04

降谷が黒の組織に潜入し、潜入捜査員になった後、名前の元に降谷からの連絡は来なくなった。
名前も、潜入捜査中に連絡をする事はやめた方がいいと判断し、降谷に連絡をする事はなかった。
名前と降谷が連絡を取らなくなって、はや半年以上が過ぎていた。

『それで、ゼロから連絡は?』
「ううん、ないよ」
『…そうか。まあ、今日はハギの命日だし、どっかのタイミングでゼロも墓参りに来るだろ』
「…うん」
『それじゃあ、また3時頃にお寺集合な。班長にも連絡入れた』
「了解。また後でね」

松田からの電話を切った名前は、黒いスーツを着て登庁した。
11月7日、警視庁には、今年も数字だけが大きく書かれたFAXが届き、今年は大きく数字の”1”が書かれていた。

「目暮警部、またです」
「また今年もこれか」
「本当に、毎年毎年何なんでしょうね」
「うーん、分からんな。まあ、ただの悪戯だろう」
「そうですね」

そう言って白鳥はFAX用紙をゴミ箱に捨てる。
そんなFAX用紙を、名前は怖い顔で睨んでいた。



「名前さん」
「美和子ちゃん」

10月に捜査一課強行犯係に配属された佐藤美和子が、名前に話しかけてきた。

「今日は黒いスーツなんですね?珍しい」
「…うん、まあね」
「何かあるんですか?」
「ん、ちょっとね。ごめん、私ちょっと出るから、後はよろしくお願いね」
「どこかに行かれるんですか?」
「うん。ちょっと野暮用でね」
「分かりました」

名前は本庁を出ると、渋谷にあるお寺に向かった。

「…あれから3年、か…。きっと、来年こそは…」

名前はそう呟くと、運転している車のハンドルをギュッと握り締める。







数日後、その日は非番で、少し遠出をしていた名前。
行き先を決めず、電車に乗ってぶらりと旅をするのもいいだろう、と思い、目的地を決めずに電車に乗っていた。
適当に下りた駅でベンチに座って次はどうしようかと考えていると、隣に座っていた老人に話しかけられた。

「すみませんが、米花町にはどうやって行けばいいのだろう?」
「米花町ですか?少し時間はかかりますが、隣のホームの東都線に乗っていけば一本で行けますよ」
「おやまあ、ご親切にどうも」
「いえいえ。こう見えても私、警察官なんです。市民の味方ですよ!」
「立派なお仕事だね。ありがとう」
「お気をつけて!」

老人を隣のホームまで送った名前に、中年の女性が話しかけてきた。

「ねえ、あなた」
「はい?」
「警察官って本当?」
「はい。今日は休みですが、警察官ですよ」

そう言って名前は警察手帳を取り出して見せる。

「なら良かったわ!さっき、あっちのホームで長髪のニット帽をかぶってサングラスをした目つきの怖い男に、可愛らしい男の子が怒鳴られていたのよ」
「えっ?」
「隣にはフードをかぶった髭面の男もいてね、何かあったのかもしれないから見てきてくれない?事件になったら大変よ!」
「そ、そうですね」
「ほら早く!」

女性はそう言うと、名前の手を引っ張り、問題のホームに連れて行く。

「ここよ!あの辺にいたわ!ああ、ほらあの子よ!」

名前は女性に言われた方に視線を向けると、たしかにそこには男性とストライプのシャツに半ズボンを履いた男の子が一緒にいた。
しかし、何かトラブルになっているようには見えない。

「あれは、大丈夫なのではないでしょうか?」
「私が見た長髪の男がいないわ!戻って来たらまたトラブルになるかもしれないから、ちょっと注意してきなさいよ!」
「わ、分かりました…」

