「やっぱり、仕事してるとなかなか当日に時間を作れないな」
「仕方ないよ。忙しいのに毎年一緒に来てくれてる零君には感謝だよ」
名前はそう言うと、お墓の前にしゃがむ。
「…もう3年か…」
松田の好きだった銘柄のタバコを1箱置いた後、形見として受け継いだ松田の予備のサングラスを横に置いた。
「…」
目を瞑り、両手を合わせた名前は「…絶対、捕まえるからね…」と小さな声でつぶやく。
そんな名前を、降谷は何も言わずにただ見守っていた。
「…よし、行こっか」
「ああ」
サングラスをカバンに戻し、名前は立ち上がる。
「それじゃあ、私はこのまま昨日の事件の聞き込みに向かうね」
「分かった。僕も仕事に戻るよ」
「じゃあまたね!」
そう言って歩き出そうとした名前を、降谷は「名前!」と呼び止めた。
「ん?」
振り返った名前に「名前…無茶はするなよ」と心配そうに声をかける。
「やだなぁ零君。心配性なんだから」
そう言って笑った名前の表情を見て、降谷は一抹の不安を覚えたが呼び出しの連絡が入る。
「ほら、零君も早く戻って」
「ああ…。今度、必ず時間を作るから、松田と萩原が好きだった居酒屋に行こう」
「うん、ありがとう」
次の日、名前はいつものように黒いインナーに黒いスーツを着て登庁した。
「目暮警部」
「何だね?」
FAXを受け取った高木は「警部!先程、このようなFAXが届いたのですが…多分イタズラだと思いますけど」と言いながら目暮の元に向かう。
その言葉を聞いた名前は「!!」と驚いた顔をして、高木に駆け寄った。
「見せて!」
「えっ?あ、ああ、はい」
名前は高木からFAX用紙を奪い取ると、内容を確認した。
「”今日行われる東京スピリッツ優勝パレードで面白い事が起る。楽しみにしていろ”…」
「面白い事?」
「警部…」
佐藤と白鳥も名前達の傍に来ると「見せてください」と言ってFAXの内容を確認した。
「…た、ただのイタズラでは?」
高木がそう言うと「…そうだな」と目暮が答える。
「…目暮警部、今日は何日ですか?」
「今日は、11月…7日だな」
「…」
白鳥は「警部、もしかしたらあの連続爆破犯からかもしれませんよ…」と言った。
「し、しかし…」
「…あの連続爆破犯は…まだ捕まっていません。11月7日、FAX…酷似要素が多すぎます」
「目暮警部、念のためパレードの警備を強化しましょう。私達も出ます!」
名前がそう言うと「だ、だが…君達3人は3年前に犯人に見られとる可能性が高いんだぞ」と目暮が答える。
「ですが!!」
「なら、変装して張り込みませんか?」
引こうとしない佐藤を見兼ねた白鳥がそう提案すると「…ウーム、分かった。だが、くれぐれも無茶な事はしないように。いいかね、佐藤君。それから苗字君?」と目暮が2人に念を押す。
「分かりました」
「…はい」
「それじゃあ3人は変装して、高木君はそのままでいいからパレードの現場に向かってくれ」
「はい!」
この場にいた高木だけが、その4年前の連続爆破事件の事を知らないのだが、名前と佐藤には聞ける雰囲気ではなく、急いで変装道具を取りに行く2人の背中を、ただただ黙って見送った。
変装道具の揃っているロッカーで、佐藤は「名前さん…」と名前の名前を呼ぶ。
「ん?」
「…あの時の犯人だった場合、名前さんはどうしますか?」
「どうするって…捕まえるよ。絶対に」
「…そうですよね」
「(だけど、今回のFAX…。多分、あの爆破犯じゃない気がするんだよね…)」
佐藤は着替えながら「…高木君には悪いんですけど、やっぱり、私にとって松田君は特別なんです」と言う。
「…うん」
「私の父の形見の手錠の話をした時、松田君、忘れる必要はないって言ってました」
「そうなの?」
「はい。前に進めるかは自分次第だって、私が忘れたら本当に父は死んじゃうって言ってたんです」
「…そっか」
名前は「フフッ、陣平らしいな」と言って小さく笑う。
「前に進みたいけど忘れる必要はないって、矛盾してませんか?」
「そう?そんな事ないと思うけど」
そう言った名前だが「でも、特別だからこそ…忘れたいって思う事もあるよ」と真逆の事を言う。
「大切な人を亡くしたっていう事実は、ずっと消えないんだもん」
「名前さん…」
