ビルの真ん中ほどの階まで行くと、男が拘束されているのを発見した。
「気を失っているみたいだ」
降谷が先に入って、男の傍に寄る。
「日本人じゃねえな」
「大丈夫かな?頭から血が出てるけど…」
「大丈夫か?」
降谷が男の肩を叩くと、意識を取り戻した男がうろたえる。
「あっ、あっ…!」
「落ち着け。俺達は刑事だ」
松田は警察手帳を取り出すと、男に見せる。
「刑事だ。け・い・じ!分かるか?」
「陣平…日本人じゃないんだから、いくらゆっくり言っても日本語は分からないと思うよ?」
名前があきれた様に笑う。
『逃げろ』
「あ?」
「ロシア語だ。逃げろと言っている」
降谷は落ちていたガラスの破片を使って、拘束されている男のロープを切る。
「先に下りてろ。警察に止められたらこの名刺を見せるんだ」
松田は男に名刺を渡すが、男は困惑した表情を見せる。
『先に下りてろ。警察に止められたら、その名刺を見せるんだ』
男はロシア語を話しだした降谷に驚きながらも、松田から名刺を受け取る。
隣の部屋からドンッ!という物音が聞こえてくると、男は「あっ!」と驚く。
「まだお客さんがいるみたいだな」
「誰…!?」
隣の部屋を見ながら松田がそう言う。
『俺は逃げるぞ!』
男はそう言うと、部屋から逃げて行った。
降谷が拳銃を取り出すと「さすが、何でも持ってやがるな、公安は!」と松田が茶化す。
隣の部屋に通じる扉を蹴り開けると、降谷は「動くな!」と言って拳銃を構える。
中にいたのは奇妙なマスクをかぶった人物で、その後ろには水色とピンク色をした液体が入った機械が置いてあった。
「マズいな」
「あれって…」
「何だ?」
松田は後ろにある機械を見て「後ろにあるのは爆弾だ」と言った。
「やっぱり…」
「下手に撃ったらドカンの可能性がある。あの大きさだと、このビルにいたらまずオダブツだ」
「止められるか?」
「止められないとでも?」
「フッ。頼んだよ」
マスクの人物は拳銃を取り出すと、3人に向かって構える。
「チッ!」
「キャッ!」
降谷が名前を庇うように抱きしめながら壁に隠れて銃弾から身を隠す。
バンッバンッバンッ!と3発撃ってから、マスクの人物が逃げて行く。
「待て!」
降谷は隣の部屋に戻り、中の様子を確認すると「僕はヤツを追う!松田は早く爆弾を!」と言う。
「ああ。そっちこそ頼むぜ」
「うん」
「えっ!零君1人で行くの!?」
「ああ!名前は松田を頼む!」
そう言うと、降谷はマスクの人物を追い、松田は爆弾の解体作業を始める。
降谷は外階段に出ると、下を見る。
上から銃声が聞こえてきたので、急いで階段を上ろうとするが、上から外れた扉が降ってくる。
間一髪のところで扉を避けると、扉はそのまま下に落ちて行って下に止まっていた車の上に落ち、その衝撃で車のドアが外れた。
降谷は急いで階段を上り、建物の中に戻るが、マスクの人物はどこにもいなかった。
「下に下りた…?ハッ!マズい!狙いは松田達か!」
爆弾を解体していると、足音が聞こえてくる。
「ん?」
「じ、陣平…」
名前達が入って来た扉からマスクの人物が現れ、松田に拳銃を向ける。
「てめえ…楽しい楽しい爆弾の解体中だってのに、邪魔してんじゃねえ!」
「陣平!」
名前は松田に覆いかぶさるように抱きしめて、拳銃から守ろうとする。
「名前!?」
名前に向かって1発撃たれるが、名前と松田の前に壊れた車のドアを持った伊達が現れる。
「班長!」
「苗字もいるのに、丸腰で銃持ってるヤツにすごんでんじゃねえ!」
伊達はそのままマスクの人物に向かって、ドアごと体当たりをする。
マスクの人物は伊達の体当たりを難なく避けるが、後ろから諸伏に手を蹴り飛ばされて持っていた銃を手放す。
宙を舞う拳銃を、諸伏が掴むと拳銃を構える。
「ヒロ!」
「諸伏君!」
「ゼロは無事?」
「すまん、助かった」
上の階から下りて来た降谷が合流する。
「ヤツがぶっ壊した車のドアを持って来て正解だったな」
