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11月7日の朝。
仮眠室で寝ていた名前は、顔を洗って身支度を整えてから刑事部に向かう。

「もう…陣平ったら」
「名前さん、今日も松田君、こんな風に寝てますよ」

刑事課に行くと、佐藤が呆れた顔をして松田の事を指さす。
松田は、椅子を何個か並べてその上で器用に寝ていた。

「松田君と名前さん、ここ一週間くらいずっと庁内に泊まり込んでいますよね?何か調べてるんですか?」
「ちょっとね」
「あんまり無理しないでくださいね」
「うん、ありがとう。それも今日で終わると思うから」
「えっ?」

名前は、松田の傍に近づいていく。

「あれほど寝るなら仮眠室でって言ったのに。ほら!陣平!起きなさい!」
「っ!?」

耳元で叫ばれた松田は「な、何だ!?って名前か…」と言いながら大きなあくびをした。

「仮眠室で寝てっていったよね?」
「悪い悪い、色々考えてたらついな」
「まったくもう!」

名前は松田の腕を掴むと「早く顔洗ってきて」と言って松田を引っ張り上げようとする。

「…ん?どうしたの?」
「…」

松田は体を起こして椅子に座るとジッと名前の事を見つめるが、立ち上がろうとしない。

「陣平?早く立って!」

自分の事を引っ張る名前を、逆に引っ張る松田。

「キャッ!」

バランスを崩した名前を、松田は抱きとめる。

「陣平?」
「んー…」

松田は名前の背中に腕を回すと、力を入れて抱きしめる。

「陣平?何かあった?」
「…別に」
「そう?」
「オゥ…」

そんな2人を見ていた刑事部の刑事達はざわついていた。

「な、何で松田が名前ちゃんと!?」
「デキてんのか!?やっぱり顔か!顔なのか!?」
「お、俺達の名前ちゃんが〜!!」

騒いでいる刑事達に、佐藤は「あの2人、幼稚園の時からの幼なじみみたいですよ。その証拠に、2人を見てください。照れとか一切ないですよ」と言った。

「た、たしかに」
「そう言われてみればそうだな」
「納得!」

佐藤の言葉にホッとした刑事達の後ろから、戸崎がやって来る。
戸崎の姿を名前の肩越しに確認した松田は、戸崎を見ると軽くうなずいた。

「名前、今日まで付き合わせて悪かったな」
「ううん。陣平のためでもあるけど、私自身が研ちゃんの敵を取りたかったから」
「助かったぜ。おまえがいてくれたおかげで、折れずにやってこれた」
「フフッ、お礼は全部終わってからにしてよね」
「…だな」

そう言って笑うと、松田は名前の事を解放した。

「苗字さん、少しよろしいですか?」
「戸崎さん!はい!何でしょうか」
「実は、一昨日の強盗事件の目撃者が見つかって、すぐに事情聴取に向かいたいのです」
「えっ?今からですか?」
「はい、今すぐです」
「…で、でも…」
「行きますよ、苗字さん。我々の仕事は一つではないんです」
「あっ、戸崎さん!」

名前の返事を聞かず、歩き出す戸崎を追いかける名前は、一度松田の方を振り向く。

「さっさと終わらせて、こっちに戻って来いよ」
「う、うん!そうする!」

松田は右手を上げた。

「サンキュー、戸崎さん…」

松田のそのつぶやきは、誰の耳にも届かなかった。





朝礼が終わり、佐藤が松田と2人の刑事を呼ぶ。

「さてと、私達は所轄署にいる被疑者を迎えに行きましょう」
「悪いけど俺はパスだ」
「パス?何言ってんの、あんた!」

机の上に置いてあった新聞を読みながらタバコを吸っている松田。

「俺は今日、ここで待ってなきゃいけねぇんだ。所轄からジジイの被疑者をここに連行するぐらい、あんたらでできるだろ」
「ちょっとあんたねえ…」
「名前から聞いてるぜ。毎年この11月7日に送られてきてるそうじゃねぇか」
「ああ。3年前から1年ごとに本庁に送られてくる、大きな数字が一つ書いてあるだけの悪戯FAXでしょ?」

