学習室で自習をしていた名前を見つけた松田と萩原が「休みなんだから息抜きすんぞ!」と、名前を無理やり外に連れ出し、買い物や映画などを楽しんだ。
「いや〜それにしてもかっこよかったなぁ。警察官のハートがそうさせたんじゃねーの?って!あんなセリフ言ってみてぇ!」
コンビニの立てこもり事件に巻き込まれてから数日、松田はあの時の萩原のセリフを思い出しながらそう言った。
「こらこら陣平ちゃん。面白がってんのわかってるからね」
「萩原君も嫌なことは嫌って、ちゃんと言わないと陣平には届かないよ?」
「嫌じゃないから大丈夫」
そう言って萩原は笑う。
「っと、そろそろ時間か」
「あ?」
「今日だっけ?他の教場の女の子たちと合コン」
「そうそう!頼まれると断れない主義なんだよねー!」
「誰が来るの?」
「女の子たちは、たしか大森教場の子たちで、こっちはいつもの5人だよ」
「え?伊達班長も?」
「そ!」
「えー…彼女いるのに合コン行くんだー班長…」
名前は彼女のいる伊達が参加すると知り、少しだけショックを受けた。
「まあまあ、たまにはいいじゃないの!息抜きも大事っしょ!」
「そうかなー…私だったら嫌だけどなー」
ぶつぶつとそんなこと言いながら名前は時計を見ると「それじゃあ私は寮に戻るから、あんまりハメ外しすぎないようにね」と言って歩き出そうとする。
しかし、松田によって止められた。
「おいコラ、一人で帰ろうとしてんじゃねぇ」
「え?まだ明るいし、大丈夫だよ?」
「よくねぇから。寮まで送る時間あるし」
「陣平ちゃーん」
松田の行動を制止しようと、萩原が声をかけるが「いいから!」と松田は強めに反論する。
「俺が一緒にいられる時は、一緒にいてぇんだよ。おまえの為じゃなくて俺の為なんだ。何かあってから後悔すんのはもう嫌なんだよ」
「陣平…」
そんな松田の様子に、萩原は呆れたような顔をするが「仕方ない、ここは陣平ちゃんに甘えたら?」と名前に言う。
「本当に時間大丈夫?」
「…少しくらい遅れたって平気だろ」
「陣平」
「俺を遅刻させたくないならさっさと行くぞ」
「萩原君、ごめんね」
「ううん。名前ちゃん気を付けて帰ってね。陣平ちゃんはまた後でー!」
「おー」
松田は名前の右腕を掴むと、寮に向かって歩き出した。
「ここからなら徒歩だし、本当に気にしなくて良かったのに」
「さっきも言ったけど、これは俺の為なんだよ」
「陣平…」
横目で松田のことを見ながら「(もしかしたらあの時のことで、私と同じくらい…陣平の心にも深い傷が残ってるのかもしれないな…)」と名前は心の中で思った。
次の日、朝の清掃時間で名前と林は松田たちと一緒になる。
「ゲホゲホ、おはよう名前ちゃん!」
「萩原君おはよう。す、すごい声だね」
「昨夜カラオケで歌い過ぎてノド痛いのよ…」
「そりゃーよーごさんしたねぇ」
「いっぱい歌ったんだね!」
諸伏は「カラオケでも萩原の独壇場だったからね」と名前に教えた。
「カラオケでも?」
「うん。その前の居酒屋でも萩原が来た瞬間からぜーんぶ持っていかれたよ」
「流石萩原君だ〜」
「まぁ、なんだかんだ女子は好きよね。萩原みたいな男の人」
林がそう言うと「男のオレから見てもかっこいいと思うしな」と、諸伏が同意する。
「でも諸伏君と降谷君だってモテモテだったんじゃない?」
「ゼロは年上の女医さんにしか興味ないからな」
「大事な人なんだね」
「うん」
「それで、松田はどうだったの?」
「松田は、彼女いるか聞かれて、速攻でいないってバレてたな」
「うるせぇ!」
「それに苗字さんの話ばかりするから、みんな苦笑いしてたよ」
「ふーん。本当に松田は名前のこと好きね」
「多分話してたのって私の悪口だよ」
名前が、昨夜の合コンの話を笑顔で聞いていると、諸伏が隣にやって来て「嫌な気持ちにならないの?」と小声で聞いた。
「え?なんで?」
