朝、名前が登庁すると疲れた顔をした高木が話しかけてきた。
「高木君、おはよう。疲れた顔してるね」
「昨日の雨の中、徹夜で張り込みだったんですよー。寒いし、お腹空くし、疲れたしで大変でした」
「そっか。それはお疲れ様。今日は非番でしょ?帰る前に仮眠室で寝てきたら?」
「そうします」
そう言うと、高木はあくびをしながら仮眠室に向かった。
「苗字君」
「おはようございます、目暮警部」
「おはよう。ちょっと、これを見てくれないか」
「何ですか?」
目暮のデスクに向かい、名前は渡された資料に目を通す。
「…これは、3日前の西多摩市の事故ですよね?」
「ああ。被疑者の名前を見てくれ」
「岡本浩平…西多摩市の岡本市長の息子さんですか?」
「そうだ」
3日前の夜、西多摩市の交差点で、25歳のOLが岡本の息子、浩平の運転する車にはねられて死亡するという事故が起きた。
「岡本市長は助手席に乗っていた、と書かれていますが」
「そうなんだよ。ワシも、助手席に市長を乗せて起きたただの交通事故だと思ったんだが…」
「違うんですか?」
「実はな、昨日、工藤君に会った時にこの事故の事を聞かれたんだ」
「新一君ですか?」
名前は、最近名を馳せている、高校生探偵の工藤新一の顔を思い浮かべた。
「この事故が気になると言っておったんだ」
「目暮警部。前の飛行機での事件から、新一君の事すごく頼りにしてますね」
「ま、まぁ…まだ高校生だからといって侮ったらいかんという事だな」
目暮は少し焦ったような顔をしながらそう言った。
「君も、何か気になる点はないか?」
「うーん…そうですね」
目暮に問われた名前は、もう一度資料に視線を戻す。
「…タバコ…」
「ん?」
「このタバコの吸い殻って、浩平さんの唾液が検出されたんですよね?」
「ああ」
「岡本市長はタバコを吸われるんですか?」
「吸わないそうだ」
名前は「…一度、新一君と話してもいいですか?」と目暮に提案する。
「何かあるという事だな」
「はい」
名前は自販機の前の休憩スペースに移動すると、新一に電話をかけた。
「もしもし?新一君?」
『名前刑事?どうしたんですか?』
「岡本市長の息子さんが起こした交通事故の事なんだけどね」
『ああ、やっぱりそれですか。名前刑事も気がつきましたか?』
新一の言葉に「うん。タバコだよね?」と答える名前。
『はい』
「今から浩平さんが置き忘れたであろうライターを捜そうかなって思ってるんだけど」
『それはもう大丈夫ですよ』
「大丈夫って?ってか新一君、さっきから何してるの?まだ学校だよね?後ろから学校だったら聞こえないはずの音が聞こえてくるんだけど?」
電話口から、喫茶店などの店員のする挨拶の言葉が聞こえてきた名前は、新一に問いかける。
『ああ、今、息子さんが昨日立ち寄った喫茶店に来ています』
「や、やっぱり…!ちゃんと授業は受けないとダメだよ?」
『ちゃんと受けますって!でも、今日だけは勘弁してください』
「全く…。そんな事ばっかりやってると、蘭ちゃんに愛想つかされちゃうかもよ〜」
『なっ!い、今はそんな事関係ないでしょう!』
「はいはい」
新一の焦った反応を聞いて、名前は思わず「フフッ」と笑った。
『と、とにかく、これで証拠は揃ったので岡本市長と息子さんを西多摩中央警察署に呼んでください』
「分かった」
『ボクも今から警視庁に向かうので、車に乗せてもらってもいいですか?』
「了解」
電話を切ってから1時間ほど待つと、新一が警視庁に到着した。
「目暮警部、名前刑事!」
「おお!工藤君!待っとったぞ」
「こんにちは」
警視庁の前で待っていた名前と目暮に合流すると、新一は「話は聞いていますか?」と目暮に聞いた。
「ああ。苗字君からちゃんと聞いたよ。本当に、今回の事故は岡本市長が運転していて起こしたものなんだな?」
「間違いありません」
「はい。鑑識さんにも、もう一度確認を取りました。やはりライターに残っていた指紋はこの一つだけだそうです」
「うむ。分かった。それじゃあ向かおうか」
名前の運転する車で、西多摩中央警察署に向かう。
「ご苦労様です!」
「ああ」
「ご苦労様です」
