地上に出る、というと、ひと昔前まではそのまま自殺を意味したらしい。だから人々は地上に出たがらないし、実際地下のこのシェルターで一生を終える人間がほとんどだ。御手洗翔太の生まれ育ったシェルターにもその考え……地上は「あの日」以来汚染されてしまったから、出た者はたちまち死んでしまう、という意識は強く残っていた。
ではなぜ「ひと昔前」や「らしい」などといった言葉を使ったのかというと、それは翔太が今、地上にいるからであった。地上の汚染はとうに消えていた。人類はもう、地下シェルターに閉じこもって暮らす必要なんてなかったのだ。
そのことに気がついた時、翔太は笑いがこみ上げてくるのを抑えきれなかった。ばかみたいだ。僕も、あの人たちも……。おかしさとやるせなさでほとんど泣きながら、ひとりぼっちで翔太は笑う。地上に出ようとするのをあんなに必死になって引き止めようとした大人は、今はもう追ってくる気配もない。シェルターの入り口はかたく閉ざされ、きっともう開くことはないだろう。
廃墟の間を吹きすさぶ風は砂埃を巻き上げる。翔太はぼやけてしまった視界を瞬きではらって、そっと上を見上げた。
広がったのは一面の青だ。ああ、これが空なんだ、と、 翔太は生まれて初めて目にした空を見つめる。期待外れな気もするし、感動しているような気もする。なんならまだ、自分がどう思っているのかよく分かっていないだけのような気すらした。
翔太はそのまま抜けるような青空をひとしきり見つめた後、ふいと視線を元に戻した。頬に残る涙の伝った跡を拭って、シェルターから持ち出した荷物を背負い直して、それから歩き出す。
翔太が生まれてから地下で得た知識の答え合わせは、これからきっと幾度となくやってくる。だから、今は分からないままでよかった。だって、大人たちの言うまま地下で生きていたら、この青だって一生知ることはできなかったのだから。