『本当にすまない…』
「いいよ、気にしないで!」
『この埋め合わせは必ず…』
「零君、そんな風に思わなくていいんだよ。零君が忙しい事は分かってるから。こうやって時間を見つけて連絡をくれるだけで、私は嬉しいよ」
会う事はできないが、降谷は毎日の連絡は欠かさず行っていた。
基本的にはメール、時間がある時は電話で。
名前は、本心でそう言っていたが、降谷は申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
『…名前は本当に僕でいいのか?』
「零君…」
『付き合う時にも言ったが、僕は本当に君を幸せにできているか?』
「…その時にも言ったけど、私は零君がいるだけで幸せだよ。でも、もし…私の存在が零君にとって負担になっているなら、その時は言ってね」
『そんな事はない!僕にとって、名前は何よりも大事だ!』
降谷の返事を聞いた名前は「フフッ、そう言ってくれるだけで私は嬉しい!」と笑った。
「ただ、体が資本だから、無理だけはしないでね」
『ああ、ありがとう』
「そうだ。実はね、次の4月から警視庁に配属が決まったんだ!」
『そうなのか!』
「うん!」
萩原の死から約2年と半年が経ち、名前は警視庁捜査一課強行犯捜査三係への配属が決まった。
『良かったな、おめでとう』
「ありがとう!ようやくスタートラインって感じだよ」
降谷はフッと笑うと『あんまり無理するなよ」』と言う。
「うん!目暮警部から聞いたんだけど、2年前から本庁に数字だけが書かれたFAXが送られてきてるんだって。11月7日に」
『ああ。僕も聞いたよ』
「ただの悪戯だといいんだけど、毎年11月7日にカウントダウンみたいに数字が3、2って下がっていくから…」
『今年は1か…』
名前は「うん」と言って頷く。
「11月7日が…偶然じゃないのなら、きっとあの爆弾犯は0になる年に何か仕掛けてくるかもしれない。陣平とそれまでに絶対捜査一課に異動しようって約束してたから異動が決まって良かったよ」
名前はそう言いながら、コルクボードに飾ってある写真を見た。
そこには警察学校入稿時に撮った、萩原と松田の3人て写っている写真や、卒業式の時の写真などが飾られていた。
警察の寮から出た名前は、今は都内で一人暮らしをしていて、なかなか会えない降谷に合鍵を渡しており、短時間でも降谷が遊びに来る。
『今、萩原の事を考えているだろう?』
「えっ?」
『萩原のために名前と松田が頑張っているのは知っているが、少し妬けるな』
「も、もう〜!零君ったら!」
名前が少し焦った声を出すと、降谷は『冗談だよ。いや、少しは本気かな』と言った。
「れ、零君もそういう風に思う事ってあるんだね」
『そういう風って?』
「その、し、嫉妬とか…」
『あるに決まってるだろう?僕を何だと思ってるんだ?』
「だ、だって…」
言葉を詰まらせた名前の代わりに降谷は『松田の事は、もうとっくの昔に慣れたし、あいつから名前への感情は恋愛じゃないだろ?だから気にならないが、萩原は…』と言った。
「萩原君は…?」
『…いや、何でもない』
「…零君」
『他の男のために熱心になる恋人を見るのは妬けるから、ほどほどにしてくれよ』
「善処します!」
『そう言うと思った』
降谷は返事をするとフッと笑った。
「この前班長に会ったんだけど、さらにがっしりしてたよ〜!」
『班長か。この前連絡があったな』
「零君の事気にしてたよ。無理してないかーって」
『今度返信しておくよ』
「そうしてあげて!そういえば、最近諸伏君は元気にしてる?」
『っ!』
名前が聞くと、降谷は一瞬黙る。
『…ヒロ?』
「うん。諸伏君とも全然会えてないから元気なのかなって。やっぱり忙しい?」
『…ああ』
「諸伏君にもほどほどにねって伝えておいてね」
『…分かった』
「?」
諸伏の話なのになぜか歯切れの悪い降谷に、名前は不思議に思ったが何も聞かなかった。
こういう時の降谷に聞いても明確な答えはもらえないと知っているからだ。
「わっ!もうこんな時間だ!長々とごめんね」
『いや。今日はちゃんと話ができて良かったよ』
「私も!」
『今度の休みはデートしような』
「うん!楽しみにしてるね!」
