06

「名前、ちょっといいか?」
「うん、どうしたの?」

業務時間が過ぎた後、松田は名前に声をかけた。

「例の爆弾犯の資料、どこにあるのか教えてくれ。もう一度、あの時の事件を振り返っておきたい」
「分かった」

名前は事件のファイルがまとめて置いてある資料室に向かう。

「あれ?名前さん、それに松田君」
「美和子ちゃん、お疲れ様!」
「お疲れ様です。どうしたんですか?今日は、急ぎの用事もないから帰って大丈夫よ?」

佐藤は名前と松田にそれぞれ声をかける。

「オゥ」
「ちょっと野暮用で」
「野暮用?」
「あんたはさっさと帰んな。寝不足か?目の下のクマがヤベェぞ」
「なっ!」
「陣平!」

松田に目の下のクマを指摘された佐藤は「う、うるさいわね!」と叫んだ。

「み、美和子ちゃん本当にごめんなさい…」
「名前さんの言ってた”仲間想いの優しい松田君”はどこなんでしょうか!」
「い、今のはね、言い方は悪いんだけど、美和子ちゃんの事を心配して言ったんだよー」
「それにしたって言い方ってものがあるでしょう!」
「おっしゃる通りで」
「…ハァ。まあ、でも寝不足なのは当たりなので、今日は素直に帰りますね」
「うん、そうして」
「お疲れ様です」

名前は喫煙所に向かった松田の後を追いかける。

「苗字さん」
「戸崎さん!」

戸崎に名前を呼ばれた名前は、喫煙所の前で止まって振り返った。

「今日は上がりですか?」
「あっ、はい!ただ、ちょっと調べたい事があるので資料室に」
「調べたい事?」
「はい」

戸崎は喫煙所にいる松田に気づくと「彼とですか?」と聞いた。

「えっ?」
「…あの事件の事を、もう一度調べ直すつもりですか?」
「…どうしてですか?」
「あなたと、彼の目がギラギラしていますよ」
「へっ?」
「何かあれば私の事も使ってください。丸警部から、苗字さんの事をよろしくと頼まれているので」
「ありがとうございます!」

名前がお礼を言ったタイミングで、喫煙所から松田が出てきた。

「あ?誰だ?」
「だ、誰だじゃないでしょ!捜査一課の戸崎警部だよ!」
「こんにちは松田君。君が配属になった日、ちょうど私はいなかったですね」
「興味ねェよ」
「君とは以前、居酒屋での殺人事件で会った事があります」
「そうかよ。んで?こいつに何か用か?」

松田の態度を見て「な、何でそんなケンカ腰なの?」と名前は小声で聞く。

「まるで警察犬のようですね」
「あ゛?」
「はい、陣平ストップ!戸崎さん、すみません…」
「いいえ。それではまた明日。庁内に泊まり込むのはいいですが、きちんと食事と睡眠はとってくださいね」
「分かりました!」

そう言うと、戸崎はその場を後にした。

「ホラ、時間なくなんぞ」
「タバコ休憩に行ってた陣平が言う?」
「いいから!さっさと案内しろよ」
「はーい」



2人は資料室に到着すると、4年前の爆弾事件についての資料を広げた。

「…やっぱ情報が少なェな」
「だね…。犯人が2人組っていう事しか分からないね」
「だがこいつが、根暗で意地の悪いヤツって事だけはたしかだな」
「え?」
「そうじゃなきゃ、一度止めた爆弾のタイマーを、もう一度スタートさせたりしないだろ」

そう言って松田は資料を握る手に力を込めた。

「…そうだね」」
「…あと4日」
「うん…」
「…待ってろよ、ハギ…」

松田の力強い決心を聞いた名前は、同じように「(敵を取るからね…)」と心の中で誓った。

「そうだ。今年のお墓参りだけど、7日に行けないよね?」
「だろうな」
「どうしよう。この前零君から電話もらった時に、そう伝えておけばよかった…」
「諸伏になら連絡しといたぜ」
「えっ?いつの間に!」

そう言うと、松田は携帯を取り出した。

「おまえんとこにゼロから連絡があった次の日に、諸伏から連絡がきたんだよ」
「えー!教えてよ!」
「別にいいだろ。そんで、その時に、今年の墓参りは前日の6日にしようぜって伝えといた」
「零君には?」
「諸伏から伝えるってよ」
「そっか。それならよかった」

