05

杯戸町の高層マンションで避難誘導が行われる少し前、奥穂町の高層マンションで解体作業をしていた松田達の班は、時間内に解体作業を終えていた。

「フゥ…」

松田は爆弾解体が終わると、防護服を脱いで一服する。

「さすが松田君。あっという間に解体終わったな!」
「こんな単純な仕掛けなんだぜ?3分もありゃ十分だろ」
「ハハハハッ!さすが爆発物処理班のエースの男だな!言う事が違うぜ!」

先輩隊員にも臆せず話す松田は「フゥ…」と息を吐く。

「もう1箇所はどうなってる?」
「それが、解体が間に合わなかったようで、犯人の要求を吞む事になったそうです」
「マジかよ」

近くにいた隊員に聞くと、松田はタバコをひと吸いすると、携帯灰皿を取り出す。
火を消した後、吸い殻を携帯灰皿に入れると、松田は「あっちに向かう」と言って車に乗り込む。

「第一現場、爆発物処理、完了!なお、松田隊員同乗。第二現場に出向」

班員が無線を入れて、松田達は第二現場である杯戸町の高層マンションに向かった。

「ったく、ハギの野郎、さっさとバラせってんだよ」
「松田君が早すぎるだけだと思うけどね」
「俺がノウハウ教えたんだぜ?」
「ハイハイ。現場は杯戸町か?」

松田は「杯戸町?」と聞く。

「何?聞いてなかったのかよ。奥穂町と杯戸町の高層マンションだって、朝の朝礼で言っただろ」
「ああ。そうだったな」
「何?杯戸町に何かあるの?」
「ん、いや…」

松田は幼なじみである名前の顔を思い出していた。





車を走らせて十数分、機動隊の車両から松田が降りて来る。

「ご苦労だったな、松田」
「萩原の方は?」
「ああ。犯人の遠隔によってタイマーが止まってる。今、解体作業中だそうだ」
「…にしては時間がかかりすぎてんな…」

松田はそう言うと、携帯を取り出して萩原に電話をかける。
コール音が続くが、萩原はなかなか電話に出ない。

『松田、何の用だ?』

ようやく電話に出た萩原に、松田は「萩原!おまえ何のんびりやってんだ!さっさとバラしちまえよ!」と怒鳴る。

『おいおい、そうがなりなさんな。タイマーは止まってるんだ。そっちは終わったのか?』
「ああ。開けてみたら案外単純な仕掛けだったからな。あの程度なら」
『”3分もありゃ十分だ”だろ?』
「チッ」
『ハハハハハッ』

萩原が笑うと、松田は「そっちはどうなんだ?」と聞いた。

『ああ。こっちは3分というわけにはいかないようだ。基本的には単純なんだが、何しろトラップが多くてな…』

萩原は爆弾を見ながら『どうやらこっちが本命だったみたいだな』と松田に伝える。

「ああ。ところでおまえ、ちゃんと防護服は着てるんだろうな?」
『アハハッ!あんな暑っ苦しいもん、着てられっか』
「馬鹿野郎!死にてぇのか!名前もさすがにキレるぞ!」

萩原の回答に、松田は大きな声を出す。

『名前ちゃんに怒られるのは勘弁だな〜。星座占い最下位同士、今日は昼に天ぷら食うって約束したしな!』
「だったらちゃんとしろよ!」
『分かってるって!ま、そん時は敵を取ってくれよ』
「怒るぞ…」
『ハハッ、冗談だよ、冗談!俺がそんなヘマするわけねぇだろ』
「とにかく、さっさと終わらせて下りてこいよ。いつもの所で待ってるからな」
『おっ、いいねぇ。まずは2人で打ち上げか!そういうお誘いとあらば、エンジン全開といきますか』

