聞き覚えのある声に、名前と林は顔を上げると、学習室の入り口に松田と萩原が立っていた。
「陣平と萩原君」
「何してんの?」
「夜のお散歩のお誘いに来たよ」
「お散歩?」
「そ!今から諸伏ちゃんと降谷ちゃん誘って外に出るんだけど、一緒にどう?」
萩原の誘いに林は「私はパス。明日の予習しておきたいし」と言って断った。
「あららフラれちまったぜ」
「それなら私も」
「おまえは強制連行」
「え!」
「あ、名前!コンビニでチョコ買ってきて」
「り、凛子ちゃん!?」
松田に連れて行かれる名前からの助けを求める声を無視して、林は手を振った。
「なんで私まで…」
「予習する必要ねーだろ」
「必要あるから予習してたのに…」
「名前ちゃんごめんね。陣平ちゃんがどーしても名前ちゃんと一緒にコンビニ行きたいんだってさ!付き合ってやってよ」
「仕方ないなぁ」
「つかコンビニより先に行く所あんだろ」
「そうなの?」
入り口で立ち止まる2人につられて名前も一緒に立ち止まる。
「諸伏君たちは?」
「すぐ来るよ」
「諸伏がゼロ呼びに行ってる」
松田がそう言うとの同時に、諸伏が入り口に現れた。
「お待たせ。あれ、苗字さんだ」
「こんばんは、諸伏君。陣平に強制連行されました」
「そっか」
「ゼロは?」
「行かないって。特に必要な物もないからって言うからおいてきた」
「んじゃあ俺たちで行くか」
「それで、どこに行くの?」
「言ってないの?」
「バイクショップ」
松田はそう言うと、そのまま歩き出す。
「バイクショップ?」
「ごめんね。苗字さんはバイクショップとかは興味ないよね」
「白バイはかっこいいなって思うけど、バイクショップは行った事ないなー」
名前がそう言うと、諸伏は「そうだよね」と言って苦笑した。
「でも何しに行くの?」
「ちょっと聞きたい事があんだよ」
「聞きたい事?」
目的のバイクショップに到着すると、4人は店の中に入り、松田が店員に話しかけた。
「ちょっと聞きてぇんだけどよ」
「はい?」
「陣平…態度…」
「ここにゴブレットのタトゥーが入った奴が来てたろ?そいつのこと知りたいんだけど」
松田にそう聞かれた店員は「な、何でスか?そんなこと教えられないっスよ」と言った。
「はぁ?なんで教えられねぇんだよ!?」
店員の返答に納得できない松田は「そのゴブレットのタトゥー野郎はこの店の常連なんだろ?」と続けて聞く。
「だから、何でその人を捜しているんスか?」
「おい諸伏言ってやれ!」
そう言うと、松田は後ろにいる諸伏の方を見る。
「その男を捜してるワケってヤツを!!」
「…そ…それは…」
「諸伏君?」
「それは…」
諸伏の顔はどんどん青ざめていき、体が震えていた。
そんな諸伏を見て、名前は「だ、大丈夫?」と声をかける。
「諸伏…」
「ウチとしてもねぇ、理由もなしにお客さんの個人情報を教えるワケには」
「だーかーら、その訳ってヤツを忘れちまったっつってんだよ!!教えねぇとパクるぞテメェ!!」
「はぁ!?」
「ちょ、ちょっと陣平!」
本当に逮捕しそうな勢いの松田を止めようとした名前は、萩原の「あー!思い出した!」の声に驚いてその場に止まる。
「え?」
「え?お前が?」
「ホラ、道場で班長が言ってただろ?親父がどうのこうのって」
「あー、なんか言ってたな」
「俺、子どもの頃見た事あるなぁと思ってたんだよ。班長によく似たマユゲのオッサンがコンビニでヤクザ風の男にボコられてるの。あれ、やっぱ班長の親父さんだったんじゃ」
「その話、もっと詳しく聞かせろ!!」
そのまま話始めようとする萩原に「さすがにそろそろ門限だから、戻りながら話さない?」と名前が伝える。
「それもそうだ」
「諸伏、本当にいいのか?」
「…うん」
「すみません、お騒がせしました」
そう言って、4人はバイクショップを出た。
「で、さっきの話の続き」
松田がそう言うと、萩原が「あの日、俺がコンビニに行ったら木刀持った男が入って来たんだよね」と話し始めた。
「土下座して謝ってたけど、なんかのタイミングでその男が班長の親父さんを木刀でボコボコにしててさ。その後は、確かパトカーが来て男がコンビニから逃げてった気がするんだよね」
「てことは、親父さんは警察官なのに捕まえようとしねぇで土下座してたってことか」
「そういうこと」
「なるほどなー…確かに、そんな事があったんなら伊達班長が親父さんの事を腰抜けだと思っちまうのも無理ねぇな…」
「ああ。現職の警察官が犯罪者に土下座だからねぇ」
松田は「まぁ班長の気持ちもわからなくねぇよ。俺も親父が殺人容疑で誤認逮捕された時、人殺しの息子だと言われまくって親父のこと嫌いになりかけてたから…」と言った。
「陣平…」
「俺の場合、ジムの人達に”親父を信じて待て”って言われて気持ちを折らずにいけたんだがな」
「へぇー」
「それに、こいつもいたしな」
そう言って、松田は隣を歩く名前を指さす。
「黒歴史をばらさないで」
「黒歴史?」