名前がホッとしたような顔をすると「何だよ、そんなにゼロに会いてえのかよ」と言って松田が笑う。

「そ、そりゃあ、もう1年近く会ってないからね」
「ゼロにフラれた〜!って泣きわめいてたくせに」
「だ、だってしょうがないでしょ!フラれたんだから!」
「プロポーズもどきの事されたくせにフラれたって意味わかんねえ」
「別にそんな事言ってないでしょ!ただ、全部終わるまで待っててって言われただけだって!」

顔を赤くしながら名前は松田の言葉を否定する。

「だから、それがプロポーズだって言ってんだろ」
「ち、違うもん!」
「ヘイヘイ。まあ別にいいけどよ。俺達の前でいちゃつくのはやめろよ」
「いちゃつきません!そういう陣平だって、意外と美和子ちゃんの事気に入ってるよね?」

名前がそう言うと、松田は「はあ?」と言った。

「好き嫌い激しい陣平が、なんだかんだ美和子ちゃんの言う事はちゃんと聞いてるじゃない?珍しいなって」
「あんなんでも俺の教育係だろ。一応、話はちゃんと聞いとかねぇとな」
「本当にそれだけ〜?」

名前はニヤニヤとした顔で松田の事を見る。

「何となく、美和子ちゃんって似てるよね」
「誰と?」
「千速さんと」
「そうか?」
「うん。芯が強くてかっこいい!」
「おまえは相変わらずフニャフニャだけどな」
「ひ、酷い!」

松田の事を名前がポコポコと叩くと「フッ、冗談だよ。強くなったぜ、おまえも」と言って、松田は名前の頭に手を置く。

「もう、俺が守らなくても大丈夫そうだな」
「陣平?」
「後は、ゼロが全部終わらせておまえを嫁にもらいにくるのを見届けるだけか」
「何それ」

名前は、何ともいえない表情をする。

「…ねえ陣平。何か変な事考えてないよね?」
「変な事ってなんだよ」
「危ない事…」
「危ない事込みで考えねえと、刑事なんてやってられないだろ」
「そうだけど…」

心配そうな顔をしている名前に、松田は「んな顔すんなよ。とりあえず、一回飯食おうぜ。腹減った」と言った。

「うん…」

前を歩く松田の後ろ姿を見て、名前は何とも言えない不安に襲われた。







「はい、松田君」
「あ?」

次の日、佐藤は松田に名刺を渡す。

「ようやく名刺が届いたのよ」
「おー。サンキュー」

お礼を言って名刺を受け取ると、箱を開けて何枚か名刺を取り出すと、名刺入れに入れる。

「あ!陣平の名刺できたんだ!1枚ちょうだい」
「俺達で交換してどうすんだよ」
「同じ捜査一課に配属された記念かな」
「ホラよ」

呆れた顔をしながら、松田は出来立てほやほやの名刺を名前に渡した。

「おお〜!捜査一課強行犯係って書いてあるね」
「名前さんと松田君って、いつから幼なじみなんですか?」
「幼稚園生の頃からかな」
「えっ?そんな前からだったんですね。てっきり、小学生の頃くらいからだと思ってました」
「長いよねー」
「大人になって職場が一緒って、すごいですね」
「そうかな?」
「別に普通だろ」
「普通じゃないわよ」

そんな話をしていると「美和子〜!」と佐藤を呼ぶ声が聞こえてきた。

「由美?どうしたの?」
「ちょっと聞いてよ!さっき切符切った男が…って、あれ?」
「ん?」

佐藤の同期で交通部交通執行課に所属している宮本由美が駆け寄って来て、名前と松田の事をじっと見つめる。

「こ、こんにちは?」
「由美?」
「あっ、ごめんなさい。どこかで会った事があるような気がして…」
「そうかな?」
「知らねえな」
「そう?」

佐藤は「由美ったら、松田君はともかく名前さんは先輩よ?」と宮本に言う。

「えっ!?そうなの?」
「おい、俺はともかくってどういう意味だ」
「そのまま意味よ!名前さん、私の同期の宮本由美です」
「初めまして!交通執行課の宮本です!」
「初めまして。捜査一課の苗字名前です。よろしくね、由美ちゃん」

松田は大きなあくびをすると「タバコ」と言って、喫煙所に向かって行った。

「まったくもう、本当に自由んだから!」
「でも、結構男前じゃない?」
「由美ったら」
「フフッ、由美ちゃん元気だね」
「元気が取り柄ですからね!」
「それで?何かあったんじゃないの?」
「ああ、そうだ。すみません名前さん、美和子の事、少しお借りしますね!」
「うん」

そう言うと、宮本は佐藤を連れて行った。

「今日は1日内勤だから、溜まってた書類を片付けるか」

名前はそう言うと自分のデスクに戻る。



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