07

名前と松田は、次の日の告別式が終わった後、降谷達に捜査一課を目指す事を伝えた。

「松田は、まあ分かるが名前まで…」
「ごめんね零君。私も、自分の意思で決めたんだ」

降谷は少し困った顔をしたが、名前が一度決めた事はまげない性格だという事を知っているため、それ以上は何も言わなかった。

「だが、危ない事をするのは無しだぞ。もちろん、それは松田、おまえにも言える事だ」
「分かってるよ。俺だって、考えなしじゃねえからな」
「でも、そういう事ならオレ達も協力するよ」
「だな!俺達で協力すれば、爆弾犯なんてあっという間に見つかるだろ」
「諸伏、班長…」

伊達は「けど、捜一って実力もそうだけど、コネとか運も必要だろ?苗字はともかく、松田は大丈夫か?」と聞いた。

「失礼だな班長。俺だって、いつまでも子どもじゃねえんだよ!」
「そうか?」
「名前は何か当てがあるのか?」
「私は、この前ウチの署の丸警部から強行犯係にいる同期を紹介してもいいって言ってもらえてるから、丸警部にお願いしてみる」

名前は、数日前にした丸との会話を降谷に教えた。

「いつの間に」
「さすが苗字さんだね。しっかり人脈作ってる」
「でも、前の居酒屋での事件がきっかけだから、私よりも零君達のおかげなんだけどね」
「オレ達が参加できなかった飲み会か」
「うん。そのおかげで声をかけてもらえたから、後は自分の実力で警視庁に行けるよう頑張る」

名前がそう言うと、降谷は「分かった。だが、本当に無理はしないでくれよ。僕もできる限りの事は協力するから」と言った。

「零君、ありがとう」





寮に戻った名前は、机に飾っている警察学校入校式の日に松田と萩原の3人で撮った写真を見つめる。
そして、その横に置いてある萩原からの手紙とタバコを手に取ると、ベッドに腰かけた。
少しピンクがかったシンプルな封筒で、表には萩原の少し癖があるが読みやすい文字で”名前ちゃんへ”と書いてあり、裏返すと右下には”研二”と書かれてある。
名前は、ゆっくりとシールをはがすと中の手紙を取り出した。
中には便箋が1枚。
読み進めていくうちに、名前の瞳からは涙がこぼれていた。

「…ッ」

最後まで読み終わった名前は、便箋が折れないように優しく抱きしめて「け、研ちゃん…ッ、ありがとう…」と呟いた。







次の日、名前は重たい瞼を開ける。

「…朝か…」

洗面所で顔を洗った名前は、鏡で顔を見ると「酷い顔…」と呟く。
冷凍庫から保冷剤を取り出して、腫れた目元を冷やす名前。
なんとかメイクをすると、いつものように家を出て杯戸警察署を目指す。



「おはようございます」
「ああ、苗字。おはよう」
「おはよう」

一人ひとりに挨拶をしていると、刑事課から丸がやって来た。

「苗字」
「丸警部。おはようございます」
「ああ。おまえ、大丈夫か?」
「はい」
「聞いたよ。あの時、爆処にいた同期の色男…」

丸がそう言うと、名前は「…丸警部、お願いがあります」と言った。

「あ?」
「…先日、私に捜査一課強行犯係にいる同期の方を紹介してもいいとおっしゃってくださいましたよね」
「ああ、そう言ったな」
「お願いしたいんです。私、刑事になりたいです」

迷いのない瞳で真っすぐ丸の事を見つめてそう言い切った名前に、丸は「…本気なんだな?」と聞いた。

「はい!」
「…分かった。そんじゃあ今度時間作れ。同期に連絡しとくからよ」
「あ、ありがとうございます!」

名前はお礼を言うと、朝の準備に戻っていった。
そんな名前を見ていた丸に、戸崎が話しかける。

「丸警部、いいんですか?」
「ああ?」
「どう考えても、彼女の目的はあの爆弾犯を捕まえる事ですよね」
「だろうな」

戸崎は「わ、分かっていて了承したんですか?」と少し驚いた顔をした。

「大事な人間を亡くして、自暴自棄になられるくらいだったら、復讐でもなんでもいいからちゃんと生きる目標があった方がまだマジだろ」
「…そうでしょうか」
「まあ、あいつを見てたらそんなバカな事は考えないだろう。どっちかっつーと、もう1人いた爆処の男前の方が心配だろ」
「え?」
「仲良さそうだったしな。同期があんな風に殺されて、あの単細胞っぽい小僧がどう動くか…」
「た、たしかにそうですね」

