「俺はバンパーを外す!おまえはトラックの運転手を!」
「了解!」
降谷は乗用車からトラックに移動した。
「班長…この道GPSに映らない。工事中の高速道路かも」
諸伏は携帯を見ながら伊達にそう言うと「っていうか…」運転している伊達が焦った声を出す。
「道が途切れてるじゃねぇか!?」
伊達と同じように、名前も道が途切れていることに気づく。
「は、萩原君!道が!」
「降谷ちゃん急げ!もう道がない!!」
「降谷君!」
松田のファインプレーで、乗用車は無事にトラックから切り離されて停止することができたが、トラックはいまだに走り続けている。
降谷はドアを開けると、トラックの中に乗り込んだ。
「い、今からブレーキかけても…」
「…チッ!」
10tトラックが完全に停止するまでの距離は、乗用車の約2倍で、今からブレーキをかけても間に合わないことに気づく萩原と名前。
「!!」
萩原は何かを思い出した顔をすると、降谷に「アクセルだ!アクセルしかねぇ!」と叫んだ。
「アクセル!?」
「踏めェ!ゼロ!!!」
降谷は思いっきりアクセルを踏み込む。
「名前ちゃんもしっかり掴まってろよ!」
「うん!」
そう言うと、萩原も同じようにアクセルを踏む。
トラックと車は途切れた道を飛び越えた。
「や…やべェ…届か…」
「名前!ハギ!ゼロ!!」
松田は途切れた道の反対側から叫んだ。
名前と萩原の乗っていた車は綺麗に着地をしたが、トラックはギリギリ届かず、道路の端にぶつかる。
しかしそのまま一回転をして、なんとか渡り切ることに成功した。
「ふ、降谷君!」
萩原と名前は急いで車から降りると、トラックに向かって駆け出す。
「おい!?大丈夫か!?」
「降谷君!大丈夫!?」
「ゼ…」
車の中から降谷が笑顔を見せたことで、「よ、良かったー…」と安堵した名前たちだった。
松田、伊達、諸伏の3人は一度、高速道路を降りて反対側にいる名前たちと合流する。
「ゼロ!」
「おまえらすげぇな!」
「名前!おまえ大丈夫か?ケガは?」
松田は名前に駆け寄ると、名前の両腕を掴んで上から下まで確認する。
「私は大丈夫だよ。さっき車が一回転した時の方が怖かったよ」
名前がそう答えると、松田は安心したように笑った。
「おまえたちはいつもこんな運転をしているのか?」
降谷は松田と萩原に聞いた。
「ここまで派手なのはなかなかないけどな!」
「どうよ、俺のドライビングテクニックは♪」
「これに付き合わされてる苗字さんが可哀想だと思ったよ」
「でしょー!」
少しすると、通報していた警察や消防、救急車が到着し、松田たちは事情を説明した。
「まぁでも、今回は君のアドバイスが的確だったよ。あれがなきゃ今頃は…」
降谷が萩原にそう言うと、萩原は松田を見ながら「いや、俺じゃなくてアイツならそうするだろーなって…」と言った。
「アクセルを踏み込むのも悪くないでしょ」
「そうだな」
「でも、ブレーキも忘れないでね?」
「わかってるって!」
車庫に戻った松田、萩原、そして名前の3人は、その後急いで洗車をして、凹んだ側を隠して鬼塚に気づかれないようにしたが、その後すぐに見つかり松田と萩原だけが怒られたのだった。
夜、降谷と諸伏が食堂の近くにある自販機で飲み物を買っていると、男子学生の話し声が聞こえてきた。
「やっぱ同期の中なら断トツ苗字さんと林さんじゃね?」
「わかるー。2人とも可愛いよな!」
男子学生が数名、食堂のテーブルで話している。
「でも苗字さんって、松田たち以外の男と話しなくね?」
「あー、確かに!」
「挨拶くらいは返してくれるけど、あんま目も合わないしなー」
「お高くとまってんじゃね?」
「イケメンとしか話しませーん!てか?」
「顔は可愛くても性格ブスじゃん!」
「てかビッチだろ!ああいう大人しそうな顔した女の方が裏ではエグイことやってんだろうなー」
学生のうちの1人がそう言うと、周りが声を上げて笑った。
「苗字さんがいなくて良かった」
「誰が聞いているかわからない場所で、よくあんな大きな声でああいう話ができるな」
「本当にね。聞いてたのがオレたちで良かったよ。これが松田と萩原だったら、今頃ケンカになってそう」
「ああ…」
降谷は返事をすると、ペットボトルの蓋を開けながら食堂の中に入っていく。
「ゼ、ゼロ…?」