松田は少し安心したが、萩原の『何!?』という焦った声が聞こえてきたため、嫌な予感に変わった。

「どうした!?萩原!」
『みんな逃げろ!逃げるんだ!!』

萩原は松田の問いかけには応えず、現場にいる機動隊員達に叫んでいた。

『タイマーが生き返ったぞ!!』

電話口から聞こえてきた言葉を、松田は理解できなかった。

「萩原…おい、萩原ァ!!」

萩原の名前を呼んでも応答はなく、何かの物音だけが聞こえてくる。
そして、その数秒後には爆弾が爆発し、20階のフロアの窓ガラスは全て割れ、炎が上がる。
その様子をマンションの外から見ていた松田。

「萩原…萩原あああああ!!」





20階のフロアが爆発する少し前、名前は住人の避難が終わり、マンションの前に戻って来ていた。

「とりあえず、爆発物処理班から処理が完了したという連絡が入るまで、ここで待機かな」
「分かりました!」

山中からの待機指示を受けて、名前はマンションから少し離れた所に移動した。

「あ、陣平だ!」
「あ?陣平?」

佐々木が名前に聞くと「あ、爆発物処理班に所属してる、私の同期で幼なじみなんです」と説明する。

「へー。優秀な幼なじみなんだな」
「はい!まあ、性格は褒められたものじゃないんですけどね」

そう言って名前は笑う。

「それで言ったら、もう一人。さっきこのマンションの爆弾を解体しに入った同期の方が優秀かもしれないですね」
「同期に爆処配属が2人もいんのかよ」
「そうなです!2人とも、昔からの友達で、とっても仲良しなんですよ!」
「おまえだけがそう思ってる可能性もありそうだな」
「さ、佐々木さん!酷いです!」

佐々木が意地悪そうな顔をしてそう言うと、名前は「ちゃんと仲良しですよ!幼稚園からここまでずっと一緒なんですから!」と反論した。

「マジかよ、そりゃあ仲良しだな」

佐々木は驚いた顔をした。

「そんじゃあ、そんな優秀な同期君に、さっさと爆弾処理してもらって俺らは早く交番に戻ろうぜ」
「そうですね。そろそろ終わるかなー?」

そう言って名前がマンションの方を見た瞬間、20階のフロアから大きな音が聞こえて炎と黒い煙が上がった。

「…え?」

遠くの方で、萩原の名前を呼ぶ松田の叫び声が聞こえて来たが、名前はマンションから目が離せなかった。

「爆発した…!?」
「け、研ちゃん…」

名前は急いで携帯電話を取り出すと、萩原に電話をかける。

『おかけになった電話は、電波が届かないとこにいるか、電源が入っていないためかかりません』

何度かけても同じアナウンスが流れるだけで、萩原は電話に出ない。

「研ちゃん…ウソでしょ…」
「あ、おい!苗字!」

名前はマンションの方に走るが、途中で警察官に止められる。

「ここは危ないですから入らないでください!」
「ま、待ってください!中に、中に入った爆発物処理班の人達に!」
「危ないですから、下がってください!」

マンションの中に入ることはできず、入り口で追い返された名前は松田を探す。

「じ、陣平!」
「…名前…」

名前は松田を見つけると、急いで駆け寄った。
松田は、携帯電話を片手に呆然としていた。

「さ、さっき研ちゃんがマンションの中に入って行ったけど…ど、どこにいるか知ってる?」
「…」
「さっきから何度かけても電話が繋がらなくて…」

名前は松田の両腕を掴むと「ねえ!まだ中にいたなんて言わないよね?研ちゃん、どこにいるの?」と聞く。

「…解体途中だったんだよ…」
「…え?」
「まだ…中にいたんだよ。あいつの班、誰も…戻って来てねえよ…」
「ウ、ウソ…」
「…」
「ウソだ…」

名前は松田の事を見るが、松田は何も言わず、ただただ悔しそうな顔をして握りこぶしを作った。
そんな松田の姿を見て、松田が言っている事が正しいという事を嫌でも理解した名前はその場に崩れ落ちた。

「研ちゃん…!研ちゃん!」
「…クソ野郎…」




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