「ビビったのよ!!彼とは先週ナンパされたばっかの関係だったしー、ちょっとヤバイ感じの臭いがしたしー…関わらない方がいいかなーって思ってさー」
中桐はミニスカートを履いており、香水を付けた160p前後の女性だった。
「では、被害者とこの水族館に来たのはあなただったんですな?」
「ええ。私がいるか好きっつったら、水族館に行こうって誘ってくれてさ」
「じゃあイルカショーも見たんですね?」
新一が質問をすると「そうよ!彼と一緒にね。でも、途中でトイレに席を立ったっきり帰って来なくってさー、イルカショー終わっちゃうし」と答えた。
「途中で席を?」
「ええ!文句言ってやろうと思って水族館の中を捜し回ったらマジビビったわよ!血ィ流して死んでんだから…もっとビビったのはその後…」
「何ですか?」
「その彼の携帯からかかってきた電話よ!!」
中桐は冷や汗をかきながら答えた。
「何か、誰かに刺されたらしいって周りの客が騒いでたから無視したってわけ。もしかしたら、彼を殺したヤツが私の命も狙ってかけてきたんじゃないかと思ってね」
「何で狙われてるなんて思ったのかね?」
「彼、携帯でヒソヒソ危ない話をしてたから…。”金は絶対用意する”とかなんとか…」
中桐は携帯電話を操作しながら「ひょっとして、私を疑ってんならお門違いだよ!ちゃんと証拠のムービーもあるんだから!」と言って、イルカショーで撮影した動画を再生した。
「さっきのイルカショーで撮ったのよ!」
そこには、イルカが一番前の客に水をかけているのを見て笑っている中桐の声も残っていた。
「彼が戻って来たら見せてやろうと思って撮ってたのよ!ショーが終わったのは丁度昼の12時!彼の死体が見つかったのって、12時前だったんでしょ?」
「ええ…」
「イルカショー、最後まで撮ってるし、入ってるのも私の声!これってアリバイになるんじゃないの?」
「で、ですな…」
「たしかに、彼女がイルカショーを最後まで見ていたのなら、犯行は難しいですね」
2人目の携帯電話の持ち主は、膝丈のスカートを穿いた尾城那穂。
「ええっ!?殺されたのって朱本君だったんですか!?」
被害者が朱本だという事を知った尾城は、驚いた声を上げた。
「男の人が刺されたらしいって聞きましたけど、まさか彼とは…」
「被害者とはどういう関係だったんですか?」
「元カレでした…。別れてからもう1年以上経ちますけど…」
名前は「それじゃあ、彼からの電話を無視したのは何故ですか?」と聞く。
「何度も縒りを戻そうとしつこくされていたので…。今日は私、デート中でしたし。だから思わず携帯の電源を切っちゃって」
「じゃあ、その彼とずっと一緒だったんですか?」
「はい…。これが、その彼氏です」
そう言って尾城は携帯を取り出すと、写真を見せた。
「彼に聞いていただければ…」
「しかし恋人の証言は…」
「あ、そういえば事件があった頃、ムービーを撮ってました!」
「ほ、本当かね!?」
尾城の撮影したという動画を見るが「10分近く経ちますが、何も起きませんなぁ…」と目暮が呟く。
「この後です」
動画から『蘭!入り口に戻って係員を呼んで来てくれ!!』という新一の声が聞こえてきた。
「あ!私達写ってる…」
「マジか…」
動画を見ると、たしかに新一と蘭の姿が写っていた。
『なんだ今の?』
「これ、彼氏の声です…」
『何かあったみたい…行ってみる?』
『よせよせ、関わりたくないよ』
動画が一瞬ブレた後、尾城の姿が動画に写る。
「たしかに、あなたが撮ったムービーのようですな」
「それで、朱本君は何でここに来たんですか?」
「彼女を連れてデートだったみたいですよ」
「じゃあ、彼は私にその彼女を紹介したくて電話しただけかもしれませんね」
尾城の話が終わり3人目を呼ぶと、最後の携帯電話の持ち主は、尾白の恋人である仁部浩大だった。
「あれ?あなた…」
「もしかして、尾白那穂さんと付き合っている…」
仁部がスタッフルームに入って来て、名前と目暮は驚いた。
