「班長、おはよう」
「ったく、いつまで班長って呼ぶんだよ」
「もうこればっかりはクセだね」
そう言って名前は笑う。
「そういえば、班長。この前言ってた、ナタリーさんへの指輪は買ったの?」
「オゥ!ばっちり、いいのが買えたぜ」
「それなら良かった」
「やっぱりこういうのは同じ女の苗字に相談して良かったぜ」
「ナタリーさん、気に入ってくれるといいね!」
「だな!」
伊達は大学時代から付き合っている、恋人のナタリーにプロポーズをするために婚約指輪を購入しようとしていたが、ジュエリーブランドに疎かった為、名前に相談していた。
「班長とナタリーさんの結婚式、楽しみにしてるね」
「先に結婚する事になりそうで悪いな」
「何言ってるの!班長達の方が付き合いが長いんだし、当然でしょ?」
名前は「ナタリーさんと幸せになってね!」と伊達に言う。
「もちろん、そのつもりだぜ。けどな、俺はおまえ達にも、ちゃんと幸せになってほしいって思ってるんだぜ?」
「班長…ありがとう」
「最近、ゼロからの連絡は?」
伊達の質問に、名前は首を横に振る。
「けどね、それでもいいの。ちゃんと生きていてくれさえすれば、私はそれで十分だよ」
「…ったく。後でゼロに連絡入れてみるか」
「うん」
名前達が話をしていると、徐々に刑事部に人が増えてきた。
「おはようございます!伊達さん!苗字さん!」
伊達が教育係を担当している高木がやって来る。
「よお、高木」
「高木君、おはよう。今日も朝から元気だね」
「はい!元気だけが取り柄なんで!」
伊達は「よっし!そんじゃあ今日も捜査本部だな」と気合を入れると、持っていたコーヒーを一気に飲み干した。
「最近2人、特殊班捜査係の方の捜査本部に呼ばれてるよね?」
「そうなんですよ。誘拐されたのがフランスの自動車メーカーの本社から日本支社に出向しているカッセル副社長の息子さんで」
「カッセル副社長の家が俺達の家の近くなんだよ。だから土地勘があるだろうって、2人揃って呼ばれたんだよ」
「なるほど。そういう事ね」
名前は「それで?犯人の目星はついたの?」と聞いた。
「俺は、近所に住む半グレ集団の元リーダーが怪しいとにらんでる。こいつ、ギャンブルで多額の借金を作ってやがるんだ」
「そっか…。たしかに、そう聞くとその男が怪しいね。借金返済の為に、カッセル副社長の息子さんを誘拐して、身代金を要求した…」
「だろ?とりあえず、捜査本部に行ってから、その後俺達は張り込みだ」
「頑張りましょう!」
高木も気合を入れる。
「張り込みも大事だけど、ちゃんと適度に休憩もとってよ?」
「分かってるって!心配すんな」
「それじゃあ僕達はそろそろ行きましょう」
「だな。苗字も頑張れよ!」
「うん、ありがとう!」
伊達と高木を見送った名前は「苗字君!」と目暮に呼ばれた為、目暮のデスクに走る。
「ねえ!私の彼、絶対詐欺師なの!」
名前は佐藤と2人で通報のあった古いアパートに駆け付けると、待っていた女性が2人に詰め寄る。
「と、言いますと?」
「だから!私と結婚するって言うのに全然動いてくれないし、それなのにお金だけはどんどん要求してくるの!」
「失礼ですが、あなたのお名前は?」
名前が質問をすると「松本梨々花」と女性が苛立ちながら答えた。
「松本さん。それで、具体的にはどのような経緯で金銭を要求されたんですか?」
「毎月10万欲しいって。私と結婚したいけど、結婚する前に借金があるから、その借金を返済するまでは結婚できないって」
松本の話を聞いた佐藤は「なるほど…。だけど、結婚詐欺ならうちの担当じゃないですよね」と言った。
「それだけじゃないの!昨日、彼がうちに来た時に…両手と服が真っ赤で…。私が聞いたら”人を刺した”って答えたの」
「人を刺した?」
「そう!だから、私…怖くなって部屋から彼を追い出したの。でも、通報しなきゃって思って…」
「それで今日になって通報したって事ね」
