05

朝の清掃。

「鬼塚教場、手を休めるな!」

伊達は箒を片手に叫ぶ。

「とっとと掃除を終わらせて飯にするぞ!!」
「オウ!!」

近くで掃除をしていた降谷は「悪い松田、そっちのチリトリ貸してくれ!」と頼む。

「おうよ!その代わりちゃん後で返してくレイ!」
「つまらん、2点!」

そう言って笑い合う2人を見ながら、諸伏は「すっかり仲良しになっちゃったなぁあの2人」と言った。

「陣平ちゃんの親友の俺としては、ちとジェラっちまうねぇ」

そこに隣の教場の女子学生が、柵の向こうから萩原に声をかける。

「萩原くーん!次の休みの日、ウチらの教場との合コン忘れないでねー!」
「ああ任されてー♪」
「イケメンいっぱいそろえてよー!」
「そこの金髪の外人さんとかー!」

そんな女子学生の言葉に、伊達は「誰が外人さんだって?」と反論した。

「あ、いえ…」
「す、すみません教官…」
「失礼しましたああ!!」

そう言って女子学生たちは走って逃げて行った。

「教官じゃねぇっつーの!」
「それだけ貫禄があるって事じゃね?伊達班長!」
「萩原君嬉しそうだねー!」
「お、名前ちゃん、何何?ヤキモチ?大丈夫だって、女の子はみんな可愛いけど、名前ちゃんが一番可愛いからさ!」

そう言って萩原は名前にウィンクをする。

「あはは、ありがとう」

いつもの事だ、と名前は気にしていない。

「外守クリーニングです!制服受け取りに参りましたー!」

そこにクリーニング屋がやってきて、クリーニングに出す制服を渡す。

「いつも汗まみれですみません」
「いえいえ。いずれ、我々市民を守って頂くんですから、お安いご用ですよ!」







「やべぇ、英語の予習してねぇや」

食堂で学生が話をしている声が聞こえてくる。

「英語の教官、オレを目の敵にしてっから当てられそうで怖ぇよ」
「だったら降谷に教えてもらえよ」

そう言って、その学生は降谷に声をかける。

「見た目からしてペラペラなんだろ?」
「まあそれなりには…」
「さすが金髪のハーフ!」
「教官より英語できんじゃね?」

そんなことを言っている学生に伊達は近づくと、胸倉をつかみ「おい!!人を見た目で決めつけてんじゃねぇよ!!」と怒った。

「それに、爪楊枝なんかくわえていきがってんじゃねぇ!!ムシズが走る…」
「す、すみません!!」
「まあわかりゃいいんだ、次から気ィつけろよ!」
「…」

そう言って席に戻る伊達を見て、隣のテーブルに座っていた名前は「(だ、伊達班長怖い…!けど正論だよね)」と思った。

「なぁ班長、アンタもしかして降谷ちゃんの事好きなんじゃねーの?掃除の時も妙にかばってたし」
「はあ!?」

萩原の言葉に伊達は驚き、降谷は食べていたかつ丼を吹き出した。
そして、それは隣でうどんを食べていた名前と林も同じだった。

「お、おい名前、大丈夫かよ…」

松田は名前に水を渡すと、背中をさする。

「う、うん…!」
「ま、松田ァ!私にも水!」
「そこにあんだろ」
「ほんっとあんたの優しさは名前にだけね!」

入校してから1ヶ月が過ぎると、松田たちの呼び方が変わったのと同じように名前と林の呼び方も変わっていた。

「いいんだぜ?隠さなくても!俺、そーいうの気にしねぇし」
「んなワケねぇだろ!?俺、彼女いるし!!」
「え?」
「ええええええええ!?」
「(おまえら驚き過ぎ…そんで、隣のテーブルの苗字たちは驚かなさ過ぎ…)」

名前たちは”あんなにかっこいい伊達君に彼女がいないわけない派”だったので、伊達のカミングアウトには驚かなかった。

「まさか班長がリア充だったとはねー」
「この中で彼女持ちって、伊達班長だけってこと?」
「こんなに色男が揃ってるのに、悲しいねぇ」
「ハギ、おまえ思ってねーだろ」

全く悲しくなさそうに言う萩原に、松田はあきれた様に返す。

「林ちゃんはどうなのよ?」

萩原はそう言うと、名前の前に座っている林に話しかける。

「いると思う?」
「年上彼氏!」
「正解」
「え!凛子ちゃん彼氏いたの?」
「いたよー。名前ったらそういう話全然ふってこないんだもの」

林は名前のことをジト目で睨む。

「ご、ごめん」
「名前は恋愛に興味なさそうよね」
「うーん…興味がないわけじゃないんだけど…」
「そうなの?」

黙ってしまった名前の代わりに松田が「こいつに恋愛はまだ早い」と答える。

「あんたには聞いてないんだけど」
「それにまだって…苗字さんも同い年だろ?」

諸伏がそう言うと、松田は「そういう諸伏はどうなんだよ?」と話を変えた。

「オレ?」
「こん中じゃあ、ハギの次にモテるだろ?」
「そんなことないと思うけど…そうだな、今はやらなきゃいけないこともあるし、恋愛はいいかな」

そう言って諸伏が笑うと、後ろの席で聞き耳を立てていた別の教場の女子学生たちが黄色い声を上げた。

「ゼロは年上の女医だし、諸伏はこんな感じだし、華がねぇなー」
「松田は苗字さんと付き合ってるんじゃないのか?」
「はァ!?付き合ってねェよ!」
「ないないないです!」

