聞き込みが終わった2人は、本庁に戻るために佐藤の運転する車の中にいた。
佐藤が、助手席に座っている松田に問いかける。
「ちょっと何なのよ、さっきの聞き込みの仕方!」
佐藤は運転をしながら「あんな乱暴な聞き方をしたら、誰も答えてくれないわよ!」と松田の態度を注意した。
「…ったく、あなたが来てからもう6日よ。少しは私の言う事、聞いてくれる?」
松田は気に留めない様子でメールを打っていた。
「あら、メール?は、速いわね」
「ああ。人より指先が器用なんでな」
「もしかして、名前さんかしら?」
「いや、ダチに書いてんだ。送信しても受け取ってくれねえ親友に」
「受け取ってくれない?」
松田は「そいつは4年前に吹っ飛んじまったからよ」と言った。
「え?」
佐藤が何かを言う前に、無線が入る。
『米花町3丁目で殺人事件が発生。犯人はバイクで逃走中』
「了解!追跡します」
佐藤は無線を取ると、逃走中の犯人を追う。
「やれやれ」
松田はグローブボックスからパトライトを取り出すと「普通じゃねえな、この町は」と言いながらライトを装着した。
聴取が終わったのが3時過ぎ。
途中で花屋に寄っていると、あっという間に名前との待ち合わせの時間を過ぎていた。
「やべえな、完全に遅刻だ」
松田は携帯を取り出すと、名前からメールが入っていた事に気づく。
「何だよ、名前も遅れるのか」
名前からのメールには”張り込みで交代の刑事が来るのが遅れている”と書かれていた。
渋谷駅から一緒に萩原のお寺に行く予定だったが、松田は先に行くことにした。
月参寺に到着し、松田が中に入ると住職が気づいて声をかける。
「おや、松田さん。こんにちは」
「どうも」
「お一人ですか?」
「あいつは後から来ます。少し遅れてるみたいで」
「そうですか。もう他の3人の方はいらしてますよ。今年は皆さんお揃いなのですね」
「ええ」
松田はそう言うと、軽く一礼をして墓地に向かった。
先に着いていた降谷、諸伏、伊達の3人は、萩原の墓の前で手を合わせて目を閉じている。
「やれやれ…」
「遅刻だぞ」
松田が近づいてきたことに気づいた降谷達は、目を開けずに呆れた声を出す。
「来ないかと思ったよ、松田」
「悪い悪い。事件、事件で抜け出せなくってよ」
「捜一に移ったんだってな。居心地はどうなんだ?」
「まあまあってとこかね」
「俺も来月から警視庁に配属が決まったから、下手打って追い出されないでくれよ、先輩」
伊達はそう言うとウィンクをする。
「バーカ!刑事としてはおまえの方が先輩だろうがよ」
「でも、松田が来てくれて萩原も喜んでるよな」
萩原のお墓に向かって諸伏がそう言うと、松田は花を供える。
「来ねえわけねえだろ。こいつの敵を取るって約束…」
松田はお墓に拳を突きつけると「まだ果たせてねえんだからよ…」と言った。
「名前は?」
松田が手を合わせた後、降谷が聞く。
「遅刻だよ。あっちも張り込みだってよ」
「なるほどな」
「まさか同じ捜一に同期がこれだけ集まるとはな」
伊達はそう言うと、降谷と諸伏の方を見た。
「おまえ達は公安だし、やっぱ似た者同士で集まるのかねェ」
「そうかもしれないな」
伊達は「最近話聞いてないが、どうなんだよ?」と降谷に聞く。
「どうって?」
「苗字との事に決まってんだろ。聞いた話だと、ゼロ、おまえ苗字の事フッたんだって?」
「失礼だな。僕達は、きちんと話をして今は一時的に友人関係に戻っただけだよ」
「本当かよ」
「まあまあ、ゼロ達にはゼロ達の形があるんだから」
「松田はいいのか?」
伊達に聞かれた松田は「俺は、最終的に名前が幸せならそれいい」と答えた。
「予想通りの答えだな」
「だね」
そんな話をしていると「お、遅れてごめん!」と言いながら走って来る名前が現れた。
「よお、苗字。久しぶりだな」