「え、ええ…。何で知ってるんですか?」
「さっき彼女から聞いたんですよ。今日、ここで殺されたのは彼女の元カレだったという事もね」
「ええっ!?那穂の元カレが殺された?本当に!?」
目暮の言葉を聞き、仁部は驚いた声を上げた。
「知り合いなんですよね?その元カレと」
「し、知るわけないだろ?初耳だよ!」
新一は「でも、彼の携帯にはあなたのメルアドも入っていて、さっき送ったメールも無視されてましたよね?」と詰め寄る。
「ああ…さっき来た”すぐ連絡をくれ”ってメール?」
仁部はそう言うと「前に来たイタズラメールと同じアドレスだったから削除したよ。最近よく来るんだ。”私の秘密が見たいならクリックして”って、いかがわしいメール」と続けた。
「でも、その送り主が那穂の元カレだったんですか?」
「ええ。ところで、犯行があった頃、あなたも彼女と同じくムービーを撮っていたそうですが」
「ああ。もしかして…これの事ですか?」
仁部は動画をさかのぼって、12時前の動画を再生した。
『蘭!!入り口に戻って係員を呼んで来てくれ!早く!!』
『なんだ?今の?』
『何かあったみたい…行ってみる?』
動画には水槽を泳ぐサメや、カメラに気づいた他の客達が避けるような仕草が写っていた。
『よせよせ、関わりたくないよ』
『そ、そだね…』
動画は尾城が写って終わっていた。
「もちろん、これの前も10分くらいノーカットで入ってますよ。俺も彼女も後でブログにムービーを載せるつもりだったんで。確認したければじっくりどうぞ」
仁部はそう言うと、目暮に携帯を渡す。
「ええ…」
「ブログ…?」
「はい。俺達、趣味でブログを書いてるんです。それで、なるべく綺麗なムービーを残したくて」
「…そうですか」
一通り3人の話を聞いた後はスタッフルームから出てもらい、他の客達と一緒にイルカショーの会場で待機してもらう事にした。
名前や目暮達はスタッフルームで、状況整理とアリバイの確認作業に入る。
「目暮警部!イルカショーを撮ったお客さんが他にもいましたので照合したら、中桐さんのムービーは犯行当時の物に間違いありませんでした」
「そうか…。後の2人のムービーも固定されてなく、人が撮った映像だったし…」
「…」
名前は「目暮警部、もう一度尾城さんと仁部さんの携帯をお借りしてもよろしいですか?」と聞く。
「ああ。構わんよ」
そう言うと、目暮は尾城と仁部の携帯を渡した。
「…」
名前は尾城と仁部の撮影したムービーをもう一度再生する。
「(…どうしてこんな明るいトンネルの場所を殺害現場に選んだんだろう…)」
2人の撮影したムービーを見比べていると「(…それに、何だろうこの違和感。どうして尾城さんの撮ったムービーは縦向きなんだろう…)」と、引っ掛かっていた。
「目暮警部!」
刑事が「客達が”まだか?”と騒ぎ出しています!」と焦った様子でスタッフルームに入って来た。
「しかし、まだ犯人を割り出せておらんしなぁ…」
目暮はそう言うと「…と言っても工藤君があげた容疑者3人も、全員、犯行当時、携帯電話で動画を撮っていたというアリバイがあるし…」と眉間にしわを寄せる。
名前は「(そっか!この違和感…だからムービーが縦向きなんだ!)」と、動画の違和感の正体に気づいた。
「アリバイが成立していない人が1人いる…」
「名前刑事も気付きましたか?」
「えっ?」
いつの間にかスタッフルームからいなくなっていた新一が戻って来て、扉の傍に立っていた名前に笑って問いかけた。
「新一君、やっぱり?」
「はい」
名前と新一は顔を見合わせると頷いた。
「やはり犯人は被害者を刺殺後、すぐにこの水族館から逃げたのでは?」
「出入口を封鎖するまで数分かかったようですし…」
「だが、出入り口は防犯カメラには慌てて帰る不審人物は映ってなかっただろ?」
新一はスタッフルームの中に入ると「じゃあ、お客さん達には引き取ってもらいましょう」と言った。
「え?」
「もちろん。容疑者のあの3人を除いてね」