諸伏の呼びかけを無視して男子学生たちに近づくと、降谷は飲み物を男子学生たちにかけた。
「冷て!!誰だよ!?」
「ふ、降谷!?」
「てめー何すんだよ!」
飲み物をかけられた男子学生たちは椅子から立ち上がると、降谷に詰め寄る。
「こんな所で話すような内容ではないからな。常識がない奴に口で言ってもわからないだろう」
「てめー!」
「ゼロ!何してるんだよ!」
「警察官を志している人間たちのすることじゃない」
「なんだと!!」
諸伏は急いで間に入ると「ご、ごめん。でも確かにそういう話はこういう所ですることじゃないと思うよ?誰が聞いてるかわからないし、これが松田だったら問答無用で殴られてるよ」と言った。
「べ、別に俺たちがどこで何を話してようが勝手だろ!」
「警察官とは何か、をもう一度知る必要があるんじゃないのか?」
「このッ!!」
「おい、もうやめようぜ!」
「降谷に勝てるわけねーだろ!」
そう言うと、男子学生たちは食堂から出て行った。
「おい、ゼロ!」
諸伏は降谷に向き合うと「どうしたんだよ?」と聞いた。
「…別に。僕が不快だと思ったからしたまでさ」
「…ゼロって、やっぱり苗字さんのこと好きなの?」
「はあ?て言うかやっぱりってなんだ?」
「だって、ゼロってば入校してから結構苗字さんのこと見てるし、話しかけてるし、珍しいなって。今までだったら、自分から女の子に話しかけにいくことなかったじゃん」
諸伏にそう言われ、降谷は「そ、それは…そうかもしれないけど…」と言った。
「だから、てっきりゼロは苗字さんのことが好きなんだと思ってたんだけど」
「好きか嫌いかで聞かれたら、まあ好きだけど…それよりも彼女について気になる事があるんだ」
「気になる事?」
「ああ。前に、僕が電車の中で痴漢にあっている女性を助けた事があるって言ったろ?」
「高校生の時だっけ?」
「そう。あの時の女性が多分苗字さんだ」
諸伏は「え!そうなの?ゼロのずっと探してた子だろ?」と言った。
「ずっと探してたって…ただ、心配していただけさ。助けた後も震えていて、目が合うこともなかったから、笑顔で過ごせてるといいなって思ってただけだよ」
「人はソレを恋と呼ぶんだぜー」
「なんだよソレ」
降谷は思わず笑った。
「良かったね。ゼロがずっと気にしてた女の子に会えて」
「まあ、彼女は僕のことを覚えていないし、あれが原因で男が苦手なのかもしれないけどな」
降谷の言葉に「オレもそう思った」と諸伏が続ける。
「この前、苗字さんの腕を掴もうとした時、思いっきり振り払われちゃったからさ」
「おまえ…掴もうとするなよ」
「ち、違うよ!一緒に別の場所に移動しようと思っただけで、下心はないよ!」
「はいはい」
「本当だからね!で、その時の拒絶反応が普通じゃなかったから、過去に何かあったのかなって思ったんだ」
「…あったんだろうな」
そんな話をしていると、食堂の入り口に松田と萩原が現れた。
「おいゼロ!諸伏!何してんだよ?」
「ああ、ごめん」
「2人は何してたんだ?」
「鬼公の車をボコボコにした罰で反省文だよ!」
「いやーこの歳にもなって反省文を書くことになるとは思わなかったよ!」
そう言って萩原は笑った。
「って、この席濡れてんじゃねーか!」
松田は、先ほど降谷が飲み物をぶちまけた席に座ると、濡れていることに気づき、すぐに立ち上がる。
「そこ、さっきゼロが飲み物こぼしたから濡れてるよ」
「言うのがおせぇよ!」
松田はブツブツと文句を言いながら別の席に座る。
「…松田」
「あ?」
「…苗字さんの事で気になる事があるんだが」
降谷の言葉に、松田はピクッと反応する。
「あ゛?」
「ちょっとちょっと陣平ちゃんったら、顔が怖いぜぇ。相手は降谷ちゃんよ?そんな警戒することねーだろ」
「…なんだよ?くだらねぇ事だったら、いくらゼロでもぶっ飛ばすぞ?」
「そう怖い顔をしないでくれ」
降谷は松田が座っている席の向かいに座ると、真剣な顔で聞いた。
「苗字さんって、過去に何かあったのか?」
「…何かって?」
「…例えば、男が苦手になるようなこととか…」
降谷がそう言うと、松田が勢いよく立ち上がる。
その拍子に松田が座っていた椅子が倒れて、食堂に大きな音が響いた。
「…てめーには関係ねぇだろ」
そう言って、松田は食堂から出て行った。