど、ライターを落としたから拾ってあげたの。その時、ジャンパーのポケットに入れてたのを見たから、机にないならポケットかなって思ったんだけど」
「なかった?」
「うん。そう言ってた」
降谷は名前の話を聞いて、今までの状況と話をつなぎ合わせた。
「今日は居酒屋のマッチを使ったから、自分のライターは使わなかったって事か?」
名前は「だとしてもどこかにライターがあるはずだよね?」と言う。
「なるほどな。誰が山本さんに毒を盛ったのか分かったよ」
「え!?本当に?」
「マジかよ降谷ちゃん!」
「さすがゼロだな!」
「ああ」
降谷はそう言って笑う。
「なあ、刑事さん!いつまでここにいなきゃいけないんだよ?そろそろ帰らせてくださいよ!」
「私も、明日も仕事だし、帰りたいんですけど」
「そうだな…自殺の線もありそうだし、今日はこの辺にして」
丸が容疑者である2人を帰そうとするが、降谷は「警部さん、待ってください」と止める。
「あ?おまえは苗字のお友達じゃねえか」
「今、帰してしまったら証拠を隠滅されてしまいますよ」
「証拠隠滅だァ?」
「ちょ、ちょっと!何て事言うのよ!」
降谷は藤本に向かって「そうですよね?山本さんに毒を盛った、藤本咲さん?」と言った。
「え!?」
「マジかよ!」
「咲…おまえが!?」
「な、何それ!私がどうやって山本君に毒を盛ったって言うのよ!?」
藤本がそう叫ぶと、降谷は「藤本さん。あなたは山本さんのジャンパーの内側の袖口部分に毒を塗っておいたんじゃないんですか?」と言う。
「11月で寒いとは言っても、建物の中に入れば上着を脱ぐ人は多い。ましてや、ここは居酒屋。お酒が入ったらなおさらでしょう」
「それとジャンパーの袖が何の関係があるんだ?」
「では警部さん。暑くなって上着を脱ぐとき、どのように脱がれますか?」
「どのようにって、まずジャンパーの袖口に指を突っ込んで引っ張りながら腕を引き抜くだろ」
「あ!そういう事か!」
松田は「ジャンパーの内側、袖口をガッツリ掴むってわけだ!」と納得した。
「手の甲は、内側についた毒が脱ぐ時に触れたのね」
「ああ。だから彼の指先と手の甲から毒物が検出されたんです。指先についた毒が、ピザを食べるときに口の中に入り、山本さんは殺されてしまったという事です」
「ちょっと待て!確かに袖口から毒物は検出されたが、それは被害者の着ていたシャツの袖口で外側だぞ?被害者の着ていたジャンパーからは毒物は検出されなかったぜ?」
丸がそう言うと、降谷は藤本の方を見て「大きいサイズのジャンパーを着ていますね?」と聞く。
その言葉に、藤本はビクッと動揺する。
「そ、それは…」
「これは会社支給のジャンパーだからワンサイズなんだよ。咲は小柄だし、大きめに見えるのは当然だろ!」
言葉を詰まらせた藤本の代わりに渡が答える。
「そうなんですね。ですが、そのジャンパーはあなたの物ではありませんよね?」
「…」
「戸崎刑事、彼女が着ている上着の胸ポケットを調べてください」
「胸ポケット?」
「!!」
戸崎は「失礼します」と断りを入れてから、ポケットの中を捜す。
「これは…ライター?」
「そうです。それは、山本さんのライターです」
「!?」
「何でおまえが山本のライター持ってるんだよ?」
「それは、彼女が着ているジャンパーは彼女自身の物ではなく、袖の内側に毒が塗られた山本さんのジャンパーだからです」
「何ィ!?」
藤本は「ち、違うわ!!これは私のライターよ!」と説明する。
「別にタバコを吸わなくたって、ライターくらい持っててもおかしくないでしょ!?」
「そ、それはそうだけど…」
名前は一歩前に出て「私、山本さんが毒殺される前に、そのライターを拾って山本さんに手渡しているんです」と言った。
「なので、そのライターには私の指紋がついていると思います。あなた達と初めて会った私の指紋がついてるライターを持ってるのは、山本さんしかいません」
