名前の元に、降谷から久しぶりに連絡が入り、名前は一瞬自分の目を疑った。
「…え?零君…?」
名前は急いで電話に出ると「も、もしもし…?」と応える。
『名前か?』
「零君だ…」
『ずっと連絡ができなくて悪かった。やっと連絡ができるようになったよ』
「れ、零君だ!」
『ああ。僕だ』
信じられない様子で、何度も降谷の名前を口にする名前に、降谷は思わず微笑む。
「色々聞きたい事はあるけど、まずは連絡ができるようになったみたいで良かったよ」
『そうだな。とは言っても、まだまだ自由に動ける時は少ないから、前の様に連絡を取り合うことは難しいけどな』
降谷が申し訳なさそうに言うと「ううん、いいんだよ。零君が大丈夫な時に連絡してくれれば」と名前も答える。
『1年も連絡できなかったから、番号が変わっているかと思ったよ』
「零君から連絡があるかもしれないのに、変えられないよ」
『ありがとう』
名前は「元気そうで安心したよ」と言った。
『ホームでばったり遭遇した時以来だな』
「あの時は本当に驚いたよ。諸伏君も一緒にいたって事は、諸伏君も同じ潜入捜査官をしているの?」
『それは秘密だ。…と言っても、名前は気づいてるだろう』
「まあね。2人とも雰囲気が違ってて、これは余計な事を言ったらダメだなって思ったよ」
『流石だな』
「これでも刑事だからね!」
名前がそう言って笑うと、降谷も『だな』と言って笑う。
『去年は萩原の墓参りに一緒に行けなくて悪かった』
「ううん。大丈夫だよ」
『今年が、例の爆弾犯が動くと予想している年だろ?』
「…うん」
『今年は僕もヒロも墓参りに一緒に行けそうだから、またその時に話そう』
「うん」
『それじゃあ、また連絡する』
「零君、ありがとう。気をつけてね」
『ああ。名前もな』
たった数分の会話だったが、降谷と会話をしたのが1年以上ぶりだった名前は表情が緩んでいた。
「零君だー…元気そうで良かった…」
名前は急いで松田に電話をかけるが、松田は電話に出ない。
「とりあえず、メールを入れておこう」
今年は、降谷と諸伏が一緒にお墓参りに行ける旨を松田にメールした名前。
数時間後、松田から折り返しの連絡がかかってきた。
「あ、もしもし?陣平?」
『おう。良かったじゃねえの』
「うん!久しぶりに5人揃うね!」
『だな。名前、一つ報告だ』
「何?」
『強行犯係に転属が決まった』
「…えっ?」
松田からの報告に、名前は驚いた声を出す。
「強行犯係って、私と一緒じゃない」
『”SITに異動したいのは敵討ちだろう、そんな事は認められない。いい加減頭を冷やせ!”って言われておまえんとこに配属が決まった』
「上にはバレてるかー…」
『クソッ!これじゃあ意味ねェじゃねえか!』
「陣平…」
『まあ、ウダウダ言ってても仕方ねえ。とりあえず明日からよろしく頼むわ』
「陣平、みんなの前でイライラ出さないでよ?」
『…努力する』
「全く…。第一印象は大事だからね!」
松田の声色から苛立ちが伝わってきた名前は、念を押した。
「でも、これで一緒に爆弾犯を追えるね」
『まあな…』
「明日から一緒に頑張ろうね。あと7日だよ」
『…オゥ』
「えー、諸君。紹介しよう。彼が本日付けで、捜査一課強行犯係に配属された、松田陣平君だ」
11月1日付けで強行犯係に配属となった松田の事を目暮が紹介する。
「彼は去年まで警備部機動隊に所属していた変わり種でな」
「よしましょうや、警部さん」
「ん?」
「田舎から出て来た転校生じゃねえんだから。うざってぇ自己紹介なんざ、意味ないでしょ」
松田はそう言うと、前を見て「こっちは来たくもねぇ係に回されてキレかかってるってのによォ…」と続けた。
「じ、陣平…!?」
