3人を犯行現場であるトンネルの水槽に集めると、中桐が不服そうな顔をして「ちょっと、どーいう事!?」と怒鳴った。
「他の客は帰ってるのに、何で私達だけここにいなきゃいけないわけ?」
トンネルには容疑者である3人と、名前、目暮、そして新一の3人が向かい合って立っている。
「ちゃんと見せたでしょ?アリバイのムービー!」
「私のも見ましたよね?」
「俺のだって…」
3人が口々にそう言うが「ええ。確かに見ましたが…、たった1人だけ奇妙な動画を撮ってる方がいるんです。あたかも自分が殺人犯だと白状しているかのような、ムービーをね」と新一が言う。
「ま、まさか私が撮った、あのイルカショーだなんて言わないわよね?」
「えーっと、たしかあなたは中桐鹿子さんでしたよね?」
新一はそう言うと「あなたの動画は酷かった。手ブレも多く、入ってる声も割れ気味で、とても見れた物じゃない…」と続けた。
「し、仕方ないじゃない。だって私…」
「そうですよね。当然です、だって中桐さんは素人なんですから!一般人が撮った動画は、大体あんな感じです」
「それに比べて仁部さんが撮った動画は素晴らしかった!悠然と泳ぐサメをしっかり捉えていました」
新一が仁部の動画を褒めると「おいおい…だからって犯人にされてしまうのか?」と仁部は冷や汗をかく。
「いいえ。あなたはただ動画を撮り慣れているだけでしょう。その動画をブログにアップしようとしていたようですし、何度もアップしていたのなら撮るコツもつかめてくる」
「おかしいなって思ったのは、尾城さん、あなたの撮った動画です」
名前と新一が尾城の方を見ると、尾城は焦った顔をした。
新一は尾城と仁部の携帯を両手で取り出すと、2人の撮った動画を流し始めた。
「これがその動画…。あなた達から見て、右側が仁部さんで左側が尾城さんの動画です」
「何か気付きませんか?」
「な、何かって…」
「俺のが横で、彼女のが縦で撮ってるだけじゃないか!」
「そこです」
名前は「普通、サメのような横に長い魚をカメラに捉えたいなら仁部さんのように横にしますよね?体全体をフレーム内に納めたいから。ですが、尾城さんの携帯は縦向きのままです。せっかくサメが写っても、あっという間にフレームアウトしてしまっています」と説明する。
「べ、別にサメを撮りたかったわけじゃないから…!」
「ブログに載せる予定だったのにですか?」
「っ!!」
名前の指摘に尾城は黙ってしまった。
「おかしいのはそれだけじゃない。誰かが何かを撮影している場合、周囲の人達がそのフレームに映らないようにするのは当然のマナー。この仁部さんの動画のようにね」
新一は、仁部の動画で写っている他の客がカメラを避ける素振りをしているシーンを見せる。
「だが、尾城さんの方はそんな素振りを誰も見せず、フレーム内を平然と横切っている…。まるで、彼女が撮影している事に全く気付いていないかのように」
「そ、それは…」
「気付かなくて当然ですよ。なぜなら彼女は自分の携帯を…」
そう言うと、新一は仁部の後ろに立ち、彼の被っているニット帽の折り目の部分に携帯を差し込んだ。
「彼のニット帽のここに入れて、動画を撮っていたんですから」
「!!」
「白いニット帽に白い携帯が挟まっていても、よーく見ないと気付きませんし、こうしておけば彼の背後で撮影してたような動画が撮れる」
「だからあなたはこの水槽のトンネルを殺害現場に選んだんですよね?どこを撮ってもカメラには魚が映りますから」
新一の後に、名前が続けて説明をすると「しかし、そんな物を帽子に入れたら気づくんじゃ…」と目暮が問う。
「恐らく、帽子に何かが付いてるとてでも言って一旦脱がし、携帯を仕込んだ後で被せたんでしょう」
「携帯を抜き取るのは一瞬でできますしね。尾城さんの動画で、一瞬ブレてる所があったので、多分その時に抜いたんじゃないでしょうか」
「そうか…。しかし、人は顔を無意識によく動かしてしまうから、あんなにじっくり撮った動画には…」
「その点は大丈夫!」
新一は仁部の着ているダウンベストのファスナーを下ろしながら「だって彼は、首を痛めてギプスをしていて、急に頭を動かしたりはできませんから」と答えた。
