「水族館で?」
「はい!何でも、男性が刺されて亡くなっているとの事で…」
「分かった」
名前は急いで目暮のデスクに向かう。
「目暮警部!」
「どうした?そんなに慌てて。何か事件か?」
「はい!どうやら、米花水族館で殺人事件があったようです」
「何ィ?今すぐ現場に向かう!行くぞ、苗字君!」
「分かりました!」
米花水族館に到着すると、水族館のスタッフが名前達を出迎えた。
「お、お待ちしておりました刑事さん!」
「現場はどこですか?」
「あちらのエリアです」
「お客さん達はどうしてますか?まだ周りにいますか?」
「いえ。それが…ある少年が偉そうに色々指示を出していて、遺体の傍には誰も近寄らせていません」
「少年?」
スタッフの話を聞いた名前は「も、もしかして…」と目暮の方を見た。
「フム…とりあえず、現場に急ごう。案内してくれ」
「分かりました」
名前と目暮は、殺人現場となっている大きなトンネル型の水槽があるエリアに向かう。
中に入ると水槽の傍に座り込んだまま動かなくなっている男性の遺体と、新一と蘭の姿があった。
「やっぱり…」
「なるほどな…」
名前と目暮に気づいた新一は「あっ!目暮警部!それに名前刑事!」と2人の名前を呼んだ。
「殺人現場を仕切ってる偉そうな少年というのは、やはり君だったか、工藤君…」
目暮があきれた様に言う。
「たまたま蘭と現場に居合わせたのでつい…一応、犯人の目撃者がいないか聞いて回ったんですが、いませんでした」
「ホォー、2人で水族館デートかね?」
「デートだね!」
「あ、そう見えます?」
新一が嬉しそうに答えると「そ、そんなんじゃないです全然!!」と蘭が否定する。
「ジョークだよ!妙にうろたえるとホントにそうだと思われちまうだろ?」
「あんた、人が死んだのによく冗談なんか言えるわね」
「そんな恥ずかしがらなくてもいいんだよ?お二人さん?」
名前がニヤニヤとしながらからかうと「ほ、ホントにそんなんじゃないんですって!」と蘭が顔を赤くしながら否定した。
「ん?」
目暮は遺体の周りを確認する。
「どうやら凶器は遺体の傍らに落ちてるナイフ…」
「コンビニの袋越しに刺したみたいですね。これって、返り血を浴びない為ですよね」
名前がそう言うと「そうですね。さらに、ナイフがあばら骨につっかえず心臓に届くように刃先を横にして刺してます」と新一が続けた。
「そして、血が大量に飛び散らないようにナイフを被害者のジャケットで覆うようにして慎重に抜き、傷口をジャケットで隠して立ち去ったんですよ」
「じゃあ被害者は大声を出しただろうから、目撃者がいるんじゃないのか?」
「目暮警部、首の後ろにスタンガンを押し付けた跡があります」
目暮は名前の言葉を聞いて、遺体の首の後ろを見る。
「刺される前に気絶させられていたのなら、声は出せません」
「はい。ボクが駆けつけた時は、まだ若干血が流れていたので、刺されたのはその数分前かと。ちなみに、スタンガンはジャケットの内ポケットに」
「おお、これか!」
目暮が遺体の内ポケットに入っているスタンガンを見つける。
「恐らく、犯人は水槽の底に妙な魚がいるとでも言って被害者をのぞき込ませ、被害者が水槽の縁にもたれかかった状態で後頭部にスタンガンを押し当て、気絶させたんでしょう」
「なるほど…。そうすれば、道の真ん中で急に倒れたりしないし、注目も浴びにくいね」
「…となると、犯人は被害者と顔見知りかもしれんが…財布には免許証や名刺は入っておらんし、まずは被害者の身元を調べんと…」
被害者の財布の中身を調べながら目暮がそう言うと「ああ、それなら…」と新一が口をはさむ。
「被害者の名前は朱本国博さん26歳。杯戸町のガソリンスタンドでバイトしてて、今日は用があるってシフトを外してもらったそうです。だから、被害者は彼女を連れてここへ来たんじゃないでしょうか。160p前後でミニスカを穿いた、イルカ好きの女性をね」
「ど、どうしてそんな事が…!」
目暮は驚きながら新一に聞くと「被害者の懐に携帯が入っていたんで、アドレス帳から適当な電番を選んでかけたんですよ!」と答えた。
「”携帯電話を拾った者ですが、これ誰のか分かります?”ってね」
「新一君…」
「そうしたら名前を教えてくれたので”届けたいんですが、今どこにいらっしゃるか知ってます?”って尋ねたら、バイト先を教えてくれて、ついでにそこにも電話を」
