22

立川に続いて、鷺沼も新一に詰め寄る。

「ちゃんとした証拠も凶器も出て来ねーのに偉そーな事言ってんじゃねーぞコラ!」
「凶器も証拠もちゃんとありますよ。彼女はまだそれを身につけているはずですから」
「ハ!何言ってんだ!?つぐみは二度も身体検査を受けてんだぜ?んな物あったら、とーの昔に発見されんじゃねーのかァ!?」

鷺沼は名前の事を見ると「あんただよな?つぐみの身体検査をしたのは!?凶器なんか見つかってねーだろうが!」と叫ぶ。

「凶器の隠し場所が、ようやく分かったんです」
「何!?」
「そう…それは調べても怪しまれず…搭乗口の金属探知機もかいくぐれる女性特有の代物…」
「じょ、女性特有…?」
「バーカ!んな都合のいい物あるわけねぇだろ!?」

立川は天野の方を見ると「まさかつぐみ…あなた…」と言う。

「それはつぐみさん…あなたが胸につけている下着の、右胸のワイヤーですよ」
「ハハ…何言ってんだ!?女がそんな物で人を殺せるかよ!?」

鷺沼がそう言うと「いや、ワイヤーの片方の先を尖らせて後頭部に刺し、全体重をかけて頸椎の骨と骨の間に5〜6p食い込ませれば先端が頸髄に到達し、あの犯行は女性でも可能となる」と新一が説明をする。

「死体の傷口の下にあったひっかき傷は、ワイヤーのもう片方の先端が力を入れた時にスレた跡だったんです」
「つぐみさんがその凶器を捨てずに身につけていたのは、現場からワイヤーが発見され、凶器がそれだと分かれば、片方だけワイヤーが入っていない女性が犯人だとすぐにバレてしまうからですよ」

新一がそう言うと「分かったよ!もう一度つぐみが身体検査を受けりゃいいんだろ?」と鷺沼が提案する。

「ダメだよ、鷺沼さん…」

しかし、天野はそれを否定する。

「今度調べられたら…分かっちゃうもの…」
「つ、つぐみ…」
「おまえ…」
「そう、私が和洋を殺したの…」

天野は自分の罪を認めた。

「三年前、彼が日売新聞報道写真大賞をとった、あの写真のせいでね」

写真は火災が発生したマンションで、母親が娘を消防士に差し出している瞬間を捉えたもの。
その現場となったのが天野の兄が住むマンションで、天野の兄はその火災が原因で命を落としている。
天野が大鷹の部屋から見つけたのは、火災が起こる前の平穏なマンションの全体図、そして煙が上がり炎が燃え広がるまでをリアルタイムで残した何十枚もの写真だった。
あの火災は大鷹が火をつけて起こした物だった事を本人に問い詰めて知ったのだ。
それが、今回の殺害の動機だった。

「でも悔しいな…。凶器の隠し場所、結構自信あったのに」
「あなたが伸ばした手ですよ。彼の手荷物を棚から降ろそうとした時、あなたは右手を伸ばしいったん止め、改めて左手で取った…。ボクも名前刑事も、そこに引っ掛かりました。尖ったワイヤーの先がズレてムキ出しになり、それが肌に触れて思わず躊躇したんじゃないかって思ったんです」
「た、たった…たったそれだけの事で…?」

唖然とした様子の天野に「見逃しやすい細かな点こそ、何よりも重要なんです。あの時、あなたの何気ない仕草が、ボクの目には異様な行動として焼き付いていただけの事ですよ」と新一が答える。

「手の事、気づいていましたか警部?」
「いや、全然…」
「苗字さんも、よく気づきましたね」
「私は、そういう事には敏感だからね」

そう言って、名前は自分の左腕に残った傷跡を服の上から無意識に触った。



「ところで警部、それに名前刑事も、どうしてロスに?」
「あ、ああ。国際手配の日本人をロス市警に引き取りに…。後は研修だよ」
「研修前に、まさか殺人事件に巻き込まれるとは思わなかったな」

名前がそう言うと「たしかに、そうですよね」と新一は苦笑した。

「新一君と蘭ちゃんは、二人でロスに旅行なの?」
「実は、ロスに着いたらそのままニューヨークなんです」
「え?そうなの?大変だね」

新一は「まあ、でも飛行機なら乗ってるだけなんで楽ですよ」と答える。

「それにしても、よく毛利さん達が許したよね。二人って、まだ高校生になったばかりなんでしょ?」
「向こうで新一のお母さんと合流するんです!だから私達だけじゃないですよ!」
「そんな必死にならなくてもいいだろうが」