西多摩中央警察署に到着すると、岡本と浩平、そして西多摩中央署の警察官が数人がすでに集まっていた。
「目暮警部、それに苗字刑事も」
「どうも、お疲れ様です」
「彼が?」
「はい。高校生探偵の工藤新一君です」
「どうも。工藤新一です。今日は、わざわざ来てくださり、ありがとうございます」
「は、はあ…」
「どうも…」
岡本と浩平も、新一に向かって挨拶をする。
「それじゃあ、移動しましょうか」
そう言って移動した先には、浩平が運転していた事故車だった。
事故によって前方が潰れている車を見る新一。
一通り見終わった後、警察官が持ってきた証拠品であるタバコの吸い殻を受け取って、岡本達に見せる。
「この吸い殻は、事故現場の被害者のすぐそばに落ちていた物です。息子さんの唾液が検出されました」
吸い殻を浩平に見せながら「あなたが捨てたんですね?」と問う。
「あっ、はい。彼女をはねた後、慌てて運転席から駆け寄って…その時に無意識に捨てたんだと思います」
「なるほど。長さから見て、火をつけてからまだ間もないかと思われますが」
「そうです。火をつけた直後でした」
「ライターで?」
「はい」
「どのライターを使ったんですか?」
「車のシガーライターです」
車を見る新一。
「じゃあ、実際に運転席に乗って、タバコに火をつけてみてください」
「は?」
新一は、そのまま車の方に移動すると、ドアを開けて浩平に乗るように促す。
「真似だけで結構ですから」
そう言われた浩平は、不審な表情をしながらも新一に言われた通り、車に乗り込んだ。
「ただし、シートベルトはちゃんと着けてください」
「はい」
シートルベルとを着けると、新一がタバコの箱を見せる。
「これを」
「えっ?」
「タバコはこれを使ってください」
そう言って、新一は浩平にタバコを渡す。
「現場に落ちていた吸い殻と同じタバコです」
「はあ…」
新一が名前と目暮の方を見ると、2人は何も言わずにただ一回頷いた。
浩平は、胸ポケットに仕舞っていたタバコの箱を右手で取り出して口にくわえ、タバコに火をつけるために、左手でシガーライターに手を伸ばす。
「ストップ」
「ん?」
その瞬間、新一からストップがかかる。
「そう。運転席からシガーライターを取るには左手を伸ばすしかありません」
新一が決定的な矛盾を指摘する。
「しかし、そのライターにはあなたの右手の指紋しかついていませんでした。どういう事ですか?浩平さん」
くわえていたタバコを手に取ると「たしか、ライターは自分のを…」と説明しようとする浩平。
「いいや」
「え?あっ!」
浩平が新一の方を見ると、その手にはライターが握られていた。
「あなたはこのライターを出かけた先に置き忘れてきています。そして、お父さんはタバコを吸いません」
目暮が岡本の方を見ると、バツが悪そうな顔をする。
「あんたは間違いなく、この車のシガーライターを助手席で使ったんですよ。車を運転するお父さんの横でね」
新一がそう言うと、目暮が岡本の事を見た。
「他の指紋は見事にすり替えてありました。座席の位置も、ミラーの角度も完璧でした。…が、しかし、シガーライターだけは見落とされたようですな。岡本市長」
目暮がそう言うと、岡本は膝から崩れ落ちた。
「ああっ…」
岡本は地面に両手をつくと「息子は…浩平は私の市長としての立場をおもんばかって、身代わりを買って出たんです。本当は私が運転してたんです。申し訳ありませんでした」と言って、両腕に顔をうずめた。
「親父…」
岡本は逮捕され、浩平は身代わり出頭をしたとして犯人隠避罪で逮捕されたが、身内をかばったという事で、後日不起訴処分となった。
「いやあ、また工藤君に頼ってしまったな」
「本当ですね。やっぱり新一君の視野の広さや、洞察力はすごいです」
「そういう君だって、今回も事件の真相に気づいたじゃないか」
警視庁に戻り、休憩をしている名前と目暮。
「私は新一君が疑問を持たなかったら、気づかなかったと思います」
そう言って名前は笑う。
「私も負けてられないなー!」
「まだまだ元気が有り余ってるようだな」
「頑張りますよ!まだまだ…絶対に捕まえたい犯人を捕まえるまでは…!」
気合を入れる名前を見て、目暮は「あまり気負い過ぎるなよ」と言った。