「班長!久しぶりだね!」
「苗字さんも遅刻だよ」
「ごめんね。さっきまで張り込みしてて、やっと交代になったんだ」
「お疲れ様」
そう言うと、諸伏は名前に笑いかける。
「久しぶりだね」
「ああ、久しぶり」
名前は降谷の方を見ると挨拶をして、萩原のお墓の前にしゃがむ。
「研ちゃん、今年も来たよ〜。今年は1日早いけどね」
そう言いながら、目をつぶって手を合わせる。
「(きっと、明日で全てが終わる…。絶対敵を取るからね)」
「そんじゃあ、戻るか」
「だな」
「そういえば班長は来月から警視庁だっけ?」
「おう。来月から頼むぜ先輩!」
伊達がそう言うと「陣平と一緒かーって思ってたら班長まで…にぎやかになりそうだね!」と名前は嬉しそうに笑う。
「ゼロ、車で来てるのか?」
「ああ」
「だったら乗せてってくれよ」
「図々しいヤツだな」
「別にいいだろ。名前も行くぞ」
「え?」
松田の提案に、名前は少しうろたえながら「わ、私は大丈夫だよ?」と言った。
「何変な遠慮してんだよ!行き先、一緒だろうが!」
「で、でも…」
「久しぶりなんだし、なんなら俺は退散するか?邪魔者みたいだしな」
「えっ!?」
「そうだな。僕としてはそっちの方がありがたいけどね」
降谷の言葉に名前は「も、もう!すぐ悪ノリするんだから!」と顔を赤くしながら言う。
「半分冗談だよ」
「邪魔者って思ってるのは正解なんだな」
「ああ」
そう言って降谷はニヤッとする。
「冗談だよ。ほら、2人とも行くぞ」
「あっ、待って!」
名前は「それじゃあ班長はまた来月!諸伏君は、次にいつ会えるかな?」と聞く。
「そうだね。近々会えるといいな」
「だね!」
「それじゃあ、またね」
「また!」
降谷の車に乗り込んだ名前と松田。
助手席に松田が座り、名前は後部座席に座った。
「何でおまえが後ろなんだよ」
「べ、別にいいでしょ」
「たくっ…!」
降谷は何も言わずエンジンをかけると、駅に向かって走り出す。
「渋谷駅で降ろしてくれ。あとは2人で帰るから」
「悪いが、送るのは駅の手前までだ」
「そういや、諸伏と同じく人目についちゃいけねえ立場だったな。公安の刑事さんは」
降谷が自分の奥を見ていることに気づいた松田は、横を向いて窓の外を見る。
そこには警視庁のパトカーが停まっていた。
「どうやら仕事のようだな、刑事さん」
「…ったく、なんて日だ」
「どうしたんだろう…?」
そう言うと、名前と降谷と松田は車を降りて警察官に話を聞きに行く。
「お疲れ様です」
名前は警察手帳を取り出して警察官に見せる。
「お疲れ様です!」
「どうしたんですか?」
「じ、実は、先ほど通報を受けまして…どうやらこの廃ビルの中に誰かが忍び込んで、暴れているみたいなんです」
「ったく、めんどくせえ」
「応援を呼ぼうと思っているのですが、まずは状況確認をしてからの方がいいかなと思っていたところです」
降谷は「なるほどな」と言った。
「それじゃあ、まず私達が中に入って様子を見てきますね」
「わ、分かりました」
「人手は多い方が良い。さっき解散したあいつらも呼ぶか」
「そうだな。まだ近くにいるだろ」
降谷は諸伏と伊達に連絡を取る。
「そんじゃあ、俺達は先に中の様子を見てくるとしますか」
「だな」
「うん」
3人は廃ビルの中に入り、ゆっくり階段を上って1階ずつ中の様子を見ていく。
「誰かいるか?」
「いや…」
「物音もしないよね…」
降谷、松田、名前の順番で階段を上っているが、急に松田が立ち止まり、松田の腰当たりに名前の顔がぶつかった。
「イタッ!な、なんで急に止まるの?」
「…何か聞こえる」
「えっ?」
「ゼロ」
「ああ…。微かにだが…誰かいるな」
「な、なんで2人ともそんな小さな音が聞こえるの」
名前は2人を不思議そうな顔で見た。