蘭に力いっぱい否定された新一は、ジト目で蘭の事を睨む。

「なるほど、そういう事か!それなら毛利さん達も安心だね」
「はい!それにブロードウェイでミュージカルを見る予定なんです!私、それがとっても楽しみで!」
「いいねー!私もブロードウェイとか観光とかしたかったなぁ」

名前がそう言うと「また次回、今度は旅行で来ればいいだろう」と目暮が言う。

「そんな連休が取れるのは、果たしていつになる事やら…」
「刑事さんって、本当に大変なお仕事ですよね…」
「まあね。でも、その分やりがいもあるし、人の役に立てる仕事だから自分に自信もつくよ」

そう言って名前は笑う。

「私、もっと名前刑事のお話聞きたいです!今までに印象に残った事件とか、色々!」

蘭が前のめりでそう言うと、新一が「んなもん一般市民のオレ達に教えてくれるわけねーだろ」と言った。

「まあ、守秘義務があるからね」
「あっそっか!そうですよね、すみません」
「それに、楽しい旅行の前に聞くような話じゃないと思うよ」

名前は「せっかくのアメリカ旅行なんだから、思いっきり楽しんできてね!」と言った。

「はい!ありがとうございます!」
「名前刑事も、研修で面白い事があったら教えてくださいね」
「新一君は、探偵になりたいの?」
「え?」

先程までと変わり、真剣な顔で新一に問いかける名前。

「鷺沼さんが言ってたように、本やドラマとは違って、本当の殺人事件なんだよ?現場にはその事件を犯した犯人がいて、ヘタしたら新一君自身も事件に巻き込まれる可能性がある」
「し、新一…」
「警察官が事件に巻き込まれるニュースも、たまに聞くでしょ?そういう危険な現場だって事を、新一君は理解してる?」

名前の話を聞いて、蘭は新一の服をギュッと握る。

「分かってます」

名前の問いかけに、新一も真剣な表情で答える。

「現場が危険だという事は、分かっているつもりです」
「…だけど?」
「ボクが力になれるのなら手伝いたい。謎に包まれた真実を知りたい、そう思っています」
「…それは、何の為に?」

新一は「被害者や、残された家族、そしてボク自身の為です」と答えた。

「危険だって事は理解してるんだよね?」
「はい」
「それでも、これからも知恵を貸してくれるの?」
「目暮警部や名前刑事がボクの事を求めてくれるなら、いつでも貸しますよ」

名前は軽くため息をつくと「今回、犯人が逮捕できたのは新一君のおかげだしね」と言った。

「目暮警部もきっと今回の事で、これからは新一君にも話を聞こうって思ってますよね」
「ま、まぁ…」

目暮がそう答えると「何でも言ってください!力になりますよ」と、新一は嬉しそうな顔をして答えた。

「だけど、危険な事には首を突っ込まない事!新一君はまだ高校生だし、あなたの事を心配する蘭ちゃんの気持ちも考えてあげてね」

そう言うと、名前は新一の服を掴んで心配そうな顔をしている蘭を見た。

「名前刑事…」
「蘭ちゃん、大丈夫だよ。もし新一君の知恵が必要になっときは、私達警察が、新一君の事をちゃんと守るから」
「…はい」
「でも、私達じゃ無茶をする新一君を止められないかもしれないから、その時は蘭ちゃんがブレーキになって新一君の事を止めてあげてね。お願いだよ」
「名前刑事…。分かりました!」
「…本当に、お願いね」
「名前刑事?」

名前は「そろそろ空港に着きそうだね。私達は席に戻るから、二人も早く席に座ってね。目暮警部、行きましょう」と言って、自分の席に戻って行った。

「…なんか、たまに名前刑事って寂しそうな顔をするよね」
「…刑事なんだ、一つや二つ、忘れられない悲しい出来事があるんだろ」

新一と蘭が席に戻ったタイミングで、シートベルトのサインが点灯した。
機内アナウンスが流れ、飛行機が着陸態勢に入る。
飛行機は無事にLAXに到着し、名前達はロサンゼルス市警へと向かった。



>> dream top <<