「高木君!!」
病院に運ばれたという連絡を受けた名前は、急いで伊達が運び込まれた病院へと向かった。
「苗字さん…」
病室に入ると、ベッドの上に眠るようにして目を閉じている伊達と、呆然とした様子で椅子に座る高木がいた。
「…そ、そんな…」
「苗字さん…僕…」
「…あんなに…あんなに元気だったのに…。なんで、こんな…」
高木は、持っていた手帳をギュッと握り締めると「僕…伊達さんの事、尊敬していました…」と言った。
「どんな被疑者でも立ち向かっていく姿がかっこよくて…それでいて優しくて…。こんな僕にも、毎日真剣に向き合ってくれて…」
「…そうだね。班長は、そういう人だったね」
「彼女の事も…とても大事にされていて…。僕は、伊達さんみたいになりたかったです」
「…なれるよ。高木君も、きっとなれる」
「…」
名前は高木の傍に寄ると「もうすぐ遺体確認の為に、班長のご両親が来るの。高木君はどうする?一緒にいる?」と聞く。
「すみません…。僕は本庁に戻ります」
「うん。分かった。気をつけてね」
「はい。ありがとうございます…」
そう言うと、高木はフラフラとしながら病室を出て行った。
「…班長…どうしてあなたまで…」
高木が病室を出てすぐ、伊達の両親が病室にやって来た。
「航!!」
「…俺達より先に逝く事はねぇだろ…」
2人はベッドに横たわっている伊達に駆け寄ると、涙を流しながら何度も伊達の名前を呼んでいた。
「…伊達君のお父様、お母様。この度は…お悔やみ申し上げます」
「…あなたは?」
「私は、警視庁捜査一課の刑事で、伊達君と警察学校の時からの同期です。同じ捜査一課の刑事として、彼と一緒に現場に出る事ができて、とても光栄でした」
「…そうですか。航はきちんとやっていましたか?」
「…はい。教場のメンバーからは慕われて、捜査一課でも誰よりも率先して動く姿が後輩の憧れで…お父様のような刑事を目指していると、よく言っていました」
名前の言葉を聞いて、伊達の父親は「…そうですか。ありがとうございます」と、嬉しそうな顔をした。
「…私は失礼いたしますので、ご家族でお過ごしください」
「…ありがとうございます」
そう言うと、名前は病室を出た。
「…」
「あっ…!」
部屋を出ると、そこに涙をいっぱいに溜めたハーフの女性が立っていた。
「もしかして、ナタリーさん…ですか?」
「…あ、あなたは、苗字さん?」
「はい。捜査一課の刑事で、伊達君の同僚の苗字名前と申します」
名前はそう言うと、軽く頭を下げる。
「この度は、ご愁傷様です…」
「…本当に、彼なんですか?」
「…はい」
名前の返事を聞いたナタリーは「…昨日の夜…本当はみんなで北海道に行く予定だったんです…。私の実家が北海道で…」と話し始めた。
「私と、彼の両親も一緒に…。私の実家に挨拶をしに…。それなのに…なんで…」
「ナタリーさん…」
「…苗字さんにこんな事を言っても仕方ないですね…。ごめんなさい…」
「…大切な人を亡くす事は、本当に辛い事です。それでも、前を向いて、生きてください…」
名前がそう言うと、ナタリーは力なく笑って「…あなたは強いのね」と言って、その場を後にした。
「…強く見せないと、生きていけないんです」
伊達が亡くなってから約3ヶ月が過ぎた。
その間、降谷から名前への連絡はなく、名前は降谷からの連絡を待つ事を止めた。
生きていれさえすればそれでいい。
そう思って、日々の業務に勤しんでいた。
「いやー、久しぶりに飛行機に乗ったな」
「目暮警部もですか?私も久しぶりでした!ロスに行くのは初めてなので、仕事とはいえ楽しみです」
「お二人とも飛行機、久しぶりだったんですね。同じだー良かった」
名前、目暮、そして高木の3人はアメリカのロサンゼルスに向かっていた。
ロサンゼルス市警に日本人の国際指名手配犯を引き取りに行くついでに、海外研修を受ける為だった。
「そろそろ寝ておかんと、着いた時の時差で眠くなるぞ」
「そうですね。そしたらひと眠りしましょうか」
「起きたらロスなんですねー!うはー!楽しみだな」
「高木君、テンション高いね」
「はい!僕、海外初めてなんで!」
3人は毛布を掛けると寝る体制に入った。