丸は頭を乱暴に掻きながら「まあ、そいつの監視役みたいなもんだろ、苗字は。だから大丈夫だろ」と言った。

「丸警部は、苗字さんの事を気にかけていますよね」
「ん?まあな」
「何か理由があるんですか?」
「別に大した理由はねえよ」

丸はそう言うと「ホラ、さっさと戻るぞ」と言って歩き出した。





数日後、名前は丸と一緒に警視庁刑事部に顔を出した。

「ちょっとここで待ってろ」
「はい!」

名前は廊下で丸が戻って来るのを待っていた。

「あれ?苗字さん?」
「諸伏君!」

名前の名前を呼んだのは、公安部に所属している諸伏だった。

「何してるの?」
「今日は非番だったから、この前話してた丸警部の同期の方を紹介してもらいに来たんだ」
「そっか。良い人だといいね」
「うん。少し緊張してる」

そう言うと、名前は「諸伏君は、休憩中?」と聞いた。

「うん。さっきまで研修があったんだけど、それが終わってようやく休憩だよ」
「なら早く休んでね」
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。こんな所で苗字さんに会えると思わなかったから、後でゼロに自慢しよっと」
「零君も元気そう?」
「ここ数日は警察庁の方にいるから会ってないんだよね。苗字さんも?」

諸伏に聞かれた名前は、一回頷くと「うん。結構忙しいみたいで、連絡も夜遅くに”帰ったよ”くらい」と答えた。

「なんだかごめんね」
「ううん!零君の事を考えると、一言でも連絡をくれるのが優しいなって」
「だね。ゼロは本当に苗字さんの事大好きだからね」

諸伏はそう言うとニコッと笑った。

「松田は大丈夫?」
「…うーん、どうだろう」
「そっか…」
「でも、理由はどうであれ少しずつ前を向いてる事には変わらないから…」
「そうだね」

そんな話をしていると、刑事部から丸が男性を連れて戻って来た。

「待たせたな、って誰だ?」
「あ、丸警部」
「苗字さんの同期です。それでは」
「またね」

諸伏はそれだけ言うと、その場から立ち去った。

「苗字、おまえの同期は男前が多いな」
「た、たまたまですかね〜」

名前は「アハハッ…」と苦笑する。

「オッホン」
「おっ、すまねえ。忘れてた」
「丸君、人を呼び出しておいてそれはないだろ」

丸は「悪い悪い」と言いながら名前の方を見る。

「苗字、こいつがこの前言っていた俺の同期の…」
「め、目暮警部補!?」
「ん?どこかで会ったかね?」

名前が名前を聞く前に自身の名前を呼ばれた目暮は、不思議そうな顔をした。

「あっ、多分目暮警部補は覚えていらっしゃらないかと思いますが、私が高校生の時にお世話になった事があるんです」
「高校生の時?」
「っつーと、何年前だ?」
「えっと、6年くらい前ですかね?」
「よく覚えてんな」

名前が目暮に「毛利刑事と一緒に、私がストーカー被害にあった時に…」と言うと、目暮が「ああ!」と言った。

「昔、毛利君が所轄の刑事だった時に一緒に逮捕した、あの高校教師の」
「はい!そうです」
「いや〜あの時のお嬢さんか。ずいぶん立派になって」
「おい目暮、セリフが爺くせえぞ」
「ワシがジジイなら君も一緒だろう…」

目暮は丸の事をジッと睨む。

「丸警部の同期の方って、目暮警部補だったんですね」
「苗字、こいつはもう警部だぜ」
「えっ、あ!失礼しました目暮警部!」
「構わんよ。それで、ワシに何の用かな?」

名前は目暮に「私、捜査一課強行犯係の刑事になりたいと思っているんです!なので、できる事がないかと思って来ました」と言った。

「ホォー、刑事に?」
「はい!けど、捜査一課に配属されるには実力も大事だけれど、繋がりも大事だと聞きました」
「なるほどな。だからワシを紹介したのか」
「おう。こいつは頭の回転が早くて洞察力がある。意外と根性もあるから、俺はおすすめだぜ?」
「君が言うなら間違いないだろうな。分かった。できる限り、ワシも協力しよう」

目暮がそう言うと「あ、ありがとうございます!」と名前は頭を下げた。

「まあ、ワシもノンキャリだし、どこまで力になれるか分からんがな」
「私、時間がある時はなるべくこちらに顔を出してお手伝いしたいと思っているので、色々と教えていただけると嬉しいです」
「あまり無理せんようにな」
「はい!」

名前は「そういえば、毛利刑事は今どこにいるんですか?」と聞いた。

「ああ、毛利君なら刑事を辞めて、今は米花町で探偵事務所を開いておるよ」
「えっ!?」
「まあ、あんまり繁盛しとらんらしいがな」
「そ、そうなんですね」

目暮は「いつか毛利君が名探偵になったら、我々と一緒に仕事をする機会もあるかもしれないな」と言って笑った。

「そうですね」
「じゃあ目暮。こいつの事、頼んだぜ」
「ああ、分かった。上にも話しておこう」

名前はもう一度目暮にお礼を言うと、丸と一緒に警視庁を出た。

「丸警部、ありがとうございました!」
「おう。俺ができるのはここまでだ。後は、自分の努力でなんとかするんだな」
「はい!」



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