「こいつ、俺以上にそう言ってきた周りの連中に泣きながら怒って怒鳴ってたんだよ。”陣平ちゃんのお父さんがそんなことするはずないでしょ!”って」
名前は恥ずかしくなり、思わず両手で顔を隠す。
「ランドセル振り回してよー、あれは忘れられねぇな」
「名前ちゃんかっこいいねぇ」
「若気の至りです」
そう言って恥ずかしそうにする名前を見て、松田は笑うと、そのまま後ろを振り返る。
「だから諸伏よォ、昔何があったか知らねぇけど、話してくれたら俺らのしょーもない助言が何かの助けになるかもしれねぇぜ?」
「た…た…す…け…て…」
「今かよ!?」
「ち、違うよ!ホラ!」
諸伏は奥の通りにあるコンビニを指さすと「奥の通りのコンビニの…看板の明かり!まるでモールス信号みたいに点滅して」と言った。
「おいおいありゃー…」
「みたいに、じゃねぇな」
「な、何かあったのかな?」
「あんなことができんのは、ウチの学生だろ」
「…ゼロか?」
「降谷君!?」
4人は急いでコンビニの前に向かうと、扉の前に貼ってある貼り紙を見つける。
「改装中?」
「ならなんで電気ついてんだ」
「改装中の貼り紙って、こんなペラペラじゃないよね」
「…立てこもりか、何が狙いだ…」
「ど、どうしよう…大丈夫かな?」
萩原は「…中に何人いるかわからないし、人数は多いに越したことはない。一回戻って人を集めてこよう」と提案した。
「だな」
「俺たちはもっと強そうに見える服に着替えるか」
「なめられないように?」
「おう」
「急ごう!」
4人は警察学校に戻ると、名前は学習室にいる学生たちに声をかけた。
「ご、ごめんなさい!協力してほしいことがあるんだけど…」
「名前?」
「あ、凛子ちゃん!」
「何何?どうしたのー?」
「じ、実は…」
事情を説明すると「もちろん協力するよ!」と、学習室にいた学生たちは建物の外に出る。
「陣平!お待たせって、すごい恰好だね!」
「強そうに見えんだろ」
ジャケットのインナーを柄物に変えて、サングラスをした松田、萩原、諸伏の3人を見て、思わず吹き出す名前。
「陣平と萩原君は似合ってるけど、諸伏君はなんだか可愛いね」
「可愛いかな?」
「バカなこと言ってねぇで、さっさと行くぞ!」
「うん!」
集まった学生たちと一緒に先ほどのコンビニ向かう。
駐車場に停まった車を見て「あれは…警備会社の車。ってことは、犯人たちの狙いはATMの現金補充の金か」と、中にいる人間の狙いに気づく。
「急ごう。警備会社の人達が中に入ったら、その後すぐに入るぞ」
「おう」
「名前、おまえは俺たちが合図したら全員で一緒に入って来い」
「わかった」
現金の入ったケースを持って警備会社の人間がコンビニの中に入っていくのを確認した松田は「行くぞ!」と、萩原と諸伏に声をかけた。
「オウ!」
肩を組んでコンビニの中に入ると、3人で一斉に「チョリース♪」と大きな声を出した。
「おいマジか!?アレってライフルじゃね?」
「チキってんじゃねぇよ!!映画とかの撮影用のパチモンだっつーの!」
「ねぇねぇ何の映画?オレらも出させてよー!」
「あ、いや…」
犯人たちに話しかけていく松田たち。
「おいみんな!エキストラで出させてくれるってよ!」
萩原のその言葉を合図に、名前たちは全員でコンビニの中に入る。
「ウソー!ホントに映画の撮影!?」
「マジでテンアゲなんだけどー♪」
「何ィ!?」
3人だけだと思っていた犯人たちは、十数人が一気に入って来たことに驚いた。
そして、そのまま学生たちは犯人を取り押さえる。
「降谷君たちの姿が見えないけど…」
「多分あの扉の向こうじゃないかな?」
諸伏が店の奥にある扉を開けると、そこには予想通り降谷と伊達、そしてコンビニに来ていた客たちがいた。
「待たせたなゼロ!」
「ヒロ!それに苗字さんも」
「2人とも大丈夫?」
「ああ…でも何で?」
「看板のモールス信号を受けて犯人たちを制圧しに来たんだよ!力じゃなくて数でね」
店内を見て、降谷は「なるほど、警察学校の学生に客を装わせてここに集結させたのか」と納得した。
「こりゃまた明日鬼塚教官に大目玉だな」
「まあ、班長の親父さんがやろうとした事をやったまで。そうだよな?ハギ!」
「ああ!」
松田の言葉に驚く伊達。
「実は班長の親父さんがヤクザ風の男にボコられてた時、俺もそのコンビニにいたんだよ!」
「い、いたのか?あの現場に!?」
「班長は血まみれの親父さんに気を取られて気づかなかったかもしれねぇけど、あの後男の仲間が数人店内に入って来てさ」
萩原はその日のことを思い出しながら、伊達に思ったことを伝える。
「親父さんは気付いてたんだよ、店内にいた男を捕まえても仲間に加勢に入られたら勝ち目がない。警察の仲間が駆けつけるまで店の奥に避難してた人達に近づけないよう足止めしてたんだよ!だから、あの土下座は命乞いなんじゃなく、ここだけ班長!」
そう言って萩原は伊達の胸元を拳で軽く殴る。
「誰も傷付けてたまるかっていう、警察官のハートがそうさせたんじゃねーの?」
その言葉に、伊達は自分が父親のことを勘違いしていたことに気づいたのだった。