「それに、たまに自分と一緒にいるせいでって思っちゃうんだよね」
名前がそう言うと、佐藤は「分かります!私もです…。私の好きな人はみんないなくなっちゃいましたから…」と悲しい顔で同意をした。
「先日、父を殺した犯人を捕まえました。捕まえたとしても父は返ってきませんが、それでも気持ちに区切りはつきました」
「うん、そうだよね」
「だからこそ、私はあの連続爆破犯を捕まえたいです」
そう言った佐藤に「私も、同じ気持ちだよ、美和子ちゃん」と名前も答えた。
「準備が終わった者から優勝パレードの捜査に向かってくれ」
「分かりました!」
名前は「そしたら2組に分かれようか」と提案する。
「はい」
「私と白鳥君、美和子ちゃんと高木君でいいかな?」
「え、苗字さん、それはちょっと…」
白鳥が異議を申し立てようとするが、名前は無視して「高木君は?」と質問をする。
「まだ準備中みたいです」
「そっか。それなら先に行ってようか」
「そうしましょう」
3人は車に乗って、東京スピリッツの優勝パレードの会場に向かった。
「すごい人ですね」
「本当に」
「なんでも、東京スピリッツが優勝するのは初めてみたいですよ」
「へー」
名前達が車を降りると、道路は優勝パレードを見に来た大勢の観客達で溢れかえっていた。
「こんなところで何か騒ぎでも起こされたら、大パニックですよ」
「そうだね…。とにかく、問題が起こらないように周囲に警戒をしよう」
「はい」
白鳥は「そしたら我々は向こうに。佐藤さんは高木君と合流した後、あちらをお願いします」と言う。
「分かったわ」
「苗字さん、行きましょう」
「うん」
二手に分かれて周囲を警戒していると、ミニパトに乗った林と宮本に声をかけられた名前。
「名前じゃん、その変装何?」
「凛子ちゃん!どうして変装って分かったの?」
「いや、分かるって!どんなに変装してても、名前っぽいなーって」
「その感覚が全然分かんない」
名前はそう言って笑うと、林は「それにしてもすごい人だよね」と言った。
「ねっ!東京スピリッツがJ1を初めて制したから、サポーター達の熱気がすごいよね」
「本当に」
「名前さんと白鳥君が変装してるって事は、何かの捜査ですか?」
宮本に聞かれた名前は「そうだよ」と答えた。
「えー!残念!高木君がトイレでカツラを選んでるところを見かけたんで、てっきり美和子と変装してデートにでも行くんだと思ってました!」
「そ、そんなわけないでしょう。今、勤務中だよ?」
残念そうに言う宮本に、名前は呆れた顔をする。
「2人の持ち場はどこですか?」
「あっちだよ」
「凛子さん!」
宮本に名前を呼ばれた林は笑顔で「おうよ!」と返事をしながらシフトレバーをドライブに戻す。
「ちょっと、何?」
「美和子をからかいに行ってきます!」
「こらこら」
名前の制止を無視して、2人はそのまま佐藤の元へ車を走らせた。
「行っちゃった」
「自由なお二人ですね」
「本当に…。仕方ない、私達も一回戻ろうか」
「そうですね」
名前と白鳥は佐藤の持ち場である反対側の道に戻るため、横断歩道を渡る。
「あ、いたいた」
「あれは、コナン君達ですね」
「本当だ」
変装を解いた佐藤と一緒にいたのは、高木ではなくコナンと少年探偵団の4人だった。
ミニパトを停めて、助手席から顔を出した宮本が何かを言っている姿が確認できる。
「刑事がそんな事やっていいのかよ?」
「服務規程違反ね…」
「あ、だから…」
「日本の将来が思いやられます…」
そんな話が聞こえて来たので、名前と白鳥が慌てて助けに入る。
「こらこら、みんな!」
「仕事ですよ、仕事!デートじゃありません」
「え…?」
「ど、どちら様ですかな…」
「も、もしかして名前刑事に白鳥警部!?」
名前達の格好を見た阿笠が「どうしてあんたらまで変装を?」と聞く。
「ついさっき本庁に妙なFAXが送られて来たんですよ」
「”今日行われる東京スピリッツ優勝パレードで面白い事が起る”って!」
「そのFAXが、前に私達が関わった事件の時の物によく似ててね!だから私達捜査一課も動いているのよ!」
「でも私達、その犯人に顔を知られちゃってるから、一応変装して捜査してたんだ」
佐藤は「まぁ、どうせ優勝を妬んだ誰かの質の悪いイタズラだと思うけどね」と続ける。