「な、何でギプスの事を?」
「あなた、横から話しかけた時に、首だけじゃなく体ごとボクの方を向いていましたし、動画を見るときも携帯を顔の正面に持ってきたじゃないですか。だから首を痛めてうつむけないんだろうと思ったわけですよ」
「し、新一君、よく見てるね」
「じゃあ、彼にその動画を撮らせてる間に尾城さんは犯行を…」
新一は尾城を見ると「ええ。このトンネルで待ち合わせていた被害者をスタンガンで気絶させ、ナイフで心臓を貫いて刺殺し、再び彼の元へ戻り携帯を回収したんです」と説明する。
「だがよく誰にも見られなかったな」
「多分、尾城さんはちょっと服装を変えたんじゃないでしょうか?上着を脱いで、スカートのウエストを折り曲げて短くして、さらに帽子でも被ってしまえば別人に見えます」
「トンネルを出れば暗い通路になっているので、そこで着替えてからまだ戻って来る事は可能です」
そう言うと、新一は尾城に近づき腕を掴む。
「だが、残念ながら一か所だけ着替えることができなかった。そう、この手袋…」
尾城の着けている右の手袋を引っ張ると「リバーシブルになっていて裏返して着けて隠しているようですが、ホラやっぱり…被害者の返り血が右手の指先に」と、血の付いた右手が出てきた。
「ど、どうして分かったの?」
「あなたが見せてくれた彼との写真。服装からして撮ったのは今日だが、手袋の色が違ってました。普通、手袋を2つも持って来ませんよ」
「それに、あなたは右利きですよね?あの写真を撮ったのも右手、目暮警部に携帯を渡した時も右手。それなのに手袋を外して携帯を操作していたのは左手でした。刺殺した時に使ったコンビニ袋の内側が血で汚れていたので、その時に返り血が付いたんだろうなと思ったんです」
「では、その地を鑑識さんに」
「調べるなら早くしてくれない?あんな男の血…早く洗い流したくてしょうがないんだから!」
そう言って、尾城は犯行を認めた。
「じゃ、じゃあやっぱり那穂…おまえが?」
「えぇ、そうよ!リベンジポルノって知ってる?別れた恋人が相手の恥ずかしい画像をネットでバラまく嫌がらせ…」
「ま、まさか…」
「そのまさかよ。あの男、あなたの携帯にも何枚か送ったって言ってたわよ」
「じゃあ、あのいかがわしいメールは…」
「そうよ。開けたら私のエッチな画像…。あなたは開けずに消してくれたようだけど、今度は直接あなたに電話するって脅されたわ」
そんな尾城の話を聞いて、名前は「(ひ、酷い…)」と心の中で怒りを覚えた。
「何で俺の電番やメルアドが…」
「他に好きな人ができたから別れましょって言いに彼の家に行った時、あの男…私がトイレに立った隙に私の携帯の中を見たみたいでさ…。”恋人や勤め先や家族に写真をバラまかれたくなかったら金をよこせ…借金で首が回らないんだ”って…。だから私が逆にあの男の血をバラまいてやったってわけ…」
尾城は自分の右手を見ながら「でも失敗したわ…。手袋に血が付いて裏返してなきゃバレなかったかもしれないのに…」と言った。
「いや、裏返してなくてもバレバレでした」
「え?」
「仁部さんの動画に映っていたあなた…両手で手袋をしていたじゃないですか。左手で操作した時外していたから普通の毛糸の手袋だ」
新一は、仁部の動画を思い出しながら続ける。
「スマホは通常、素手じゃないと操作できない。なのにあなたはずっとスマホで動画を撮っていたかのように装っている。それは、手袋をはめなければできない何かを、あなたがやっていたという証拠。簡単な推理ですよ…」
目暮は尾城を見ると「それじゃあ、行こうか…」と連れて行く。
「新一君、今回もありがとう。お手柄だったね」
「ありがとうございます。名前刑事も、相変わらずですね!流石です」
「新一君のおかげだよ。デートの邪魔しちゃってごめんね」
名前がそう言うと「だ、だから名前刑事!デートじゃないですってば!」と新一が顔を赤くしながら否定した。
「それじゃあ、そういう事にしておくね。蘭ちゃんにも、遅くまでありがとうって伝えておいてね」
「はい!」
名前は目暮の後を追った。