09

松田は、なかなか進まない爆弾の解体に少し焦っていた。

「陣平…」

名前は懐中電灯で松田の手元を照らしながら「この液体爆弾って…」と聞く。

「ああ。かなり厄介だな。少しでも揺すったり傾けたりすると、液体が漏れ出してドカンだ」

諸伏に肩を借りながら隣のビルから戻って来た降谷。

「ごめん…取り逃がしてしまったよ」
「れ!零君!?だ、大丈夫!?」

ボロボロになった降谷を見て、名前は思わず降谷に駆け寄る。

「うおっ!大丈夫か?ゼロ」
「…心配ない。状況は?」

降谷の問いかけに「こっちもあんまりよくねえな…」と焦った様子の松田が答える。

「ここは俺に任せて、周辺の人達を避難させてくれ」
「で、でも…」
「いいか行け!あと3分だ。ガス漏れとか、適当な理由でこのビルの周りから避難させろ」

そう言いながら、松田は解体作業を進める。

「…分かった。行くぞ、ヒロ」
「ん…」
「班長もだ」
「チッ、分かったよ」
「名前」

松田は名前を呼ぶと、名前から懐中電灯を奪うように取って「おまえもだ」と言った。

「…私はここにいるよ」
「名前」
「爆弾の傍に、陣平を1人で置いて行けるわけないでしょ」

名前はそう言うが、松田は「言い争いしてる場合じゃねえんだよ。時間がない。ゼロ達と一緒にさっさと下りろ」と言う。

「でも!」
「名前!」

まだ反論をしようとする名前に、降谷が名前を呼ぶ。

「名前、行くぞ」
「で、でも!」
「チッ…班長!名前の事、担いででも下りてくれ」
「…ハァ。分かった」
「えっ!?」

伊達は名前の事を横抱きにすると「は、班長!降ろしてよ!」と暴れる名前を無視して部屋から出る。

「松田」

諸伏は「下で、待ってるから」と言う。

「フッ…約束はできねえな」

下に下りる途中で名前は「班長!私、戻る!」と言うが、伊達は「いいから下りるぞ!」と言ってそのまま1階に下りた。
伊達は、1階に到着すると名前の事を降ろしてから「すぐに離れろ!」と警察官や集まっていた人達を避難させる。

「じ、陣平…!」

心配そうにビルを見上げる名前と降谷、諸伏。
降谷は名前の事を横目で見るが、その視線に名前は気づかない。

「陣平…陣平…」

祈るように両手を合わせる名前に「大丈夫だ。あいつは…こんな所で死ぬような男じゃないだろう」と降谷が言う。

「…う、うん」



少しすると、爆弾を解体した松田がビルから出て来る。

「陣平!」

名前は泣きそうな顔で松田に駆け寄って抱きつく。

「よ、良かった!陣平、本当に良かった!」
「ったく、心配しすぎなんだよおまえは」

降谷、諸伏、伊達に気づいた松田は、抱きついてきた名前の事をそのままにして両手を出してハイタッチをした。

「おまえなら大丈夫だと思ってたぜ!」
「少し焦ったけどな」
「まあ、遠隔でタイマーが0になった時は、さすがに肝冷えたぜ。ハギが昔やった事をとっさにマネたら上手くいった」
「研ちゃん?」

名前は萩原の名前に反応をして顔を上げる。

「ああ。前にクソ生意気なボウズが水道管壊した時に、野球ボールで水止めた時の事を思い出したんだよ」
「そっか、じゃあ研ちゃんのおかげだね」
「オゥ!墓参りのお礼かな」
「うん!」

降谷は「それで、おまえ達はいつまでその状態なんだ?」と、不機嫌そうな声で名前と松田に問いかける。

「え?あ、ごめん!」

名前は松田から離れようとするが、松田は意地悪そうな顔をして名前の腰に手を回した。

「なんだよゼロ!おまえ、名前と友達に戻ったんだろ?」

松田は名前の腰を抱いて、自分の方に引き寄せた。

「ちょ、陣平!」
「友達に戻ったのは事実だが、僕の気持ちは変わってないからな。必要以上に名前に触るな」
「おーおー!男の嫉妬は醜いねえ。悔しかったら今抱えてる問題解決して、さっさと名前の事を嫁にもらえよ!」
「陣平!?何言ってるの?」

松田の言葉に名前は顔を赤くする。

「おまえに言われなくてもそのつもりだよ」
「れっ!?」

降谷は名前の方を見ると「そのつもりで一緒になってくれと言ったんだが?」と言う。

「ゼロ、やるー!」
「やっぱり男だな」
「かっこいいセリフ言ってるのに、オレがゼロを支えてるからかっこよさが半減だね」
「それは言わない約束だろ〜ヒロの旦那!」
「頑張ったゼロが可哀想だろ」

