「それ以上の詮索は無用です、毛利さん」
白鳥は真剣な表情をして「Need not to know…そう言えばお分かりでしょう?」と言う。
「なっ!?」
驚いている小五郎を無視して白鳥は「さ、苗字さんも行きましょう。目暮警部が呼んでいます」と言って、その場を離れた。
「Need not to know…”知る必要のない事”だと?バカな!」
うな垂れている小五郎の姿を見て、名前は「…本当に毛利さんにも言わなくていいの?もしかしたら、力になってくれるかもしれないよ?」と白鳥に聞く。
「目暮警部の決定ですし、今回の話は部外者に伝えない方が良いです」
「それは…そうかもしれないけど」
白鳥は高木の方を見ると「それにしても、君はすぐに情報を漏らす」とあきれた顔で言う。
「ぼ、僕だって言いたくて言ったわけじゃないですよー!」
「美和子ちゃんの事が好きなの、コナン君にもバレバレなんだね」
「苗字さん!」
名前が高木をからかっていると「敏也!なぜおまえがここにいる」という小田切警視長の怒鳴り声が聞こえてきたので、名前は声のする方に目を向ける。
「ここはおまえのようなヤツが来る所じゃない」
敏也は、父親である小田切敏郎警視長の言葉を無視して煙草に火をつける。
「このパーティーにも招待されていないはずだ」
「うっせえな!仕事でたまたまこのホテルに来ただけだよ!」
敏也も同じように怒鳴り返す。
「まあ。いいじゃないですか警視長!」
白鳥が2人の傍に駆け寄ると、小田切をなだめる。
「敏也君、ゆっくりして「出ていけ!」
白鳥の言葉を遮る小田切。
「野良犬が餌をあさるようなマネはやめてな」
「何だと!」
「敏也さん!」
佐藤が敏也に近づくと、後ろから肩を掴んで止める。
「けっ…!」
タバコの火を消すと「邪魔したな!」と言って、ギターケースを持って会場から出て行く。
「あっ!敏也君!」
パーティーも進み、各々が自由に過ごしていると「佐藤君」と、目暮が名前と話をしている佐藤に声をかける。
「あの事だが…」
「私は結構です」
「しかし…」
「ご心配なく」
目暮にそう言うと、佐藤はそのまま会場を出る。
「お…おい…」
「目暮警部!私が一緒に行きます」
「苗字君、すまんが頼む」
「任せてください」
クロークに向かう佐藤を追いかける名前。
「美和子ちゃん」
「名前さん」
「何で断っちゃうの?」
佐藤は名前の問いかけに「まだそうだと決まったわけじゃないじゃないですか」と答えた。
「だからって!念には念を、じゃない?」
クロークで荷物の預け札を渡すと「38番お願いします」と係に声をかける佐藤。
「はい」
「あ、私も、37番お願いします」
「かしこまりました」
それぞれ荷物を受け取ると、2人でお手洗いに向かう。
「美和子ちゃん、私は心配だよ」
「名前さん…あんまり心配しなくて大丈夫ですって」
パウダースペースでメイクを直していると、トイレの個室から出て来た蘭に気づく。
「あら、蘭ちゃん」
「あっ、名前刑事と佐藤刑事」
「警察官ばっかりで、おかしなパーティーでしょ」
「いえ、それよりお二人も気をつけてくださいね」
「えっ?」
ハンカチで手を拭きながら、蘭は名前と佐藤を心配する。
「だって、刑事さんが次々と撃たれてるから…」
「大丈夫よ!私、タフだから!」
「もう!そんな事言って。蘭ちゃん、ありがとう」
そう言って名前と佐藤が笑うと、その瞬間、トイレの電気が消える。
「どうしたのかしら?」
「停電?」
「おかしいわね。様子見てくるから、動かないで」
「美和子ちゃん、動かない方がいいんじゃない?」
「でも、ここにいても仕方ないですし」
そう言うと、佐藤は真っ暗中を手探りで歩き出すと、トイレの出入り口に向かう。
「そしたら私も一緒に行くから」
「名前さんは蘭さんと一緒にここで待っててください」
「でも」
名前も佐藤の後を追うように歩き出す。
そんな2人を見ていた蘭だったが、洗面台の下の物入れが光っている事に気づくと、扉を開ける。
中には懐中電灯がつけっぱなしで置いてあった。
「佐藤刑事、名前刑事、こんな所に懐中電灯が!」
「えっ?」
「懐中電灯?」
壁を伝いながら歩いていた名前と佐藤は、後ろを振り返る。
「ほら」
蘭は懐中電灯を持ち上げると、名前達の方を照らす。
「ッ!」
照らされたトイレの出入り口には、拳銃を持った人間が立っていた。
そして、その人物は佐藤に向かって拳銃を向ける。
「アッ!」
佐藤は急いで蘭の方に駆け寄ると「ダメ!蘭さん!」と叫ぶ。
「美和子ちゃん!!」
パシュッ!パシュッ!と2回、銃声が聞こえると、銃弾は佐藤に当たる。
「うっ!」
「佐藤刑事!」
「美和子ちゃん!」