「勝手にそんな事止めときなさいって言ったんですけどね…」
蘭が申し訳なさそうな顔をしてそう言うと「大丈夫だよ!今度、こんな電話がかかってきたら”交番に届けてくれ”と答えた方がいいって忠告しておいたから」と新一が言う。
「あんたねぇ…」
「新一君ったら…」
「じゃあ、連れの女性の事もそのバイト先で?」
「いえ、被害者の財布の中のレシートを見たんですよ。店はこの水族館内のカフェで、時間はボクが遺体を見つける約15分前…」
名前は、財布の中に入っていたレシートを見ると「コーヒーと紅茶が1つずつ…。たしかに、誰か一緒にいた事は間違いなさそうだね」と言った。
「イルカショーが始まる5分前なので、ショーの時間までカフェで時間を潰したんでしょうね」
「イルカのキーホルダーも買っているけど、被害者はそれを持っていない。だから、イルカ好きの連れの為の買ったっていう事ね」
「その通りです」
「じゃあ160p前後でミニスカートっていうのは?」
蘭が聞くと「まぁ、蘭にはまだわかんねーだろーな」と新一が答える。
「何それ?感じ悪っ!!」
「ど、どういう事だね工藤君?」
目暮が質問をすると、新一は被害者の傍にしゃがみ「被害者の肩口と、肘と…太ももの辺りから女性用の香水の匂いがするじゃないですか!」と、順番に指をさす。
「ああ、そういう事か」
「名前刑事は分かったんですか?」
「これでも、一応大人の女性ですから!」
「さっぱり分からん」
蘭と目暮は頭にはてなマークを浮かべると「女性が香水をつける場所は、色々あるんですけど、大体が耳たぶの後ろ、髪の毛の裏側、手首、スカートのスソ、足のくるぶしなんですよね」と名前が説明をする。
「連れの女性が被害者と腕を組んだ時に匂いが付いたとすると、肩口から匂うのは耳たぶの後ろか髪の毛に付けた香水で、肘から匂うのは手首、太ももから匂うのはスカートのスソに付けた香水って事です」
「そ、それで身長が160p前後というのは、どう繋がるんだね?」
「被害者の身長は180pぐらいだから、匂いが付いている場所からすると165pくらいの女性…。デートでハイヒールを履いていた可能性を踏まえると、マイナス5pから8p…大体160p前後になる」
「それでスカートのスソがミニ丈だって思ったわけだね」
新一と名前の説明を聞いた蘭は「新一もですけど、名前刑事もやっぱりすごいですね」と感心したように言う。
「私は新一君のヒントを聞いてるだけだから、やっぱりすごいのは新一君だよ!電話かけたりはやりすぎだと思うけどね」
「そ、そうですよね!」
「アハハッ…まぁ、蘭も香水付けるなら、付け過ぎないように気をつけろよ!」
「よ、余計なお世話よ!!」
目暮は「だが何でその女性は名乗り出て来ないんだ?彼氏が殺されたというのに…」と不思議そうに言った。
「さぁ…。付き合ってまだ日が浅く、関わりたくないと思っているのか、もしくは彼を刺殺した犯人だからか…」
「どちらも可能性は高そうだね」
「はい。とにかく、この水族館内にいる客全員の携帯電話やカメラやビデオカメラを回収してください!もしかしたら偶然犯人に刺される場面が写っているかもしれませんから」
「そ、そうだな…」
そう言うと、警察官は手分けして客からカメラ類を回収し、スタッフルームに移動させた。
「おいおい、工藤君…!100台以上あるぞ!これに入ってる画像を全部チェックするのかね?」
「うわー…途方もない作業になりそうですねー…」
机の上に並べられたカメラや携帯電話を見て、絶望的な顔をする名前。
「しかも写っているのはほとんど魚だし…」
「でしょうね」
そう言いながら新一が被害者の携帯を操作すると、置いてあった携帯の内、3台から着信音やバイブ音が鳴る。
「で、電話が次々と…」
「警部達が来る前に、被害者の携帯のアドレス帳から送信しても無反応だった電話やメールを立て続けに送ったんです。警察が画像を調べると言えば、電源を入れてくれますから」
「なるほど」
「じゃあ、その3人を呼んで話を聞きましょうか!なぜ被害者からの電話やメールを無視したかを」
新一が提案すると「分かった。苗字君、至急、この3台の携帯の持ち主を呼んできてくれ」と目暮が指示を出す。
「分かりました!」