「どうすんだよ?ハギ、さっきの返事」
松田はソファーで寝っ転がっている萩原に向かってそう聞いた。
「俺らの事を即戦力って考えてるみてーだぜ?」
「そりゃーうれしいよ。気心の知れた友と同じ部署…しかも大好きな機械いじりときたもんだ!」
「だったら!」
「親父の工場を見てっから、何もかも順調だとかかっちまうんだ…。これは破滅への入り口なんじゃないかっていう、ブレーキがな」
萩原はそう言うと、扉の近くに立って何も言わない名前に目線を向ける。
「…」
「まぁ迷ってんなら止めときな。爆発物処理班はかなりヤベェ仕事らしいから」
そう言って松田は談話室を出ようとするが、名前が松田の腕を掴んで引き留める。
「あ?」
「…」
「名前?」
「…そんなヤベェ仕事なのに…陣平は即答できるんだね」
「…名前…」
いつもと様子がおかしい名前を見て、松田はうつむいている名前に目線を合わせようとする。
「警察なんて、どこの部署でもそれなりにヤベェだろ」
「だからって…爆発物処理班だなんて…」
「おまえは何を心配してんだよ」
「…陣平のことだよ」
「余計な心配してんじゃねぇよ。それよりも自分のこと心配しろ」
「私にだって陣平の心配させてよ…」
顔を上げた名前の目が潤んでいることに気づき、松田は「そ、その顔止めろって!」と焦る。
「俺は自分の実力が認められて、自分の好きなことができる部署からスカウトが来てんだ!飛びつかねーわけねぇだろ」
「…わかってるよ!陣平は一度決めたらまげないって知ってるもん!」
「それにさっきも言ったけどよ、警察なんてどの部署に配属されても、大なり小なり危ねぇだろ」
「…うん…」
「俺たちがなろうとしてる警察官はそういう世界なんだよ。だから必要以上に心配すんな!」
「…うん…」
あまり納得していない顔をしている名前に、松田はため息をつくとそのまま部屋を出て行こうとする。
「どこ行くのさ?飯?」
「いや、鬼公の車のトコだよ。俺が音聞きゃメカのどの部分がいかれてるかわかるっつったら、あの車のエンジン診てくれって」
松田は「ついでに洗車もしとけって頼まれちまってよ、こんなトコすぐに卒業して早く爆処に行きてぇよ」と続けた。
「…松田、おまえは怖くねぇのか?爆発物処理班…」
「…怖くねぇっつったらウソになるけど」
「だったら!」
「名前、最後まで聞け。…前から爆処には興味あったし、それに…俺には元々、アクセルしか付いてねぇからよ!」
「ッ!」
「フン…だろうな」
そう言うと、松田は談話室を出て行った。
「…」
「名前ちゃん」
「…萩原君…」
松田が出て行った扉を見つめ続ける名前に、萩原は声をかけると両手を握ってソファーに座らせる。
「陣平ちゃんがいなくなりそうで怖い?」
「…怖い…学生のうちから何を怖がってるのって思われるかもしれないけど、いつか陣平のことを失う日がくるかもしれないって思うと、怖い…」
そう言った名前に、萩原はフッと笑いかける。
「それ、名前ちゃんから警察官になるって聞かされた時の俺と陣平ちゃんの気持ちね」
「え?」
「名前ちゃんが警察官になるって言った時、陣平ちゃん反対したっしょ?」
「う、うん…」
「強くなりたいって思うのはいいけど、わざわざ警察官になる必要ないだろって言ってたじゃん?俺もそうだけど。あれって、名前ちゃんを危ない目にあわせたくなかったからだよ」
「…」
「でも、陣平ちゃんは名前ちゃんの”変わりたい”って気持ちを尊重した。だから、今度は名前ちゃんが陣平ちゃんの気持ちを尊重してあげてもいんじゃない?」
萩原は、名前の前に座ると「俺が陣平ちゃんのブレーキになるからさ」と言った。
「え?」
「俺が陣平ちゃんの右腕として、一緒に爆発物処理班に入るよ」
「で、でも…萩原君だって萩原君の気持ちがあるじゃない」
「俺は俺の気持ちで決めたから安心して」
「萩原君…」
「陣平ちゃんのことは俺にまっかせなさーい!だから名前ちゃんには笑ってほしいな」
そう言うと、萩原はいつもの笑顔を見せる。
「ふふふ、萩原君、ありがとう」
「やっぱり名前ちゃんには笑顔でいてほしいからね!」
「萩原君にはお世話になりっぱなしだから、何かお礼しないとだね」
「それならさ、昔みたいに呼んでよ」
萩原の言葉に名前は「昔みたいに、って、小学生の時の?」と聞いた。
「そ!名前ちゃん周りに遠慮して呼び方変えたでしょ?あの時寂しかったんだよねー」
「ご、ごめん」
「陣平ちゃんだけはいつまでも陣平ちゃんだったのにさ」
萩原は少しいじけたような表情をする。
「だって、陣平と違って萩原君は小学生の頃からモテてたじゃない」
「それはそうだけどさ」
「今は昔以上にモテるんだから、呼び方戻すのは考えちゃうな」
「じゃあ考えといて!前向きに検討ー!」
「了解!」