名前は咄嗟に拳銃を撃ってきた人物と佐藤の間に入る。
すぐにもう2回、銃声が聞こえる。
「クッ!」
1発は名前の腹部に当たり、もう1発は洗面台を打ち抜き、水が勢いよく吹き出す。
蘭が持っていた懐中電灯に水が当たると、懐中電灯が蘭の手から離れて宙を舞う。
「あっ…」
もう1発拳銃が撃たれるが、その弾は蘭の顔の横を通り過ぎる。
「あっ!」
佐藤が蘭の体の上に倒れ込むと、支えきれず蘭も一緒に床に倒れる。
名前は、その場にしゃがみ込むと、腹部を押さえながら佐藤達の方を見る。
「み…美和子ちゃん…蘭ちゃん…」
拳銃の弾を撃ち尽くした人物は、拳銃をトイレに捨てるとそのまま走り去っていった。
その後すぐに、消えていた電気が点く。
「蘭ちゃん…大丈夫?」
「は、はい…」
蘭は体を起こそうとする。
「佐藤刑事…」
自分の体に力なく倒れている佐藤の肩を揺らしながら「佐藤刑事、しっかりして…」と、蘭が呼びかける。
「美和子ちゃん…大丈夫?」
名前も佐藤に近づくと、痛む腹部を押さえながら声をかける。
「美和子ちゃん!?」
「ああ…」
倒れている佐藤からは、血が流れ続けていた。
「私が…」
蘭は、両手についた血を見て「わ…私が懐中電灯を…イヤーッ!」と叫ぶと、そのまま気を失う。
「ら、蘭ちゃん!大丈夫!?」
コナン、小五郎、高木が蘭の悲鳴を聞いて女子トイレに駆け付ける。
「ハッ!」
「蘭!」
「佐藤さん!」
3人はトイレの中を見て、急いで倒れている佐藤と蘭に駆け寄る。
「おい蘭!大丈夫か!」
小五郎が蘭に呼びかけると「蘭姉ちゃんは気を失ってるだけだよ。重症なのは…」とコナンが佐藤を見ながら言う。
「佐藤さん!佐藤さん、しっかりしてください!」
高木が佐藤を抱き起す。
「名前刑事は大丈夫?」
「う、うん…」
「って、血が出てるよ!名前刑事も撃たれたの!?」
コナンは、名前の押さえている左側腹部を見ると、青い顔で聞く。
「1発だけね」
「名前刑事…」
遅れて目暮、小田切、白鳥の3人もトイレにやって来る。
「こ、これは…!」
「目暮、救急車だ!白鳥、ホテルの全ての出入り口を封鎖しろ!」
小田切が2人に指示を出す。
「はっ!」
白鳥は返事をすると、急いでトイレから出て行く。
目暮は携帯を取り出すと、救急車を呼ぶ。
「もしもし、こちら米花サンプラザホテル15階です。女性が銃で撃たれました!大至急、救急車を回してください」
「急げ!全ての出入り口を封鎖だ!」
ホテルの入り口に救急車が到着し、名前、佐藤、蘭がそれぞれ救急車に乗る。
「目暮警部」
「なんだね?」
「私は大丈夫なので、目暮警部は佐藤の方に付き添ってください」
「だ、だが…」
「大丈夫です。こんなの、佐藤に比べたらかすり傷ですよ!」
名前は、目暮の負担にならないよう痛みをこらえながら笑う。
「…分かった」
目暮は返事をすると、佐藤を乗せた救急車に同乗する。
「苗字さーん!大丈夫ですか?すぐに病院に搬送しますよ!」
救急隊員の呼びかけに「はい、大丈夫です…」と答えつつ、名前の意識はそこでなくなった。
米花薬師野病院に運ばれた名前と佐藤は、それぞれ手術室に運び込まれた。
2人の入った手術室の前で、目暮がウロウロしていると、捜査がひと段落した白鳥や高木、そして小五郎や英理達がやって来た。
「目暮警部、苗字さんと佐藤さんの容体は?」
白鳥が目暮に聞く。
「苗字君は、左側腹部を撃たれていて、弾の摘出手術が行われているそうだが、幸い、命に別状はなさそうだ」
「良かったです…」
「佐藤君は、弾の一つが心臓近くで止まっている。助かるかどうかは、五分五分だそうだ」
「えっ…!」
目暮の言葉を聞き、高木と白鳥は青い顔をする。
「警部さん、蘭は?」
「幸い、外傷はありませんが、まだ意識が戻りません。病室はこの奥です」
目暮が通路を指さすと、妃と園子は蘭の病室に向かう。
「白鳥君、捜査の方は?」
「全員の硝煙反応を調べましたが、出ませんでした」
「出ない?」
「犯人は、出入り口を封鎖する前に逃走したものと思われます」
そこに、パーティー会場で捜査をしていた千葉が合流する。
「拳銃から指紋は?」
「それも出ませんでした」
「千葉君、配電盤の仕掛けは特定できたかね?」
「はい。どうやら、携帯電話の呼び出しで爆発する仕掛けになっていたようです」
千葉が答えると「懐中電灯も、蘭さんの指紋が残っているだけでした」と続けた。
「それなら、蘭は自分のせいで佐藤刑事と名前刑事が撃たれたと思ったはずだ…」
千葉の言葉を聞いて、小五郎が顔を伏せながらそう言った。
その後、目暮と白鳥は、今回の事件が1年前の事件と関係している可能性がある事を、小五郎、英理、そしてコナンに教えた。