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2人で夏の山に穴を掘る 掘り返されないように深く 暑い夏に土を掘ると蝶々が土の中の水分を求めて寄ってくる 
北斗も俺も何も言わなかった。蝶々だけがふわふわ、ひらひらと穴の周辺を飛び交っている。
暑い。夏にスーツ姿でこんな重労働をしているのだから当たり前だが。北斗を見ると少し意外なことにだらだらと汗を流していて、ヒトじゃないんだから汗をかく必要もないんじゃないかと思う でも思い返してみればレッスンの時もライブの時も北斗は当たり前のように汗を流していた どうしてもこういう状況下で俺の垣間見る北斗と普段の北斗が乖離してしまう。
どうしてこうなってしまったのだろう。北斗が俺に自身の持つヒトではない部分を見せるようになったきっかけは、あの時だろう。もしあの時鉄骨が北斗のことを押しつぶさなかったら、こうして死体を埋めるための穴を掘ることもなかったのだろうか。

北斗は俺を信頼しているから呼んだのだと言った。思えば先日の血が云々の際も、あなたにしか頼めない、と。それは確かに俺が彼にとって最も身近な体に傷がついても商品価値を損なわない人間であったからなのかもしれないが、もしかしたら、それ以上の理由があるのかもしれない。
北斗は、初めてできた「自分の正体を知っている親しい人間」に、自分のヒトでない部分を見せたくて仕方がないようにすら見える。、……俺はそこで初めて理解したが、血を飲んだことも、こうして死体の処理を一緒にしていることも、北斗にとっては信頼の現れに他ならないのだ。自分の本当の姿を知って欲しいから。恋人にだけ本当の顔を見せる意地っ張りな女のように、北斗もまた、俺に本当の顔を見て欲しがっている。この一連の猟奇的な「お願い」は、北斗にとっては至って健康的な「甘え」なのだ。……そのことによって俺の精神的安定が損なわれることに、どうやら全く思い当たっていないのが、ことをややこしくしていたのだが。

 憐憫にも似た気持ち。伊集院北斗はヒトにこんなに似ていて、俺に信頼を裏切られたと思った時に涙を流すのに、ヒトにはなれないのだ。
自分の正体がバレた人は今までにいたのかと聞こうとする しかし俺は北斗が一体何者で、どこから来て、どれくらい生きて、何がしたいのか、全く分からない。アイドルの伊集院北斗と俺の目指す先は同じでも、ヒトではないものとヒトとが完全に分かり合えることはおそらくない。
「北斗。お前は……、少し人と似た感性を身につける努力をした方が良い」
「人と似た……、プロデューサー、どういうことですか?」
「俺を苦しめないでほしいということだ。北斗、お前が俺を信頼してくれているのは分かっているが……その発露がこういうものだと、俺の精神が保たない」