名前達がぐっすりと寝いていると、突然客室乗務員の女性の叫び声が聞こえてきたので、3人は慌てて跳び起きる。
「な、何!?」
「う、後ろの方からですね…」
「何かあったのか…」
暗くなっていた機内の電気が点くと、機内アナウンスが流れて来る。
『お客様にご連絡いたします。只今、当機内に急病の方がおられます。お客様の中にお医者様か看護婦の方がいらっしゃいましたら、近くの客室乗務員にお知らせください…』
アナウンスを聞いた客達がざわつきだした。
「詳細を聞いてみますか?」
「そうだな」
「あ、すみません」
近くを通った客室乗務員に警察手帳を見せると「警視庁の目暮だが、本当に急病人かね?」と聞く。
「あ、いえ…実は…トイレの中で男性が亡くなっておりまして…」
「何ィ?」
「行きましょう目暮警部!」
名前は急いで席を立つと、目暮と高木と共にトイレに向かう。
「あれ?もしかして蘭ちゃん?」
「おやー。本当だ。蘭君じゃないか!連休を利用して旅行かね?」
立ち上がってキョロキョロとあたりを見回している蘭を見つけ、名前と目暮は声をかける。
「え、ええ。まあ…。それより何があったんですか?人が死んでるって聞きましたけど…」
「まあまあ…。余計な心配せず、後はワシら警察に任せなさい」
目暮がそう言うと「心配しないで、蘭ちゃん!きっと大丈夫だから」と名前も安心させるように言う。
「現場はあのトイレかね?」
「は、はい…」
現場のトイレの前には、客室乗務員達が集まっていた。
「もちろん、死体には誰も触れさせてないでしょうな」
「そ、それが、奇妙な少年がさっきから…」
「奇妙な少年?」
「蘭ちゃんがいるって事は…」
高木は「さっきの女の子とお知り合いなんですか?」と名前に小声で聞く。
「うん。実は仲良しなの」
「へー。苗字さんに高校生のお知り合いがいたんですね」
「まあね」
目暮がトイレの中を覗き込むと、新一が遺体の様子を見ていた。
「死因は恐らく、頚髄損傷による窒息死。凶器は、先の尖った有尖無刃器。アイスピックの様な物でしょう」
新一は遺体の首の後ろにある刺し傷を見て「ここを刺されると人間は、延髄の呼吸中枢からの呼吸ニューロンが傷害され、息をする事ができなくなり声もたてずに死に至る…」と言った。
「もっとも、被害者は刺される前に何か薬品を嗅がされて、昏睡状態に陥っていた可能性もありますが」
そう言うと、トイレの中のゴミ箱を開けて中を確認する。
「い、いったい誰がこんな事を…」
「そんな事はまだわかりません」
トイレの入り口にいた客室乗務員の質問に、新一はサラリと答える。
「ちょっとどきなさい!!」
目暮はトイレの入り口に立っていた客室乗務員の肩を持ってその場から遠ざけると、トイレの中に入る。
「でも、ご心配なく。犯人はまだ太平洋上空に浮かぶこの巨大な鉄の塊の中だ。逃しはしませんよ…」
そう言って笑っている新一の肩を掴んだ目暮は「おい、なんだね君は!?」と叫んだ。
目暮に肩を掴まれた新一は、振り返ると「工藤新一、探偵ですよ」と答えた。
「く、工藤って…まさか優作君トコの…」
「お久しぶりです、目暮警部。それに名前刑事も」
「おー!息子の新一君か!若い頃の彼にそっくりだ!最後に会ったのは君が小学六年生の時だったかなあー!しかしまー大きくなって!」
目暮は久しぶりに再会した新一に気づくと、憂い層に肩を叩く。
「目暮警部、新一君と知り合いだったんですね」
「だ、誰ですか、工藤優作って?」
「工藤先生はナイトバロンシリーズという小説を書いている世界的有名な推理小説家なんだけど、その工藤先生の息子がそこにいる新一君」
「へー。そんなすごい人の息子さんなんですね」
目暮は嬉しそうにしていたが、我に返ると「んな事は関係ない!!確か君はまだ高校生になったばかりだろ!?素人が勝手に現場を荒らしおって!ヘタすりゃ君にも疑いがかかるかもしれんのだぞ!?」と言いながら新一をトイレから引っ張り出す。
「すみません!カメラを借りてきてくれませんか?現場の写真を撮りたいので」
「あ、はい…。でも、写真ならその少年に言われてもう撮りましたけど…」
客室乗務員の言葉に目暮は「え?」と驚いた声を出す。
「お客様からポラロイドと普通のカメラを借り60枚ほど…」
「へー!新一君やるねぇ」