諸伏と伊達が降谷の事をからかうと「もう!みんなして零君の事からかう!」と名前が怒る。

「アハハッ、ごめんごめん。なんか、久しぶりだね、この感じ」
「だな」
「そうだな」

松田は笑うと「そんじゃあ、ゼロが名前を嫁にもらう日がくるのを楽しみにしてるぜ」と言った。

「な、何で陣平の方が楽しみにしてるの?」
「その時のスピーチは松田かな?」
「余興は任せろ」
「その時は萩原の写真も持って行かないとね」
「頼んだ」
「な、なんでみんなそんなノリノリなのー!」

名前は顔を赤くしながらそう言った。

「ハハハッ、さてと、そろそろ行くか」
「だな。さすがにそろそろ戻らねえと、教育係に怒られそうだ」
「教育係?」
「私の後輩で、美人な子だよ」
「へぇ、今度詳しく聞かせてよ」
「いいからさっさと行けよ」

松田は、諸伏に対して手をシッシッと追い払うジェスチャーをする。

「ハイハイ。ゼロはここままオレが連れて行くから、松田と苗字さんは、申し訳ないけど歩いて渋谷駅に行ってもらってもいいかな?」
「うん。大丈夫だよ」
「気をつけろよ、2人とも」
「ああ。ありがとう」

降谷は名前に「また」と言って、諸伏と一緒にその場を後にした。

「そんじゃあ俺も署に戻るぜ!」
「うん!」
「また来月だな」
「オゥ!」

名前は松田と渋谷駅に向かう。

「やっぱゼロはおまえとの事、ちゃんと考えてるみたいだな」
「そうだね」
「ゼロの気持ちが知れて安心したぜ」
「フフッ、さっきから陣平、なんだかお父さんみたいだよ」
「娘を嫁にやるって、こういう気持ちなのかねぇ」
「何それ」

渋谷駅に着くと「そんじゃあ、俺は佐藤と合流するから。おまえも一緒に来るか?どうせ本庁戻るんだろ?」と松田が聞く。

「私はそのまま上がりだったから、一回家に戻って着替え取ってこようかな」
「おまえ、今日も泊まるつもりか?」
「だって陣平だって泊まり込みでしょ?」
「俺は男だからいいんだよ」
「椅子の上で寝てるって、美和子ちゃんからクレームきてたよ。寝るならちゃんと仮眠室で寝てよね」

松田はため息をつくと「おまえだって、最近ちゃんと寝れてねえだろ?」と言いながら名前の頬をつねる。

「い、いひゃい」
「明日は多分、今日よりもハードな1日になるぜ?んな顔してんなら、ちゃんと帰って寝ろ」
「…仮眠室でちゃんと寝るから大丈夫」
「…頑固」
「陣平には言われたくないよ」

松田はタバコに火をつけると「分かった。それならついでに俺の着替えも持って来てくれ」と言って、ポケットから鍵を取り出す。

「陣平もそろそろ引っ越したら?」
「なんでだよ」
「もう何年同じ部屋に住んでるの?」
「4年以上だな」
「引っ越したくならない?」
「別に、今の寮で不便はねえしな。どうせ、俺には夜中に急に訪ねて来るようなヤツはいないからな」

そう言うと、松田は名前を見てニヤリと笑った。

「そ、それはもういいでしょ!」

最後に一回タバコを吸いこんだ松田は、ポケットから携帯灰皿を取り出すと火を消した。

「まぁ明日で決着がつくだろうから、その後考えっかな」
「うん」





名前と別れた後、松田は佐藤と合流して本庁に戻った。

「それじゃあまた明日」
「じゃあな」

松田は本庁に到着すると、その足で刑事部に急いだ。

「お疲れ様です、松田君」
「どうも、警部さん」
「役職で呼ぶのは堅苦しいので止めてくれますか?」
「戸崎さん、あんたに頼みがある」
「…何ですか?」

松田は戸崎を喫煙所まで連れて行くと、タバコを取り出して火をつけた。

「それで?私に頼みというのは?」
「…今日、廃ビルで爆弾騒ぎがあった」
「ああ。君達が対応したガス漏れ事件、あれは本当は爆弾事件だったんですよね」
「そこで名前のヤツ、俺を庇ったんですよ。相手は銃持ってたのによ」
「…なるほど」
「明日、例の爆弾犯が動くと思ってる」
「それは、私も同感です」

松田は「ヤツからのFAX届く前に、名前を本庁から連れ出してほしい」と戸崎に頼む。

「…それは、何かあった時に彼女がまた君を庇うかもしれないからですか?」
「分かってんなら話が早いぜ」
「そんな事をしたら、私はきっと、苗字さんに一生恨まれますよ」
「それでも頼む。俺は、名前をこの敵討ちに巻き込んだ事を、今でも後悔してんだ」

タバコの火を消すと、松田は戸崎に頭を下げた。

「…分かりました。ただ、君も、無茶だけはしないでくださいね」
「…そいつは約束できねえな」



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