松田は「3年前が3。2年前が2。1年前が1…。間違いねぇ。こいつは爆弾のカウントダウンだ。ヤツが動くなら…今日しかねえぜ」と言った。

「はあ?」

佐藤はが松田の言葉にはてなマークを浮かべていると、その後ろを白鳥が通る。

「警部。また今年も送られてきました」

白鳥は送られてきたFAXを目暮に見せる。

「ああ。例の数字のFAXだろ?」
「え?」

2人の会話を聞いていた佐藤が反応する。

「で、今年の数字は何なんだね?」
「そ、それが…今回は数字ではなく…”我は円卓の騎士なり、愚かで狡猾な警察諸君に告ぐ。本日正午と14時に、我が戦友の首を弔う面白い花火を打ち上げる。止めたくば、我が元へ来い。72番目の席を空けて待っている”」
「…どういう意味だね」

目暮と白鳥の周りに、刑事達が集まる。

「さあ?」
「うーむ…」

FAXの内容を聞いた松田は、吸っていたタバコの火を消して、解体道具を持って刑事部を出ようとする。

「ちょっと!どこ行くのよ?」

それに気づいた佐藤が声をかける。

「分からねえのか?円卓の騎士が72番目の席を空けて待ってるって言ってんだ。円盤状で72も席があるっつったら、杯戸ショッピングモールにある大観覧車しかねえだろ」

そう言った松田は、刑事部を出て行く。

「あっ!ちょっと松田君!待ちなさい!」

松田の後を佐藤や目暮達も追う。



杯戸ショッピングモールでは、松田達が到着する前に大観覧車の制御室が爆発した。

「クソッ、遅かったか」

ショッピングモールに到着し、車から降りた松田は騒ぎになっている事を確認すると、急いで観覧車に向かう。

「しかし正午まで、まだ30分はあるんですが…」

白鳥は腕時計を見て時間を確認する。
佐藤は煙と炎が上がっている爆発現場に向かうと「警察よ。何があったの?」と職員に質問をする。

「そ、それが…突然制御盤が爆発して、観覧車が停まらなくなったんです」

佐藤が状況を確認している間に、松田は観覧車の乗り場に向かう。
72番のゴンドラが乗り場に下りて来ると、松田は扉を開けてゴンドラの中を確認する。

「あっ…」
「松田君!」

佐藤達が松田に駆け寄ろうとすると「来るな!」と松田が止める。

「円卓の騎士は待ってなかったが、代わりに妙な物が、座席の下に置いてあるぜ」
「え…」
「まさか…爆弾!」
「ちょ、ちょっと!」

松田はゴンドラの中に乗り込む。

「松田君!」

佐藤が松田の後を追って、乗り場に駆け寄ろうとする。

「大丈夫」

松田はサングラスを外すと「こういう事は、プロに任せな」と言い、ゴンドラの扉を閉めた。

「ちょっと!松田君!何なのよプロって…」
「彼は去年まで警備部機動隊の中にある、爆発物処理班にいたんだよ」
「それではまさか!前に死んだ彼の親友って…」
「…ああ。多分それは、4年前の11月7日、爆弾解体中に殉職した、同じ処理班所属の萩原君の事だろう」

ゴンドラの中では、松田は座席の下にある爆弾の解体を始める。
タイマーは6分52秒。

「フッ…」

目暮は、当時の爆弾事件の詳細を佐藤に教えた。

「あの事件では、2つの爆弾が別々の場所に仕掛けられていて、1つは松田君が解体したが、萩原君の方は間に合わなかった。爆弾犯はいまだ特定できず、松田君は爆弾事件を担当する特殊班係に転属の希望を何度も出していたが、目的は恐らく親友の敵討ちだろうから、頭を冷やすためにいったん同じ一課の強行犯に配属されたってわけだ」
「そ、そうだったんですね…」
「苗字君もいるから、無茶はせんと思っていたが…」
「それより警部、どうしますか?」

白鳥は、もう一度時間を確認する。

「正午まであと6分」

観覧車を見ながら「ゴンドラが一周して戻って来るまで、まだ10分ほどかかりますが」と聞く。

「やむを得ん…。ここは、松田君に任せるしかあるまい」
「あッ…!」

佐藤が松田の乗っているゴンドラを不安そうな顔で見上げていると、もう一度制御室が爆発し、観覧車が完全に停まった。

「と、停まった!」
「早く消化を!」

目暮と白鳥は、急いで制御室に向かう。

「松田君…」

佐藤は携帯電話を取り出すと、松田に電話をかける。



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