松田と名前は、諸伏からの質問に同時に否定する。

「私たちはただの幼なじみだよ」
「腐れ縁だ」
「そうなの?ただの幼なじみには見えないくらい仲が良いから、てっきり隠れて付き合ってるのかと思ってたよ」
「隠れてって思ってんなら、んな所で言うなよ」
「でも付き合ってないんだろ?」

名前は何回も頷く。

「それに陣平の好きな人は他にいるよ」
「初耳だな!」

名前の言葉に降谷が面白そうな顔をする。

「名前」
「せ、正確に言うと、初恋の人…です」

怖い顔をした松田に睨まれ、名前は発言を訂正する。

「へぇー、初恋の人か。松田にもそんな人がいたんだな」
「おまえは俺をなんだと思ってんだよ」
「どんな人なんだい?」
「えっとね」
「名前」
「し、知りません…」
「デジャヴ」

諸伏は名前と松田のやり取りを見て笑った。



午後からは逮捕術の訓練がある。

「逮捕術とは、日本古来の武道をベースに被疑者及び、現行犯を逮捕拘束する為に練り上げられた技術である!」

鬼塚は逮捕術に関する知識を学生たちに伝える。

「有効打撃はアゴ・肩・胴・小手!攻撃手段は、突き・蹴り・逆・投げ・締め・固め・警棒・警杖・施錠など、何でもあり!」

学生たちは胴着に着替えると、短い警棒を持ち1対1で試合する。
男女で分かれて行われ、男子の方は伊達が勝ち進んでいた。

「一本!!それまで!!」
「班長鬼強じゃねーか!!」

松田は先に終わって座って観戦している萩原の隣に座る。

「俺なんか面が潰れたかと思ったよ」
「イテテ…」
「ただの殴り合いなら負けねぇのによォ」
「俺も女と車の扱いなら負けねぇぜ」
「あ、でもホラ班長彼女いるって」

諸伏の言葉に松田たちは何も言い返せなくなった。
女子の試合は、名前は最初の試合で負けた。

「凛子ちゃん頑張れ!」

勝ち進んでいる林を応援していると、隣で試合をしている男子の方がざわついているのに気づき、そちらに目を向ける。

「マジか!?伊達班長」
「10人抜きかよ!?」

名前は隣の試合場を見ると、その奥で休んでいる松田と目が合い、手招きをされたので、邪魔にならないように急いで松田の傍に行く。

「班長ヤバくね?」
「すごいね!でも、凛子ちゃんもすごいんだよ!」
「あいつゴリラだろ」
「こら」

鬼塚が「次!降谷!!」と名前を呼ぶと、降谷が「はい!」と返事をする。

「こいつは見物だねぇ」
「学科の成績は降谷が上だけど、コレはどうなるか…」
「行けえゼロ!リア充野郎に負けんじゃねーぞ!!」
「やっぱそこ?」

萩原は松田の言葉に苦笑すると「陣平ちゃんもだいぶリア充側だと思うけどねー」と言った。

「始めィ!!」

降谷と伊達の試合は、ヒザを痛めている伊達に情けをかけた降谷の負け。
そんな降谷に伊達は「凶悪犯に情けなんて通用しねぇ…こっちが弱さを見せたら最後、とことん付け込まれて、待っているのは親父のような最悪の結末だけ…。誰よりも強くなければ正義は遂行できねぇんだよ!!」と力強く言った。

「俺は何か間違った事を言っているか?」
「…」
「伊達班長、何かあったのかな…?」
「…まあ、あったんだろうな」





夕食後の自由時間になると、名前と林は学習室で自習をしていた。

「本当に付き合ってないんだ?」
「だからー、そうだって言ってるよー」

林にそう聞かれた名前は、大きなため息をつきながら答えた。

「でもさー、名前はどう思ってるの?」
「え?」
「口は悪いし傍若無人だけどさ、松田、顔かっこいいじゃない?」
「そ、それはそうだけど」
「名前にだけ特別優しいから、そういうのでコロッといかないの?」
「…あれは、色々理由があるんだ」
「理由?」
「うん…陣平だって、本当に優しくしたくてしてるわけじゃないんだよ」
「そうなの?」
「…うん…」

名前はそう答えると、それ以上何も言わない。
そんな名前を見て、林は不思議そうな顔をするが、それ以上追及することはせず、読んでいた本に目線を戻した。



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