マスクの人物は外に逃げると、その後を諸伏と伊達が追う。
「待て!」
その人物は、手首に仕込んでいた鉤付きのロープを隣のビルに発射させると、そのロープを使って隣のビルに飛び移ろうとする。
「くっ…クソッ!」
マスクの人物を走って追って来たままの勢いで階段の手すりから落ちそうになる諸伏を、伊達が後ろから掴む。
「2人とも避けろ!」
そんな2人の後ろから、降谷は拳銃でロープを狙う。
「逃がさないよ」
降谷の撃った弾はロープに当たって切れるが、その前にマスクの人物は隣のビルに渡り終えていた。
諸伏が拳銃を撃つが、階段の内側に逃げ隠れてしまい弾は当たらない。
「チッ!」
「班長!頼む!」
降谷はスーツのジャケットを脱ぎ捨てると、伊達に向かって助走を切る。
「んっ、マジかよ!」
伊達の作った両腕の土台を踏み台にして、降谷は隣のビルへと飛び移った。
「無茶しやがって!」
「ヒロ!班長!まだこいつの仲間が潜んでいるかもしれない。松田達を頼む!」
隣のビルから降谷が叫ぶと「お、おう。おまえも気をつけろよ!」と伊達が答える。
「ああ!」
降谷はマスクの人物を追って、屋上に向かう。
そんな降谷を見た諸伏は「班長、オレはゼロの援護に回るよ。ヤツは只者じゃない。1人で相手するにはキツイと思う」と言う。
「おう、じゃあ頼む」
「ああ」
そう言うと、伊達は松田達の元へ、諸伏は隣のビルに向かう。
「何で俺を庇ったんだよ!」
「と、咄嗟に…?」
「バカじゃねえの!自分の身を守れよ!」
「ご、ごめん…。だけど、次に同じような事があっても、私はきっと陣平を庇うと思うよ」
「チッ!…大バカ野郎だよ!」
「野郎じゃないもん」
松田は「ハァ…!」と大きなため息をつきながら、解体作業を進める。
「おう、どうだ?」
「まだまだ」
戻って来た伊達に聞かれた松田は「結構複雑だな」と言った。
「苗字、おまえああいう時はせめて何か使って身を守ってくれよ」
名前が松田を丸腰で庇った事に、伊達も呆れていた。
「えへへ」
「おまえら2人は丸腰なの忘れてただろ!」
「き、気をつけます」
名前は頭を掻きながらそう言った。
「んで?ヤツは?まだ逃げてるだって?」
「仲間がいるかもしれんしな」
松田は「いねえよ」と言った。
「え?」
「いたら俺を殺そうと戻ってこねえだろ」
「そ、そうだな」
「フッ、班長。ガム持ってねえか?噛むと集中できる」
伊達はポケットからガムを取り出しながら「どいつもこいつも…もう班長じゃねえんだがな」と言った。
「班長は永遠の班長だよね〜」
外から爆発音が聞こえてきたので驚く3人。
爆発音が鳴る少し前。
隣のビルの屋上に着いた降谷は、マスクの人物を見つけようと周りを見渡しながら、ゆっくり進む。
降谷の後ろから出て来たマスクの人物は、手に持っていた黒い物体を降谷に向かって投げる。
「んっ、手榴弾!」
降谷は投げられた手榴弾を掴むと、空に向かって投げた。
「ふっ!」
空中で爆発した手榴弾だったが、その爆発に巻き込まれた降谷は壁に寄りかかるように倒れた。
マスクの人物は、降谷の落とした拳銃を拾うと降谷に向かって構える。
「う…」
1発の銃声が聞こえるが、降谷には痛みがこない。
閉じていた目を開けると、マスクの人物が撃たれて右肩から血を流していた。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
屋上に着いた諸伏が、マスクの人物の右肩を撃ち抜いたのだった。
「ゼロ、無事か…?」
「ヒ、ヒロ…」
マスクの人物は諸伏の拳銃から逃げると、そのまま屋上から飛び降りた。
「クソッ!」
諸伏はマスクの人物の後を追いかけようとするが、降谷がそれを止める。
「待てヒロ…。ヤツは手負いだ。あとは応援に任せよう…」
「くっ…大丈夫か?ゼロ」
「ああ、助かったよ、ヒロ」
諸伏は降谷の腕を自分の肩に回して立ち上がらせると、松田達のいる隣のビルに戻る。