「そ…そんな…」
「山本さんの隣に座っていたあなたなら、怪しまれずに自分のジャンパーと入れ替える事が可能」
萩原は、机に置いてあるマッチを見ながら「財布、家の鍵は気づいて入れ替えたけど、焦ってライターの事はすっかり忘れてたみたいだね」と指摘する。
「ジャンパーをすり替えて証拠隠滅をしようと思ったのでしょうが、爪が甘かったですね」
「…」
戸崎は藤本に近寄ると「ジャンパーの袖口を調べさせていただいてもよろしいでしょうか?」と聞く。
藤本は力なく崩れ落ちると「…そうです…私が殺したんです…」と罪を認めた。
「なんでだよ…おまえ達、仲良くやってたじゃねえか」
「彼…営業成績が落ちて、部長から注意されればされるほど、彼は私に当たるようになってきたの!暴力も酷くなってきて…もうどうしようもないって思ったのよ。このままだと私が殺されるって…だから殺される前に殺してやっただけ!」
戸崎は藤本の腕を掴むと「行きましょう」と立ち上がらせる。
「あーあ、失敗したな。彼の誕生日にって思って今日にしたけど、まさか隣で4人も警察官が飲んでるなんて思わなったわ」
そう言うと、藤本はフッと力なく笑ってパトカーに連れて行かれた。
「おう、ご苦労だったな苗字」
「私何もしてませんよ」
「おまえのファインプレーのおかげだろ!」
「真実をつき留めたのは、私じゃなくて私の同期とお友達です!」
丸は「たしかにな。おまえらすごいじゃねえか」と言って笑う。
「ま、こんくらい余裕だろ!」
「何言ってんのさー陣平ちゃん。ほとんど降谷ちゃんの手柄でしょうに」
「零君、すごいね!シャーロックホームズみたいだったよ!」
「な、なんだか照れくさいな」
降谷ははにかみながらそう言った。
「お友達とやら、一般人にしとくのはもったいねえな。今からでも警察官目指せよ」
「そうですね。考えておきます」
「そんじゃ、俺は署に戻ってお仕事の続きでもしましょうかね」
「丸警部、お疲れ様です!」
名前がそう言うと、丸は怪訝そうな顔をして「何言ってんだよ!おまえも一緒に来るんだよ!」と名前の首根っこをつかまえた。
「え!?」
「当たり前だろうが!おまえが捕まえたようなもんだろ!」
「ま、ま、ま、丸警部…!私、今日非番で…!」
「非番だろ?呼ばれたら仕事しろ!」
「せっかくみんなで楽しく飲んでたんですよ!?」
「いつでも飲めんだろうが!さっさと戻って取り調べからの送検手続きするぞ!」
「わー!」
丸に連れて行かれそうになる名前は、降谷達の方を見て「ご、ごめん!そういう事だから、私はお仕事に行ってきます」と涙目で叫ぶ。
「仕方ないな」
「頑張れよー」
「名前ちゃんファイト!」
「またゆっくり会おうねー!」
「ほら行くぞ!」
連れて行かれた名前を見送った3人は、会計をすると居酒屋を出で、電車に乗って寮に帰る。
「いやー、まさか殺人事件に巻き込まれるとはな」
「せっかく楽しく飲んでたのにな」
「しかしすげえな、ゼロ!名探偵かよ!」
「ほんと!これ以上かっこよくなってどうするさ!」
降谷はジト目で2人を見ると「おまえ達、からかってるだろ?」と言った。
「んな事ねーよ!」
「よっ!名探偵!降谷ちゃんほどの洞察力があれば、本当に探偵になれるんじゃね?」
「どうだろうな。僕以上に向いている人間はいるだろう」
松田は「あの公園で会ったクソ生意気なガキとかな!」と言う。
「あのボウズか!ありゃー、大きくなったら絶対に探偵になるな!」
「将来有望だったな」
「まぁ、名前も知らないけどなー」
「何て呼んでたか覚えてる?」
「全く!」
「だよなー!」
そんな話をしていると、あっという間に最寄り駅に着いた。
「そんじゃ、今日はこのまま解散か?」
「明日も仕事だしな」
「名前も仕事してるみてえだしな」
松田は「空いてる日に連絡入れろよ」と2人に言う。
「ああ」
「今日は楽しかったよ。ありがとう!」