名前は笑いながら敬礼のポーズを取る。
「それじゃあ俺たちは飯でも食いに行く?」
「そうだね」
2人が談話室を出ると、前を歩く降谷を見つける。
「降谷ちゃん発見ー!せっかくだし降谷ちゃんも誘う?」
「うん」
萩原が降谷に声をかける前に、降谷が大きな声を出した。
「えぇ!?バンパーがひっかかった車をひきずりながらトラックが暴走!?トラックのドライバーは気絶してるのか!?」
「!なんかヤバそうね」
「う、うん…」
「警察や消防には連絡したのか!?……教官が車で?」
「ああ、FDなら今陣平ちゃんが」
「修理と洗車してるはず!」
「とりあえず、今からそっちに向かうから待ってろ!」
降谷はそう言うと名前と萩原に「八王子方面に向かってトラックが疾走中らしい!警察よりもここからの方が近いから、なんとかトラックを止めよう!」と手短に説明した。
「オッケー!そしたら駐車場に急ごう」
「苗字さんは待っててくれ」
「わ、私も一緒に行くよ!」
「危ないよ」
「私も、みんなと同じ警察学校の学生だもん!」
「!了解した」
3人は駐車場に向かうと鬼塚の車に駆け寄るが、いるはずの松田がいない。
「あれ?いねぇじゃん!っかしいなぁ、修理か洗車してるはずなのに…」
「あ、多分…」
「!」
降谷が車のトランクを開けると、そこに松田がいた。
「ふああ…あ゛?」
昼寝をしていたようで、起こされた松田の機嫌は悪い。
「陣平、こんなところで昼寝しないでって前も言われたでしょ!」
「へーへー、で、3人そろって何してんだ?」
「それが、ヒロから電話があって、今ドライバーの意識がないトラックが、他の車を巻き込んで爆走しているらしい」
「はあ!?んだよソレ!」
「一応警察や消防にも連絡したらしいんだが、場所的に僕たちが車で現場に向かう方が早そうだ」
「そういうことか!そんじゃ、急いで向かうぞ!」
萩原が運転席に乗り込み、助手席に松田、後部座席に降谷と名前が乗り込んだ。
「よし、行くぜ!」
萩原は車を発進させると、降谷が道案内をする。
「八王子方面に向かってるらしいから、多分この道だな」
「了解!いやー優秀なナビゲーターがいて助かるわ」
「ハギ!急げよ!」
「わかってるって!」
しばらく道なりに走っていると前方に、乗用車をひきずったまま走っているトラックとバイクに乗っている伊達と諸伏を見つけた。
「見っけ!」
萩原はバイクに並走するようにスピードを上げる。
松田は窓を開けると「よォ大将!待たせたな」と、伊達たちに話しかける。
「いいのか?入校者の車の運転は禁止されてんのに」
「あん?エンジン音がうるさくて聞こえねぇなァ」
「どうにかしてトラックを止めないと…」
「それなら話は簡単だ」
そう言うと、萩原はトラックの横に並んだ。
「名前ちゃん、しっかり掴まっててくれよ?」
「う、うん!」
「ぶつけりゃ物理的に止まるっしょ!!」
萩原は車体をトラックにぶつける。
ドシッ!と大きな音が鳴り、車のミラーが外れるがトラックは止まることなく走り続けている。
「ダメだ、重量が違い過ぎる…」
「!」
松田はトラックの後ろでひきずられている乗用車を見ると「おい萩原…」と言いながらグローブボックスからパトライトを取り出す。
「アレ、できるか?」
そんな松田に、萩原は笑顔で「上等!」と答える。
「アレって…?」
「おい!サンルーフを開けろ!」
「は、はい!!」
松田は乗用車の運転手に呼びかける。
「(一体何を!?)」
「ふ、降谷君…」
「ん?」
「ぐ、グットラック…」
「え?」
名前の声掛けに降谷はますます困惑した表情になる。
「ゼロ、舌噛むんじゃねーぞ」
松田はそう言うと、降谷の胸倉をつかむ。
「なんだ?どういうつもりだ?この状況で、いったい何をやろうって…」
降谷は前に萩原と松田に聞く。
「そいつは、見ての…お楽しみだぜ!!」
「キャッ!!」
萩原がハンドルを勢いよく回すと車を傾けて片輪走行しながら、窓から外にパトライトを投げる。
パトライトは名前たちの乗っている車のタイヤに当たると、車がパトライトを乗り越えて空中に跳びあがった。
「ッ!!」
乗用車の上を越える瞬間、松田は車の扉を開けて降谷と一緒に乗用車の上に飛び乗り、サンルーフを掴んだ。
「名前!!」
松田は後ろを振り返る。
萩原と名前を乗せた車は、そのままガードレールにぶつかるが、横転することなく道路に戻る事に成功した。
「名前ちゃん、大丈夫?」
「う、うん…なんとか…」
萩原は、車の中から松田に向かって手を挙げた。
「ふぅ…」
名前と萩原の無事を確認した松田は、乗用車の運転手に「俺らが鼻先に着いたらボンネットを開けてくれ!」と言い、降谷と2人で移動する、
「す、すげぇ…」
そんな2人をバイクから見ていた伊達と諸伏は驚いた顔をした。