何のための念押しだったのか、と名前は頭を抱えた。
松田の言葉を聞いた強行犯係の刑事達は、怒りを表情に出している。
「そ…それじゃあ佐藤君!君が彼について、色々教えて…」
「えっ!?私がですか?」
名指しされた佐藤は嫌そうな顔で驚く。
「名前さんと知り合いみたいなんですから、名前さんがつけばいいじゃないですか」
「まあ、そう嫌がるな。彼は前に色々あって、上から直々に頼まれた男なんだ」
目暮は周りに聞こえないように小声で伝える。
「苗字君だと優しすぎるからな。適度に手綱を握って、よろしく面倒みてやってくれ」
「はあい」
佐藤は嫌そうに返事をするが、そんな佐藤を気にも留めない松田は、あくびをしていた。
そんな松田の姿を見た佐藤は、不満そうな顔で松田を睨む。
「み、美和子ちゃん、本当にごめんね!」
「なっ!名前さんが謝らないでくださいよ」
解散になった瞬間、名前は佐藤の事を刑事課の外まで呼ぶと、勢いよく頭を下げた。
「陣平…ちょっと機嫌が悪くて態度も悪かったけど、本当は仲間想いの優しい人なの」
「優しい人、には見えないですけど、名前さんがそう言うならそうなんでしょうね」
「もうね!陣平の態度が悪かったら強く言って大丈夫だからね!慣れてるから!」
「名前さんと松田君って、恋人同士なんですか?」
佐藤からの質問に、名前は顔を青くしながら「違うよ!ただの幼なじみだよ!」と力強く否定した。
「そ、そうなんですね」
「うん!全くもってお互い恋愛感情はないからね!」
「わ、分かりました。と、とりあえず、私はこれからこの前の事件の聞き込みに行ってきます」
「うん。美和子ちゃん、陣平の事、よろしくね」
「了解です」
佐藤は「松田君!」と松田の名前を呼ぶ。
「あ?」
「今から事件の聞き込みに行くわよ。準備して」
「…了解」
「ほ、本当に了解って思ってるのかしら」
ダルそうにこちらに向かってくる松田の姿を見て、佐藤は顔をひきつらせた。
「み、美和子ちゃん、抑えて抑えて!」
「松田君って、名前さんと同期なんんですよね?」
「うん」
「やっぱり…私達の代の一個上がやんちゃしまくったせいで、私達の警察学校時代、大変だったんですからね!」
「で、でもそれは、私達のせいと決まったわけじゃあ…」
「どう考えても松田君達のせいです」
「はい、ごめんなさい」
佐藤にジロリと睨まれて、思わず謝る名前。
そんな名前の頭を軽く小突いた松田「ホラ、おまえもさっさと自分の仕事しろよ」と言った。
「も〜!陣平も、美和子ちゃんに迷惑かけないでよ?」
「迷惑かけるつもりはねえよ」
「まったくもう…ネクタイも緩んでるし、だらしないよ!」
「あ?誰も気にしてねえだろ」
「気にするって!身だしなみ!」
そう言うと、名前は緩んでいる松田のネクタイを締め直す。
「グエッ」
「はい、オッケー」
「おまえな、締め直すんならもっと優しくやれよ」
「甘えた事言ってないで、早く行きなさい」
「ケッ」
そんな2人のやり取りを見ていた佐藤は「…本当に付き合ってないんですか?」と聞いた。
「ないよ!」
「ただの幼なじみの腐れ縁だ」
「そうそう」
「まあ、たしかに。今のやり取りを見ている分には、名前さんが松田君のお母さんって感じですね」
「なんだか複雑…」
「んだとコラッ」
松田は名前の事をサングラス越しに睨むと「ホラ、さっさと行こうぜ。時間がもったいねえ」と言って歩き出す。
「ああ、ちょっと!もう!自由なんだから」
「美和子ちゃん、陣平の事くれぐれもよろしくね」
「はい!」
佐藤は返事をすると、松田の後を追いかける。
「さてと、私も仕事しますか!」
名前は気合を入れると「戸崎さーん!今日は昨日の続きですか?」と戸崎のデスクに向かった。