「松田が合コンに行ったから」
「諸伏君、まさかまだ私と陣平が付き合ってると思ってる?」
「うん」
「本当に誤解だから。私と陣平は幼稚園の時から一緒で、もはや兄妹みたいな感じなんだ。だからお互い恋愛感情は一切ないよ」
「本当?」
「うん」
「そっか!」
名前の返答に満足したのか、諸伏は笑顔になる。
「あ、あっち掃除しようか」
そう言って諸伏は移動しようと名前の左腕を掴もうとする。
「ッ!!」
しかし、諸伏の手が名前の左腕を掴む前に、名前は思いっきり手を振り払った。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「ううん…オレもいきなり触ろうとしてごめん」
「び、びっくりしちゃって…本当にごめんなさい」
そう言って名前は右手で左腕を掴みながら「あっちだよね!早く掃除してご飯食べたいね」と言って誤魔化した。
「うん…」
そんな名前のことを、諸伏は不思議そうな顔で見るが、何も言わずに掃除を続ける。
敷地の入り口あたりを掃除していると、1台の車が入って来た。
「お!カッケー!」
それに気づいた萩原が声を上げる。
「マツダRX-7FD3Sじゃんよー!!」
「誰が乗ってんだ?」
車から降りてきたのは鬼塚だった。
「鬼塚教官の車でしたか!!」
「(鬼公のかよ…)」
「ただの車じゃない、こいつはある意味戦闘機なんだぞ?」
鬼塚は伊達に聞かれて嬉しそうに答える。
「徹底的な軽量化が施された車体は戦闘機ゼロ戦から着想を得たんスよね!まさに”スピリット・オブ・ゼロ”を宿した名車!さすがっス鬼塚教官!!俺が一番好きな車に乗ってるなんて!!」
「あ、いや…」
萩原の勢いに押された鬼塚は、苦笑しながら「実は、俺の車じゃなく殉職したある先輩刑事の愛車でなァ」と話し始めた。
「4年前、その先輩の娘さんが俺に”将来刑事になる”って宣言したから、それまで預かってんだ」
「素敵な娘さんですね」
「おう。んじゃ、車庫に入れておいてくれ。傷つけるなよ!」
「ヘイヘイ!」
鬼塚は車のキーを萩原に渡すと、学校の中に入って行った。
「その娘さん可愛かったりして」
「デカになりたいってんだから、どーせ男勝りのジャジャ馬だろーよ」
「あんた、私たちのこともジャジャ馬だって思ってるワケ?」
松田の言葉に林が反応する。
「おまえはどっからどう見てもジャジャ馬だろーが!」
「本当失礼な奴!」
「まあまあ、凛子ちゃん」
車庫に移動させるために、車に乗り込んだ萩原を見送る降谷。
そんな降谷に「あれ?ゼロも乗りたくなっちゃった?」と諸伏が聞く。
「同じ”ゼロ”だし!」
「べ、別に…あ、あんな派手な車、しゅ、趣味じゃないよ」
「(趣味なんだー!)」
重装備訓練が終わり、今度は自動二輪技能訓練が始まる。
「名前、おまえバイク大丈夫か?」
「う、うん」
名前は、バイクにまたがると「(ひえぇええ!やっぱりちょっと怖い…!)」と思った。
「まじ似合わねぇ!」
「確かに」
「凛子ちゃんまで!?」
松田は隣に置いてある萩原のバイクから出ている音に気づくと「おいハギ…その音」と声をかけた。
「キャブレターの燃料調節が悪いんじゃね?」
「そう思って修理する所よ。まぁ陣平ちゃん程早くはねぇけど…ホーラ直った!」
「萩原君も流石だね!」
そんな萩原を見ていた男が松田と萩原に話しかけてきた。
「噂通りの手際のよさだ。松田陣平と萩原研二…君達は機動隊に興味ないかね?」
「あん?」
黒スーツにサングラスをかけた男は「詳しくいえば、爆発物処理班にスカウトしたいのだが」と続けた。
「機動隊の爆発物処理班だとォ!?んなの興味あるに決まってんだろーが!よろしくお願いしてやるぜ!」
「え…」
「(お願いしてる態度じゃねぇな)」
そんな松田を見ながら萩原は苦笑する。
「君は?」
「ん−…ちょっと考えさせてもらおうかな?」