佐藤がそう言うと「ねえ!私も罪に問われるの!?」と松本が顔を青くして質問をする。
「大丈夫ですよ。松本さんは、きちんと通報してくださったので、罪には問われません」
「よ、良かった…。お金も返してほしいし、何とか彼を捕まえてほしいの!」
「分かりました。そしたら、その彼の事を教えてください。住んでいる住所は?」
松本に男の所在地を聞いた名前と佐藤は、急いでその男の元へと向かった。
「あれ?」
名前達が男のアパートに到着すると、すでにアパートの前にパトカーが停まっていた。
そして、パトカーの前には手錠をかけられた松本の彼である男が立っており、警察官2人に挟まれながらパトカーの中へと乗り込む所だった。
「班長!」
「オゥ、苗字と佐藤か」
「お疲れ様です!」
「高木君も、お疲れ様」
「2人はどうしてここに?」
佐藤が聞くと「この男、借金のせいでヤミ金とトラブって人を刺したんだよ」と、パトカーの中に乗り込んだ男を見ながら伊達が答えた。
「本当に刺してたんだ…」
「苗字さん達もこの男に用だったんですか?」
「さっき通報があったの。この男に結婚しようって言われてたんだけど詐欺じゃないかって疑っていた女性からだったんだけど、昨日”人を刺した”って言われたって聞いて」
「なるほどな。そしたら、そっちの話も聞いておくぜ」
「ありがとう」
伊達は大きなあくびをした。
「班長、眠そうだね」
「まあな。今日で徹夜2日目だからな」
「徹夜2日目!?ちゃんと寝ないと判断力も鈍るし、ダメだよー」
「ちゃんと仮眠はとってるぜ」
「そういう問題じゃないでしょ」
名前と伊達の会話を聞いていた佐藤と高木は、ポカンという表情をした。
「ん?どうしたの?」
そんな2人に気づいた名前は「何かあった?」と聞いた。
「あ、いえ、そういえば伊達さんと苗字さんって同期だったんだなーと思いまして」
「私も。2人が同期だって忘れてました」
「おいおい、それは俺が老け顔だって言いたいのか?」
「班長、きっと私が童顔だって言いたいんだよ」
「どっちもですね」
「はい」
2人が間髪入れずに肯定したので、名前と伊達は「少しは否定してよ(しろよ)」と声を揃えた。
「伊達さん達は、同じ教場だったんですよね?」
「ああ。俺が班長でな。卒業してからだいぶ経つのに、未だに班長って呼んで来るよな」
「だって、班長は班長だし。もう、こうやって班長って呼ぶのも私だけだね…」
「…そうだな」
少しだけ寂しそうな顔をした2人を見て、高木は「そ、そしたら僕も呼びましょうか!伊達さんの事を班長って!」と明るい声で言う。
「わ、私も呼びますよ!伊達さんがよければですけど!」
「悪いな気を遣わせて」
「本当、後輩に気を遣わせちゃった…反省!」
「名前さん…」
名前は「よし!」と気合を入れ直すと「それじゃあ、私達は次の事件に向かおう!」と佐藤に声をかける。
「そうですね。事件はまだまだありますから」
「それじゃあ、あの男は任せたよ班長」
「任された」
「高木君も、よろしくね!ちゃんと睡眠取って、ご飯も食べてね!」
「はい!」
高木は返事をすると、伊達と2人で車に乗り込み、本庁に戻って行った。
取り調べが終わり、部屋から出ると「でも、伊達さん最強っスね!」と高木が嬉しそうに言う。
「あんな巨漢の被疑者を瞬時に確保しちゃうとは!警察学校の成績もトップだったって聞きましたよ?」
「バーカ!そいつはガセネタ、俺はいつも2番だったぜ」
「えっ?そうなんですか?」
「オゥ。なんなら苗字に聞いてみろよ。頭も体も、アイツには一度も敵わなかったからな」
伊達がそう言うと「アイツ?」と高木が質問する。
「おまえのようなヒョロっとした優男だったよ。今はどこで何やってんだが…。自分の力を過信して、無茶してどっかでおっ死んじまってるかもな」
そう言うと、伊達は高木の事を見る。
「おまえも気ィつけろよ。刑事といえど命は1つ…。そいつの張り所を間違えるんじゃねぇぜ?」