『ああ。おやすみ』
「おやすみなさい」
4月になり、今日から警視庁捜査一課強行犯係に配属となった名前。
「う〜!さすがに緊張するな…」
警視庁の前で足を止め、携帯を取り出す。
一番上にある降谷からのメールを開くと、昨日から何回も目を通した文章にもう一度目を通す。
”明日から捜査一課の刑事だな。スタートラインだな!無理はするなよ。”
簡潔な文章だが、名前は嬉しそうに笑って何度も画面を見る。
「なーにやってんの!」
「わっ!」
そんな名前の背中を思いっきり叩いたのは、名前達の同期である林凛子だった。
「凛子ちゃん!?どうしてここに?」
「エッヘヘッ、実は私も今日から警視庁なんだよねー」
「ウソ!?この前会った時は何も言ってなかったよね?」
「名前の事を驚かせようと思って!」
そう言うと林は「警視庁交通部交通執行課に配属が決まりました!」と敬礼をする。
「ビックリした〜!でも嬉しいな!」
「私は名前が捜査一課の刑事になった事にビックリよ」
「そうだよね」
「でも、名前らしいと思う。私も応援するから、今日からまた頑張ろうね」
「うん!」
2人は一緒に庁内に入ると「それじゃあ私はあっちだから!」と言って別れた。
「ここか…」
刑事課のあるフロアに到着すると、名前は中に入る。
「あっ、目暮警部!」
「おお、苗字君。よく来たな」
「はい!今日からお世話になります」
目暮を見つけた名前は、駆け寄って挨拶をする。
「うむ、期待しとるぞ」
「ご期待に沿えるよう全力で頑張ります!」
「目暮」
「おお、村中!」
目暮と話している名前の元に、捜査一課課長の村中務がやって来た。
「む、村中警視正!」
「今日から配属の苗字だな」
「は、はい!本日付けで警視庁捜査一課強行犯係に配属となりました苗字名前です!よろしくお願いいたします!」
「元気があってよろしい。それじゃあ目暮、後は頼んだ」
「分かった」
そう言うと、村中は自分の部屋に戻って行った。
「目暮警部は村中警視正と同期なんですか?」
「ああ。ヤツが一番の出世頭だと思っとったが、あっという間に警視正だ。さすがはキャリア組だな」
「そうだったんですね」
「さて、こんな所で時間を潰しとる暇はないぞ。君の他にもう一人、今日から配属が決まった刑事がいるから、まずは全員と顔合わせだ」
「よろしくお願いします!」
目暮はそう言うと、捜査一課強行犯三係のメンバーを集めた。
「諸君、今日から配属された2人だ。簡単に自己紹介をしてもらった後、それぞれに先輩刑事をつける」
「分かりました!」
先に、名前と同時期に新しく配属となった刑事が簡単な自己紹介をする。
「綾瀬進です。米花警察署から転属となりました!よろしくお願いします」
「次!苗字君」
「はい!」
名前を呼ばれた名前は、強面の先輩刑事達のを見ながら軽く深呼吸をして、自己紹介を始める。
「杯戸警察署より転属となりました苗字名前です!本日からよろしくお願いいたします!」
そう言って頭を下げた名前を見た捜査一課の刑事達は、表情を崩した。
「いや〜こんな娘みたいな子が入ってくるとはな!」
「2人とも若いねー!」
「女の子の配属は久々じゃねえか?」
「だな!」
そう言いながら嬉しそうに2人を見る刑事達に、目暮は「こらこら、そんなに詰め寄るな」と注意した。
「よし、それじゃあ綾瀬君を長さん、苗字君を戸崎君が見てくれ」
「えっ、戸崎って…」
「お久しぶりです、苗字さん」
名前は刑事達の奥から出て来た戸崎を見つけると「戸崎刑事!」と名前を呼んだ。
「どうしてここに?」
「去年から私も警視庁に異動になっていたんです」
「そうだったんですね!」
戸崎は警察手帳を取り出すと「初めてお会いした時は警部補だった私も、今では警部です」と言って、名前の上の役職を見せる。
「戸崎警部!」
「その呼び方は堅苦しいので止めて下さい」
「分かりました。それじゃあ戸崎さん、で」
「いいでしょう」
名前と戸崎の隣では、高木長介と綾瀬が同じように言葉を交わしていた。
「それじゃあ長さん、戸崎君。2人の事を頼みましたよ」
「おう、任せとけ」
「お任せください」
戸崎は名前に向き合うと「これからよろしくお願いします、苗字さん」と言った。