ここで断るともっと大変な事になりそうだ、そう思った名前はしぶしぶその男性と男の子の元へ向かう。

「ほら、こうやって弾くと綺麗にドレミが鳴るだろう?」
「本当だ!すっごいね!」
「あ、あの〜…」

名前は後ろから2人に声をかけると、振り返った男性の顔を見て驚きの声を上げそうになる。

「も、もろ!!」
「ッ!?」
「ん?どうしたんだ?」
「あっ…」
「ど、どうして…?」

名前は振り返った男性、諸伏に質問をしようとするが、後ろから別の男性に「あの、僕の連れに何か?」と声をかけれて固まった。

「…あっ」
「何かお困り事ですか?もしそうなら、駅員がいるので呼んできましょうか?」

そこにいたのは、帽子を目深にかぶった降谷だった。
しかし、名前の知っている降谷ではなく、どこか冷たい印象の降谷だった。

「な…なんでもないです…」
「そうですか。おい、スコッチ。そろそろ行くぞ」
「あ、ああ。けどまだアイツが…」

そこに、もう一人別の男性が合流した。

「あ?誰だ?」

その男性に睨まれた名前は「あっ、の…その…」と何も言えずにいると「どうやら、僕達をこの子の人さらいと勘違いしたようで、保護のために声をかけてくださったみたいです」と降谷が代わりに応える。

「丁度いい。おい、こいつを頼む」

そう言うと、その男性は名前に買ってきた切符を渡した。
そして、男の子の腕を掴むと「最寄りの駅からの帰り道は分かるな?ならさっさと帰れ」と言って、名前の方に押す。

「まっ、待ってよ!」
「いいから!今度こんな真似をしたらただじゃおかねえからな」

長髪の男性はそう言うとホームに到着した電車に乗り込んだ。

「行こう」
「…ああ」

降谷と諸伏も後を追うように電車に乗り込む。
その時、降谷は一瞬名前の方を振り返るが何も言わず、すぐに視線を電車の中に向けた。
電車がホームを出発しても、名前は降谷達の乗った電車を少しの間見つめていた。

「…大丈夫?」

名前はホームに残された男の子に話しかける。

「…うん」
「それじゃあお姉さんと一緒に帰ろうか。私は警察官だから怪しい者じゃないよ。安心してね」
「…別に怪しいだなんて思ってないよ」
「それなら良かった。あなたのお名前は?」
「…ボクの名前は世良真純…」
「真純君?」
「ひどいなあ!こう見えてもボクは女だよ!」

そう言った世良に、名前はぎょっとした顔をして「えっ!?本当!?ご、ごめんなさい!」と言って謝った。

「アハハ、いいよ。男に間違えられるのは慣れてるから」
「う〜…本当にごめんね。慣れてるからと言って、間違えられたくないよね」
「別にそこまで気にしてないけど、お姉さん優しいね」
「いやー…」
「お姉さんの名前は?」
「私は苗字名前。警視庁捜査一課の刑事だよ」

それを聞いた世良は「そうなんだ!警察官って言うから交通課とかなのかなって思ったけど、刑事なんだね」と驚いた。

「うん」
「さっきの人達って、名前さんの知り合い?」
「え?全然、知らない人だったよ」
「ふーん…。あの長髪のニット帽被った人がボクの兄貴なんだ」
「え!?」

名前は先ほど話した長髪の男性を思い出すと「でも、たしかに顔立ちが似てるかも…」と言う。

「ただ、ボクと秀兄は年が離れてて、あんまり話した事がなくてさ。それで、向こう側のホームにいた秀兄を見つけて、思わず後をつけちゃったんだ」
「そうだったんだ」
「うん。何回か乗り換えてここまでたどり着いたんだけど、結局見つかっちゃって、帰れって怒られちゃった」
「お兄さんも、きっと忙しかったんだろうね。でも、真純ちゃんに会えて嬉しかったと思うよ」
「…そうかな?」

世良が答えたタイミングでホームに電車が来る。

「乗ろっか」
「うん」

電車に乗り込んで、空いている席に座る2人。

「ねえ、名前さん」
「ん?」
「家族でもさ、分からない事ってたくさんあるんだね」
「…そうだね。大切な人であればあるほど、分からない事は多いんだろうな」

名前がそう答えると、世良は「…ボク、兄貴は2人いるけど姉貴はいないんだ。名前さんがボクの姉貴だったら良かったのに」と言い出した。

「えっ?」
「名前さん優しいし、それに強くてかっこいい!」
「そ、そうかな?」
「ボクも将来は秀兄や名前さんみたいに、誰かを守れる強くてかっこいい大人になりたいな」
「そう思えるなら、きっとなれるよ!」
「本当?」
「うん。真純ちゃんなら、きっとなれる!」

世良はニッコリと笑うと「名前さん、ありがとう!今日は名前さんに会えて嬉しかったよ!」と言った。

「私も、真純ちゃんのおかげで会いと思ってた人に久しぶりに会えたから嬉しかったよ」
「えっ?ボクのおかげって?」
「フフッ、内緒」



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